実は、リスフラン関節炎に安静指示だけで対応すると、約60%の症例で変形が進行します。
リスフラン関節炎(Lisfranc arthritis)は、中足根関節(第1〜3楔状骨と第2〜4中足骨の関節群)に生じる変形性関節炎です。外傷後に発症する「外傷後関節炎」が最も多く、全体の約70〜80%を占めるとされています。
診断の基本は荷重位X線です。非荷重位では関節裂隙の狭小化を見逃すことがあります。これは見落としやすいポイントです。荷重位での撮影により、第1・第2中足骨基部間のギャップ(2mm以上で異常)や、楔状骨と中足骨基部のラインのずれが明確になります。
MRI は軟骨変性・骨髄浮腫の評価に有用で、初期の軟骨障害をX線より約3〜6ヶ月早期に検出できるとされています。特に「Lisfranc靱帯」(第1楔状骨〜第2中足骨基部間)の損傷評価には T2 強調像が不可欠です。
CTは骨片・関節面の評価に優れており、手術計画には特に役立ちます。関節面の適合性を三次元的に把握できるため、関節固定術の術前計画では CT が必須といえます。
臨床評価では、VAS(Visual Analogue Scale)による疼痛評価と AOFAS(米国足関節学会スコア)が国際的に広く使用されています。初診時のスコアが術後成績予測にも活用されるため、定量的な評価を習慣づけることが重要です。
保存療法は症状が軽度〜中等度、かつ関節アライメントが保たれている症例に適応されます。つまり、関節固定前の第一選択です。
装具・インソール療法は保存療法の柱となります。カーボンファイバー製の剛性インソール(rigid carbon fiber orthosis)は、中足根関節の可動性を制限し、疼痛を約40〜60%軽減するとされています。これはイメージとしては、足底にほぼ曲がらない「板」を挿入するようなものです。市販品ではなく、フルオーダーメイドの足底板(SMO・AFO)を用いると効果が高まります。
薬物療法では NSAIDs が基本です。急性増悪期には選択的COX-2阻害薬(セレコキシブ等)の短期使用が関節軟骨への悪影響が少ないとされています。副腎皮質ステロイド局所注射(トリアムシノロン等)は短期的な疼痛緩和に有効ですが、繰り返し投与(年3回以上)は軟骨変性を促進するリスクがあるため注意が必要です。
ヒアルロン酸関節内注射はリスフラン関節への適応として保険収載されていますが、エビデンスは膝関節と比較すると限定的です。改善が見られる症例もあるため、保存療法の選択肢として検討する価値はあります。
6ヶ月間の保存療法で疼痛の改善が不十分な場合、手術適応の検討に移行します。これが原則です。
日本整形外科学会誌(J-STAGE)- 足関節・足部関節炎の最新治療エビデンス
保存療法が無効、または関節変形・関節裂隙の著明な狭小化がある場合は手術療法が選択されます。手術の第一選択は関節固定術(arthrodesis)です。
関節固定術の対象となる関節は、主に第1〜3楔状骨−中足骨関節です。第4・5中足骨−立方骨関節は可動性が比較的保たれているため、固定範囲に含めないことが多いとされています。これは術後の足部機能温存において重要な考え方です。
固定に使用するインプラントは、スクリュー固定が主流です。具体的には、直径3.5〜4.5mmのキャニュレイテッドスクリューが広く使用されます。近年はプレート固定(Lisfranc plate system)も普及しており、骨癒合率の向上(約90〜95%)が報告されています。
骨移植(自家骨または人工骨)は、関節裂隙の高さ維持や骨癒合促進のために使用されることがあります。自家腸骨採取は採取部合併症(約5〜10%)のリスクがあるため、近年では人工骨代替材(β-TCPなど)の使用が増加しています。
関節固定術後の偽関節(nonunion)発生率は文献によりますが約2〜10%とされています。喫煙者では偽関節リスクが最大3倍になるという報告があり、術前からの禁煙指導が合併症予防として重要です。
日本整形外科学会 診療ガイドライン - 足部・足関節疾患の外科治療指針
術後管理の質が最終的な機能回復を大きく左右します。これは見逃されがちな重要点です。
標準的な荷重プロトコルでは、術後0〜6週は非荷重(NWB:Non-Weight Bearing)が基本です。この期間はショートレッグキャストまたは除圧ブーツを使用し、松葉杖での移動となります。術後6〜8週からX線で骨癒合が確認できれば、部分荷重(PWB)に移行します。
完全荷重(FWB)への移行は術後10〜12週が目安です。ただし、固定関節数が多い症例や骨粗鬆症を合併する患者では、荷重開始を1〜2週遅らせることが推奨されます。慎重に進めることが条件です。
| 時期 | 荷重状況 | 装具 | リハビリ内容 |
|---|---|---|---|
| 術後0〜6週 | 非荷重(NWB) | キャスト/除圧ブーツ | 足趾ROM・浮腫管理 |
| 術後6〜8週 | 部分荷重(PWB) | 除圧ブーツ | 歩行訓練開始 |
| 術後10〜12週 | 完全荷重(FWB) | 剛性インソール | バランス・筋力強化 |
| 術後6ヶ月〜 | スポーツ復帰 | 足底板(必要時) | スポーツ特異的訓練 |
リハビリの初期段階では、足趾屈伸ROM訓練と浮腫管理(弾性包帯・挙上)が中心となります。荷重開始後は足関節周囲筋(特に後脛骨筋・長腓骨筋)の筋力強化が重要で、これらの筋群は内側縦アーチのサポートに直結します。
スポーツへの完全復帰は平均術後8〜12ヶ月とされており、アスリートでは特に丁寧なスポーツリハビリプログラムが必要です。AOFAS スコアで術前と比較して平均20〜30点の改善が得られるとされており、患者満足度は約80〜85%と報告されています。
これは検索上位の記事にはあまり書かれていない視点ですが、非常に実臨床で重要です。
リスフラン関節損傷(急性期)の見落とし率は救急診療で約20〜40%とされています。見落としは問題です。その理由は、初期の非荷重位X線では明らかな骨折・転位が確認できないケースが多いためです。特に「ニュアンス骨折(fleck sign)」と呼ばれる第2中足骨基部の微小骨片は、見逃されやすく後の関節炎進行に直結します。
急性期の適切な診断と治療が、将来的なリスフラン関節炎の発症そのものを予防します。具体的には、Lisfranc損傷の術後10年追跡調査では、適切に治療された群と比較して保存療法のみ(装具なし)で経過観察した群は、放射線学的な関節炎進行が約2〜3倍高いという報告があります。
また、糖尿病性神経障害に伴う「シャルコー関節(Charcot arthropathy)」との鑑別が重要です。シャルコー関節はリスフラン関節炎と類似した画像所見を呈することがあり、治療方針が大きく異なります。糖尿病患者で足部変形・発赤・腫脹を認める場合は、皮膚温測定(患側が健側比+2℃以上でシャルコーを疑う)と核医学検査(骨シンチグラフィ)による鑑別が推奨されます。
予防的観点からは、スポーツ現場でのLisfranc靱帯損傷後の早期専門医紹介プロトコルを施設内で整備することが、リスフラン関節炎の発症率低下に直結します。これは使えそうです。
日本足の外科学会誌(J-STAGE)- Lisfranc損傷・関節炎の診断・治療に関する最新論文