脂質代謝異常と症状の関連性

脂質代謝異常は多くの場合無症状ですが、放置すると心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な合併症を引き起こします。早期発見のための検査基準値や黄色腫などの身体所見、治療法について医療従事者が知っておくべき重要な情報をまとめました。あなたの患者さんは適切な管理を受けていますか?

脂質代謝異常と症状

脂質代謝異常の主な特徴
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無症状での進行

大半の患者は自覚症状がなく、健康診断で発見されることが多い

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動脈硬化のリスク

長期間の放置により心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な合併症を引き起こす

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早期介入の重要性

早期発見・治療により生命予後の改善が期待できる

脂質代謝異常における無症状性の臨床的意義

 

 

脂質代謝異常症の患者さんの大半は症状が全くありません。この無症状性が、脂質代謝異常症を「サイレントキラー」とも呼ばれる所以であり、患者さんが医療機関を受診せずに放置する最大の原因となっています。血液中のLDLコレステロールや中性脂肪が高値を示していても、自覚症状がないまま静かに進行し、気づいたときには動脈硬化が進んでいるというケースも珍しくありません。kompas.hosp.keio+2
脂質代謝異常症は、それだけでは全く自覚症状がありませんが、長い時間をかけて体内の血管にダメージを与えます。このダメージは蓄積され、動脈が硬くなったり、血管壁にコレステロールが沈着したりすることで、血管の内腔が狭窄し血液の流れが悪くなります。そのため、定期的な受診と検査が極めて重要となるのです。kouritu-cch
医療従事者として注目すべき点は、脂質異常症には「症状がないから大丈夫」ではなく、「症状がないからこそ注意が必要」という認識を患者さんに持ってもらうことです。健康診断で異常を指摘された段階で、早めに医療機関を受診するよう促す必要があります。tani-clinic

脂質代謝異常における身体所見と黄色腫の臨床的特徴

家族性高コレステロール血症の場合には、しばしば手足の腱や皮膚にコレステロールの成分が溜まることによって、腱の一部が大きくはれたり、皮膚に結節という「しこり」ができたりします。また黒目のふちにそってコレステロールの白い色素の沈着がみられることもあります。これらの身体所見は、一般人の数倍程度にLDLコレステロールが高くなっていることが原因です。kompas.hosp.keio
黄色腫は、脂質を多量に取り込んだ泡沫細胞が真皮内に浸潤したものであり、黄色を帯びた斑、丘疹、結節として認められます。機械的刺激を受ける部位に生じやすく、皮膚では肘関節、膝関節の伸側、手首、臀部などに多く見られます。また、アキレス腱の肥厚も重要な診断の手がかりとなります。kango-roo+2
脂質代謝異常における黄色腫の発症機序として、血中のLDLコレステロールやトリグリセリドの上昇が、皮膚組織における脂質の蓄積を促進することで、黄色腫の形成に直接的に関与していることが明らかになっています。家族性高コレステロール血症ホモ接合体では、10歳までに肘や膝などの皮膚に黄色腫と呼ばれる黄色いいぼ状の塊が見られることが多く、成長とともに大きく盛り上がった黄色腫に発展します。oogaki+1

脂質代謝異常における動脈硬化性合併症の症状と臨床経過

脂質代謝異常症の合併症として、特に重要なのが大血管合併症であり、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症といったものが一般的です。狭心症や心筋梗塞では胸の圧迫感や胸の痛みが特徴的であり、脳梗塞では手、足の麻痺やろれつが回らない、場合によっては意識がなくなるといった脳の働きの障害が症状として現れることがあります。kompas.hosp.keio
血液中にコレステロールなどの脂質が多い状態が続くと、血管壁に余分な脂が沈着し、プラークと呼ばれる塊が作られます。このプラークが形成されることで起こる動脈硬化を粥状動脈硬化(アテローム動脈硬化)といい、脂質異常症を放置してしまうと、心筋梗塞や脳梗塞など動脈硬化性の病気を発症するおそれがあります。ncvc+1
家族性高コレステロール血症の場合は、健康な人よりも15~20年早く動脈硬化が進むと考えられており、できるだけ若いうちに診断を受けて治療を始めることが重要です。ヘテロ接合体でも未治療では男性では30~50歳、女性では50~70歳程度で心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患を発症することが多く、早期発見・早期治療が生命予後の改善に極めて重要です。midtown-meieki+1
脂質異常症と動脈硬化の関連メカニズムについて詳しい解説(新百合ヶ丘総合病院)

