全身性強皮症は、皮膚や内臓が硬くなる線維化を特徴とする膠原病です。患者さんの約90%でレイノー現象が初発症状として現れ、その後手指の腫脹やこわばりが出現します。病態の進行に伴い、皮膚硬化が手指から体幹へと広がり、多臓器に病変が及ぶことが特徴です。
参考)全身性強皮症(指定難病51) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/4026" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/4026amp;#8211; 難病情報センタ…
強皮症には全身性強皮症と限局性強皮症があり、両者は全く異なる疾患です。限局性強皮症は皮膚のみの病気で内臓を侵しませんが、全身性強皮症は皮膚のみならず肺、消化管、心臓、腎臓などの内臓にも線維化を起こします。全身性強皮症はさらに、皮膚硬化の範囲によって「限局皮膚硬化型」と「びまん皮膚硬化型」に分類され、病型によって進行速度や内臓病変の頻度が異なります。
参考)https://www.nippon-shinyaku.co.jp/ssc_pah/ssc/
全身性強皮症の最も頻度の高い初発症状は、レイノー現象です。レイノー現象は、寒冷刺激や精神的緊張により手指が一時的に白色や青紫色に変色し、しびれや痛みを伴う血管攣縮性の現象です。典型的には、白色(虚血相)→青紫色(チアノーゼ相)→赤色(充血相)という三相性の色調変化を示します。
参考)全身性強皮症 - 08. 骨、関節、筋肉の病気 - MSDマ…
レイノー現象は、手指の先端から始まり、通常は母指を除く2~5指に対称性に出現します。強皮症に伴う二次性レイノー現象では、発作が非対称的で持続時間が長く、極めて強い痛みを伴うことが特徴です。また、指尖部に潰瘍や壊疽を形成することがあり、一次性レイノー現象との重要な鑑別点となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9105786/
レイノー現象の後、数週間から数年の経過で手指の腫脹が出現します。この初期の手指腫脹は、「浮腫期」と呼ばれ、プクプクと柔らかい腫れが特徴です。患者さんは、普段嵌めていた指輪が入らなくなったり、手がこわばって動かしにくくなったりすることで気づくことが多いです。
参考)全身性強皮症には初期症状はありますか? |全身性強皮症
皮膚硬化は、強皮症の最も特徴的な症状であり、典型的には浮腫期→硬化期→萎縮期という3つの段階を経て進行します。
参考)全身性強皮症、限局性強皮症|膠原病②
浮腫期では、手指を中心に軽度の腫脹と浮腫が認められます。この時期は炎症が主体で、皮膚はつまみにくくなりますが、まだ柔らかさを保っています。患者さん自身が自覚していないこともあり、診察時に初めて指摘されることも少なくありません。
参考)手指から始まる膠原病診療-膠原病全般と強皮症- - 独立行政…
硬化期に入ると、皮膚が徐々に硬化し、つっぱり感と光沢が出現します。手指は細く尖り、皮膚をつまむことが困難になります。顔面にも硬化が及ぶと、しわが消失して表情が乏しくなる「仮面様顔貌」を呈します。また、口の開きが悪くなり、鼻尖が尖る特徴的な顔貌変化が見られます。
参考)強皮症研究会議 -SSc-
萎縮期では、末節骨の萎縮により指が短縮し、手指の屈曲拘縮が起こります。この段階では、指尖部に難治性の潰瘍が形成され、時に指全体が壊疽に至ることもあります。皮膚の色素沈着や色素脱失、皮下の石灰沈着なども認められるようになります。
全身性強皮症では、皮膚病変に加えて、肺、消化管、心臓、腎臓などの多臓器に線維化を伴う病変が生じます。内臓病変の種類と程度は、病型によって異なり、予後を左右する重要な因子です。
参考)https://dermatology.m.u-tokyo.ac.jp/top/about-dermatology/speciality/ssc/aboutssc/
肺病変は、全身性強皮症で最も頻度が高く、重要な内臓病変です。間質性肺炎による肺の線維化が進行すると、労作時の呼吸困難や乾性咳嗽が出現します。また、肺動脈の血圧が上昇する肺高血圧症を合併することがあり、初期は無症状ですが進行すると生命に関わるため、定期的な検査が必要です。
参考)全身性強皮症について
消化管病変では、食道の蠕動運動の低下による嚥下障害や胸やけが特徴的です。食道炎や逆流性食道炎を合併しやすく、慢性的な症状に悩まされることが多いです。腸管の線維化が進行すると、頑固な便秘や偽性腸閉塞を起こすこともあります。
参考)全身性強皮症|レイノー現象・指の腫れ・爪の根本の甘皮に黒い点…
