薬物事犯の種類と一覧:医療従事者向け完全ガイド

薬物事犯にはどのような種類があり、それぞれどのような特徴があるのでしょうか?医療従事者が知っておくべき薬物事犯の基本知識をまとめました。

薬物事犯の種類と一覧

薬物事犯の基本分類
⚖️
興奮作用系薬物

覚醒剤、コカイン、MDMAなど脳を刺激して興奮させる薬物群

😴
抑制作用系薬物

ヘロイン、あへんなど神経を抑制する作用を持つ薬物群

👁️
幻覚作用系薬物

LSD、大麻など知覚を変化させ幻覚を引き起こす薬物群

薬物事犯における覚醒剤の特徴と規制

覚醒剤は日本で最も乱用されている薬物であり、薬物事犯の中でも特に深刻な問題となっています。覚醒剤取締法により厳格に規制されており、2023年の検挙人員は約7,970人と薬物事犯全体の半数以上を占めています。

 

覚醒剤の主成分はアンフェタミンとメタンフェタミンの2種類で、見た目は粉砂糖を砕いたような無色透明のかたまりです。水に溶けやすい性質があり、静脈注射や加熱によるガスの吸入、飲み物に溶かして摂取するなど様々な方法で乱用されています。

 

医療従事者が知っておくべき覚醒剤の隠語には以下があります。

  • アイス
  • ハーツ
  • ホワイト
  • スピード
  • エス
  • クリスタル

覚醒剤使用者の身体的特徴として、一時的な気分の高揚、食欲不振、疲労感や眠気の消失などが現れますが、効果が切れると強い疲労感に襲われます。長期使用により幻覚や被害妄想などの薬物精神病を発症するリスクが高く、医療現場での早期発見が重要です。

 

再犯率の高さも覚醒剤事犯の特徴で、2019年のデータでは覚醒剤事犯者の64.9%が再犯者となっています。この高い再犯率は強い精神依存性によるもので、治療には専門的なアプローチが必要となります。

 

薬物事犯での大麻関連事例の増加傾向

大麻事犯は近年急激に増加しており、「大麻乱用期」とも呼ばれる状況になっています。検挙人員は8年連続で増加し、2023年には5,783人と過去最多を更新しました。特に注目すべきは、検挙者の約7割が30歳未満という若年層の乱用拡大です。

 

大麻は大麻草から作られる薬物で、大麻取締法により規制されています。従来の乾燥大麻に加え、近年は「大麻ワックス」や「大麻リキッド」などの新しい加工品が増加しています。海外のお土産として販売されるチョコレートやクッキーに大麻が含まれている事例も報告されており、医療従事者は患者の渡航歴にも注意を払う必要があります。

 

大麻の隠語・俗称。

  • ガンジャ
  • ハシッシュ
  • ブッダスティック
  • ハッパ
  • チョコ
  • 野菜

大麻は「身体への悪影響がない」という誤った情報が拡散されており、軽い気持ちで手を出す人が多いのが現状です。しかし実際には精神障害、幻覚、妄想、肺がんの誘発、生殖機能への悪影響などが報告されています。

 

医療現場では、大麻使用による急性中毒症状として、不安、パニック発作、幻覚、妄想などの精神症状を呈する患者に遭遇する可能性があります。特に若年患者で原因不明の精神症状を呈する場合は、大麻使用の可能性も考慮する必要があります。

 

薬物事犯のMDMAと合成麻薬の危険性

MDMAは「エクスタシー」とも呼ばれる合成麻薬で、麻薬及び向精神薬取締法により規制されています。本来は白色結晶性の粉末ですが、多くは様々な着色がされ、文字や刻印の入った錠剤の形で密売されています。

 

MDMAの特徴的な作用。

  • 幸福感や興奮を高める作用
  • 幻聴、幻影、幻想等知覚の変化
  • 血圧・体温の上昇
  • 強い精神的依存性

MDMAの隠語には「バツ(×、罰)」「タマ(玉、弾)」「ピュア」「エックス」「エクスタシー」などがあります。クラブやパーティーなどの娯楽施設で流通することが多く、若年層の使用が問題となっています。

 

