ダイエット目的で語られがちな「胃切除」ですが、医療としての対象は基本的に「肥満症」であり、合併症リスクと治療必要性が前提になります。自治医科大学の説明では、保険診療による腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の適応として「6か月以上の内科的治療でも十分な効果が得られない」ことに加え、BMIが35以上で糖尿病・高血圧症・脂質異常症・睡眠時無呼吸症候群のうち1つ以上の合併が示されています。さらに同ページでは、BMIが32.5~34.9でもHbA1cが8.4%以上の糖尿病で、追加の合併(高血圧、脂質代謝異常、重症閉塞性睡眠時無呼吸など)を満たす場合が記載されています。これらの条件は「手術ありき」ではなく、内科的治療の限界・合併症管理の困難さ・長期追跡可能性を含めて検討するための枠組みです。
臨床では、適応基準を満たしていても、実際に成功するかどうかは「チームで継続的に支えられるか」に大きく依存します。自治医科大学は術後の減量効果維持に「長期にわたる術後の栄養指導・運動指導が大変重要」と明記しており、外科医・内科医・栄養士などのチームで治療に当たることを述べています。つまり、適応評価の時点で「術後の通院・栄養管理をやり切れる環境」を一緒に確認するのが安全です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/84b7fea85f6d22ba14a6fda311cedfe327804f80
医療従事者向けの説明では、患者が誤解しやすい点(例:「胃を小さくする=自然に痩せ続ける」)を先に正すとインフォームドコンセントが安定します。自治医科大学の記載には、スリーブ状胃切除が「リバウンドしやすい術式」「術後に食道炎になりやすい」などの“問題点”も明確に含まれています。適応説明の段階で、このマイナス面を“情報として公平に”提示できると、術後の期待値調整に効きます。
日本で保険診療の中心となっている術式の一つが腹腔鏡下スリーブ状胃切除術で、胃を袖状に細くして摂取量を減らすことを狙います。国立国際医療研究センター病院の説明では、スリーブ状胃切除は胃をスリーブ状に細くすることで経口摂取量を下げ、肥満症の改善を目指す治療だとされています。つまり、解剖学的変化は「小腸をバイパスする」よりは小さい一方、摂取量制限の影響が強く出ます。
臨床現場での説明は「何が起きるか」を具体化すると伝わりやすく、例えば自治医科大学は残胃容量が100ml程度になることを示しています。容量の変化は、術後の食事形態(流動→半固形→固形)だけでなく、食べ方(少量・ゆっくり・回数分割)を“再学習”する必要性に直結します。ここを曖昧にすると、患者は「食べられない=体調不良」「食べられる=もう制限不要」と短絡しがちです。
また、医療者が押さえるべき点は「スリーブは単なる容量制限ではない」という視点です。関西医科大学の肥満外科の情報では、胃から分泌される食欲増進ホルモンであるグレリンに触れ、切除後に食欲が低下することが多いと説明しています。患者説明では、この“ホルモン要素”を短く添えるだけでも「努力不足」扱いになりやすい心理的摩擦を減らし、行動療法につなげやすくなります。
参考)手術はこんな感じです
術後食事は「退院したら普通食に戻す」ではなく、回復と減量の両方を目的にした段階設計が基本です。成田病院の説明では、術後は原則として術後1カ月間は流動食で、4週間以降に少しずつ固形食を開始し、術後4週間で約600~800kcal/日、1年で1300~1500kcal/日程度の摂取を目指す目安が示されています。医療者はこのような“数字の目安”を共有しておくと、患者の自己流アレンジを早期に検知しやすくなります。
指導の実装で重要なのは、患者が守りやすい「行動ルール」を具体化することです。例えば「ゆっくり食べる」「よく噛む」は抽象的なので、時間(例:1食30分以上)や一口量(例:小さじ程度)など、施設の標準に落とし込むと再現性が上がります(ただし、施設プロトコルに合わせて統一が必要です)。この統一がないと、外来・病棟・栄養指導で言っていることが微妙にずれて患者が混乱します。
