排尿障害の種類と症状、原因から治療法まで

排尿障害は蓄尿障害と排出障害に大別され、原因や症状も多様です。過活動膀胱、神経因性膀胱、前立腺肥大症など主な疾患の特徴や、尿失禁の種類、診断方法、行動療法や薬物療法などの治療法について医療従事者向けに詳しく解説します。あなたの臨床に役立つ情報は?

排尿障害の種類

📊 排尿障害の主な分類
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蓄尿障害

膀胱に尿を十分にためることができない状態。頻尿、尿意切迫感、尿失禁などの症状が現れる

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排出障害

溜まった尿を適切に排泄できない状態。排尿困難、尿閉、残尿感などの症状を呈する

排尿後症状

排尿直後に不随意に尿が出る排尿後尿滴下や、排尿後も膀胱内に尿が残っている感覚の残尿感

排尿障害は下部尿路機能障害の総称であり、蓄尿障害と排出障害の2つに大別されます。蓄尿障害は膀胱に尿をためることが困難になる障害で、膀胱排尿筋が過活動となる、尿道括約筋の収縮が弱いなどが原因となります。一方、排出障害は溜まった尿を排泄することが困難になる障害で、膀胱排尿筋の収縮が弱い、尿道括約筋の弛緩が弱い、尿道に異常があるなどが原因です。knowledge.nurse-senka+1
蓄尿障害の代表的な症状には、昼間頻尿(日中に8回以上排尿)、夜間頻尿(夜間睡眠中に1回以上排尿のために起床)、尿意切迫感(突然起きる抑えきれない尿意)、尿失禁などがあります。これらの症状は患者の生活の質を著しく低下させ、社会活動からの撤退を引き起こすことがあります。med.nagasaki-u+2
排出障害では、排尿困難、尿閉、残尿感、排尿後尿滴下などの症状が現れます。排出障害は膀胱収縮障害と尿路通過障害の2つのタイプに分けられ、膀胱がきちんと収縮しないため尿を排出できない状態と、何らかの原因により尿路が狭くなり尿が排出できない状態があります。tyojyu+1
排尿障害の診療では、これらの症状を正確に評価し、原因疾患を特定することが治療方針の決定において極めて重要です。medicalnote

排尿障害における蓄尿障害の特徴

 

 

蓄尿障害は膀胱に尿を十分に貯められない状態を指し、過活動膀胱が代表的な原因疾患です。過活動膀胱は急に起こる我慢できないような強い尿意(尿意切迫感)を主症状とする症候群で、正常な膀胱は脳からの指令によってコントロールされていますが、過活動膀胱では何らかの原因により膀胱がコントロールを失ったような状態となります。kawahara+2
過活動膀胱の原因は神経因性と非神経因性に大別されます。神経因性の原因としては、脳血管障害(脳出血や脳梗塞)、パーキンソン病、脳腫瘍などの脳疾患、脊髄損傷、多発性硬化症、脊椎変性疾患などの脊髄疾患があります。非神経因性の原因としては、男性の前立腺肥大症、女性の骨盤臓器脱、メタボリック症候群に起因する様々な病態が挙げられます。kameda+1
蓄尿障害の病態生理として、膀胱虚血、膀胱出口閉塞、加齢、代謝症候群、心理的ストレス、情動障害、尿路微生物叢、局所および全身性炎症反応などが関与していることが示されています。また、神経原性、筋原性、尿路上皮機構などのメカニズムが蓄尿障害の発生に関与する仮説として知られています。pmc.ncbi.nlm.nih
蓄尿障害の治療においては、これらの多様な原因を考慮した包括的なアプローチが求められます。medicalnote+1

