メタンフェタミン アンフェタミン 化学構造・作用機序・代謝・依存性

メタンフェタミンとアンフェタミンは類似した化学構造を持つ覚醒剤ですが、中枢興奮作用の強度や代謝経路に違いがあります。医療従事者として、これらの薬物の特性と臨床的意義を正確に理解することが求められていますが、両者の具体的な相違点をご存知ですか?

メタンフェタミン アンフェタミン 基本特性

メタンフェタミンとアンフェタミンの特徴
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化学構造の相違

アンフェタミンの窒素原子上にメチル基が置換した構造がメタンフェタミン。脂溶性の差が作用強度に影響

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中枢興奮作用

メタンフェタミンは血液脳関門を通過しやすく、アンフェタミンより強力な中枢興奮作用を示す

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法的規制

日本では覚醒剤取締法により厳格に規制。ADHD治療薬として一部の国で医療使用が認められている

メタンフェタミン アンフェタミン 化学構造と物理的特性

 

メタンフェタミンとアンフェタミンは、ベンゼン環にエチルアミン鎖が結合するという共通の基本骨格を有する覚醒剤です。両者の化学構造上の重要な相違点は、メタンフェタミンがアンフェタミンの窒素原子上にメチル基(-CH3)が1つ付加した構造となっている点です。この構造的差異により、メタンフェタミンはアンフェタミンと比較してより高い脂溶性を示し、血液脳関門を通過しやすくなります。
参考)覚醒剤 - 脳科学辞典

日本の覚醒剤取締法では、メタンフェタミンは「フェニルメチルアミノプロパン」、アンフェタミンは「フェニルアミノプロパン」として規定されています。両物質は無色または白色の結晶性粉末として存在し、メタンフェタミンは氷砂糖様の結晶体や錠剤型(ヤーバー)としても流通しています。摂取方法としては、鼻からの吸引、吸煙、経口摂取のほか、液体に溶解して静脈内注射する方法があります。
参考)令和2年版 犯罪白書 第7編/第2章/第1節/1

アンフェタミンは間接型アドレナリン受容体刺激薬として分類され、アメリカ合衆国では商品名Adderallとして、ADHD(注意欠陥・多動性障害)およびナルコレプシーの治療に使用されています。一方、メタンフェタミンは日本では商品名ヒロポンで知られ、1951年の覚醒剤取締法公布以降は限定的な医療・研究用途にのみ使用が制限されています。
参考)メタンフェタミン - Wikipedia

メタンフェタミン アンフェタミン 作用機序と薬理効果

メタンフェタミンとアンフェタミンは、ドーパミンノルアドレナリンセロトニンといった神経伝達物質に作用する間接型アドレナリン作動薬です。メタンフェタミンはドーパミントランスポーター(DAT)の基質として機能し、DATを介してドーパミン作動性神経内部に取り込まれます。細胞内に侵入したメタンフェタミンは、シナプス小胞のトランスポーター(VMAT-2)を阻害し、DATを介してドーパミンを細胞内から細胞外へ逆輸送することで細胞外ドーパミン量を増加させます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/129/5/129_5_354/_pdf

この薬理作用により、メタンフェタミンとアンフェタミンは多幸感と自信感の増大、作業能力の向上、眠気と食欲の抑制などの効果を示します。特に、脳内報酬系として知られる腹側被蓋野から大脳皮質と辺縁系に投射するドーパミン作動性神経のシナプス前終末からのドーパミン放出を促進しながら再取り込みを阻害することで、側座核内のA10神経付近にドーパミンの過剰な充溢を起こします。
参考)覚醒剤 - Wikipedia

メタンフェタミンの中枢興奮作用はアンフェタミンより強力であり、これは窒素原子上のメチル基による脂溶性の増加と血液脳関門通過の容易さに起因します。さらに、メタンフェタミンはモノアミン酸化酵素の阻害作用を併せ持ち、シナプス間隙におけるアミン類の濃度を上昇させる複合的な作用機序を有しています。​
医療用途としては、メタンフェタミンはナルコレプシー、各種の昏睡、傾眠、嗜眠、もうろう状態、インスリンショック、うつ病・うつ状態、統合失調症の遅鈍症の改善に使用されます。また、手術中・手術後の虚脱状態からの回復促進および麻酔からの覚醒促進、麻酔剤や睡眠剤の急性中毒の改善にも適応があります。​

