スインプロイク(ナルデメジン)は末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(PAMORA)で、OIC改善の一方で「下痢」が最も代表的な副作用として位置付けられています。添付文書ではその他の副作用の頻度区分として、消化器では下痢が「5%以上」、腹痛・嘔吐・悪心・食欲減退が「1~5%未満」とされています。さらに「その他」ではAST/ALT増加が「1~5%未満」、倦怠感が「1%未満」、オピオイド離脱症候群が「頻度不明」と整理されています。これらは患者説明のテンプレに落とし込みやすく、医師・薬剤師・看護師で共通言語化しやすい項目です。
一方、臨床試験では対象(がん患者・非がん患者)や観察期間で「見え方」が変わります。国内第III相二重盲検試験(がん患者、2週間投与)では副作用発現頻度は21.6%で、主な副作用は下痢17.5%、腹痛2.1%、嘔吐2.1%でした。長期投与の国内第III相試験(非がん性慢性疼痛、48週間)では副作用発現頻度32.1%で、主な副作用は下痢18.9%、腹痛5.7%と報告されています。つまり「下痢は一定割合で起こり得るが、母集団や観察期間で腹痛の印象が変わる」点は、現場の肌感とデータのズレを埋める材料になります。
下痢の臨床像として重要なのは、単なる軟便ではなく「便意切迫」や「排便回数増加」がセットで起こるケースがあることです。非がん性慢性疼痛の特定使用成績調査(最終報告)では、副作用として便意切迫、排便回数増加、軟便なども少数例ながら報告されており、患者のQOL低下につながりやすい症状として拾う価値があります。患者が「下痢」と表現しない場合(頻回便、突然の便意、外出が怖い等)もあるため、問診は症状の言い換えを含めて行うと取りこぼしが減ります。
また、下痢は「効いているサイン」と誤解されることがありますが、OIC改善と有害事象は別物です。特に高齢・脱水リスクがある患者では、軽度の下痢でも体重・血圧・BUN/Cr・口渇・尿量など、臨床的な脱水サインとセットで評価する運用が安全です。
添付文書で明確に「重大な副作用」とされているのは、重度の下痢(0.7%)です。脱水症状まで至ることがあるため、異常が認められた場合は投与中止や補液等の適切な処置が求められます。現場的には「回数」「性状」だけではなく、患者の摂取量低下や発熱、嘔吐、利尿薬併用、腎機能、フレイルなどの背景で同じ下痢でも重症化速度が変わる点が実務上の落とし穴になります。
対応フローを医療従事者向けに文章化するなら、以下のような判断軸が役に立ちます(施設プロトコルに合わせて調整してください)。
・📌観察項目:便回数/性状、腹痛、嘔吐、食事・水分摂取、体重変化、起立性低血圧、尿量、意識レベル
・📌検査の目安:電解質、腎機能、炎症反応(感染性腸炎鑑別が必要なら)
・📌薬剤面:下剤の併用状況(漫然併用で悪化していないか)、利尿薬・ARB/ACE阻害薬等の脱水で腎前性悪化しやすい薬
・📌初動:重度/持続ならスインプロイク中止を含めて評価し、必要に応じて補液、原因検索へ
ここで重要なのは、患者が「便秘の薬だからやめるとまた便秘になる」と自己判断で継続してしまうケースです。開始時点で「下痢が続く・水分が取れない・ふらつく」などの受診目安を患者向けに具体化しておくと、重度下痢の早期発見につながります。
なお、過量投与の項では、海外臨床試験(0.01~3mg単回投与)で1mg投与時に、重度悪心や胃痙攣を含むオピオイド離脱症候群が認められた旨が記載されています。用法・用量は通常0.2mg 1日1回であり、処方・調剤・服薬指導の各工程で「0.2mg錠」「1日1回」の確認を仕組み化することが、過量由来の有害事象リスクを減らします。
スインプロイクは相互作用の影響を受ける薬剤で、特にCYP3A阻害剤、CYP3A誘導剤、P-糖蛋白阻害剤が「併用注意」とされています。CYP3A阻害剤(イトラコナゾール、フルコナゾール等)では血中濃度上昇により副作用が発現するおそれがあり、CYP3A誘導剤(リファンピシン等)では血中濃度低下により効果減弱のおそれがあります。またP-糖蛋白阻害剤(シクロスポリン等)では血中濃度上昇に加えて、血液脳関門への影響により脳内濃度上昇のおそれがある、と説明されています。
