ニザチジンファモチジン違いと特徴、使い分け、副作用を比較

ニザチジンとファモチジンはどちらもH2ブロッカーですが、効果の強さや半減期、適応症に違いがあります。医療従事者として知っておくべき両者の特徴と使い分けのポイントとは?

ニザチジンとファモチジンの違い

この記事の概要
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薬物動態の違い

ニザチジンは半減期約1.2~1.6時間、ファモチジンは半減期約2.5~4時間で、効果持続時間に差があります

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胃酸抑制効果

ファモチジンの方がより強力な胃酸分泌抑制効果を持ち、12時間以上の作用持続が期待できます

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臨床での使い分け

適応症や投与回数、腎機能障害の有無によって両剤を使い分けることが重要です

ニザチジンとファモチジンの基本的な特徴

 

ニザチジンとファモチジンは、いずれもヒスタミンH2受容体拮抗薬H2ブロッカー)に分類される消化性潰瘍治療薬です。H2ブロッカーは、胃壁細胞に存在するヒスタミンH2受容体に拮抗的に働き、胃酸の分泌を抑制することで胃潰瘍や十二指腸潰瘍、逆流性食道炎などの治療に用いられます。
参考)「胃痛・胃もたれ・胸焼け」を治す新しい考え方 ~胃酸抑制の時…

H2ブロッカーの開発によって、これまで命を落とす危険があった消化性潰瘍が手術ではなく内服治療で完治するようになり、医療現場に大きな変革をもたらしました。シメチジンの開発後、ラニチジン(ザンタック)、ニザチジン(アシノン)、ラフチジン(プロテカジン)、そしてファモチジン(ガスター)といったH2ブロッカーが次々と登場しています。​
両薬剤は共通して胃酸分泌を抑制する作用を持ちますが、薬物動態、効果の強さ、適応症、投与方法などに違いがあり、患者の病態や臨床状況に応じて使い分けられています。H2ブロッカーは、ヒスタミンだけでなく、ガストリンやアセチルコリンによる胃酸分泌も抑制する特徴があります。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00059.html

ニザチジンの薬物動態と効果持続時間

ニザチジンは、商品名アシノンとして知られるH2ブロッカーで、経口投与後約1時間で最高血漿中濃度に達します。健常人に75mg、150mg、または300mgを経口投与した結果、血漿中半減期は1.2~1.6時間と比較的短いことが報告されています。
参考)https://medical.zeria.co.jp/di/acinon/pdf/%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%8E%E3%83%B3%E9%8C%A075mg%E3%83%BB150mg_%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%A0.pdf

薬物動態の特徴として、ニザチジンはバイオアベイラビリティが98%と高く、経口投与した薬剤のほぼ全量が体内に吸収されます。尿中未変化体排泄率は62.8~64.9%であり、主に腎排泄される薬剤です。そのため、腎機能障害患者では血漿中半減期の遅延と血漿クリアランスの低下がみられるため、投与量の調整が必要となります。
参考)アシノン®(ニザチジン)薬物動態情報

タンパク結合率は23.9~45.4%と比較的低く、遊離形の薬剤が半数以上を占めるタンパク結合非依存型の薬剤であることも特徴的です。透析除去率は約10%と報告されており、透析患者への投与時には考慮が必要です。ニザチジンの半減期が短いことから、効果を持続させるためには1日2回の投与が基本となります。
参考)医療用医薬品 : アシノン (アシノン錠75mg 他)

ファモチジンの薬物動態と胃酸抑制効果の強さ

ファモチジンは、1985年から使用可能となった「ガスター」という商品名で広く知られるH2ブロッカーで、ニザチジンと比較してより強力な胃酸分泌抑制効果を持つことが特徴です。ファモチジンの半減期は約2.5~4時間とニザチジンよりも長く、効果の持続時間も優れています。
参考)ファモチジンの効果・効能/飲み合わせ・併用禁忌を解説~一緒に…

健康成人の胃酸分泌量は、ファモチジン20mgの経口投与により、午後8時から12時間以上にわたって抑制されます。胃内pHは12時間後まで4.2~6.0の範囲で推移し、安定した胃酸抑制効果が得られることが報告されています。健康な成人での試験では、20mgの服用で胃酸分泌が71.6%から99.6%抑制され、この効果は12時間以上続くことが確認されています。
参考)医療用医薬品 : ファモチジン (ファモチジン錠10「サワイ…

効果の発現も比較的速く、服用後およそ30分~1時間程度で胃酸を抑える効果が現れ始め、胃痛や胸やけが和らぎます。効果の持続時間は服用量によっても異なりますが、10mg錠で6~8時間、20mg錠で10~12時間程度持続すると言われています。
参考)https://utu-yobo.com/column/40131

ファモチジンの開発背景として、1970年代後半に山之内製薬(現アステラス製薬)が「より強力で副作用の少ないH2ブロッカー」を目指して開発し、1979年にスルファモイルアミジノ基とグアニジノチアゾール環の組み合わせによってファモチジンが合成されました。ホルモンバランスや体内の酵素にはほとんど影響しないという安全性も特徴です。
参考)胃の痛みや胸やけに「ガスター」は効く?薬の効果・副作用をわか…

ニザチジンとファモチジンの適応症と投与方法の違い

ニザチジンの適応症は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、そして急性胃炎・慢性胃炎の急性増悪期における胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善です。胃潰瘍および十二指腸潰瘍に対しては、通常成人にニザチジンとして1回150mgを1日2回(朝食後、就寝前)経口投与します。また、1回300mgを1日1回(就寝前)経口投与することも可能です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00062551.pdf

逆流性食道炎に対しては、通常1回150mgを1日2回(朝食後、就寝前)の投与が推奨されています。急性胃炎や慢性胃炎の急性増悪期の胃粘膜病変に対しては、より少ない用量で1回75mgを1日2回(朝食後、就寝前)投与します。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00003633.pdf