参考)栄養管理について(減量手術)|四谷メディカルキューブ
食事段階の中で見落とされやすいのが「水分摂取の設計」です。少量頻回で食べると、飲水のタイミングが食事と競合し、脱水や便秘、倦怠感の原因になります。施設ごとに「食事前後○分は飲まない」「1回の飲水量」などのルールがある場合は、体重変化より優先度が高い指導項目として扱うと安全です。
術後のトラブルは「手術の成功/失敗」ではなく「起こり得る反応」として先に説明しておくと、受診遅れが減ります。自治医科大学はスリーブ状胃切除の問題点として「術後に食道炎になりやすい(逆流性食道炎がある方は逆流症状が強く出やすい)」ことを挙げています。術後の胸やけ・呑酸・咳嗽などを患者が“想定内”として認識しているかで、相談行動が大きく変わります。
「ダンピング症候群」は胃がん手術後の文脈で知られていますが、胃切除後に起こり得る代表的な症候として、症状教育は減量手術でも有用です。日本臨床外科学会の市民向け解説では、ダンピング症候群に早期(食後すぐ)と晩期(2~3時間後)があり、早期は浸透圧の高い食物が急に腸へ運ばれ腸管運動が亢進し、冷や汗やめまいなどが出る仕組みが説明されています。臨床では「甘い飲料」「早食い」「液体と固形の同時摂取」などの行動因子と結び付けて説明し、具体的な回避行動に落とすのがコツです。
参考)13.胃切除後に気をつけたい症状 —退院後に起こる問題と対処…
合併症の説明で“意外と効く”のは、患者が症状を言語化できるようにチェックリスト化することです。例として、めまい・動悸・冷汗・下痢・腹痛・強い眠気(晩期の低血糖様)・胸やけなどを絵文字付きで配布し、「出たら何をしたか(食事内容・速度・量)」も一緒に記録してもらうと、診察室で原因に近づきやすくなります。患者が「食べたもの」だけでなく「食べ方」を書ける設計にすると、行動修正が早まります。
スリーブ状胃切除はバイパス術より吸収障害が少ないと説明されがちですが、栄養欠乏リスクがゼロになるわけではありません。日本臨床外科学会の解説では、胃切除後に鉄分やビタミンB12の吸収力低下が貧血の原因になり得ること、対処として鉄剤やビタミンB12投与(胃全摘では年2回程度のB12注射がすすめられる)などが説明されています。減量手術の文脈でも「症状が出てから」ではなく「検査で拾って先に補う」設計が安全です。
また、骨代謝の問題は患者説明で抜けやすい一方、長期ではQOLに効いてきます。日本臨床外科学会の解説は、胃切除後にカルシウム吸収が悪くなること、さらにカルシウム沈着に必要なビタミンDが脂溶性で吸収されにくくなることが一因と述べています。若年~中年の患者でも、体重減少が進む時期に「運動+蛋白+Ca/VitD」の話をセットで入れると、筋骨格のトラブル予防につながります。
独自視点として強調したいのは、「栄養欠乏は“指導の上手さ”だけでは防ぎ切れない」点です。国立国際医療研究センター病院は、糖尿病を持つ患者では手術リスクが高く、多職種(内科・外科・麻酔科・精神科・リハ・看護師・管理栄養士・心理士・社会福祉士など)で総合的に支える重要性を示しています。つまり、栄養指導を個人のスキル勝負にせず、検査プロトコル(採血項目と頻度)・サプリ/補充方針・受診導線まで含めて“仕組み化”することが、結果として最も再現性の高い安全対策です。
参考:保険適応(BMI条件、合併症、内科治療期間)と術式の特徴(残胃容量、問題点、リバウンド、逆流性食道炎)
https://www.jichi.ac.jp/usr/surg/patient/bariatric_surgery/
参考:腹腔鏡下スリーブ状胃切除の概要(胃をスリーブ状にして摂取量を下げる、糖尿病を含む肥満症治療、チーム医療)
https://www.hosp.ncgm.go.jp/s022/120/index_8.html
参考:胃切除後症候群の代表症状(ダンピング症候群の機序、貧血の原因と対処、骨代謝異常の背景)
13.胃切除後に気をつけたい症状 —退院後に起こる問題と対処…

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