メタンフェタミン アンフェタミン 代謝経路と体内動態

メタンフェタミンの代謝において、主代謝物の一つがアンフェタミンであることは医療従事者にとって重要な知見です。メタンフェタミンを摂取すると、体内で一部がアンフェタミンなどに代謝されますが、摂取した大半が未変化体として尿中に排泄されます。具体的には、投与量の37~54%が未変化体のメタンフェタミンとして尿中に排泄され、投与量の60~80%が48時間以内に代謝物を含めて排泄されます。
参考)(5)覚醒剤 (検査と技術 20巻6号)

尿のpHが代謝と排泄に大きく影響し、酸性尿の場合は摂取した大半が未変化のまま排泄され、アルカリ尿の場合は尿への排泄が少なくなります。主代謝物であるp-ヒドロキシメタンフェタミン(p-OHMA)は、代謝物の約50%を占め、大部分が第二相の抱合反応を受けて主として硫酸抱合体として尿中に排泄されます。
参考)https://senogawa.jp/cms/wp-content/themes/senogawa/treatise-pdf/048.pdf

アンフェタミンの代謝では、主に尿中に未変化体および水酸化と脱アミノ化された類似体が排泄されます。尿検査でメタンフェタミンの代謝物であるアンフェタミンやその他の代謝物が同時に検出された場合、それは体内でメタンフェタミンが代謝され排泄されたことの証拠となり、尿に後から混入された可能性を否定できます。
参考)薬物検査のよくある質問|費用・依頼方法・検査結果まで解説|法…

メタンフェタミン摂取後の尿中濃度は、単回摂取(10~20mg)の場合、摂取後数時間で500ng/mL以上となり、摂取後22~77時間まで検出可能です。また、メタンフェタミン摂取後24時間で、摂取量の約20%が未変化体として尿中に排泄されることが報告されています。
参考)https://www.sysmex.co.jp/products_solutions/library/journal/vol8_no3/bfvlfm000000d6m1-att/vol8_3_10.pdf

メタンフェタミン アンフェタミン 依存性と精神神経毒性

メタンフェタミンとアンフェタミンは強い精神依存性と薬剤耐性を示す薬物です。使用を繰り返すことにより耐性が形成され、同様の効果を得るためにはより多くの薬物を摂取しなければならない状態になります。メタンフェタミンの反復使用は、ドーパミントランスポーター(DAT)やドーパミンD1受容体を減少させることが明らかになっています。
参考)アンフェタミン - Wikipedia

急性効果として、攻撃的行動、幻覚、妄想のほか、頻脈、高血圧、発汗、高熱、瞳孔散大などを引き起こし、重症例では死に至ることもあります。長期使用により、栄養失調および口腔健康障害をもたらすほか、偏執性妄想を特徴とする覚醒剤精神病(アンフェタミン精神病)を発症することがあります。
参考)アンフェタミン類 - 24. その他のトピック - MSDマ…

メタンフェタミンやアンフェタミンによる神経毒性のメカニズムには、過剰なドーパミン放出、ユビキチン-プロテアソーム系の機能不全、タンパク質のニトロ化、小胞体ストレス、p53発現、炎症性分子、D3受容体、微小管の障害など、複数の相互依存的な機序が関与しています。特に薬物誘発性の高体温がメタンフェタミンの神経毒性作用の重要な要因であり、体温低下が保護効果を持つことが示されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2000591/

離脱症候群としては、激しい疲労、過眠、食欲亢進などが出現し、抑うつ状態になって自殺の危険性も高まります。睡眠や食事を取らずとも最大限の精神の高揚が続くため、精神と身体への負担が非常に大きいことが特徴です。​

メタンフェタミン アンフェタミン 医療用途とADHD治療

アンフェタミンは、ADHD(注意欠陥・多動性障害)およびナルコレプシーの治療薬として、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダなどの国々で医療使用が認められています。日本では、リスデキサンフェタミンメシル酸塩(商品名:ビバンセ)が2019年にADHD治療薬として承認されました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3666194/

リスデキサンフェタミンは、体内に吸収された後に血液中でアンフェタミンに変化し、ADHD症状を改善します。作用機序としては、神経伝達物質を含むシナプス小胞に直接作用して神経末端からの神経伝達物質の遊離を促進するとともに、トランスポーターにおける再取り込みを阻害することで、シナプス間隙の神経伝達物質量を増やし神経伝達を高めます。
参考)ビバンセとはどんな薬?ADHD(注意欠如多動症)のある子ども…

