高マグネシウム血症 症状と原因 診断 治療 腎機能との関連

高マグネシウム血症は腎機能低下や酸化マグネシウム製剤の服用で発生する重篤な電解質異常です。初期症状から心停止に至る症状、診断基準、治療法を詳しく解説します。あなたの患者に高マグネシウム血症のリスクはありませんか?

高マグネシウム血症の症状と診断

高マグネシウム血症の重要ポイント
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診断基準

血清マグネシウム濃度2.6mg/dL以上で診断。重症度に応じた迅速な対応が必要

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高リスク患者

腎機能低下患者、高齢者、酸化マグネシウム製剤長期服用者は特に注意

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治療方針

軽症は補液と利尿薬、重症例では緊急血液透析を検討

高マグネシウム血症の初期症状と臨床所見

 

高マグネシウム血症の初期症状として、悪心・嘔吐、頭痛、起立性低血圧徐脈、皮膚潮紅、筋力低下、傾眠、全身倦怠感、無気力、腱反射の減弱などが認められます。これらの症状は非特異的であるため、見逃されやすく、早期発見が困難な場合があります。血清マグネシウム値が5mg/dlを超えると、嘔吐や筋脱力、傾眠、徐脈、低血圧などの明確な症状が出現します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4717802/

深部腱反射の低下は高マグネシウム血症の重要な指標となり、血清マグネシウム濃度が上昇するにつれて反射は消失していきます。神経筋接合部におけるマグネシウムの影響により、筋緊張の低下や呼吸抑制が起こり、重篤な場合は呼吸筋麻痺に至ることがあります。臨床現場では、便秘症患者で酸化マグネシウム製剤を服用している場合、これらの症状の出現に特に注意を払う必要があります。
参考)便秘ガイドライン〈医師・医療従事者〉〈酸化マグネシウム製剤服…

意識レベルの変化も重要な臨床所見であり、血清マグネシウム値の上昇に伴い、傾眠から意識混濁、昏睡へと進行します。高齢者では、これらの症状が加齢による変化と混同されやすいため、酸化マグネシウム製剤の服用歴を確認し、血清マグネシウム値の測定を積極的に行うことが推奨されます。
参考)【高マグネシウム血症】原因・症状・治療ポイント

高マグネシウム血症の重症度別症状と心電図変化

血清マグネシウム濃度によって症状の重症度は明確に分類されます。血清マグネシウム濃度が6.1~12.2mg/dLになると、PR間隔の延長、QT間隔の延長、QRS幅の増大、T波の増高など、高カリウム血症と類似した特徴的な心電図変化が認められます。これらの心電図変化は、マグネシウムがカルシウムチャネル拮抗薬として作用することにより、洞結節の脱分極に影響を与えるためです。
参考)高マグネシウム血症 - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 - …

血清マグネシウム値が9.7mg/dl以上になると、腱反射消失、随意筋麻痺、嚥下障害、房室ブロック、低血圧などが出現します。この段階では循環器系への影響が顕著になり、緊急対応が必要となります。さらに重症化し、血清マグネシウム濃度が12mg/dl以上、特に15mg/dL(6.0~7.5mmol/L)を上回ると、意識消失、呼吸筋麻痺、血圧低下、心停止などの生命を脅かす症状が発現します。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000235889.pdf

心電図上のPR間隔延長は高マグネシウム血症の特徴的所見であり、診断の重要な手がかりとなります。マグネシウム濃度が12mg/dL(10mEq/L)を超える場合、洞房ブロックおよび房室ブロック、心室性不整脈を引き起こす可能性があり、致死的な不整脈への進展に注意が必要です。
参考)http://www.yamauchi-iin.com/kaisetu/1550.htm

高マグネシウム血症の診断基準と検査値の解釈

高マグネシウム血症の診断は、血清マグネシウム濃度が2.6mg/dL(1.05mmol/L)を上回ったことで確定します。正常な血清マグネシウム濃度は1.4~2.6mg/dLの範囲であり、この基準値を超えた場合には高マグネシウム血症と診断されます。血清マグネシウム濃度3mg/dl以上で診断が確定し、特に腎機能低下患者やマグネシウム含有製剤を服用している患者に発症します。
参考)マグネシウム(Mg) 血清|臨床検査項目の検索結果|臨床検査…

血清マグネシウム測定はキシリジルブルー法により実施され、通常1~2日で結果が得られます。しかし、症状が急速に進行する可能性があるため、臨床症状と既往歴から高マグネシウム血症を疑った場合は、検査結果を待たずに治療を開始することも重要です。血清クレアチニン値や推定糸球体濾過率(eGFR)の同時測定により、腎機能の評価も併せて行うべきです。
参考)腎移植Qhref="https://ishimura.clinic/%E8%85%8E%E7%A7%BB%E6%A4%8Dqa%EF%BD%9C%E8%85%8E%E6%A9%9F%E8%83%BD%E3%81%8C%E6%82%AA%E3%81%84%E4%BA%BA%E3%81%AF%E4%B8%8B%E5%89%A4%EF%BC%88%E9%85%B8%E5%8C%96%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%8D%E3%82%B7" target="_blank">https://ishimura.clinic/%E8%85%8E%E7%A7%BB%E6%A4%8Dqa%EF%BD%9C%E8%85%8E%E6%A9%9F%E8%83%BD%E3%81%8C%E6%82%AA%E3%81%84%E4%BA%BA%E3%81%AF%E4%B8%8B%E5%89%A4%EF%BC%88%E9%85%B8%E5%8C%96%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%8D%E3%82%B7amp;A|腎不全と酸化マグネシウム|神戸市東灘区の「いし…

