ベダキリン副作用と注意点|多剤耐性結核の治療薬

多剤耐性結核治療薬ベダキリンは効果的な薬剤ですが、QT延長や肝機能障害などの重大な副作用が報告されています。安全に使用するためにどのようなモニタリングが必要なのでしょうか?

ベダキリンの副作用と注意点

ベダキリンの主な副作用
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重大な副作用

QT延長(2.7%)と肝機能障害が最も注意すべき副作用です。定期的な心電図検査と肝機能モニタリングが必須となります。

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消化器系の副作用

悪心(18.2%)、関節痛(17.0%)、頭痛(13.1%)、嘔吐(12.2%)が高頻度で認められます。

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その他の副作用

浮動性めまい、下痢、トランスアミナーゼ上昇、筋肉痛などが5%未満の頻度で報告されています。

ベダキリンのQT延長リスクと対策

 

ベダキリン(サチュロ)の使用で最も警戒すべき副作用がQT間隔延長です。QT延長は心電図上で観察される異常であり、重篤な不整脈であるTorsades de Pointesを引き起こすリスクがあります。海外臨床試験では本剤群でQTcF延長例がプラセボ群と比較して多く認められましたが、トルサードドポアント等の重篤な心血管系有害事象の発現は報告されていません。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/0000195567.pdf

QT延長の発現頻度は2.7%と報告されており、用量依存性であることが知られています。血中濃度が上昇するほどリスクが高まるため、投与開始前および投与中の定期的な心電図検査が必須です。
参考)ベダキリンフマル酸塩(BDQ, サチュロ) href="https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/bedaquiline-fumarate/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/bedaquiline-fumarate/amp;#8211; …

厚生労働省のベダキリン使用に関する資料では、QT延長リスクの管理方法と定期的なモニタリングの重要性が詳述されています。
QT延長の管理については以下のような基準が設けられています:​

QT延長の程度 リスク評価 対応
軽度(< 30 ms) 低リスク 経過観察
中等度(30-60 ms) 中等度リスク 頻回モニタリング
高度(> 60 ms) 高リスク 投与中止検討

特に他のQT延長を引き起こす薬剤との併用時には注意が必要です。フルオロキノロン系抗菌薬マクロライド系抗菌薬などとの併用では、より慎重な管理が求められます。また、電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症、低カルシウム血症)がある患者ではQT延長のリスクが高まるため、電解質の定期的なモニタリングも重要です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00067287.pdf

ベダキリンによる肝機能障害の発現

ベダキリンは主に肝臓で代謝されるため、肝機能への影響に注意が必要です。重大な副作用として肝機能障害が挙げられており、AST(GOT)、ALT(GPT)等の上昇を伴う肝機能障害があらわれることがあります。
参考)サチュロ錠100mgの効果・効能・副作用

国内第Ⅱ相試験では、6例中3例(50%)に副作用が認められ、そのうち肝機能異常が1例(16.7%)に発現しました。海外後期第Ⅱ相試験では、335例中166例(49.6%)に副作用が認められています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00006985.pdf

トランスアミナーゼ上昇には以下のような分類があります:​

  • 軽度〜中等度のトランスアミナーゼ上昇(正常上限の2〜5倍)
  • 重度のトランスアミナーゼ上昇(正常上限の5倍以上)
  • 黄疸を伴う肝機能障害

神戸岸田クリニックの資料では、ベダキリンによる肝機能障害の詳細な管理方法が解説されています。
肝機能障害のリスクを管理するため、ベダキリン投与前および投与中は定期的な肝機能検査を実施し、異常が認められた際は速やかに対応することが重要です。特に既存の肝疾患を有する患者や他の肝毒性のある薬剤(ピラジナミド、プロチオナミド、パラアミノサリチル酸など)を併用している患者では、より頻回なモニタリングが必要となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7977294/

ベダキリンでは肝障害の頻度が高いことから、肝障害を有する症例においては特に慎重な投与判断が求められます。また、重度の肝機能障害患者における使用経験がないため、リスクとベネフィットを考慮して投与を慎重に判断する必要があります。
参考)https://www.kekkaku.gr.jp/pub/vol93(2018)/vol93no1p71-74.pdf

ベダキリンの消化器系および神経系副作用

ベダキリン投与中の患者では様々な消化器系の副作用が報告されています。海外後期第Ⅱ相試験における主な副作用として、悪心61例(18.2%)、関節痛57例(17.0%)、頭痛44例(13.1%)、嘔吐41例(12.2%)が認められました。​
消化器系副作用の特徴と対応策:
参考)サチュロ錠100mgの効能・副作用|ケアネット医療用医薬品検…

副作用 頻度 対応策
悪心 高頻度(18.2%〜38.0%) 制吐剤の併用
嘔吐 中等度(12.2%〜25.3%) 食事との関連確認
下痢 5%未満 症状緩和薬の使用
食欲不振 高頻度 栄養サポート