脂質代謝異常における中性脂肪高値と膵炎リスク

中性脂肪の高い患者さんの中には、膵炎を突然起こしてしまうことがあり、その場合は激しい腹痛や吐き気、下痢などがみられることがあります。特に中性脂肪が500mg/dL以上になると、急性膵炎を発症するリスクが急激に高まり、中性脂肪が1000mg/dL以上の非常に高い場合、膵炎発症のリスクは約8%、2000mg/dL以上に上昇すると、そのリスクは約10~20%に増加するとされています。tanno-naika+2
高濃度の中性脂肪が膵臓の酵素で分解されて生じた大量の遊離脂肪酸が、膵臓の毛細血管や細胞を障害して膵炎を起こします。膵炎とは、膵液と呼ばれる分泌液に含まれる消化酵素により、膵臓自体が消化されてしまうことで起こる膵臓の炎症のことであり、急性膵炎は他の臓器にも影響を及ぼすことがあり、重症化することもあります。hidamari-naika
膵臓の炎症が繰り返して起こると「慢性膵炎」となり、徐々に膵臓が弱まっていくことで消化不良を起こし、糖尿病を発症しやすくもなっていきます。急性膵炎の最大の危険因子は習慣的な大量飲酒であり、男性の急性膵炎の主要原因です。脂質異常症や膵炎を予防するためには、アルコール摂取の量と頻度を見直すことが非常に重要です。okino-clinic+1
中性脂肪が1000mg/dL以上の場合は、急性膵炎のリスクがあることを患者さんに説明し、薬物による治療介入を速やかに行う必要があります。miyatake-clinic

脂質代謝異常の診断基準値と検査所見の解釈

日本動脈硬化学会による脂質異常症の診断基準では、空腹時採血による数値として、高LDLコレステロール血症がLDLコレステロール値140mg/dL以上、境界域高LDLコレステロール血症が120~139mg/dL、低HDLコレステロール血症がHDLコレステロール値40mg/dL未満、高トリグリセライド(中性脂肪)血症がトリグリセライド値150mg/dL以上と定められています。healthcare.omron
これらのうち一項目でも基準を超えると脂質異常症の可能性があり、複数項目に異常がある場合は、より高いリスクが懸念されます。特にLDLコレステロールが160mg/dL以上、中性脂肪が400mg/dL以上、HDLコレステロールが30mg/dL未満のときは、医療機関での精密検査が必要です。fuelcells
Non-HDLコレステロールは、総コレステロールからHDLを引いた値で、動脈硬化の原因となる全ての「悪玉コレステロール」を含む指標です。特に、中性脂肪が高い人やLDLが正常でもリスクがあると考えられる場合には、non-HDLコレステロールの値が重要な意味を持ちます。基準値は90~149mg/dLであり、170mg/dL以上が高Non-HDLコレステロール血症と診断されます。maeda+1
随時採血の場合は、高トリグリセライド(中性脂肪)血症の診断基準が175mg/dL以上となり、治療目標値も空腹時のTGでは150mg/dL未満を、随時のTGでは175mg/dL未満を目指します。空腹時TGが基準値未満でも、随時では高TG血症になる人もいるため、注意が必要です。j-athero+1
日本動脈硬化学会による脂質異常症診療のQ&A(診断基準の詳細な解説)

脂質代謝異常における家族性高コレステロール血症の鑑別診断

家族性高コレステロール血症(FH)は、高LDLコレステロール血症、早発性冠動脈疾患、腱・皮膚結節性黄色腫を3徴とし、LDL受容体やその関連遺伝子の異常によって発症する常染色体優性遺伝子疾患です。日本では約30万人(約500名に1人)の患者が推定されており、プライマリ・ケアの現場で比較的遭遇する機会が多い疾患です。wikipedia
FHヘテロ接合体の診断基準として、未治療時のLDLコレステロール値が180mg/dL以上であること、腱黄色腫(手背、肘、膝、アキレス腱などの肥厚)あるいは結節性黄色腫のいずれかを認めること、第一度近親者にFHまたは早発性冠動脈疾患の既往があることが重要な指標となります。nakano-dm
家族性高コレステロール血症ホモ接合体は総コレステロール600mg/dL超と著明高値を示し、小児期から黄色腫や動脈硬化疾患を認めることから診断は容易です。一方、ヘテロ接合体は比較的軽症であるため、診断が遅れることが多く、診断率はわずか1%未満とされており、医療従事者による積極的なスクリーニングが求められます。nakano-dm+1
遺伝性の脂質代謝異常症では、若年期から高脂血症を呈することが多く、早期からの黄色腫形成がみられることから、家族歴の詳細な聴取が診断において重要です。LDL受容体遺伝子の変異、アポリポ蛋白E遺伝子の多型、PCSK9遺伝子の機能獲得変異などが関与しており、遺伝子検査による確定診断も可能です。oogaki