この「脳内濃度」という言葉は、現場では見落とされがちですが、臨床的にはオピオイド離脱症候群や鎮痛作用減弱の懸念と接続します。添付文書の特定の背景を有する患者の注意として、血液脳関門が機能していない/機能不全が疑われる患者(脳腫瘍など)では、オピオイド離脱症候群または鎮痛作用減弱を起こすおそれがある、とされています。つまり「相互作用」×「血液脳関門の状態」でリスクが増幅する可能性があるため、単に併用薬チェックで終わらせず、患者背景も合わせて評価するのが安全です。
具体的な運用例としては、抗真菌薬(アゾール系)の開始・中止、結核治療(リファンピシン)、免疫抑制(シクロスポリン)など、処方変更が起こりやすい領域の情報が共有された時点で、便性状と腹部症状、痛みのコントロール状況をセットで確認する、といった連携が有効です。薬剤部門だけでなく、外来化学療法室・緩和ケア・訪問看護など、薬の変更点が断片化しやすい現場ほど、この「セット確認」の価値が上がります。
スインプロイクの副作用として腹痛は頻度区分「1~5%未満」に入っていますが、腹痛は“単なる副作用”として扱うと危険な場面があります。添付文書の重要な基本的注意では、海外で類薬投与により消化管穿孔を来し死亡に至った報告があるため、激しい又は持続する腹痛等、消化管穿孔が疑われる症状が認められた場合は投与中止等の適切な処置を行うこと、と記載されています。つまり腹痛は、頻度だけで重み付けせず「性状(激しい/持続)」「背景疾患」を加味して緊急度を決める必要があります。
さらに、禁忌として「消化管閉塞若しくはその疑いのある患者、又は消化管閉塞の既往歴を有し再発のおそれの高い患者」は投与しないこと、と明確に示されています。OIC患者は腸管運動低下や食事摂取低下、がんの腹膜播種など、閉塞リスクがそもそも高いことがあり、便秘症状が強いほど「とりあえず便を出したい」という圧がかかって禁忌確認が甘くなることがあります。導入前に画像や腹部所見の情報を拾い、疑わしければまず閉塞の評価を優先する、という基本動線をチームで合わせておくと事故を防ぎやすいです。
また、特定の背景を有する患者の注意として、消化管壁の脆弱性が認められる/疑われる疾患(消化管潰瘍、憩室疾患、浸潤性消化管がん、がんの腹膜転移、クローン病など)では消化管穿孔の危険性が高まるおそれがある、とされています。OIC治療は“便秘だけ”を見ていると視野が狭くなりがちなので、腹痛の患者教育では「いつもの腹痛と違う」「我慢できない」「押さえると痛い」「発熱を伴う」などの具体例を添えると、重篤イベントの受診遅れを減らせます。
検索上位の解説は「副作用一覧」になりがちですが、医療現場で本当に役立つのは“いつ起きやすいか”と“どう導入すると拾いやすいか”です。特定使用成績調査(非がん性慢性疼痛、最長52週)では、下痢14件のうち投与開始から1週未満が7件(50.0%)とされ、早期に偏っていることが示されています。さらに同調査では副作用全体でも、投与開始から1週未満が46.4%と最も多く、初期モニタリングの密度が安全性に直結しやすいことが読み取れます。
このデータは、導入時の運用を変える根拠になります。例えば外来導入なら「開始後3日以内に電話フォロー」「1週以内に便回数・水分摂取の確認」など、最初の1週間に接点を寄せるだけで、重度化する前に調整しやすくなります。入院導入なら、看護記録で便性状のスケール化(Bristol便形状スケール等)を統一し、下痢だけでなく便意切迫・腹痛・悪心をセットで記録することで、単純な下痢止め投入ではなく、下剤調整や脱水評価を含む適正対応につながります。
さらに“意外と盲点”なのが、下痢が出たときに「便秘が治った」側面と「有害事象」側面が同時に存在する点です。OIC患者は排便回数が増えるだけで満足してしまい、脱水や栄養低下を訴えないことがあります。特に高齢者や独居では、下痢が始まると食事・水分を控える行動が出やすく、数日でふらつきや腎機能悪化につながることもあり得ます。開始時の説明を「下痢=受診」ではなく、「下痢+危険サイン(ぐったり、めまい、尿が少ない、飲めない、強い腹痛)」という形にしておくと、過剰受診を増やさずに重症例を拾いやすくなります。
重大な副作用(重度下痢)、禁忌・穿孔リスク、相互作用を一次情報で確認する(添付文書)
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00066855.pdf
下痢の発現時期(開始1週未満が多い等)を含む長期使用の安全性データ(特定使用成績調査・最終報告)
https://med.shionogi.co.jp/disease/pain-relief/cancer-pain/symproic/non-cancer-result.html