麻黄附子細辛湯を「風邪によく効く漢方」として気軽に処方していると、高齢患者が動悸・頻脈で救急受診するリスクがあります。
参考)麻黄附子細辛湯の効果と副作用|「危険」と言われる理由・他剤と…
コタロー麻黄附子細辛湯エキスカプセルの有効成分は、マオウ(麻黄)4.0g・サイシン(細辛)3.0g・ブシ末2〔炮附子末〕1.0g(1日量6カプセル換算の生薬量)から抽出した水製乾燥エキス1200mgです。 この3種類の生薬混合物を水で抽出・乾燥し、硬カプセルに充填しています。
参考)https://www.kotaro.co.jp/iryou/wp-content/uploads/sites/2/2023/01/if_nc127.pdf
つまり、生薬そのものを服用しているのではなく、「水製乾燥エキス」という形に濃縮されている点が重要です。
製剤のコード番号はNC127で、同一処方名薬にはツムラ麻黄附子細辛湯エキス(医療用)・三和麻黄附子細辛湯エキス細粒があります。 コタロー製剤の特徴は、苦味や独特のにおいを持つエキスをカプセルに封じ込めることでコンプライアンスを向上させた設計にあります。
添加剤にはカルメロースカルシウム・軽質無水ケイ酸・結晶セルロース・合成ケイ酸アルミニウム・ステアリン酸マグネシウムなどが含まれており、カプセル本体には青色1号・黄色5号・酸化チタン・ゼラチン・ラウリル硫酸ナトリウムが使用されています。
| 生薬 | 含量(1日量相当) | 主な薬理作用 | 主な有効成分 |
|---|---|---|---|
| マオウ(麻黄) | 4.0g | 発汗・気管支拡張・交感神経興奮 | エフェドリン、プソイドエフェドリン |
| サイシン(細辛) | 3.0g | 鎮咳・去痰・解熱・鎮痛・温裏 | アサリニン(C₂₀H₁₈O₆:354.35) |
| ブシ末(炮附子末) | 1.0g | 温裏・鎮痛・強心・去寒 | アコニチン(C₃₄H₄₇NO₁₁:645.74) |
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各生薬の含有マーカー成分の定量には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法が用いられており、マオウ由来の総アルカロイド(エフェドリン+プソイドエフェドリン)とサイシン由来のアサリニンが定量指標となっています。
マオウに含まれるエフェドリン(C₁₀H₁₅NO:分子量165.23)は、交感神経系を直接興奮させるアミン化合物です。 β₂刺激による気管支拡張・α₁刺激による血圧上昇・中枢神経興奮作用を同時に持つため、複数の臓器に影響が及びます。
エフェドリンが厄介なのです。
ヒトへのデータでは、本剤2カプセル(l-エフェドリン5.0mg・d-プソイドエフェドリン2.2mg相当)を経口投与した場合、0〜12時間の尿中排泄率はl-エフェドリンが43.5%、d-プソイドエフェドリンが50.7%であり、0〜24時間ではそれぞれ63.4%・72.4%が尿中排泄されます。 つまり、腎機能が低下している患者では体内滞留時間が延長するため注意が必要です。
腎障害患者への慎重投与が原則です。
添付文書では重症高血圧症・狭心症・心筋梗塞既往・甲状腺機能亢進症・排尿障害・著しい発汗傾向の患者に対してマオウ含有製剤の慎重投与が明記されています。 これらの背景を事前問診なしに処方した場合、症状悪化のリスクが相当高まります。
「問診で心疾患なし」と確認してから処方を検討するのが安全です。
なお、エフェドリンには興奮作用があるため、夜間の服用で入眠障害が出るケースも報告されています。 患者から「眠れない」という訴えがあったときに本剤の服用時間を確認する習慣をつけておくと、不必要な睡眠薬追加を防ぐことができます。
ブシ(附子)はトリカブト(Aconitum 属)の根を炮製(加熱処理)し、毒性を軽減させた生薬です。 加熱によりアコニチン(猛毒のアルカロイド)が加水分解されてベンゾイルアコニンなど毒性の低い化合物へと変換されますが、「毒性ゼロ」になるわけではありません。
参考)漢方解説シリーズ:127-麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしん…
コタロー製剤のブシ末は劇薬に指定されています。
