急性胆嚢炎の症状は、胆嚢管への結石嵌頓により数時間で発症する炎症反応として現れます。主要症状として以下が挙げられます。
典型的な症状 🩺
診断における重要な身体所見
マーフィー徴候は右上腹部触診時に深呼吸で疼痛が増悪し、吸気が停止する現象で、胆嚢炎の特徴的な所見です。右側上腹部の不随意な筋性防御も重要な診断指標となります。
高齢者では症状が非特異的となることが多く、食欲不振、嘔吐、倦怠感、脱力などが初発症状として現れ、発熱を欠くこともあります。この年齢特異的な症状パターンの理解は、早期診断において極めて重要です。
病態生理学的メカニズム 🧬
胆嚢炎の発症機序では、結石により傷ついた胆嚢粘膜からホスホリパーゼAが放出され、レシチンからリソレシチンを合成します。このリソレシチンの刺激により胆嚢炎が発症し、プロスタグランディンなどの炎症メディエーターにより増幅されます。
胆嚢炎の薬物治療は重症度分類に基づく段階的アプローチが重要です。急性胆嚢炎は一義的には感染よりも炎症として捉えられますが、二次的感染により容易に菌血症を起こすため、抗菌薬投与が推奨されます。
重症度別抗菌薬選択 💉
重症度 | 推奨薬剤 | 投与量・頻度 |
---|---|---|
中等症 | CMZ(セフメタゾン) | 1-2g × 4回/日 |
中等症 | SBT/ABPC(スルバシリン) | 1.5-3g × 4回/日 |
重症 | SBT/CPZ(スルペラゾン) | 1-2g × 3回/日 |
重症 | IPM/CS(チエナム) | 0.5g × 4回/日 |
重症 | MEPM(メロペン) | 1g × 3回/日 |
抗菌薬選択の原則
グラム陰性桿菌および嫌気性菌をカバーできる薬剤が基本となります。経験的投与としてセフトリアキソン + メトロニダゾール、ピペラシリン/タゾバクタム、チカルシリン/クラブラン酸などの静注レジメンも選択肢となります。
302名を対象とした研究では、抗菌薬投与により菌血症や創感染の発生率が減少したものの、胆嚢周囲膿瘍や周囲炎の発生率に変化は認められませんでした。これは抗菌薬の主たる役割が全身感染の予防にあることを示唆しています。
胆嚢炎における疼痛管理は、患者のQOL向上と治療効果の判定において重要な要素です。疼痛コントロールが不十分な場合、病状進行のサインとして緊急介入の適応となることもあります。
鎮痛薬の選択と使用法 💊
オピオイド使用時の注意点
モルヒネやペンタゾシンなどのオピオイドは、すべてオッジ括約筋を収縮させる作用があります。しかし、胆嚢炎に対する優劣に差はなく、モルヒネを使用しない積極的根拠もありません。モルヒネは比較的半減期が長いため、頻回投与が不要で使いやすいという利点があります。
プロスタグランディン阻害薬の効果 🎯
抗プロスタグランディン製剤は疝痛発作を改善させ、胆嚢内圧を低下させる作用があり、臨床で広く利用されています。この作用機序は胆嚢炎の病態生理に直接的に作用するため、理論的にも優れた治療選択肢となります。
胆嚢炎の決定的治療は胆嚢摘出術ですが、患者の状態や重症度により適切なタイミングと方法の選択が重要です。早期(発症から72時間以内、遅くとも1週間以内)の胆嚢摘出術が望ましいとされています。
ドレナージ術の適応と種類 🏥
早期手術が困難な場合や中等度以上の急性胆嚢炎では、以下のドレナージ術が選択されます。
緊急手術の適応 ⚡
以下の状況では緊急の外科的介入が必要となります。
ドレナージを行う際は、排液量や性状の観察、チューブの固定状態や屈曲の有無を定期的に確認することが重要です。
急性胆嚢炎の自然経過と合併症の理解は、治療戦略の決定において極めて重要です。85%の患者では無治療でも2-3日中に症状が沈静化し、1週間以内に消失するという良好な自然経過を示します。
合併症とリスク要因 ⚠️
しかし、10%の患者では限局性穿孔やその他の重篤な合併症が発生します。胆管・胆嚢結石合併例では胆嚢炎の発症頻度が高いため、予防的胆嚢摘出術が推奨されます。
総胆管結石併発時の症状 🔍
総胆管結石が併発した場合、結石の胆管嵌頓により腹痛、黄疸が出現し、急性胆管炎を発症すると発熱も加わります。この場合、血液検査、腹部エコー、CT、MRCPによる精査が必要となり、内視鏡的結石除去が第一選択の治療となります。
長期予後の改善要因
合併症を回避できれば予後は概ね良好ですが、適切な時期での治療介入が重要です。特に高齢者では症状が非特異的となりやすく、早期診断と適切な治療開始が長期予後の改善に直結します。
胆嚢炎治療における薬物療法の最適化には、病態生理の理解に基づく段階的アプローチと、個々の患者状態に応じた治療選択が不可欠です。抗菌薬選択から疼痛管理、外科的介入まで、包括的な治療戦略により良好な治療成績が期待できます。