止瀉薬の種類と一覧:作用機序別分類と使い分け

止瀉薬には収斂薬、吸着薬、腸運動抑制薬、殺菌薬の4種類があり、それぞれ異なる作用機序で下痢を改善します。医療従事者として適切な薬剤選択ができていますか?

止瀉薬の種類と一覧

止瀉薬の4つの分類
🛡️
収斂薬

腸粘膜に保護膜を形成し、刺激から守る

🧽
吸着薬

有害物質や過剰な水分を吸着・除去

⏸️
腸運動抑制薬

腸蠕動運動を抑制し水分吸収を促進

🦠
殺菌薬

腸内有害細菌に対する殺菌作用

下痢症の治療において、止瀉薬は症状改善の中核を担う重要な薬剤群です。止瀉薬は作用機序の違いから4つの主要分類に分けられ、それぞれ異なるメカニズムで下痢症状を改善します。医療従事者にとって、これらの分類を理解し適切に使い分けることは、効果的な治療を提供する上で不可欠です。

 

収斂薬の止瀉薬一覧と特徴

収斂薬は腸管内のタンパク質と結合して保護膜を形成し、腸粘膜を保護することで下痢を改善する止瀉薬です。

 

代表的な収斂薬一覧

  • タンニン酸アルブミン(タンナルビン®)
  • 次硝酸ビスマス
  • タンニン酸ベルベリン
  • 次没食子酸ビスマス

タンニン酸アルブミンは最も代表的な収斂薬で、腸管内で膵液により分解されてタンニン酸が遊離されます。遊離したタンニン酸が腸管内のタンパク質と結合することで保護膜を作り、腸管粘膜を保護し炎症を抑える作用があります。

 

重要な注意点 ⚠️
タンニン酸アルブミンは牛乳由来の乳性カゼインを使用しているため、牛乳アレルギー患者には禁忌となります。また、タンニン酸が鉄と結合してタンニン酸鉄を形成し相互作用するため、鉄剤との併用は注意が必要です。

 

次硝酸ビスマスは腸内タンパク質と結合して皮膜を形成し、腸への刺激を抑制します。さらに腸内異常発酵で生じる硫化水素に結合し無毒化する作用も持ちます。ただし、ビスマス製剤では神経障害の副作用報告があるため、1ヶ月に20日程度の投与に留めることが推奨されます。

 

吸着薬の止瀉薬一覧と作用機序

吸着薬は胃や腸管内の毒物・毒素などの有害物質や過剰な水分・粘液を吸着・除去することで下痢を改善する止瀉薬です。

 

主要な吸着薬一覧

  • 天然ケイ酸アルミニウム(アドソルビン®、スメクタテスミン®)
  • 炭酸カルシウム
  • 乳酸カルシウム
  • リン酸水素カルシウム
  • カオリン

天然ケイ酸アルミニウム(アドソルビン®)は胃腸管内の異常有害物質、過剰な水分、粘液などを吸着・除去し、有害物質の腸管吸収を防ぎます。また腸内でゲル化して腸粘膜を保護する作用も持ちます。

 

服薬指導のポイント 💊
アドソルビンは無味・無臭ですが砂のようなザラザラした感覚があり非常に飲みにくい薬剤です。水には溶けないため、アイスクリームやヨーグルト、ゼリーに混ぜると服用しやすくなります。

 

スメクタテスミンに含まれるスメクタイトは、地中海原産の天然ケイ酸アルミニウムで、腸内でウイルスなどの原因物質を吸着・除去することで下痢や食あたりに効果を発揮します。

 

重要な相互作用 ⚠️
天然ケイ酸アルミニウムは消化液や消化酵素も吸着するため、他の薬剤と併用する場合は1-2時間の間隔をあける必要があります。特にニューキノロン系抗菌薬、テトラサイクリン系抗生物質とはアルミニウムによるキレート形成により併用注意となります。また、透析患者では長期投与によりアルミニウム脳症、アルミニウム骨症のリスクがあるため禁忌です。

 

腸運動抑制薬の止瀉薬一覧と効果

腸運動抑制薬は腸の蠕動運動を抑制することで腸内容物の通過速度を遅くし、水分吸収量を増加させる止瀉薬です。

 

代表的な腸運動抑制薬

  • ロペラミド塩酸塩(ロペミン®、ロペラマックサット®)
  • ロートエキス
  • アセンヤク(生薬)