アコニチンはナトリウムチャネルの持続的脱分極を引き起こし、心室細動を含む重篤な不整脈を誘発する可能性があります。 通常用量ではこのリスクは限定的ですが、他のブシ含有漢方製剤(例:真武湯・附子理中丸など)との重複投与が問題になります。
添付文書の8.2項には「ブシを含む製剤との併用には特に注意すること」と明記されています。 重複によって1日当たりのアコニチン曝露量が倍増するリスクがあるため、患者の持参薬確認が不可欠です。
持参薬リストの確認が必須です。
また体力が充実している患者(実証)にブシを投与すると、心悸亢進・のぼせ・舌のしびれ・悪心が出やすくなると記載されています。 虚証(体力低下・冷え性・高齢者)向けの薬剤であることを改めて意識してください。
本剤の相互作用で最も警戒すべきはMAO阻害剤(セレギリン塩酸塩・ラサギリンメシル酸塩)との併用です。 MAO阻害剤はエフェドリンの代謝を阻害し、交感神経刺激作用を著しく増強するため、血圧急上昇・高血圧クリーゼのリスクがあります。
これは見落としやすい相互作用です。
以下が主な併用注意薬剤の一覧です。
市販の総合感冒薬や咳止め薬にもマオウやエフェドリンが配合されているものがあります。 OTC薬の持参情報を含め、重複投与の確認を処方フローに組み込んでおくと安全です。
一般的に「マオウ含有漢方薬は高齢者に慎重」とされますが、麻黄附子細辛湯はほかのマオウ製剤より高齢者に使いやすいとされています。 その理由は、ブシ(附子)がアコニチンを介してナトリウムチャネルを脱分極させ、交感神経を一部遮断するためです。マオウの交感神経興奮作用とブシの交感神経遮断作用が互いの副作用を打ち消し合う拮抗的な関係にあると考えられています。
これは意外な視点ですね。
ただし「使いやすい」と「安全に使える」は同義ではありません。 高齢者では腎機能低下によるエフェドリンの蓄積リスクがあるため、添付文書どおり減量投与が基本です。1日6カプセルを維持した場合のリスクを過小評価しないよう注意してください。
減量が条件です。
また、コタロー製剤はカプセル形状(2号硬カプセル・長径17.5mm)のため、5歳未満の乳幼児への服用は望ましくないと記載されています。 嚥下困難な高齢者に対しては、脱カプセルして簡易懸濁法(55℃・5分)で8Frチューブを通過させることが可能であることが社内データで示されています。
経管投与時は必ず脱カプセル対応で行ってください。
本剤の有効期間は製造後3年・室温保存です。 開封後は吸湿しやすいため、ポリエチレン袋や密閉容器に入れて保管し、高温多湿(40℃・75%RH相当)の環境では1週間で変色・固化が確認されている点に注意してください。
添付文書に収載されている重大な副作用は肝機能障害・黄疸(いずれも頻度不明)で、AST・ALT・Al-P・γ-GTPの著しい上昇として発現します。 「漢方薬は天然成分だから安全」という患者の思い込みが、自己判断での長期服用につながり、発見が遅れるケースがあります。
これは処方時に必ず説明すべき事項です。
そのほかの副作用として、以下の項目が頻度不明として記載されています。
服薬指導では「動悸や舌のしびれが出たらすぐ服用を中止して受診してください」と伝えることが重要です。 特にブシ由来の「舌のしびれ」は過剰摂取のサインとして認識されており、患者自身が気づける具体的な症状です。
参考)コタロー麻黄附子細辛湯エキスカプセルの効能・副作用|ケアネッ…
舌のしびれは見逃せないサインです。
PTPシートからの誤飲対策として、薬剤交付時には「必ずシートから取り出してから服用する」よう指導することが求められています。 PTPシートの鋭角部が食道粘膜へ刺入し、縦隔洞炎などの重篤な合併症を引き起こした事例が報告されているためです。
医療従事者向けの詳細な添付文書・インタビューフォームは以下の公式情報源で確認できます。
コタロー麻黄附子細辛湯エキスカプセル インタビューフォーム(2023年1月改訂版)。添付文書をさらに掘り下げた製剤学的特性・安全性データを収録した公式文書です。
小太郎漢方製薬 公式IFページ(コタロー麻黄附子細辛湯エキスカプセル)
KEGG MEDICUSによる医療用麻黄附子細辛湯の添付文書情報。相互作用・副作用・用法用量を一覧で確認できる医療従事者向けデータベースです。