排尿障害における排出障害のメカニズム

排出障害は溜まった尿を適切に排泄できない状態であり、膀胱収縮障害と尿路通過障害の2つの主要なメカニズムに分類されます。膀胱収縮障害は膀胱排尿筋の収縮力が低下または消失した状態で、低活動膀胱(Underactive Bladder: UAB)や排尿筋低活動(Detrusor Underactivity: DU)として知られています。pmc.ncbi.nlm.nih+2
前立腺肥大症は高齢男性における排出障害の最も多い原因です。前立腺は膀胱のすぐ下に位置し尿道を取り囲んでおり、前立腺肥大症になるとこの前立腺が大きくなり尿道を圧迫します。尿道が圧迫されると膀胱から尿を押し出す力が弱まり尿が出にくくなり、さらに前立腺が肥大し続けると尿道が完全に塞がれ尿閉の状態に陥ります。kagu-uro+1
尿閉の原因としては、膀胱出口より外側の前立腺や尿道に尿の流れをさまたげる状況があれば尿閉の原因となりますが、ほとんどの場合の原因は前立腺肥大症です。したがって尿閉が出現するのは原則として男性に多いということになります。長時間の座位、飲酒、時には咳止め薬、感冒薬、精神安定剤、不整脈の薬などが誘因になることがあります。urol
女性においても膀胱頸部狭窄による排出障害が認められることがあり、高齢者における排出障害の原因は多様です。また、直腸がんや子宮がんの手術後には膀胱の働きを調整している神経が障害されて尿閉になる場合があり、このような場合は男性も女性も尿閉になることがあります。med.nagoya-u+1
排出障害の病態解明と適切な治療法の選択には、尿流動態検査などの詳細な検査が不可欠です。mdpi+1

排尿障害における神経因性膀胱の病態

神経因性膀胱は排尿に関わる神経に障害があるために生じる排尿障害で、仙髄より大脳側の障害を上位型(痙性神経因性膀胱)、仙髄以下の障害を下位型(弛緩性神経因性膀胱)に分けられます。一般的に上位型を過活動膀胱、下位型を神経因性膀胱と称することがあります。juntendo-urology+1
上位型の痙性神経因性膀胱では尿が我慢できず過敏な状態(過活動膀胱)となり、症状としては頻尿や尿失禁などがあります(主に蓄尿障害)。一方、下位型の弛緩性神経因性膀胱は膀胱が伸びきった状態になり縮むことができなくなった状態で、排尿困難や尿閉などの症状があげられます。kawahara+1
神経因性膀胱の原因は多岐にわたり、脳卒中は脳の血流が遮断され神経が損傷を受けることで膀胱の制御が困難になり、頻尿や尿失禁、尿閉といった症状を引き起こします。また、脊髄損傷は脊髄の神経経路を直接的に破壊し、膀胱の収縮や弛緩の調整を妨げるため同様の症状が現れます。blossom-clinic
糖尿病による神経障害も重要な原因で、長期間にわたる高血糖状態が神経にダメージを与え、膀胱の収縮力が低下し尿を完全に排出できなくなることがあります。パーキンソン病や多発性硬化症などの神経変性疾患も神経因性膀胱の原因として挙げられ、これらの疾患は進行性であり膀胱の制御を損ないます。blossom-clinic
神経因性膀胱の治療は障害を受ける神経によって症状が様々であるため、個々の患者の病態に応じた治療アプローチが必要です。kawahara+1

排尿障害における尿失禁の種類と鑑別

尿失禁には複数のタイプがあり、腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、混合性尿失禁、機能性尿失禁、溢流性尿失禁などに分類されます。腹圧性尿失禁は、急に立ち上がった時や重い荷物を持ち上げた時、咳やくしゃみをした時など、お腹に力が入った時に尿がもれてしまう状態です。尿道の抵抗が低下しているため、重いものを持ち上げたり、くしゃみや咳などで腹圧が上昇して尿道閉鎖圧を超えてしまうことで起こります。jikei-uro+2
切迫性尿失禁は、急激に尿意の切迫感が生じ、がまんできずに漏れてしまう症状です。蓄尿時に膀胱が勝手に収縮してしまうために起こり、頻尿を伴うことも多く、過活動膀胱の主要な症状の一つです。tokiwa+1
混合性尿失禁は腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の両方の症状がある状態で、女性の尿もれで最も多いタイプとされています。腹圧性尿失禁の症状が強く現れる方もおられれば、切迫性尿失禁の症状が強く現れる方もおられるため、それぞれに応じた治療方法を選択することが重要です。kanemitsu-clinic+1
溢流性尿失禁は、排尿後であっても膀胱内に多量な残尿があり尿が溢れ出て常に少量漏らしてしまう状態です。十分排出できず膀胱内に多量に残った尿がぼとぼととあふれて出てくることが特徴で、男性の重症な前立腺肥大症の場合によくみられます。med.nagasaki-u+2
機能性尿失禁は膀胱などの機能は正常であるにもかかわらず、トイレまでの移動や脱衣までに時間を有することで失禁を起こすものです。これらの尿失禁の種類を正確に鑑別することは、適切な治療法の選択において極めて重要です。tyojyu+2

