リオチロニン レボチロキシン比較と使い分け

甲状腺機能低下症の治療で使用されるリオチロニンとレボチロキシンの違いや使い分けについて、薬理作用、適応、併用療法の観点から解説します。医療現場でどちらを選択すべきか迷っていませんか?

リオチロニン レボチロキシン特徴

この記事のポイント
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T3製剤とT4製剤の違い

リオチロニンはT3製剤で効果発現が速く、レボチロキシンはT4製剤で効果が安定的に持続します

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臨床での使い分け

レボチロキシンが第一選択、リオチロニンは特殊な状況や併用療法で使用されます

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併用療法の可能性

一部の患者ではT4とT3の併用により症状改善が期待できる場合があります

リオチロニン T3製剤基本特性

 

 

リオチロニンは最も強力な甲状腺ホルモンであるトリヨードチロニン(T3)のナトリウム塩で、甲状腺機能低下症の治療に使用される甲状腺ホルモン補充薬です。レボチロキシンと比較して、リオチロニンは効果が見られるまでの時間が早く、半減期も短いという特徴があります。生物学的半減期は約2.5日とされており、レボチロキシンの半減期7日と比べて短いため、患者の至適用量を求めるまでに要する日数が3~7日(レボチロキシンでは3~7週間)と短く済みます。
参考)リオチロニン - Wikipedia

チロキシン結合グロブリンやトランスチレチンへの血漿蛋白結合が少ないことが、効果発現の早さに関係しています。リオチロニンは基礎代謝を増加させ、蛋白質合成に影響を与え、カテコールアミン(アドレナリン等)感受性を亢進させる作用を持ちます。開始時は5~25µg/日から始め、1~2週間間隔で少しずつ増量し、維持量は25~75µg/日(適宜増減)とするのが一般的です。​

レボチロキシン T4製剤薬理作用

レボチロキシンナトリウムは、生体内で甲状腺から分泌されるT4と同じ薬理作用を示す合成甲状腺ホルモン製剤です。T4は甲状腺の他、肝臓や腎臓などの末梢組織でトリヨードチロニン(T3)に代謝された後に薬効を発揮するため、レボチロキシン投与後、効果発現までに時間を要します。レボチロキシンの化学名はL-チロキシンで、人工的に合成された甲状腺ホルモンのT4と同一の構造を持ちます。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_11538

人の体内で自然に分泌されるホルモンと同じはたらきを示すため、生理的に近い形で甲状腺機能を補うことができます。T4は体内で5'-脱ヨード化酵素によってT3に変換され、T3の方が生理活性が高く、実際にはT4よりもT3が細胞内で代謝を調節する中心的役割を担っています。しかし、直接T3製剤を投与すると血中濃度の変動が大きくなるリスクがあるため、安定した血中濃度を保ちやすいT4製剤を用いることが一般的です。
参考)レボチロキシン(T4)(チラーヂンS) href="https://kobe-kishida-clinic.com/endocrine/endocrine-medicine/levothyroxine/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/endocrine/endocrine-medicine/levothyroxine/amp;#8211; 内分…

リオチロニン レボチロキシン効果発現時間比較

リオチロニンとレボチロキシンの最も顕著な違いは効果発現までの時間と持続時間です。リオチロニン(T3製剤)は末梢組織でT3に変換する必要がないため効果発現が速く、粘液水腫性昏睡の患者の治療が奏効するまでの時間や甲状腺癌の患者に放射性ヨウ素(131I)治療を開始するまでの時間が早くなります。具体的には、レボチロキシンを投与していた場合、投与中止して甲状腺組織を完全にヨウ素枯渇状態にするには6週間を要するのに対し、リオチロニンの場合は2週間で良いとされています。​
一方、レボチロキシン(T4製剤)は効力が一定であり、服用後の血中T4、T3濃度が比較的一定である点から、甲状腺機能低下症においては甲状腺ホルモン補充療法の第一選択薬となっています。T4投与により血中T4濃度が維持されれば、末梢でのT4からT3への変換で血中T3濃度も正常に維持できることが確認されています。レボチロキシンの効果は数週間かけてゆっくり現れますが、継続することで代謝が上がり体調が整いやすくなります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/54/2/54_2_118/_pdf

リオチロニン レボチロキシン併用療法効果

甲状腺機能低下症の治療において、レボチロキシン(LT4)単剤療法で症状が残る患者に対して、リオチロニン(LT3)を併用する治療法が研究されています。1999年から2016年の間に実施された併用療法研究では、チロキシン単剤治療後よりもチロキシンとトリヨードチロニンの併用治療後において、認知検査と気分の評価に関する17のスコア中の6スコアが改善あるいは正常近くにまで回復していたと報告されています。
参考)甲状腺機能低下症患者におけるチロキシンとトリヨードチロニンの…

