トリアムシノロン注射の眼科適応と黄斑浮腫への治療効果

トリアムシノロンの眼科注射は黄斑浮腫や糖尿病網膜症の治療に有効ですが、どのような投与方法と注意点があるのでしょうか?

トリアムシノロン注射と眼科治療

トリアムシノロン眼科注射の概要
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テノン嚢下投与

眼球の周囲から薬剤を注入し、黄斑浮腫に対して数ヶ月間の消炎効果を発揮

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硝子体内投与

糖尿病黄斑浮腫に対して4mg投与で直接的な治療効果を実現

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適応疾患

網膜静脈閉塞症・非感染性ぶどう膜炎・硝子体手術時の可視化など

トリアムシノロン注射の適応疾患と投与方法

 

トリアムシノロンアセトニドは眼科領域における主要なステロイド製剤で、様々な眼疾患の治療に使用されています。眼科での主な投与方法は、テノン嚢下投与と硝子体内投与の2種類があり、それぞれ適応疾患が異なります。テノン嚢下投与では通常20mg(0.5mL)を、硝子体内投与では4mg(0.1mL)を投与することが標準的です。
参考)https://www.kobe-kaisei.org/patient/introduct/medical/ophthalmology/ophthalmology17/

適応疾患としては、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫が主要なものです。また硝子体手術時の硝子体可視化目的でも広く使用されており、この場合は濃度10mg/mLで0.5~4mgを硝子体内に注入します。甲状腺眼症における外眼筋の消炎目的でも、テノン嚢下注射が有効性を示しています。
参考)https://kanden-hsp.jp/files/patient/disease/ophthalmology/con_14.pdf

トリアムシノロンの作用機序は、強力な抗炎症作用と血管透過性抑制作用によるもので、黄斑部の浮腫を起こす原因物質を数ヶ月間にわたって抑制することができます。長期作用型の副腎皮質ステロイドとして、1回の注入で約3ヶ月間効果が持続すると考えられています。
参考)ステロイドテノン嚢下注射

トリアムシノロンによる黄斑浮腫治療の効果と成績

糖尿病黄斑浮腫に対するトリアムシノロンの治療効果は、国内第III相試験で確認されています。硝子体内投与では、投与後12週時点で中心窩平均網膜厚が有意に減少し、視力改善も認められました。網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するテノン嚢下投与20mgの臨床試験では、投与後12週の中心窩平均網膜厚変化量が-150.0±179.1μmという良好な結果が得られています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00066924.pdf

ただし、治療効果には個人差があり、浮腫が改善して視力が上がる症例は30~60%程度で、100%ではありません。また一度改善しても2~3ヶ月後に再発して、再注射が必要になることもあります。トリアムシノロンの効果は年齢が低いほど奏効しやすく、網膜静脈閉塞症では注射までの期間が短いほど効果が高いという報告もあります。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/108_92.pdf

黄斑浮腫の治療法には硝子体手術、飲み薬、レーザー、眼内注射など複数の選択肢がありますが、トリアムシノロンのテノン嚢下注射は眼内注射や手術と比べて比較的安全性が高いとされています。ステロイド剤の炎症抑制作用により黄斑浮腫が軽減すると考えられており、治療効果を認める疾患として糖尿病黄斑症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、術後消炎などが挙げられています。
参考)ステロイドテノン嚢下注射|医療法人 藤田眼科

トリアムシノロン注射のテノン嚢下投与手技

テノン嚢下注射は点眼麻酔後に実施される低侵襲な処置です。具体的な手順としては、まず点眼麻酔で十分に麻酔効果を得た後、洗眼を行います。その後、眼球を包んでいる結膜に小さい切開を加え、結膜と眼球の間にあるテノン嚢の中にトリアムシノロンアセトニド(TA)を注入します。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1410104971

上眼瞼挙筋の炎症に対しては、上眼瞼を翻転してまぶたの裏側から結膜を小さく切開し、先の尖っていない注射針を用いて上眼瞼挙筋近傍へ注射する方法も用いられます。外眼筋の消炎を目的とする場合は、白目(結膜)を小さく切開して目標とする外眼筋の近くにステロイドを注射し、所要時間は数分で痛みもほぼありません。
参考)甲状腺眼症のステロイド局所治療 - 港区赤坂の眼科 溜池山王…

