mRSSで強皮症スコアを正確に評価する方法と重症度分類の実践ガイド

強皮症(SSc)の皮膚硬化を評価するmRSSの測定手順から重症度分類、日本人と欧米人の基準の違い、治療効果の判定まで、現場の医療従事者に必要な知識をまとめました。正しく使えていますか?

mRSSで強皮症スコアを正確に評価する重症度分類と臨床活用の全知識

mRSSのスコアが改善していても、内臓病変が悪化していることがあります。


この記事でわかること
📋
mRSSの正確な測定手順

17部位の評価部位と0〜3の採点基準、スコア法の違いを詳しく解説します。

🇯🇵
日本人と欧米人の重症度基準の違い

Medsger基準と本邦(厚労省研究班)基準ではmilddの閾値が大きく異なります。どちらを使うか明確にしておく必要があります。

💊
治療薬ごとのmRSS改善エビデンス

PSL・CY・RTXなど各薬剤の臨床試験データをもとに、皮膚硬化への実際の効果を比較します。


mRSSとは何か:強皮症スコアの成り立ちと国際的な位置づけ

mRSS(modified Rodnan total skin thickness score)は、全身性強皮症(SSc)における皮膚硬化を半定量的に評価するための標準指標です。もともとRodnanが考案した方法をClementsらが改良し、17部位・0〜3の4段階評価として現在の形が確立されました。現在も強皮症の日常診療と臨床試験の両方において、最も広く使用される皮膚評価ツールです。


評価は「触診のみ」で行います。つまり特別な機器は不要です。皮膚を両母指で挟み、皮膚の厚さと下床との可動性を評価します。可動性を全く欠く場合が【高度=3点】、明瞭な皮膚硬化はないがやや厚ぼったく感じられるものが【軽度=1点】、その中間が【中等度=2点】、正常が【0点】です。17部位の合計点を算出し、最小0点・最大51点の範囲でスコアを表します。


mRSSが臨床試験のエンドポイントとして採用されている理由のひとつは、その再現性の高さです。Clementsらの報告によれば、観察者間変動は25%、同一観察者内の変動は12%とされています。関節リウマチで使われる同様の触診指標が観察者間37%・観察者内43%であることと比較すると、その信頼性は際立っています。


ただし、検者が異なると変動が生じやすい点は否定できません。そのため、経時的な評価には「同一の検者が継続して測定する」ことが推奨されます。これは臨床試験だけでなく、日常診療でも重要な原則です。


なお、mRSSは皮膚硬化の「活動性」と「障害(ダメージ)」の両側面を反映するとされており、皮膚生検による線維性変化とも相関することがFurstらによって示されています。皮膚スコアが組織学的変化を反映している点は、mRSSの妥当性を裏付ける重要な根拠といえます。



強皮症の皮膚硬化評価に関する日本皮膚科学会の診療ガイドライン(2016年版)の公式PDFは以下から確認できます。mRSSの詳細な測定方法と推奨度も記載されています。


全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン(日本皮膚科学会)


mRSSの測定手順:強皮症スコアを正確にとるための17部位の評価方法

mRSSを正確に測定するためには、17部位それぞれに定められた評価ポイントを知っておく必要があります。部位ごとの細則を把握しているかどうかで、スコアの質が変わります。


評価する17部位は以下の通りです(両側合計)。


  • 🖐 両手指(左右各1):PIP関節とMP関節の間の指背で評価
  • 🤚 両手背(左右各1):手の甲全体
  • 💪 両前腕(左右各1):屈側よりも伸側での皮膚硬化を重視
  • 💪 両上腕(左右各1):同様に伸側を重視
  • 😊 顔(1):前額部ではなく、頬部(頬骨弓から下顎の間)で評価
  • 🫁 前胸部(1):坐位で胸骨上端から下端まで、胸を含めて評価
  • 🫃 腹部(1):背臥位で胸骨下端から骨盤上縁まで評価
  • 🦵 両大腿(左右各1):背臥位で膝を立てた状態で評価
  • 🦵 両下腿(左右各1):同様に背臥位・膝立てで評価
  • 🦶 両足背(左右各1):同様に背臥位で評価