同様に、気分と身体状態を表すのに用いた15の視覚アナログスケールについても、その中の10スケールの検査結果が併用治療後に有意に改善していました。レボチロキシン治療では症状が残っている甲状腺機能低下症患者は、リオチロニン単独療法に切り替えることで症状が改善する可能性も報告されています。ただし、粘液水腫性昏睡ではT4からT3への変換が抑制されることから、併用投与を提唱する意見もあります。
参考)https://x.com/Fizz_DI/status/1956163645584630217

リオチロニン レボチロキシン臨床使い分け基準

医療現場では、通常、血中濃度が安定しやすいレボチロキシンが第一選択薬ですが、この薬が適さない状況ではリオチロニンが用いられます。レボチロキシンは体内に本来あるホルモンとほぼ同じ構造を持つため、大きな副作用は少ないとされています。橋本病による甲状腺機能低下症に対しては、基本的にまず合成T4製剤レボチロキシン(チラーヂンS®)を服用します。
参考)慢性甲状腺炎(橋本病)

リオチロニン(商品名:チロナミン®)は、T4では症状改善が不十分な場合に追加されることがあります。特殊な状況として、甲状腺癌またはバセドウ病で放射性ヨウ素(131I)を用いた甲状腺組織焼灼術が実施される場合、リオチロニンの効果の発現・消退が速いため、粘液水腫性昏睡の患者の治療が奏効するまでの時間や甲状腺癌の患者に131I治療を開始するまでの時間が早くなるという利点があります。甲状腺機能の低下している患者においては、少量から投与を開始し、観察を十分に行い、漸次増量して維持量とすることが望ましいとされています。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/horumon/TR1865-02.pdf

リオチロニン レボチロキシン副作用相互作用注意点

リオチロニンの副作用として、発疹、動悸、脈拍増加、不整脈、振戦(ふるえ)、不眠、頭痛、めまい、発汗、神経過敏・興奮・不安感・躁うつなどの精神症状、食欲不振、嘔吐、下痢、筋肉痛、月経障害、体重減少、脱力感、皮膚の潮紅などが報告されています。重大な副作用として、ショック、狭心症うっ血性心不全、肝機能障害、黄疸、副腎クリーゼがあらわれることがあります。過剰投与のおそれがある場合には、減量、休薬等の適切な処置を行う必要があります。
参考)25mcgチロナミン錠の基本情報(作用・副作用・飲み合わせ・…

レボチロキシンも同様に、過量投与になったり、急に高用量を投与したりすると、動悸や不整脈、不眠などの副作用が現れやすくなります。重要な相互作用として、レボチロキシンによる治療効果の低下により、甲状腺機能低下症の症状などが現れることがあるため、鉄剤やアルミニウム含有製剤との併用を避ける、もしくは、服用時間をずらすことで相互作用を回避する必要があります。クマリン系抗凝血剤、副甲状腺ホルモン剤との併用には注意が必要です。急性期の心筋梗塞患者では、基礎代謝が増加することで心負荷が増大するため禁忌とされています。
参考)https://faq-medical.eisai.jp/faq/show/1465?category_id=73amp;site_domain=faq

リオチロニン レボチロキシン適正投与管理

レボチロキシンナトリウムの投与量は、通常、成人25~400μgを1日1回経口投与します。レボチロキシンは空腹時のほうが吸収率が高く、飲むタイミングが血中濃度の安定に影響するため、医師や薬剤師から空腹時投与をすすめられることが多くあります。具体的には、レボチロキシンは空腹時に服用する必要があり、服用時間を一定に保つ必要があることに注意が必要です。通常は、レボチロキシン25μg、朝食後1回と少量から始め、2~4週間ごとに症状と甲状腺機能を確認しながら、ゆっくりと50、75などと増量していきます。
参考)https://www.m3.com/clinical/news/1279475

リオチロニンの初回服用量は5~25μg/日から始め、毎週12.5~25μgずつ増量し、1日100μgまでは増量しても良いとされています(日本の適正上限量は75μg±適宜増減)。血液検査を毎週実施し、患者の甲状腺機能低下症状が改善するまで用量を増加させるべきです。橋本病による甲状腺機能低下症に対しては、レボチロキシン製剤を内服することで不足したホルモンを補い、症状が改善すると同時に、TSHなどの血中濃度が安定していくのを確認しながら、用量を調整するのが一般的です。高齢者では一般に生理機能が低下しており、本剤を投与すると基礎代謝の亢進による心負荷により、狭心症等を来すおそれがあるため、慎重な投与が必要です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051827.pdf

 

 




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