一方、ファモチジンの適応症は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、上部消化管出血(消化性潰瘍、ストレス潰瘍、出血性胃炎)、逆流性食道炎、Zollinger-Ellison症候群、そして急性胃炎・慢性胃炎の急性増悪期における胃粘膜病変の改善と、ニザチジンよりも幅広い適応を持ちます。
参考)【処方薬解説】ファモチジン(ガスター)|胃酸を抑えて胃と食道…

十二指腸潰瘍に対しては、ファモチジン40mg、またはニザチジン300mgを1日1回就寝時または夕食後に6~8週間経口投与が効果的です。胃潰瘍では同じレジメンによる8~12週間の治療で反応が得られることがありますが、夜間の胃酸分泌はそれほど重要ではないため、朝の投与が同等以上に効果的となる可能性があります。
参考)胃酸過多の治療薬 - 01. 消化管疾患 - MSDマニュア…

臨床現場での使い分けとして、多くの医療機関では胃潰瘍・十二指腸潰瘍・逆流性食道炎の第一選択薬としてファモチジンを採用し、第二選択薬としてラフチジンやニザチジンを位置づけている施設もあります。
参考)https://kumamoto.hosp.go.jp/files/000213583.pdf

ニザチジンとファモチジンの副作用と安全性プロファイル

H2ブロッカー全般として、副作用は比較的少ないとされています。しかし、いくつかの注意すべき副作用や安全性の問題が知られています。​
ヒスタミンH2受容体拮抗剤による血液障害は重要な副作用の一つです。また、両薬剤とも血液像、肝機能、腎機能等に注意が必要です。特に薬物過敏症の既往歴がある患者には慎重投与が求められます。
参考)https://www.umin.ac.jp/fukusayou/adr136b.htm

ニザチジンは主に腎排泄される薬剤であるため、腎機能障害患者では特に注意が必要です。腎機能低下に伴って血漿中半減期の遅延と血漿クリアランスの低下がみられるため、投与量の調整や投与間隔の延長を考慮する必要があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00062552.pdf

ファモチジンについても、ホルモンバランスや体内の酵素にはほとんど影響しないという特徴があり、体への負担が少ない薬剤とされています。しかし、長期使用に際しては定期的な検査によるモニタリングが推奨されます。​
市販薬として販売されているH2ブロッカーの使用には年齢制限があり、ファモチジンとニザチジンはいずれも15歳~79歳が対象となっています。80歳以上では自己判断での使用が推奨されておらず、医師の診察を受けることが求められます。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/otc/4952

ニザチジンとファモチジンの臨床での選択基準

臨床現場でニザチジンとファモチジンを選択する際には、いくつかの基準があります。胃酸抑制効果の強さを重視する場合、ファモチジンが第一選択となることが多く、実際に多くの医療機関で胃潰瘍・十二指腸潰瘍・逆流性食道炎の第一選択薬として採用されています。
参考)ファモチジン(ガスターⓇ)には、どのような効果がありますか?

市販薬として購入する場合の選択基準として、1錠あたりの市場価格はファモチジン(約130円)に対し、ニザチジン(約70円)と価格差があります。唾液分泌が少ない方、価格を安く抑えたい方、医療用と同用量を服用したい方にはニザチジンが適していると考えられます。一方、水なしで飲める口腔内崩壊錠を求めるならファモチジンが選択肢となります。
参考)胃薬の市販薬(おすすめ)

投与回数の観点からは、ファモチジンは効果持続時間が長いため1日1回の投与で済む場合もあり、服薬アドヒアランスの向上が期待できます。ニザチジンは半減期が短いため、基本的に1日2回の投与が必要ですが、症状や病態によっては1日1回300mgの就寝前投与も選択可能です。​
腎機能障害患者への投与では、ニザチジンは主に腎排泄されるため特に注意が必要であり、投与量調整が必須となります。このような患者では、薬物動態への影響を考慮した上で薬剤選択を行う必要があります。​
剤形の豊富さも選択基準の一つです。ファモチジンには錠剤(10mg・20mg)、散剤(2%・10%)、注射液(10mg・20mg)があり、外来から救急対応まで広く活用できる利点があります。ニザチジンも錠剤とカプセル剤が利用可能です。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=62551

効果の強さについては、ファモチジンの方がより強い胃酸分泌抑制効果が期待できるとされています。比較的副作用が少ないという点ではニザチジンの特徴として挙げられています。ただし、効果はそこまで変わらないという意見もあり、患者の状態や好みに応じて選択することが可能です。
参考)ラニチジン(ザンタック) href="https://kobe-kishida-clinic.com/endocrine/endocrine-medicine/ranitidine/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/endocrine/endocrine-medicine/ranitidine/amp;#8211; 内分泌疾患治療薬 …

現在では、プロトンポンプ阻害薬PPI)やカリウムイオン競合型酸ブロッカー(P-CAB)といったさらに強力な胃酸分泌抑制薬が開発されていますが、H2ブロッカーは現在も疼痛管理や急性症状の改善に主に使用されており、セルフメディケーションにおいては最も強力な薬として貴重な選択肢となっています。
参考)逆流性食道炎は薬で治せる?薬の使い分けとは? |たまプラーザ…

MSDマニュアル プロフェッショナル版 - 胃酸過多の治療薬について、H2ブロッカーの用法用量や適応症が詳しく解説されています
日本薬学会 - H2ブロッカーの薬理作用と各薬剤の特徴についての専門的な解説が掲載されています
ゼリア新薬工業 アシノン錠インタビューフォーム - ニザチジンの詳細な薬物動態パラメータと臨床データが参照できます