デファイテリオ静注:肝類洞閉塞症候群治療の新選択肢

造血幹細胞移植後の重篤な合併症である肝類洞閉塞症候群に対する国内初の治療薬デファイテリオ静注について、その作用機序、適応、用法用量、副作用プロファイルを詳しく解説。医療現場での適切な使用法とは?

デファイテリオによる肝類洞閉塞症候群治療

デファイテリオ静注の概要
💊
国内初のSOS治療薬

肝類洞閉塞症候群に対する日本初の承認薬として2019年9月発売開始

🧬
ブタ腸粘膜由来DNA

デフィブロチドナトリウムを有効成分とする血管内皮保護作用を持つ注射剤

🏥
希少疾病用医薬品指定

造血幹細胞移植後の重篤な合併症治療に特化した専門薬

デファイテリオの基本情報と独特な作用機序

デファイテリオ静注200mg(一般名:デフィブロチドナトリウム)は、日本新薬が開発した肝類洞閉塞症候群(SOS:Sinusoidal Obstruction Syndrome)治療薬として、2019年9月4日に国内で販売開始された画期的な医薬品です。本剤の最も興味深い特徴は、その起源がブタ腸粘膜から単離したDNAを脱重合したポリデオキシリボヌクレオチドナトリウムである点です。

 

作用機序については完全には解明されていませんが、血管内皮細胞の保護作用と凝固・線溶系のバランス正常化が主要なメカニズムと考えられています。分子量は13,000〜20,000と比較的小さく、微黄白色から褐色の粉末として調製されています。

 

デファイテリオの開発は1960年代後半から基礎研究が開始され、1980年代初期に血栓症の治療薬として研究が進められました。しかし、その後の研究で肝類洞閉塞症候群への効果が注目され、厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」を経て開発要請が行われた経緯があります。

 

この薬剤の特異性は、従来の化学合成医薬品とは異なり、生物学的起源を持つ天然由来成分を主成分としている点にあります。DNA由来でありながら、直接的な遺伝子治療薬ではなく、血管内皮保護という物理化学的な作用を発揮する点が非常にユニークです。

 

デファイテリオの適応症と造血幹細胞移植における位置づけ

デファイテリオの適応症は「肝類洞閉塞症候群(肝中心静脈閉塞症)」です。この疾患は造血幹細胞移植(HSCT:Hematopoietic Stem Cell Transplantation)後に発症する重篤な合併症の一つで、移植前に行われる大量化学療法、全身放射線照射、免疫抑制剤などが原因となります。

 

SOSの病態生理は、肝臓の類洞(洞様毛細血管)における血栓形成から始まります。これらの血栓が肝細胞の破壊を引き起こし、最終的に肝不全に至る可能性のある深刻な状態です。従来、この疾患に対する確立された治療法は存在せず、支持療法が主体でした。

 

造血幹細胞移植は、血液がんや免疫不全症などの根治を目指す重要な治療法ですが、移植関連合併症のリスクが常に伴います。SOSはその中でも特に予後に影響する合併症として知られており、重症例では死亡率が高いことが報告されています。

 

デファイテリオの登場により、これまで対症療法に留まっていたSOS治療において、初めて病態に直接作用する治療選択肢が提供されました。海外の診療ガイドラインでは既に標準的治療法として推奨されており、日本でも治療方法の改善が期待されています。

 

臨床試験では、HSCT後の重症SOS患者を対象とした海外第III相試験(2005-01試験)や、国内第II相試験(FMU-DF-002試験)が実施され、移植後100日生存率の改善が確認されています。

 

デファイテリオの用法用量と実際の投与方法

デファイテリオの用法用量は、「通常、デフィブロチドナトリウムとして1回6.25mg/kgを1日4回、2時間かけて静脈内投与する」と設定されています。この投与法は、薬物の血中濃度を適切に維持し、効果を最大化するために綿密に設計されています。

 

投与方法の特徴として、以下の点が重要です。

  • 分割投与:1日4回の分割投与により、血中濃度の安定した維持が可能
  • 緩徐投与:2時間かけた点滴投与により、急激な血管反応を回避
  • 体重あたり投与量:患者の体重に応じた個別化投与により、適切な薬物暴露量を確保

薬物動態データによると、健康成人における単回投与試験では、最高血中濃度(Cmax)が20.59±4.11 μg/mL、血中濃度半減期(t1/2)が0.47±0.10時間と比較的短いことが示されています。また、小児患者では成人と比較してより高いCmax(26.00±7.29 μg/mL)と長い半減期(1.12±0.65時間)を示すため、年齢に応じた慎重な投与が必要です。

