アンジオテンシン変換酵素阻害薬の種類と一覧

アンジオテンシン変換酵素阻害薬の全種類を網羅的に解説。各薬剤の特徴、薬価、作用機序から副作用まで、医療従事者が知るべき情報を詳しく紹介。どの薬剤を選択すべきか?

アンジオテンシン変換酵素阻害薬の種類と一覧

ACE阻害薬の基本情報
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薬剤数

現在12種類のACE阻害薬が臨床使用可能

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主要適応

高血圧症・慢性心不全・糖尿病性腎症

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特徴的副作用

空咳(アジア人に多発)・血管浮腫

アンジオテンシン変換酵素阻害薬の主要な種類と特徴

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)は、現在日本で使用可能な薬剤として12種類が存在します。これらの薬剤は化学構造や薬物動態の違いにより、それぞれ異なる特徴を有しています。

 

第一世代ACE阻害薬

  • カプトプリル(カプトリル):最初に開発されたACE阻害薬で、SH基を含む構造が特徴
  • エナラプリル(レニベース):プロドラッグ型で肝臓で活性体に変換される

第二世代以降のACE阻害薬

  • リシノプリル(ロンゲス):腎排泄型で肝機能低下患者にも使用可能
  • イミダプリル(タナトリル):糖尿病性腎症に特に有効性が示されている
  • テモカプリル(エースコール):組織移行性が良好
  • ペリンドプリル(コバシル):長時間作用型

各薬剤には「-pril」または「-prilat」のステムが共通して含まれており、これは国際的な医薬品命名規則に基づいています。

 

アンジオテンシン変換酵素阻害薬の詳細一覧表と薬価情報

現在使用可能なACE阻害薬の完全な一覧を薬価とともに以下に示します。
主要なACE阻害薬一覧

一般名 商品名 規格 薬価(円) 特徴
カプトプリル カプトリル 錠12.5mg 8.3/錠 最初のACE阻害薬
錠25mg 9.6/錠 SH基含有
細粒5% 17.2/g 小児使用可能
エナラプリル レニベース 錠2.5mg 11/錠 慢性心不全適応
錠5mg 13.2/錠 プロドラッグ型
錠10mg 13.9/錠 汎用性が高い
リシノプリル ロンゲス 錠5mg - 腎排泄型
錠10mg - 肝機能低下でも使用可
イミダプリル タナトリル 錠2.5mg - 糖尿病性腎症適応
錠5mg - 腎保護作用強い
テモカプリル エースコール 錠1mg - 組織移行性良好
錠2mg - 軽度高血圧に適用

後発医薬品については、エナラプリルマレイン酸塩の各規格で10.4円/錠という統一薬価が設定されており、医療経済的な観点からも重要な選択肢となっています。

 

アンジオテンシン変換酵素阻害薬の作用機序と生理学的効果

ACE阻害薬の作用機序は、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の複数のポイントに作用することで血圧降下効果を発揮します。

 

主要な作用メカニズム

  • アンジオテンシンII産生抑制:ACEを阻害することでアンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を阻害
  • ブラジキニン増強作用:キニナーゼII(ACEと同一分子)の阻害によりブラジキニンが増加し、NO合成促進とプロスタサイクリン産生増加を引き起こす
  • アルドステロン分泌抑制:アンジオテンシンII減少により副腎からのアルドステロン分泌が抑制される

組織リモデリング抑制効果
ACE阻害薬の特筆すべき効果として、心血管系の組織リモデリング抑制作用があります。これは単純な血圧降下効果を超えた臓器保護作用として注目されており、他の降圧薬と比較して長期的な生命予後改善効果が示されています。

 

腎保護メカニズム
腎臓では、アンジオテンシンIIが主に輸出細動脈を収縮させて糸球体内圧を上昇させますが、ACE阻害薬はこの作用を抑制し、糸球体硬化の進展を防ぎます。特にメサンギウム細胞の増殖抑制やTGF-β産生抑制を介した腎保護作用が重要です。

 

アンジオテンシン変換酵素阻害薬の副作用と安全性プロファイル

ACE阻害薬には特徴的な副作用があり、その理解は適切な薬剤選択と患者管理において極めて重要です。

 

重大な副作用

頻度の高い副作用

  • 空咳(から咳):ブラジキニン増強作用による最も特徴的な副作用
  • 日本人を含むアジア人に特に多発
  • 発現率は約10-15%
  • 誤嚥性肺炎予防目的で利用される場合もある

禁忌事項

  • 妊娠中および授乳中の女性:胎児・新生児への悪影響
  • 両側腎動脈狭窄または単腎で腎動脈狭窄がある患者
  • 血管浮腫の既往歴がある患者

注意すべき相互作用
利尿薬との併用時には過度の血圧低下に注意が必要です。これは利尿薬によるNa排泄でレニン・アンジオテンシン系が亢進した状態でACE阻害薬を投与することで起こります。

 

アンジオテンシン変換酵素阻害薬とARBの併用療法戦略

ACE阻害薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の併用療法は、理論的には相乗効果が期待される治療戦略として注目されています。

 

併用療法の理論的根拠
ACE阻害薬は主にACE経路でのアンジオテンシンII産生を阻害しますが、キマーゼやカテプシンGなどの代替経路は残存します。ARBはアンジオテンシンII受容体を直接遮断するため、完全なRAS阻害が理論上可能となります。

 

大規模臨床試験の結果

  • ONTARGET試験:心血管疾患高リスク患者での併用療法を検証
  • VALIANT試験心筋梗塞後患者でのバルサルタンとカプトプリルの併用
  • CHARM-Added試験:慢性心不全患者でのカンデサルタンとACE阻害薬併用

併用時の注意点
併用療法では腎機能悪化や高カリウム血症のリスクが増大するため、慎重なモニタリングが必要です。特に高齢者や腎機能低下患者では定期的な血清クレアチニンとカリウム値の測定が不可欠です。

 

デュアルブロックの限界
現在のエビデンスでは、ACE阻害薬とARBの併用による心血管イベント抑制効果の明確な上乗せ効果は示されておらず、副作用リスクの増大が懸念されています。そのため、現在の臨床ガイドラインでは併用療法は推奨されていません。

 

アンジオテンシン変換酵素阻害薬は、その多様な種類と特徴的な作用機序により、高血圧治療における重要な選択肢として位置づけられています。適切な薬剤選択と安全性への配慮により、患者の長期予後改善に大きく貢献する薬剤群といえるでしょう。