これらの消化器症状は多くの場合投与初期に出現し、時間とともに軽減する傾向がありますが、長期持続することもあります。患者への適切な説明と症状緩和策の提供が治療継続には欠かせません。消化器症状による栄養状態の悪化は結核治療の予後に影響を与える可能性があるため、栄養サポートの重要性も忘れてはいけません。​
神経系の副作用としては、頭痛、浮動性めまい、末梢神経障害、精神症状(不安・抑うつなど)が報告されています。これらの症状の多くは軽度から中等度で時間とともに改善することが多いですが、重度の場合や持続する場合は投与中止を考慮する必要があります。特に末梢神経障害は他の抗結核薬(サイクロセリン、リネゾリドなど)でも生じる可能性があるため、併用薬との関連性も考慮しながら評価することが重要です。​
その他の副作用として、国内試験では血沈亢進1例(16.7%)、ざ瘡1例(16.7%)が報告されており、患者のQOLを低下させて治療アドヒアランスに影響を与える可能性があります。​

ベダキリンの薬物相互作用と併用注意

ベダキリンは主にCYP3A4により代謝されるため、この代謝酵素に影響を与える薬剤との相互作用に注意が必要です。CYP3A4誘導作用を有する薬剤との併用は、ベダキリンの血漿中濃度を低下させ、効果を減弱させるおそれがあります。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2017/P20171228001/800155000_23000AMX00020_F100_1.pdf

中等度または強力なCYP3A4誘導作用を有する薬剤としては、リファブチン、エファビレンツなどが挙げられます。これらの薬剤との併用時には、リスクとベネフィットを考慮して慎重に判断する必要があります。特にリファンピシンとの併用では、ベダキリンの血中濃度が約80%低下するとされており、注意が必要です。
参考)医療用医薬品 : ミコブティン (ミコブティンカプセル150…

QT延長を起こすことが知られている薬剤との併用にも注意が必要です。フルオロキノロン系抗菌薬(モキシフロキサシン等)などとの併用では、QT延長のリスクが増大する可能性があります。これらの薬剤との併用が避けられない状況では、頻回な心電図モニタリングと血清電解質(特にカリウム、マグネシウム)の管理が必要となります。​
興味深い研究として、カルベジロールがベダキリンの代謝を阻害することが報告されています。ラット肝ミクロソーム(RLM)では混合型阻害、ヒト肝ミクロソーム(HLM)では非競合型阻害、CYP3A4では混合型阻害が確認されており、臨床現場での薬剤併用に注意が必要とされています。
参考)CareNet Academia

HIV感染症を合併した多剤耐性結核患者では、抗レトロウイルス薬(ARV)との相互作用にも注意が必要です。一部のARVはCYP3A4阻害作用を有し、ベダキリンの血中濃度を上昇させる可能性があります。プロテアーゼ阻害薬(PI)との併用では、ベダキリンの血中濃度上昇によるQT延長リスクの増大に注意が必要です。​

ベダキリンの長期使用における安全性と特殊患者での注意点

ベダキリンは比較的新しい薬剤であり、その長期的な安全性プロファイルについてはまだ不確実な部分が残されています。標準的な投与期間は24週間(6ヶ月)とされていますが、この期間を超えて使用する場合には、リスクとベネフィットを考慮して投与の継続を慎重に判断することが求められます。
参考)https://h-crisis.niph.go.jp/wp-content/uploads/2018/03/20180301115027_file_05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka_0000195567.pdf

治験においては6ヶ月を超える使用経験は限られており、ベダキリンおよびその代謝物の半減期は6ヶ月と長いことから、長期使用の経験が限られていることにより有害事象の頻度が増える可能性に注意する必要があります。一方で、現状の少数例の臨床報告では6ヶ月を超える治療に伴う有害事象については認容できる範囲としています。​
海外臨床試験(試験期間120週)において、死亡例が本剤投与開始例で12.7%(10/79例)、プラセボ投与開始例で3.7%(3/81例)に認められ、不均衡が観察されました。しかし、これらの死亡例は結核関連疾患、アルコール中毒、脳血管発作、交通事故など様々な原因によるもので、治験薬との関連性はないとされています。​
2014〜16年における南アフリカでの大規模コホート研究では、死亡率がベダキリン群7.6%(119/1,556例)、他剤群18.2%(4288/23,539例)と、ベダキリン群で低かったことが報告されており、実臨床における有用性が示されています。​
特殊患者における注意点として、QT延長のある患者(先天性QT延長症候群等)では、QT延長が悪化するおそれがあります。また、心不全のある患者、電解質異常のある患者、甲状腺機能低下の既往または合併のある患者、徐脈性不整脈の既往または合併のある患者、Torsade de Pointesの既往のある患者では、QT延長があらわれるおそれがあるため、慎重投与とされています。​
代謝物M2の半減期が長いため、中止後もQT延長の改善には月単位かかることが報告されており、投与中止後も継続的な観察が必要です。ベダキリンは食後投与時のバイオアベイラビリティが絶食投与時の約2倍となるため、必ず食直後に投与することが推奨されています。​
妊婦や小児患者における安全性データは限られているため、これらの患者群への投与は特に慎重な判断が求められます。治療失敗の危険が高い例において長く使用することにより有害事象の危険が高まることと、使用期間を短くするがゆえに治療失敗耐性化の危険の両者の比較考量が必要です。​