注射時のポイントとして、抗菌薬点眼やイソジンなどでしっかり感染予防を行い、強膜をしっかり露出させることが重要です。処置後は感染予防のため、抗菌剤の点眼薬を数日間使用します。処置後に特別な安静は必要なく、通常の生活を送ることができます。​

トリアムシノロン眼科注射の副作用と眼圧上昇対策

トリアムシノロンの眼科注射で最も注意すべき副作用は眼圧上昇です。硝子体内投与の臨床試験では、眼圧上昇が15.6~26.5%の症例で認められました。テノン嚢下投与でも眼圧上昇が14.0%の症例で発現し、これは最も頻度の高い副作用となっています。
参考)マキュエイド眼注用40mgの効能・副作用|ケアネット医療用医…

眼圧上昇は特に小児・若年例で起こりやすく、漫然と繰り返すのではなく慎重な適応判断が必要です。ただし、いずれの眼圧上昇も眼圧下降点眼剤および内服剤でコントロール可能であり、臨床試験では外科的処置に至る症例はみられませんでした。強膜炎に対するテノン嚢内注射後に生じた眼圧上昇では、トリアムシノロン除去が奏効したという報告もあります。
参考)強膜炎に対するトリアムシノロンのテノン囊内注射後に生じた眼圧…

白内障の進行も重要な副作用で、硝子体内投与では9.4~26.7%の症例で水晶体混濁が報告されています。長期投与により白内障のリスクが高くなるため、継続的な長期投与は避けるべきです。その他の副作用として、結膜充血12.0%、結膜浮腫10.0%、血中コルチゾール減少10.0%などがあり、テノン嚢下注射後の表皮ブドウ球菌や真菌感染、眼瞼下垂、強膜穿孔などの報告もあります。
参考)https://www.wakamoto-pharm.co.jp/upd/pdf/0000000339_1.pdf

再投与は患者の状態をみながら、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ、3ヶ月以上の間隔をあけて行うことが推奨されています。糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体内投与では、トリアムシノロンアセトニド粒子の消失を細隙灯顕微鏡等で確認した後に再投与します。
参考)https://www.japic.or.jp/mail_s/pdf/25-11-1-10.pdf

トリアムシノロン注射と他の治療法の併用戦略

トリアムシノロンは単独使用だけでなく、他の治療法と併用することでより良好な治療成績が得られる場合があります。糖尿病黄斑浮腫に対しては、硝子体手術とトリアムシノロンの併用効果が検討されており、黄斑浮腫のタイプ別に併用効果が報告されています。網膜静脈分枝閉塞症の黄斑浮腫に対しては、トリアムシノロン後部テノン嚢下投与と光凝固の併用が有効性を示しています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/38fe7c53eb2dc4bbef3fc4f2675ac46c97c6f0c9

近年では抗VEGF薬との使い分けや併用も重要な治療戦略となっています。トリアムシノロンは血管内皮増殖因子(VEGF)-Aとその受容体の発現を調節することで、血液網膜関門の破綻を抑制する作用があります。糖尿病黄斑浮腫患者に対してSGLT2阻害薬を使用することで、トリアムシノロンアセトニド注射頻度が減少したという報告もあり、全身的なアプローチとの組み合わせも注目されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11556382/

トリアムシノロンは脈絡膜上腔への投与法も開発されており、米国ではXipere®として非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫の治療薬として承認されています。脈絡膜上腔投与は後眼部への優先的な薬剤分布をもたらし、白内障や眼圧上昇などのステロイド関連有害事象のリスクを軽減できる可能性があります。また、トリアムシノロン含有リポソーム製剤を点眼で投与する新しいアプローチも研究されており、硝子体内注射の重篤な眼合併症を回避しながら後眼部への薬剤送達を実現する技術開発が進んでいます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9512860/

神戸海星病院 眼科 - トリアムシノロン注入についての説明
トリアムシノロンの具体的な投与方法と処置の流れについて詳しく解説されています
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