腎病変は頻度は低いものの、「強皮症腎クリーゼ」と呼ばれる急性の悪性高血圧を呈することがあり、予後不良の重大な合併症です。急激な血圧上昇、急性腎不全、溶血性貧血を伴い、緊急治療が必要となります。
参考)https://nanbyou.med.gunma-u.ac.jp/info_w/wp-content/uploads/2023/04/%E5%86%85%E8%87%93%E7%97%85%E5%A4%89%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf
心病変では、心筋炎や心外膜炎、心筋線維化などが生じます。不整脈や心不全の原因となり、突然死のリスクもあるため注意が必要です。また、筋肉にも病変が及び、筋肉の圧痛、硬化、萎縮、筋力低下などが認められることがあります。
全身性強皮症の診断には、臨床症状の評価に加えて、特異的な検査所見が重要です。
参考)https://hai-senishou.jp/ssc/systemic-scleroderma-info/what-tests-are-there
毛細血管の評価は、早期診断に有用です。爪の付け根(爪郭部)は毛細血管を肉眼的に観察できる「窓」とされ、ダーモスコピーやキャピラロスコピーという専用の顕微鏡を用いて観察します。強皮症では、毛細血管の拡張、蛇行、消失などの特徴的な異常パターンが認められます。肉眼的にも、爪上皮の延長やその部分の点状出血を自覚することがあります。
参考)強皮症・筋炎先進医療センター|日本医科大学付属病院
自己抗体検査も診断に重要な役割を果たします。抗核抗体は約95%の患者さんで陽性となります。さらに、抗Scl-70抗体(抗トポイソメラーゼI抗体)、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体、抗U1RNP抗体などの疾患特異的自己抗体が検出されます。これらの自己抗体は、それぞれ異なる臨床像や予後と関連しており、治療方針の決定に参考となります。例えば、抗セントロメア抗体陽性例は限局皮膚硬化型を呈することが多く、皮膚硬化が軽度で肺線維症の頻度も低いですが、肺高血圧症のリスクがあります。
参考)全身性強皮症 Q6 - 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科…
画像検査として、胸部CTによる肺線維症の評価、心エコーによる肺高血圧症のスクリーニング、食道透視や内視鏡検査による消化管病変の評価などが行われます。また、呼吸機能検査や肺拡散能検査により、肺病変の程度を客観的に評価することができます。
全身性強皮症の病型分類は、治療方針の決定と予後予測に重要です。国際的には、皮膚硬化の範囲に基づいて「びまん皮膚硬化型」と「限局皮膚硬化型」の2つに大別されています。
びまん皮膚硬化型は、発症後比較的早期(通常1年以内)にレイノー現象と皮膚硬化が出現し、皮膚硬化が手指を超えて上腕、胸部、腹部にまで広がる病型です。発症から5~6年以内は進行することが多く、肺線維症や腎クリーゼなどの重篤な内臓病変を合併しやすいことが特徴です。抗Scl-70抗体や抗RNAポリメラーゼIII抗体が陽性となることが多いです。
限局皮膚硬化型では、レイノー現象が数年から数十年持続した後に皮膚硬化が出現します。皮膚硬化は手指、手背、顔、足、前腕に限定し、上腕、胸、腹には及びません。進行は緩徐で、重篤な内臓病変を合併することは少ないですが、ごくまれに発症後十数年から数十年経過した後に肺高血圧症が出現することがあります。抗セントロメア抗体が70~80%で陽性となります。
病型分類により、その後の病気の経過や内臓病変の合併についておおよその推測が可能となりました。ただし、全身性強皮症の中でも病気の進行や内臓病変を起こす頻度は患者さんによって大きく異なり、患者さんによっては病気がほとんど進行しないこともあります。
<参考リンク>
難病情報センターの全身性強皮症の詳細な解説と診断基準について
全身性強皮症(指定難病51) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/4026">https://www.nanbyou.or.jp/entry/4026amp;#8211; 難病情報センタ…
日本皮膚科学会の全身性強皮症Q&Aで患者さん向けの詳しい情報
https://qa.dermatol.or.jp/qa7/s1_q01.html
日本リウマチ学会の全身性強皮症の診断と治療に関する専門的情報
https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/ssc/