排尿障害診断における臨床的アプローチ

排尿障害の診断には包括的な評価が必要で、詳細な問診、身体診察、尿検査、超音波検査などの基本的な検査に加え、必要に応じて尿流動態検査などの専門的検査が実施されます。尿流動態検査は排尿機能を客観的に評価する重要な検査で、尿流測定、膀胱内圧測定、尿道内圧測定などが含まれます。kameihospital+2
尿流測定は、検査用のトイレで排尿していただくと検査機器が自動的に尿流のカーブを描く検査で、前立腺肥大症や神経因性膀胱などの診断に用いられます。非侵襲的で痛みがなく短時間で検査を実施できるという利点があります。twmu+1
膀胱内圧測定(シストメトリー)では、カテーテルを使って膀胱に生理食塩水を注入しながら膀胱内の圧力変化を調べます。どの段階で尿意を感じるか、最大容量はどれくらいかなどがわかるため、過活動膀胱や神経因性膀胱などの診断に役立ちます。kobe-kishida-clinic
内圧尿流検査では、圧を検知するカテーテルを膀胱内・直腸内に留置し、排尿時の尿流・膀胱内圧・直腸内圧・排尿筋圧を同時測定します。その結果から下部尿路機能の閉塞の有無・程度、膀胱収縮機能を評価し、排尿までの蓄尿期の膀胱内圧測定も行うため蓄尿機能も同様に検査・評価します。kameihospital
尿道内圧測定は、尿道内の圧力を確認する検査で、カテーテルをゆっくり引き抜きながら尿道の圧力分布を調べます。尿失禁の一因として尿道の締まり具合が足りないケースが考えられるため、この検査で尿道括約筋の機能を客観的に見極めることができます。kobe-kishida-clinic
これらの検査結果を総合的に判断することで、排尿障害の原因を特定し適切な治療方針を決定することが可能になります。kameihospital+1

排尿障害治療における行動療法の実際

排尿障害の治療において行動療法は副作用がほとんどなく、薬物療法などほかの治療法と併用できる有用な治療法です。行動療法には、日常生活での工夫やトレーニングで症状の改善を目指す方法が含まれ、水分摂取量や体重の管理、便秘の予防などの日常生活の見直しのほか、膀胱訓練や骨盤底筋訓練などがあります。nishiharu-clinic+2
過活動膀胱では過度な飲水やカフェインの摂取により症状が悪化するため、それらの摂取を控えることで症状の改善が期待できます。また外出時にはトイレの位置を確認する、早めにトイレに行くなどにより心理的な負担が軽くなり症状が改善することがあります。nishiharu-clinic
膀胱訓練は、尿意を感じた後も排尿を我慢して少しずつ排尿間隔を延長する訓練を行うことで排尿間隔を伸ばすことができる方法です。具体的には排尿計画をたてて、15分~60分単位で排尿間隔を延長する形で訓練を行いますが、予定時間まで我慢できないこともあるためいつでもトイレに行ける環境で行う必要があります。urology-nagoya-u+1
骨盤底筋訓練は、膀胱や尿道の支えを強くするために骨盤底筋という筋肉を自分で鍛える訓練で、腹圧性尿失禁で比較的症状の軽い方に推奨されます。骨盤底筋群のトレーニングで7割くらいの人に効果が出ると言われており、3カ月を目安にきちんと行うと3人中2人には効果がみられます。twmu-amc+1
行動療法は時間的な制約や人員的な問題などで本邦においてはあまり普及していないのが現状ですが、効果面だけでなく安全性も高く有用な治療法であると考えられています。urology-nagoya-u

