カテコールアミン製剤の使用において、医療従事者が最も注意すべきは重篤な副作用の早期発見と適切な対応です。主要な副作用として以下が挙げられます。
循環器系の副作用
末梢循環障害
末梢血管の収縮により四肢冷感等の末梢の虚血が起こり、壊疽を生じることもあるため、四肢の色や温度を十分に観察し、変化があらわれた場合には投与を中止し、必要があればα-遮断剤を静脈内投与することが推奨されています。
その他の重要な副作用
これらの副作用を予防するため、血圧、脈拍数及び尿量等、患者の状態を観察しながら投与し、大量投与したとき、脈拍数の増加がみられた場合や尿量の増加がみられない場合には減量または中止を検討する必要があります。
カテコールアミン製剤には複数の禁忌疾患が存在し、これらの患者への投与は生命に関わる重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
絶対禁忌疾患
相対禁忌(慎重投与)
褐色細胞腫患者においては、カテコールアミン過剰による心不全が問題となるため、早期の薬物療法が必要とされています。米国内分泌学会のガイドラインでは、周術期の血管系合併症の予防のため、α遮断薬を第一選択として投与することが推奨されています。
本邦では選択的α1遮断薬であるDoxazosinが使用され、Doxazosin1~2mg/日を1日1~2回投与から開始し、血圧が目標値まで低下するように、2~3日ごとに2~16mgまで適宜漸増する治療法が確立されています。
カテコールアミン製剤の併用は、添付文書上「併用禁忌」とされている場合が多いものの、重症患者の循環動態維持のため、臨床現場では必要に応じて併用が行われています。
カテコールアミン製剤同士の併用
一部のカテコールアミン製剤の添付文書には「他のカテコールアミン製剤と併用禁忌」とされていますが、その根拠は不明瞭です。海外の添付文書では、十分に患者の状態を把握した上で実施することが認められており、我が国の複数のガイドラインにおいても循環動態を維持するために併用は有効であることが記載されています。
主要な併用注意薬剤
メチルエフェドリンとカテコールアミン製剤の併用では、不整脈、場合によっては心停止を起こすおそれがあるため併用を避けることとされています。これは相加的に交感神経刺激作用を増強させるためです。
カテコールアミン製剤を持続投与されている患者は「薬剤に依存して循環動態を保っている」ことが多く、投与が中断した場合には「血圧や心拍数の低下、心停止」などの重篤な循環動態悪化が生じる可能性があります。
投与中断の主な原因
2019年1月から2025年3月までに、シリンジポンプでカテコールアミン製剤を持続投与中、注射器の交換が遅れたために「患者の循環動態に影響」(血圧低下、最悪の場合には心停止など)が出てしまった事例が10件報告されています。
予防策と対応
特に、低酸素血症においては、血清カリウム値の低下が心リズムに及ぼす作用を増強することがあるため、定期的な血清カリウム値の観察が重要です。
褐色細胞腫のようなカテコールアミン過剰分泌疾患では、外因性カテコールアミンの投与は原則禁忌ですが、治療には特殊な薬剤が使用されます。
メチロシンの使用
メチロシンは、カテコールアミンの生合成を抑制することによりカテコールアミン分泌過剰に伴う諸症状や合併症を改善する薬剤です。その作用機序が交感神経受容体遮断薬とは異なるため、褐色細胞腫の治療において重要な選択肢となっています。
メチロシンの副作用
メチロシンは血液脳関門を通過するため、脳内カテコールアミン合成が抑制され、以下の中枢神経症状が副作用として出現する可能性があります。
本邦での臨床治験時の主な副作用はGrade3以下の眠気・傾眠傾向で、16例中13例にみられたことが報告されています。
周術期管理の重要性
術前に循環動態のコントロールがなされないまま手術を行った場合は、カテコールアミンの慢性的な高値に伴う循環血液量の減少および術中出血、腫瘍摘出によるカテコールアミンの低下による低血圧で、術後は循環虚脱に陥り、極めて高い死亡率となることが知られています。
このため、術前7~14日間のα遮断薬投与により血圧と脈拍を正常化させ、循環血液量の低下に伴う腫瘍摘出後の低血圧の予防に、塩分および水分を十分に摂取することが推奨されています。
カテコールアミン分泌過剰状態が持続することで心血管系臓器に障害を生じ、心不全や致死性不整脈などの心血管関連事象のリスクが高まるため、早期診断と適切な治療介入が患者の予後を大きく左右します。
医療従事者は、カテコールアミン製剤の使用において、これらの副作用と禁忌を十分に理解し、患者の安全を最優先とした慎重な管理を心がける必要があります。