医療現場でMDMA使用が疑われる症状。

  • 異常な高体温(40度以上)
  • 頻脈、高血圧
  • 意識障害、興奮状態
  • 脱水症状
  • けいれん発作

MDMA使用による合併症として、腎臓障害、循環器障害、記憶障害などが報告されています。大量使用では死に至る場合もあり、救急医療の現場では迅速な対応が求められます。

 

合成麻薬の検挙人員は比較的少ないものの、2019年には82人と増加傾向にあります。新しい化学構造を持つ合成麻薬が次々と開発されており、医療従事者は常に最新の情報にアップデートしておく必要があります。

 

薬物事犯における検挙人員の統計データ

薬物事犯全体の検挙人員は2023年時点で14,408人となっており、近年横ばいで推移しています。しかし、薬物の種類別に見ると明確な傾向の変化が見られます。

 

主要薬物別検挙人員の推移(2019年→2023年):

  • 覚醒剤:8,584人 → 7,970人(減少傾向)
  • 大麻:4,321人 → 5,783人(増加傾向)
  • 麻薬・向精神薬:82人 → 639人(増加傾向)
  • あへん:2人 → 16人(微増)

覚醒剤事犯は長期間にわたって薬物事犯の主要部分を占めてきましたが、近年は減少傾向にあります。一方で大麻事犯は急激に増加しており、薬物乱用のパターンが変化していることが分かります。

 

年齢別の特徴:
大麻事犯では30歳未満が約7割を占める一方、覚醒剤事犯では中高年層の割合が高くなっています。これは薬物の入手経路や使用環境の違いを反映していると考えられます。

 

再犯率の状況:
覚醒剤事犯の再犯率は64.9%と極めて高く、薬物依存の深刻さを物語っています。医療現場では、薬物事犯者に対する治療的介入の重要性が増しています。

 

地域別のデータを見ると、都市部での検挙人員が多い傾向にありますが、近年は地方部への拡散も懸念されています。医療従事者は地域の特性を理解した上で、患者対応にあたる必要があります。

 

薬物事犯の医療現場での早期発見方法

医療従事者にとって薬物使用者の早期発見は、適切な治療介入と社会復帰支援の観点から極めて重要です。薬物使用の兆候を見逃さないための実践的なアプローチを解説します。

 

身体的症状による判断:

  • 瞳孔の異常(散瞳、縮瞳)
  • 皮膚の変化(発疹、掻痒感による傷跡)
  • 注射痕(前腕、手背、足背など)
  • 歯の状態悪化(覚醒剤による歯牙破損)
  • 異常な体重減少

行動・精神面の変化:

  • 落ち着きのなさ、異常な興奮状態
  • 被害妄想、幻覚症状の訴え
  • 時間や場所の見当識障害
  • 攻撃的な言動
  • 極度の疲労感や抑うつ状態

問診における注意点:
薬物使用歴について直接的に質問することは、患者の警戒心を高める可能性があります。代わりに以下のようなアプローチが効果的です。

  • 睡眠パターンの変化について尋ねる
  • 食欲の変化を確認する
  • ストレス対処法について質問する
  • 社会的関係の変化を把握する

検査値の異常パターン:
薬物使用により特徴的な検査値の変化が現れることがあります。

  • 肝機能異常(AST、ALT上昇)
  • 腎機能障害(クレアチニン上昇)
  • 電解質異常
  • 心電図異常(頻脈、不整脈)

患者・家族への教育的介入:
薬物使用が疑われる場合、非判断的態度で接することが重要です。薬物依存は疾患であることを理解し、治療可能であることを伝える必要があります。

 

家族に対しては、薬物依存の兆候と対応方法について教育し、専門機関への相談を促すことが大切です。また、家族自身のメンタルヘルスケアについてもサポートを提供する必要があります。

 

多職種連携の重要性:
薬物依存患者への対応は医師だけでは完結しません。看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、精神保健福祉士など多職種でのチーム医療が不可欠です。

 

法執行機関との連携については、患者のプライバシーと治療優先の原則を念頭に置きながら、適切な判断を行う必要があります。患者の同意なしに情報提供することは、治療関係の破綻につながる可能性があるため慎重な検討が必要です。

 

薬物依存治療の専門機関や支援団体との連携体制を構築しておくことで、適切なタイミングでの紹介が可能となります。

 

厚生労働省の薬物依存症対策に関する情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070789.html