脂質代謝異常の治療における食事療法と運動療法の実践

脂質異常症の治療は、伝統的な日本食を基本とした食事療法と、毎日30分以上の中等度強度有酸素運動を継続する運動療法を中心とした「生活習慣の改善」が基本となります。個々の患者さんごとに動脈硬化性疾患予防のためのリスク評価を行い、脂質の管理目標を設定し、生活習慣の改善で脂質管理が不十分な場合には薬物療法を考慮していきます。maeda
運動療法について、脂質異常症の改善には、中等度の強度の有酸素運動を毎日30分以上継続することがよいとされています。ウォーキング、体操、水泳、サイクリングなどの有酸素運動を、1日合計30分以上行うことが推奨されており、1日で30分以上であれば、10分の有酸素運動を1日2回に分けて行っても20分の運動と同じ効果が得られます。tyojyu+2
運動の強度は、心拍数110~120/分程度を目安に、「少しきついけれど頑張れる」と感じる程度を心がけることが重要です。通勤や買い物など、日常生活の中でこまめに体を動かすことも大切であり、運動不足により体力や全身持久力が低いと身体活動量も減少し、動脈硬化が進みやすくなります。nakamura-cl+1
食事療法については、脂質異常症の改善には運動療法だけでなく、食塩摂取量やアルコール摂取量の制限、禁煙などとの併用療法がより効果的といえます。脂質異常症をきたす原疾患として、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、慢性腎臓病、原発性胆汁性胆管炎、閉塞性黄疸、糖尿病、肥満、クッシング症候群、褐色細胞腫等があり、原疾患がある場合には、原疾患の治療も並行して行う必要があります。kennet.mhlw+1
健康長寿ネットによる脂質異常症を改善する運動療法の詳細(具体的な運動メニューと実践方法)

脂質代謝異常における早期介入の臨床的重要性と予後改善

脂質異常症は無症状のことが多く、健康診断等で指摘されることがほとんどですが、自覚症状がないために医療機関を受診せずに放置する方が多いのが現状です。しかし、放置していると動脈硬化を進行させ、心臓の血管が細くなったり詰まったりする「狭心症・心筋梗塞」、脳内の血管に起これば脳梗塞という命にかかわる深刻な病気の原因となります。shokaki-hinyouki+2
高LDLコレステロール血症は狭心症や心筋梗塞を引き起こす恐ろしい病気ですが、早期に適切な治療を行うことで動脈硬化の進行を防ぎ心筋梗塞を予防することができます。糖尿病や高血圧を合併している方、喫煙習慣のある方、遺伝的に動脈硬化が進行しやすい方などは、すぐに薬物療法を導入することがあります。j-circ-assoc+1
医療従事者として重要なのは、健康診断で脂質異常を指摘された方、リスクが高い方に対して、定期的な検査と、必要に応じた治療を受けるよう積極的に働きかけることです。既に脂質異常症の診断・治療を受けていた方に対しても、治療継続の重要性を説明し、服薬アドヒアランスの向上を図ることが求められます。nakamura-cl
家族性高コレステロール血症においては、若年から動脈硬化が進行するため、早期診断・早期治療が生命予後の改善に極めて重要です。診断率が極めて低い現状を改善するために、家族歴の聴取、身体所見の確認、積極的な遺伝子検査の実施など、医療従事者による系統的なスクリーニングが必要です。wikipedia+1
適度な運動は、中性脂肪値を下げ、HDLコレステロール(善玉コレステロール)値を上げる効果が期待でき、血圧や血糖値の改善にも有効です。持久力が低下すると、動脈硬化のリスクが高まるといわれており、運動は食事療法と組み合わせることで、より効果的に減量することができます。nakamura-cl
慶應義塾大学病院KOMPASによる脂質代謝異常症の解説(症状から治療まで包括的な情報)

 

 




Coronary Intervention Vol.17No.5(2021) 特集インタベ医に知って欲しい新たな冠動脈病変惹起性脂質代謝異常 中性脂肪蓄積心筋血管症〈TGCV〉