検査の解釈においては、血清マグネシウム値の絶対値だけでなく、患者の腎機能、年齢、併用薬、臨床症状を総合的に判断することが求められます。特に高齢者では生理的な腎機能低下により、比較的低い血清マグネシウム値でも症状が出現することがあるため注意が必要です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000185078.pdf

高マグネシウム血症の原因と酸化マグネシウム製剤のリスク

高マグネシウム血症の最も多い原因は、腎機能障害による腎排泄の低下と大量のマグネシウム摂取の組み合わせです。健康な腎臓は1日約2g程度のマグネシウム排泄能力がありますが、腎機能低下、加齢、脱水、甲状腺機能低下などで排泄能力が低下すると、血中マグネシウム濃度が上昇します。特にGFR 30ml/分以下の腎不全患者では高マグネシウム血症を発症しやすく、eGFRが30ml/min以下の場合(CKD stage4以上)は注意が必要です。​
酸化マグネシウム製剤は日本で古くから便秘症の第一選択薬として広く使用されていますが、長期投与により高マグネシウム血症を引き起こすリスクがあります。2015年には酸化マグネシウム製剤による高マグネシウム血症で重篤な副作用や死亡例が報告され、医薬品医療機器総合機構(PMDA)から注意喚起が発出されました。高用量(1日1.5~2グラム以上)の服用、長期間(1ヶ月以上)の服用、高齢者(65歳以上)、腎機能異常のある患者では特にリスクが高まります。
参考)【医師監修】酸化マグネシウム便秘薬とは?特徴や服用前のチェッ…

意外なことに、腎機能が正常な患者でも、便通障害(腸閉塞、便塞栓など)により腸管内に酸化マグネシウムが長時間滞留すると、マグネシウムの吸収が亢進し、高マグネシウム血症を発症することがあります。このため、酸化マグネシウム製剤服用中で高度便秘が持続する場合には、血清マグネシウム測定を考慮すべきです。
参考)便通障害は経口マグネシウム製剤による重度高マグネシウム血症の…

高マグネシウム血症の治療法と腎機能に応じた対応

軽度の高マグネシウム血症では、まず酸化マグネシウム製剤を含むマグネシウム含有薬剤の服用を直ちに中止します。その上で、生理食塩液とループ利尿薬フロセミドなど)の点滴静注により、尿中へのマグネシウム排泄を促進して補正を行います。腎機能が正常であれば、マグネシウム投与の中止により自然に改善することが多いです。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1886

重度で呼吸抑制や心障害が認められる場合には、緊急処置が必要となります。症状緩和のための呼吸補助を行いながら、マグネシウム拮抗薬としてグルコン酸カルシウムを点滴静注します。カルシウム製剤の静注は呼吸抑制や不整脈の予防に一時的に効果があり、生命維持のための重要な治療手段です。​
腎不全でマグネシウムを十分に排泄できない場合には、マグネシウムを含まない透析液での緊急血液透析を実施します。血液透析は血流量80~120mL/分で2~4時間行い、血清マグネシウム値を26.7%(17.9~41.2%)程度低下させ、症状を速やかに改善させることができます。ただし、透析終了後に細胞内からマグネシウムが再び血中へ移行し、血清マグネシウム値が再上昇することがあるため、透析翌朝の再測定と継続的なモニタリングが必要です。
参考)高マグネシウム血症に対する緊急血液透析の治療効果

治療中は心電図、呼吸状態、バイタルサインの経過観察が極めて重要であり、心停止や呼吸障害などの重篤な合併症に備えた体制が求められます。​

高マグネシウム血症の予防と腎機能との関連性

高マグネシウム血症の予防には、リスク因子を有する患者の早期識別が不可欠です。マグネシウムは体内総量の約50~60%が骨に、約25%が筋肉に、残りが他の軟部組織に存在し、血清中には総量の1%弱しか存在しません。腎臓がマグネシウム調節の中心的役割を担っており、マグネシウムの再吸収は近位尿細管で15~25%、ヘンレ上行脚で60~70%、遠位尿細管で5~10%行われます。
参考)Mg代謝│医學事始 いがくことはじめ

腎機能が低下すると、この精密な調整機構が破綻し、マグネシウムの排泄が障害されます。一日に約2400mgがろ過され、実際に尿から排泄されるのは通常100mg/日程度ですが、腎機能低下によりこの排泄量が減少します。慢性腎臓病(CKD)が進行した患者では、尿からの排泄減少により血中濃度が上昇しやすいため、酸化マグネシウム製剤の使用には特に慎重な判断が求められます。
参考)BLOG第307回 マグネシウムの話①

酸化マグネシウム製剤服用患者では、定期的な血清マグネシウム濃度の測定が推奨されます。特に長期服用者、高齢者、腎機能低下患者、便通障害が持続する患者では、初期症状を見逃さないよう患者教育を徹底し、悪心・嘔吐、立ちくらみ、めまい、徐脈、筋力低下、傾眠などの症状が出現した場合は直ちに服用を中止し、医療機関を受診するよう指導することが重要です。
参考)https://medical.maruishi-pharm.co.jp/medical/media/magmitt_kanzya_202008.pdf

透析患者においては、透析液中のマグネシウム濃度を調整することで血清マグネシウム値をコントロールできますが、非透析のCKD患者では食事や薬剤からのマグネシウム摂取管理が予防の要となります。医療従事者は、便秘治療薬として酸化マグネシウムを処方する際、患者の腎機能を必ず評価し、リスクとベネフィットを慎重に判断する必要があります。
参考)BLOG第308回 マグネシウムの話②