顔の評価は「前額部ではなく頬部」という点が特にミスされやすい箇所です。頬骨弓から下顎の間で評価するのが正しいやり方です。また、前腕・上腕の評価は屈側(内側)よりも「伸側(外側)を重視する」という細則も忘れずに確認しておきましょう。


同一領域内でスコアにばらつきがある場合、どの点数を採用するかという問題が生じます。評価法には「最大スコア法」「代表スコア法」「平均スコア法」の3種類があります。例えば前腕の末梢が1点、中間が1点、中枢が3点の場合、最大スコア法では3点、代表スコア法では1点、平均スコア法では2点となり、使う方法によって結果が大きく異なります。


臨床試験においては、皮膚硬化の変化に対する感度が最も鋭敏な「代表スコア法」または「平均スコア法」が推奨されています。最大スコア法は変化への感度が鈍いため、試験での採用には不向きです。日常診療での経時評価においても、施設内で方法を統一しておくことが精度を高めるになります。


スコアを安定させるためのもう一つのポイントは、1つの部位に複数の評価点を設けた「2段階つまみ法」の習熟です。小さいつまみ(small pinch)と大きいつまみ(large pinch)の両方を実施して判断します。金沢大学・松下教授らが2023年の日本皮膚科学会で公開した標準化手順も参考になります。



mRSS標準化に関する国際論文(Khanna D. et al. 2017)の詳細は、PMC(PubMed Central)から確認できます。


強皮症スコアの重症度分類:日本基準と欧米基準の重要な違い

mRSSによる重症度分類は「欧米基準」と「本邦基準」で異なります。これは意外と知られていないポイントです。


Medsgerらによる欧米人を対象とした重症度分類は以下の通りです。


  • 0:normal(正常)
  • 1〜14:mild(軽度)
  • 15〜29:moderate(中等度)
  • 30〜39:severe(重度)
  • 40以上:end-stage(終末期)


一方、厚生労働省強皮症研究班による本邦の重症度分類は以下の通りです。


  • 0:normal(正常)
  • 1〜9:mild(軽度)
  • 10〜19:moderate(中等度)
  • 20〜29:severe(重度)
  • 30以上:very severe(最重度)


欧米基準ではmild(軽度)の上限が「14点」ですが、本邦基準では「9点」です。つまり、同じ患者のmRSSが10〜14点だとしたとき、欧米基準ではmild(軽度)なのに対し、本邦基準ではmoderate(中等度)と判定されます。重症度の判定結果が変わるため、どちらの基準を使っているのかを診療録や研究プロトコルに明記しておくことが必要です。


日本皮膚科学会のガイドラインでは、日本人患者に対しては本邦基準に従うことが適当であると示されています。指定難病(難病番号51)としての助成対象は「皮膚・肺・心臓・腎・消化管のうち最も重症度スコアが高いものがmoderate(2点)以上の患者」とされています。本邦基準ではmRSSが10点以上でmoderate判定となるため、助成対象の可否を判断する際には基準の取り違えが直接患者の不利益に繋がります。


また、mRSSは皮膚硬化の半定量的評価として有用ではありますが、皮膚硬化の重症度のみが全身重症度を反映しているとは言えないという点も重要です。たとえば、皮膚硬化が軽度でも高度な肺線維症を合併する例は存在します。全身重症度は「皮膚・肺・心臓・腎・消化管」それぞれを個別に評価し、最も重症な臓器のスコアを採用するのが原則です。皮膚スコアだけで安心しないことが重要です。


mRSS強皮症スコアの臨床試験での限界:プラセボ効果と検出力の問題

mRSSは臨床試験の主要評価項目として広く使われてきましたが、いくつかの構造的な課題が認識されています。臨床試験に関わる医師や研究者であれば、ここは特に押さえておくべきポイントです。


最大の問題のひとつは「プラセボ群でもmRSSが改善する」という現象です。これはSScの自然経過によるもので、びまん皮膚硬化型(dcSSc)では発症から5〜6年以内に皮膚硬化が進行した後、自然に軽減していく場合があります。実際、いくつかのフェーズ3試験(Lenabasum試験など)でプラセボ群のACR-CRISSスコアが0.887(>0.6の「改善」閾値)に達するという「天井効果(ceiling effect)」が報告されています。


