急性胆管炎は胆管内での細菌感染により引き起こされる急性炎症性疾患で、特徴的な症状として「シャルコーの3徴」が知られています。この3徴は以下の通りです。
症状の進行とともに、意識障害やショック状態に陥ることもあり、重篤な合併症として急性閉塞性化膿性胆管炎(AOSC)に発展する可能性があります。AOSCでは敗血症、播種性血管内凝固(DIC)、多臓器不全のリスクが高まるため、早期診断と適切な治療が生命予後に直結します。
胆管の通過障害の原因として、胆石(特に総胆管結石)が最も多く、その他に胆管癌、乳頭部癌、膵頭部癌などの悪性疾患も重要な原因となります。内視鏡的乳頭切開術(EST)後の症例では、乳頭括約筋機能の低下により腸管からの逆行性感染のリスクが高まることも知られています。
急性胆管炎の診断には血液検査と画像検査が用いられ、東京ガイドライン(TG13/TG18)に基づく重症度分類が治療方針決定に重要な役割を果たします。
血液検査所見。
画像検査所見。
重症度分類では、Grade I(軽症)、Grade II(中等症)、Grade III(重症)に分類され、各グレードに応じた治療戦略が推奨されています。Grade IIIでは臓器不全を伴い、緊急胆道ドレナージの適応となります。
急性胆管炎の薬物療法では、抗菌薬の適切な選択と投与が治療成功の鍵となります。初期治療では培養結果を待つ間、経験的治療として広域スペクトラム抗菌薬を使用します。
推奨される初期治療薬。
抗菌薬名 | 分類 | 特徴・適応 |
---|---|---|
セフトリアキソン | 第三世代セフェム系 | 軽症~中等症の第一選択薬 |
ピペラシリン/タゾバクタム | ペニシリン系+βラクタマーゼ阻害薬 | 中等症~重症、ESBL産生菌をカバー |
メロペネム | カルバペネム系 | 重症例、多剤耐性菌が疑われる場合 |
重症例(Grade III)では、緑膿菌をカバーする抗緑膿菌薬の使用が推奨されます。Pseudomonas aeruginosaは原因微生物の20%を占めることがあり、適切にカバーしないと死亡率上昇につながる可能性があります。
投与期間と注意点。
胆汁中への移行性も考慮し、胆汁中濃度が血中濃度を上回る薬剤(セフトリアキソン、フルオロキノロン系など)の選択が重要です。
急性胆管炎の治療において、抗菌薬と並んで重要なのが胆道ドレナージです。胆管内圧の減圧により、感染の拡大を防ぎ、抗菌薬の効果を高めることができます。
ドレナージ法の種類。
適応基準。
内視鏡的治療では、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)を用いて胆管にカテーテルを挿入し、一時的なプラスチックステントまたは経鼻胆道ドレナージ(ENBD)を留置します。
併用療法として、輸液療法による循環動態の安定化、電解質補正、鎮痛薬の投与も重要な要素です。特に高齢者では脱水の補正と腎機能の維持に注意が必要です。
急性胆管炎の治療期間は通常1-4週間程度ですが、根本的な原因疾患の治療なしには再発リスクが高いため、包括的な治療戦略が重要です。
原因別の根本治療。
予後改善のポイント。
再発防止には、定期的なフォローアップが欠かせません。胆管結石の再発率は年間約10-15%とされており、内視鏡的乳頭切開術後の患者では特に注意深い経過観察が必要です。
長期管理のポイント。
急性胆管炎は適切な治療により予後良好な疾患ですが、重症化すると生命に関わる合併症を引き起こす可能性があります。早期診断、適切な抗菌薬選択、タイムリーな胆道ドレナージ、そして根本原因の治療という段階的アプローチにより、患者の予後改善と生活の質の向上を図ることができます。
急性胆管炎診療ガイドラインの詳細情報
Minds医療情報サービス
日本胆道学会による急性胆管炎の解説
日本胆道学会