骨軟化症患者において最も注意が必要な禁忌薬は、腎機能に影響を与える薬剤です。特に重度の腎機能障害患者や末期腎不全患者では、ブロスマブ(クリースビータ)などのFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症治療薬の使用が禁忌とされています。
ブロスマブは血清リン濃度の上昇作用を有するため、持続的に高リン血症を認めた場合、以下のような重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
腎機能が低下している患者では、リンの排泄能力が著しく低下しているため、血清リン濃度の上昇により上記のような臓器石灰化が発現しやすくなります。このため、腎機能の評価は骨軟化症治療前の必須検査項目となっています。
また、含糖酸化鉄やポリマルトース鉄の投与に伴うFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症に対しては、ブロスマブの投与を行わず、FGF23過剰の原因となる各薬剤の投与中止を優先的に検討することが重要です。
骨軟化症の治療に使用される薬剤には、それぞれ特有の禁忌事項が存在します。ビスホスホネート製剤については、長期使用により顎骨壊死のリスクが増加することが知られています。
ビスホスホネート製剤の主な禁忌事項。
特に注意すべきは、ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体薬の長期使用による顎骨壊死です。これらの薬剤は骨吸収を抑制し、骨からカルシウムの流出を抑えることで治療効果を発揮しますが、歯や歯茎の組織も同様にカルシウムを原料としているため、新しい歯や歯茎の形成が困難になります。
抜歯処置後の治癒遅延により細菌感染が生じ、炎症が顎に波及することで顎骨壊死を引き起こす可能性があります。このため、これらの薬剤使用中は歯科治療、特に抜歯処置について事前の十分な検討が必要です。
活性型ビタミンD製剤においても、高カルシウム血症の患者には禁忌となります。胃腸障害、腹部膨満感、便秘、胸やけ、頭痛などの副作用が報告されており、もともと高Ca血症を有する患者への投与は避けるべきです。
透析を受けている骨軟化症患者では、一般社団法人日本腎臓病薬物療法学会が示す80種類以上の禁忌薬への注意が必要です。透析患者における禁忌薬は以下のように分類されます。
薬の血中濃度が上昇するリスクがある薬剤:
腎障害を悪化させるおそれがある薬剤:
副作用が強く現れるリスクがある薬剤:
透析患者では、腎臓からの薬物排泄機能が著しく低下しているため、通常量の投与でも血中濃度が異常に上昇し、重篤な副作用を引き起こす可能性があります。
ビタミンD関連薬剤は骨軟化症治療の基本となりますが、適切な監視下での使用が不可欠です。ビタミンD欠乏性骨軟化症では、ビタミンD製剤、リン製剤、カルシウム製剤の投与が行われますが、以下の点に注意が必要です。
ビタミンD製剤使用時の監視項目:
特に活性型ビタミンD製剤では、高カルシウム血症や高カルシウム尿症のリスクが高くなります。これらの状態は腎結石形成や腎機能悪化を引き起こす可能性があるため、定期的な血液・尿検査による監視が重要です。
また、ビタミンD抵抗性や依存性の症例では、通常の天然型ビタミンDは無効であり、活性型ビタミンDの投与が必要となります。しかし、活性型ビタミンDは作用が強力であるため、より慎重な用量調整と監視が求められます。
アデホビルピボキシルなどの抗ウイルス剤では、ファンコニー症候群を含む腎尿細管障害による低リン血症から骨軟化症が発現することが報告されています。このような薬剤性骨軟化症では、原因薬剤の中止と適切なリン補充療法が必要となります。
骨軟化症患者が市販薬を使用する際には、特に注意が必要な成分があります。これらの成分は一般的に使用される市販薬に含まれているため、患者への適切な指導が重要です。
胃腸薬・便秘薬に含まれる危険成分:
アルミニウム含有薬剤。
アルミニウムの体内蓄積により以下のリスクが生じます。
マグネシウム含有薬剤。
マグネシウム蓄積による高マグネシウム血症では。
解熱鎮痛剤(NSAID)の注意点:
以下のNSAIDは腎障害悪化や消化管出血のリスクがあります。
これらの成分は総合風邪薬にも含まれているため、患者には風邪薬選択時の注意喚起が必要です。
漢方薬に含まれる注意成分:
甘草は咳止めシロップにも含まれているため、幅広い市販薬での注意が必要です。
骨軟化症患者では、腎機能の状態や合併症の程度によって使用可能な市販薬が大きく異なります。患者には必ず主治医への相談を促し、自己判断での市販薬使用を避けるよう指導することが重要です。また、薬剤師との連携により、適切な代替薬の提案や使用方法の指導を行うことで、患者の安全性を確保できます。