 

実際の投与に際しては、中心静脈ラインを使用することが一般的で、末梢静脈投与は血管刺激性の観点から推奨されません。また、投与期間中は出血リスクの増大に注意が必要であり、血液凝固能検査の定期的なモニタリングが必須です。

 

新医薬品の投薬日数制限は設けられておらず、患者の状態に応じて継続投与が可能ですが、効果と安全性のバランスを慎重に評価する必要があります。

 

デファイテリオの副作用プロファイルと安全性管理

デファイテリオの副作用プロファイルは、その抗凝固作用に関連した出血リスクが主要な懸念事項となります。臨床試験および市販後調査から報告されている主な副作用を、頻度別に整理すると以下のようになります。

 

高頻度(1%以上)の副作用

  • 鼻出血(8.3%):最も頻度の高い副作用
  • 処置後出血(5.0%):手術部位や処置部位からの出血
  • 悪心、嘔吐、下痢:消化器症状
  • 潮紅:循環器症状
  • 凝血異常:凝固パラメータの変化

重要な副作用(頻度不明を含む)

  • 播種性血管内凝固(DIC)
  • 急性腎障害
  • 呼吸不全、血胸
  • 肝不全
  • 多臓器不全

安全性管理において特に重要なのは、血液凝固阻止作用を有する他の薬剤との相互作用です。以下の薬剤との併用時には出血傾向が増大するため、厳重な監視が必要です。

  • 未分画ヘパリン製剤、低分子量ヘパリン製剤
  • ワルファリンカリウム
  • 直接トロンビン阻害剤(ダビガトラン等)
  • 第Xa因子直接阻害剤(リバーロキサバン、アピキサバン等)
  • 抗血小板剤(アスピリン、クロピドグレル等)

臨床現場では、出血時間、プロトロンビン時間、APTT等の凝固系検査を頻回に実施し、異常が認められた場合には投与中断も検討する必要があります。ただし、中心静脈ラインの維持のための抗凝固療法は例外とされています。

 

また、SOSの基礎疾患である血液がんや移植関連合併症との鑑別診断も重要で、副作用なのか原疾患の進行なのかを慎重に判断する必要があります。

 

デファイテリオの薬価設定と医療経済への影響分析

デファイテリオ静注200mgの薬価は、収載時(2019年9月)に53,108円、その後54,091円に改定されており、希少疾病用医薬品として高額な設定となっています。この薬価は原価計算方式により算定され、以下の加算が適用されています。
適用された加算

  • 有用性加算(II)(A=10%)
  • 市場性加算(I)(A=10%)
  • 新薬創出等加算(希少疾病用医薬品)

有用性加算の根拠として、日本において肝類洞閉塞症候群の治療薬として承認された薬剤が他になく、海外診療ガイドラインで標準治療として推奨されていることが評価されました。市場性加算については、希少疾病用医薬品指定を受けており症例数が限られることが考慮されています。

 

日本新薬は、デファイテリオのピーク時売上高を約24億円と予想しています。この予測は、造血幹細胞移植実施数とSOS発症率、薬剤使用率などを基に算出されたものと考えられます。

 

医療経済的な観点から見ると、デファイテリオの導入により以下の影響が予想されます。
直接的な医療費への影響

  • 薬剤費の増加(1症例あたり数十万円から数百万円規模)
  • 入院期間短縮による医療費削減効果
  • 集中治療室での管理期間短縮

間接的な経済効果

  • 患者の社会復帰率向上による社会保障費削減
  • 介護負担軽減による家族の経済的負担軽減
  • 移植医療の成功率向上による長期的な医療費適正化

希少疾病用医薬品の特性上、薬価は高額ですが、重篤な疾患に対する唯一の治療選択肢として、費用対効果の観点からも妥当性があると考えられています。今後の使用実績蓄積により、より詳細な医療経済評価が期待されます。

 

日本新薬の製品情報ページでは、最新の臨床成績や使用上の注意点を確認できます。

 

https://med.nippon-shinyaku.co.jp/product/defitelio/
PMDAの審査報告書では、デファイテリオの詳細な薬理作用と安全性データが公開されています。

 

https://www.pmda.go.jp/drugs/2019/P20190703002/530263000_30100AMX00006_B100_2.pdf