この問題から、2021年にAnn Rheum Disで発表されたRevised ACR-CRISSの論文では、mRSSを含む5つのコアセット(mRSS、%FVC、HAQ-DI、患者・医師のグローバル評価)のうち3項目以上が20〜25%改善することを新たな改善基準として提案しています。mRSSの単独エンドポイントへの過度な依存を避けることで、プラセボ群の天井効果を制限できると考えられています。


また、mRSSは「最加重のコアセット」であるため、mRSSが変動するだけでACR-CRISSスコア全体が大きく動いてしまう設計上の問題もあります。これはRevised CRISSで改善されており、複数のコアセットに均等な影響力を分散させる方向に進んでいます。


臨床試験に参加する患者選定の観点から見ると、「皮膚硬化出現6年以内のdcSSc」が最も評価感度の高い集団とされています。この時期以降はmRSSが自然に安定・低下するため、治療効果との弁別が困難になります。試験デザインの段階でこの点を意識した患者選択基準が重要です。



ACR-CRISSの改訂論文(Ann Rheum Dis 2021)に関連する内容は、住友病院のジャーナルクラブまとめで確認できます。


SScとEndpoint設定(Revised ACR-CRISS):膠原病Journal Club(住友病院)


強皮症スコア改善を目指す治療薬のエビデンス比較と独自視点:「スコアが改善しても油断は禁物」な理由

mRSSを指標とした治療薬の効果比較は、現場の判断に直結します。皮膚硬化の治療ではどの薬を使えばよいか、以下にエビデンスをまとめます。


まず、自家造血幹細胞移植(AHSCT)は最もmRSSを改善させる治療法です。ある報告では、移植前のmRSS中央値31(範囲2〜49)が移植後7(範囲2〜22)へと大幅に低下しており、その改善幅は約−20点とも言われています。ただし、本邦では施行できる施設が限られており、保険適用外でもあります。適応の選択は非常に慎重に行う必要があります。


次いで有効性が高いのはシクロホスファミド(CY)です。RCT(内服1mg/kg/日)での検討では、CY群のmRSSが15.5±1.3→11.9±1.3と有意に改善し、特にdcSScでの効果が高い(21.7±10.1→15.9±11.0)と報告されています。ただし24ヵ月後にはプラセボとの有意差がなくなることも示されており、長期的な効果の維持には注意が必要です。


リツキシマブ(RTX)もエビデンスが集積しています。63例の前向き研究では、RTX群のmRSSがコントロール群に比べて有意に低下(26.6±1.4 vs 20.3±1.8, p=0.0001)しました。感染症リスクへの懸念はありますが、CYとともに近年は皮膚硬化治療の中心的な選択肢となりつつあります。


副腎皮質ステロイド(PSL)は、早期の浮腫性硬化を呈し急速に進行しているケースでは有効です。症例報告では、20〜30mg/日から開始しmRSSが20.3±9.3→12.8±7.0(1年後)に改善したとされています。しかし、PSL使用は腎クリーゼの誘発リスク因子であることが知られており、血圧と腎機能の慎重なモニタリングが必須です。特に抗RNAポリメラーゼⅢ抗体陽性・広範な皮膚硬化・急速進行中のdcSSc患者ではリスクが高く、使用には十分な注意が必要です。


ここで独自視点として注目したいのは、「mRSSが改善しているからといって、内臓病変が安定しているとは限らない」という事実です。皮膚硬化と内臓病変の進行タイムラインは必ずしも一致しません。皮膚硬化は発症3〜6年をピークに自然軽減する一方、肺線維症(ILD)や肺高血圧症(PAH)はより長期にわたって進行することがあります。実際、lcSScでは皮膚硬化が数十年ほとんど進行しないにもかかわらず、10〜20年の長期経過で肺高血圧症を合併するリスクがあります。スコアだけを追いかけると臓器病変の見落としにつながる可能性があります。


皮膚スコアの改善に安心せず、並行した臓器評価(肺機能検査・心エコー・eGFR追跡)を定期的に実施することがSScの長期管理の核心です。これが原則です。



全身性強皮症の各治療薬のエビデンスを整理したブログ記事(医師執筆)は以下から参照できます。


全身性強皮症の皮膚硬化に対する治療薬のエビデンス(皮膚科医ブログ)