ADHD治療におけるアンフェタミン系薬物の効果は、コア症状だけでなく自殺行動、物質乱用、交通事故、犯罪行為の発生を有意に低減することが報告されています。小児・青少年では、アンフェタミンによる収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)、脈拍の有意な上昇が認められ、特にアンフェタミンによるDBPの平均上昇量1.93mmHgは高いエビデンスの質で確認されています。
参考)メタンフェタミン OR アンフェタミン OR 覚醒剤amp;…

一方で、処方されたアンフェタミンが横流しされ、高等学校や大学で最も頻繁に乱用される薬剤のひとつとなっている問題も存在します。また、一部の臨床薬剤(セレギリンなど)の投与によって、尿中にその代謝物である覚醒剤が検出される場合があるため、検査結果の解釈には注意が必要です。
参考)検査項目案内 検査項目詳細|福山臨床検査センター

興味深いことに、ADHD治療薬リスデキサンフェタミンは、アンフェタミンやメタンフェタミンの依存症患者が入院するリスクを低減する効果が報告されており、依存症治療への応用も研究されています。
参考)ADHD治療薬が、覚醒剤系薬物乱用患者の入院リスクを低減

メタンフェタミン アンフェタミン 検出方法と法医学的意義

メタンフェタミンとアンフェタミンの検出には、尿検査が最も一般的に用いられます。採取可能な資料の量や資料中の濃度、検出可能な期間を考慮すると、尿が最適な検体と考えられています。検査方法としては、一次スクリーニング検査にEMIT法、確認検査にLC-MS/MS法が使用されます。
参考)検出する薬物|乱用薬物検査|LSIメディエンス

尿中薬物スクリーニングキットでは、カットオフ濃度としてアンフェタミン1,000ng/mL、メタンフェタミン1,000ng/mLが設定されています。日本における覚醒剤検査では、メタンフェタミン(MET)とアンフェタミン(AMP)を独立した検査項目として検出できることが重要です。なぜなら、日本で乱用されている覚醒剤は主にメタンフェタミンであり、その代謝物としてアンフェタミンが検出されるからです。
参考)https://www.veritastk.co.jp/products/pdf/8b07edb42d844de6cf66ac23d6b674d3_1.pdf

尿中薬物鑑定では、メインとして尿中排泄量の最も多いメタンフェタミンの検出を行い、同時にメタンフェタミンの代謝物であるアンフェタミンやその他の代謝物を分析します。これらの代謝物が検出された場合のみ陽性と判定され、メタンフェタミンが代謝され排泄されたものと証明できます。この検査法により、被疑者が「検査時に尿に覚せい剤を混ぜられた」と抗弁する場合でも、体内摂取と外部混入を区別できます。​
最近の研究では、尿中のアンフェタミン/メタンフェタミン比率を用いて、シトクロムP450 2D6(CYP2D6)の活性スコアを分類する試みが行われています。CYP2D6の活性はメタンフェタミンの代謝と中毒と相関しており、活性スコアは薬物暴露と個別化投与量の予測に有用なツールとなる可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9788588/

GC-MS/MS法やLC-MS/MS法などの高感度分析法の開発により、尿中のアンフェタミン類の検出および定量がより正確に行えるようになっています。また、包括的二次元ガスクロマトグラフィー(GC×GC-FID)を用いた同時測定法も開発され、メタンフェタミン、アンフェタミン、MDMAなど12種類の精神作用物質を迅速に測定できるようになっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9372183/

参考リンク。
MSDマニュアル プロフェッショナル版「アンフェタミン類」には、医療従事者向けにアンフェタミン類の薬理作用、中毒症状、離脱症候群、治療法が詳細に解説されています。

 

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/24-その他のトピック/違法薬物および中毒性薬物/アンフェタミン類
法務省「令和3年版犯罪白書」の覚醒剤に関する項目では、アンフェタミンとメタンフェタミンの法的定義、摂取による効果と有害作用、精神依存性と耐性について公的機関の視点から詳述されています。

 

令和2年版 犯罪白書 第7編/第2章/第1節/1
脳科学辞典「覚醒剤」の項目では、メタンフェタミンとアンフェタミンの化学構造、神経薬理学的作用機序、脳内報酬系への影響について科学的根拠に基づいた解説があります。

 

https://bsd.neuroinf.jp/wiki/覚醒剤