ロペラミド塩酸塩は最も重要な腸運動抑制薬で、腸壁内のオピオイドμ(ミュー)受容体に作用してアセチルコリンの遊離を抑制し、腸管蠕動を抑えます。これにより消化管内容物と腸管粘膜の接触時間が延長され、水分吸収が増加します。

 

作用機序の詳細 🔬
ロペラミドは腸管に直接作用し、以下の機序で下痢を改善します。

  • 腸蠕動運動の抑制
  • 腸管からの水分吸収促進
  • 腸管粘膜での水分分泌抑制
  • 腸管の運動異常を正常化

注意すべき副作用 ⚠️
ロペラミドでは眠気・めまいの副作用があるため、自動車運転等危険を伴う機械操作への従事を避ける必要があります。

 

市販薬では、ストッパ下痢止めEXやピタリットなどにロペラミド塩酸塩が配合されており、突然の下痢症状に対して効果的です。

 

殺菌薬の止瀉薬一覧と適応

殺菌薬は腸内の有害細菌に対して殺菌作用を発揮し、細菌性下痢の改善に効果的な止瀉薬です。

 

主要な殺菌薬一覧

  • ベルベリン塩化物水和物(キョウベリン®)
  • アクリノール
  • 木クレオソート
  • ベルベリン塩化物水和物+ゲンノショウコエキス(フェロベリン®)

ベルベリン塩化物水和物は代表的な殺菌薬で、以下の作用を持ちます。

  • 腸内腐敗発酵抑制作用
  • 抗菌作用
  • 腸内有害細菌の殺菌

フェロベリン配合錠はベルベリンに加えて生薬のゲンノショウコが配合された製剤です。ゲンノショウコには止瀉作用と整腸作用があり、渋みがなく飲みやすいという特徴があります。

 

市販薬での配合例 💊

  • タンニン酸ベルベリン:腸内でタンニンとベルベリンに分解され、収斂作用と腸内殺菌作用を発現
  • アクリノール:腸内殺菌成分として配合
  • 木クレオソート:殺菌作用に加え腸蠕動運動の正常化作用

適応となる下痢の種類 📋
殺菌薬は特に以下の場合に適しています。

  • 細菌性下痢(ブドウ球菌、病原性大腸菌など)
  • 腸内腐敗による下痢
  • 食あたりによる下痢

止瀉薬選択における患者背景別考慮点

止瀉薬の選択において、患者の年齢、基礎疾患、併用薬などの背景因子を考慮した個別化治療が重要です。

 

年齢別の考慮点 👶👵
小児患者

  • ロペラミドは2歳未満では使用禁忌
  • 整腸剤との併用を優先検討
  • 脱水リスクの評価が重要

高齢者

  • 腎機能低下時のアルミニウム蓄積リスク
  • 転倒リスクを考慮したロペラミドの使用
  • 多剤併用による相互作用のチェック

基礎疾患別の注意点 🏥
透析患者

  • 天然ケイ酸アルミニウム系薬剤は禁忌
  • アルミニウム脳症・骨症のリスク回避

肝機能障害患者

  • ビスマス製剤の神経毒性リスク増大
  • 薬物代謝能の低下を考慮した投与量調整

心疾患患者

  • ロペラミドの心臓への影響
  • 脱水による循環動態への影響

妊娠・授乳婦への配慮 🤱

  • 胎児・乳児への安全性確認
  • 必要最小限の使用期間設定
  • 代替治療法の検討

薬物相互作用の詳細チェック ⚗️

  • タンニン酸系薬剤と鉄剤の相互作用
  • 吸着薬と他薬剤の服用間隔調整
  • ニューキノロン系抗菌薬とアルミニウム系薬剤

症状の重症度による使い分け 📊
軽症下痢

  • 整腸剤単独または収斂薬
  • 生活指導中心のアプローチ

中等症下痢

  • 腸運動抑制薬の積極的使用
  • 水分・電解質補給の併用

重症下痢

  • 原因究明と根本治療優先
  • 止瀉薬の適応慎重判断
  • 入院加療の検討

医療従事者として、これらの患者背景を総合的に評価し、最適な止瀉薬を選択することで、安全で効果的な下痢治療を提供できます。単に症状を止めるだけでなく、患者の全体像を把握した個別化医療の実践が求められています。