手足口病は主にコクサッキーウイルスA群やエンテロウイルス71型によって引き起こされるウイルス性感染症で、特徴的な症状パターンを示します。
典型的な症状の出現部位
発熱は発症者の約3分の1に認められ、多くは38℃以下の軽度なものです。しかし、口腔内の水疱による疼痛は食事摂取困難を引き起こし、特に小児では脱水のリスクとなります。
診断時の重要な鑑別点
手足口病の診断は臨床症状に基づいて行われますが、初期段階では他の水疱性疾患との鑑別が困難な場合があります。水痘(みずぼうそう)との鑑別では、手足口病の発疹は四肢末端と口腔内に限局的である点が重要です。
潜伏期間は3-5日で、症状は通常3-7日で自然軽快します。ただし、爪の脱落や皮膚の剥離が数週間後に起こることがあり、患者や家族への事前説明が重要です。
手足口病には特効薬が存在せず、治療は症状緩和を目的とした対症療法が基本となります。
解熱鎮痛薬の選択
発熱や疼痛に対してはアセトアミノフェンが第一選択薬です。小児においても副作用が少なく安全性が高いとされています。成人ではイブプロフェンやロキソプロフェンの使用も可能ですが、15歳未満の小児にはアスピリンの使用を避ける必要があります。これはライ症候群のリスクがあるためです。
アセトアミノフェンの投与指針
解熱薬は原因を治療するものではなく、発熱はウイルスの増殖を抑制する生体防御反応でもあるため、微熱時の安易な使用は避けるべきです。
抗ヒスタミン薬による症状管理
発疹のかゆみに対しては抗ヒスタミン薬の内服や外用薬が有効です。レスタミンコーワクリームやベナパスタ軟膏などが処方されることが多く、掻破による二次感染の予防にも重要な役割を果たします。
口腔ケアと栄養管理
口内炎による疼痛には、トリアムシノロンアセトニド口腔用軟膏やポビドンヨード含嗽剤が処方されることがあります。重度の摂食困難例では経静脈的補液も検討が必要です。
手足口病は一般的に軽症で自限性の疾患ですが、稀に重篤な合併症を呈することがあります。
注意すべき合併症
これらの合併症は主にエンテロウイルス71型感染時に認められ、特に3歳未満の乳幼児で発症リスクが高くなります。
重症化の早期発見指標
医療従事者は以下の症状に注意を払う必要があります。
フォローアップの重要性
初診時に軽症と判断された症例でも、症状の経過観察は重要です。特に発症後2-3日目は症状のピークとなることが多く、この時期の症状変化に注意が必要です。保護者には緊急受診の目安を明確に説明し、24時間以内の再診指示も考慮すべきです。
手足口病の症状や経過は年齢によって大きく異なり、それぞれに応じた対応が必要です。
小児(5歳以下)の特徴
小児では症状が軽微であることが多く、「ケロッとしている」状態が典型的です。しかし、口腔内の疼痛により十分な水分摂取ができず、脱水に陥るリスクがあります。
成人の重症化パターン
成人が手足口病に罹患した場合、小児と比較して症状が重篤化する傾向があります。
成人例での疼痛管理
成人では足底の水疱による疼痛が激しく、「歩いたり物を持つだけでもとても痛い」状態となることがあります。この場合、厚底のスリッパや靴下の重ね履きなどの物理的対策と併せて、十分な鎮痛薬の投与が必要です。
妊婦への配慮
妊娠中の手足口病罹患では、胎児への影響について十分な説明が必要です。一般的には重篤な先天異常のリスクは低いとされていますが、妊娠後期の感染では新生児への垂直感染の可能性があります。
手足口病の感染経路は多岐にわたり、効果的な感染制御には包括的なアプローチが必要です。
主要な感染経路
意外にも、発疹そのものにはウイルスはほとんど存在しないため、発疹部位を包帯で覆うことに感染予防効果はありません。
医療機関での感染対策
学校・保育園での対応
手足口病には明確な出席停止期間の規定がありません。しかし、発熱や口腔内痛により全身状態が不良な場合は登園・登校を控えるよう指導します。症状が軽快し、普通の生活ができるようになれば登園・登校可能です。
家庭での感染予防策
ワクチン開発の現状
現在、手足口病に対する有効なワクチンは存在しません。複数の原因ウイルスが存在し、同一人が異なる型に再感染する可能性があるため、ワクチン開発は困難とされています。
感染制御の基本は手洗いと適切な環境整備であり、特に糞口感染のリスクが長期間継続することを患者・家族に十分説明することが重要です。医療従事者は正確な情報提供により、過度な不安を軽減し、適切な感染対策の実践を支援する役割を担っています。