排尿障害治療における薬物療法の選択

薬物療法は排尿障害治療の根幹をなしており、特に過活動膀胱に対しては抗コリン薬とβ3アドレナリン受容体作動薬(β3作動薬)がその中心的な役割を担っています。過活動膀胱に対する薬物療法の効果は多くの臨床研究で示されていますが、その一方で治療継続率は1年で約30%前後と低く、排尿障害診療における課題の一つとなっています。urology-nagoya-u
抗コリン薬(ベシケア®、ウリトス®など)は膀胱の収縮を抑制する作用があり、過活動膀胱の治療に広く用いられています。β3受容体作動薬(ベタニス®、ベオーバ®)は膀胱の拡張を促す作用があり、これらの薬剤が使用できない場合には漢方薬などを使用する場合もあります。nishiharu-clinic
前立腺肥大症による排出障害に対しては、α1ブロッカーが使用され、尿道を閉める自律神経の命令を受けるα1受容体の働きを抑制することで排尿障害を改善します。神経因性膀胱の弛緩性タイプに対しても、α1ブロッカー、自己導尿、留置カテーテルなどが適応となります。kissei+1
腹圧性尿失禁に対する薬物治療も存在しますが、骨盤底筋訓練などの行動療法が第一選択とされることが多く、薬物療法は補助的な位置づけとなります。薬物療法を選択する際には、患者の症状の種類や重症度、併存疾患、副作用のリスクなどを総合的に評価し、個々の患者に最適な治療法を選択することが重要です。semanticscholar+3
参考として、日本泌尿器科学会や関連学会のガイドラインには排尿障害の薬物療法に関する詳細な情報が掲載されています。

 

日本泌尿器科学会公式サイト
過活動膀胱をはじめとする排尿障害の診療ガイドラインや最新の治療情報が参照できます。

 

排尿障害における骨盤底筋トレーニングの実践

骨盤底筋トレーニングは腹圧性尿失禁の治療において最も推奨される方法で、3カ月を目安にきちんと行うと3人中2人には効果がみられます。腹圧性尿失禁は膀胱を支えている骨盤底筋群の筋肉や尿道括約筋が弱ってしまうことが原因で起こり、骨盤底筋群が弱って尿道がグラグラしたり尿道を閉じる力が弱くなって腹圧が上昇した時に尿もれが起こります。jcas+1
骨盤底筋訓練の基本的な方法として、仰向けに横になり両足を肩幅程度に開いて両膝を軽く立てます。次に、お腹に力を入れずに肛門・腟をしめたり緩めたりする動作を2~3回繰り返します。その際、肛門をしめる感覚は「オナラを我慢する感じ」、腟をしめる感覚は「おしっこを途中で止める感じ」を意識することが重要です。fuyukilc
続いて、肛門・腟をゆっくりしめて3秒間ほど静止し、ゆっくり緩めます。これを2~3回繰り返し、さらに肛門・腟をしめる時間を少しずつ延ばしていきます。1セット5分から始めて、できれば10~20分間行い、朝から夜までの生活の中で骨盤底筋体操5セット行うことを目標にします。fuyukilc
骨盤底筋訓練は腹圧性尿失禁だけでなく、切迫性尿失禁にも効果があります。切迫性尿失禁の人はこの体操をすることで漏れがなおるというわけではありませんが、漏れそうになった時に骨盤底筋をしめるとトイレに行くまでがまんするのに役に立ちます。twmu-amc+1
系統的レビューとメタ分析によると、骨盤底筋トレーニング単独またはバイオフィードバックや電気刺激との併用は、尿失禁の軽減と骨盤底筋収縮の改善に効果的であることが示されています。正しく骨盤底筋トレーニングを毎日続けると、2~3週間で尿もれの予防・改善に効果が期待できます。pmc.ncbi.nlm.nih+2
参考として、国際医療福祉大学が公開している骨盤底筋トレーニングの動画などもあり、患者指導に活用できる資源です。

 

1日3分から始める骨盤底筋トレーニング - 国際医療福祉大学
実際のトレーニング方法を視覚的に理解できる動画資料として患者指導に有用です。

 

 




ねころんで読める排尿障害 下部尿路機能障害のやさしい入門書 高橋悟/著