リネゾリドの最も頻度の高い副作用は、血小板減少症を含む骨髄抑制です。添付文書には重大な副作用として血小板減少19%、貧血13%、白血球減少7%、汎血球減少3%が記載されており、投与にあたっては血液検査を定期的(週1回を目処)に実施することが推奨されています。特に14日を超える投与では血小板減少の発現頻度が顕著に高くなる傾向があります。chemotherapy+1
| 副作用 | 発現率 | 主な発現時期 |
|---|---|---|
| 血小板減少症 | 11.9% | 投与10日目以降kobe-kishida-clinic |
| 貧血 | 4.8% | 投与2週目以降kobe-kishida-clinic |
| 白血球減少症 | 1.9% | 投与2-3週目以降kobe-kishida-clinic |
| 汎血球減少症 | 0.8% | 長期投与例clinicalsup |
2019年に学術誌「Journal of Antimicrobial Chemotherapy」に掲載された研究では、リネゾリドの投与期間が14日を超えると血小板減少のリスクが2倍以上に増加し、28日を超える投与では4倍以上に跳ね上がることが報告されました。日本での研究でも、血小板減少発現率は18%であり、リスク要因として用量(≧22mg/kg/day)が同定されています。これらの骨髄抑制は投与中止によって回復しうる可逆的な副作用ですが、重症化すると輸血が必要になることもあります。kobe-kishida-clinic+2
腎機能低下患者では特に注意が必要です。標準用量のリネゾリド投与を受けている腎障害患者では血小板減少症が高頻度にみられ、用量を減らしてTDM(治療薬物モニタリング)でトラフ濃度をモニターすることで安全性と有効性のバランスが改善されることが示されています。eGFRが60mL/min/1.73m²未満の腎障害患者では、用量調整により65%でトラフ濃度が達成でき、血小板減少症の発症を遅らせることが可能です。hikari-pharm
リネゾリドの長期投与により、末梢神経障害と視神経症が発現することがあります。視神経症は視力低下、色覚異常、霧視(目のかすみ)、中心暗点、視野狭窄として現れ、視力喪失に進行する可能性があるため、投与期間は28日を超えないことが推奨されています。kekkaku+3
末梢神経障害は、手足のしびれ感、痛覚・温度覚の異常、筋力低下、深部腱反射の減弱として現れます。多剤耐性結核患者を対象とした報告では、64%が末梢神経障害によりリネゾリドを中止し、約8割が中止後12ヵ月経過しても症状が残ったという深刻な結果が示されています。これは患者のQOL(生活の質)に大きな影響を与えるため、長期投与時には特に慎重な神経学的モニタリングが必要です。hokuto+2
視神経障害に関する症例報告では、リネゾリド使用後10か月で視力障害、視野障害を認めたケースがあり、薬剤中止により軽快しました。また、別の研究では1200mg/日を26週間投与された参加者の9%で視神経障害が発現しましたが、すべての症例で症状が消失しています。これらの神経学的副作用は投与中止後も症状が持続・悪化することがあるため、早期発見と速やかな中止判断が重要です。webview.isho+2
神経障害のリスクを最小化するため、患者には自覚症状の報告を依頼し、定期的な視力検査や神経学的診察を実施することが望ましいでしょう。長期投与が必要な場合には、眼科や神経内科との連携を密にした多角的な評価が不可欠です。kobe-kishida-clinic
リネゾリドの投与により、乳酸アシドーシス等の代謝性アシドーシスがあらわれることがあります。症状としては嘔気、嘔吐の繰り返し、過呼吸(呼吸回数の増加)、意識障害(時に昏睡)が現れます。リネゾリドによる乳酸アシドーシスの機序は、ミトコンドリアのタンパク質合成阻害によるものと考えられています。rad-ar+3
セロトニン症候群は、リネゾリドのモノアミン酸化酵素阻害作用により、特にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などのセロトニン作動性抗うつ薬との併用時にリスクが増加します。徴候および症状として、錯乱、せん妄、情緒不安、振戦、潮紅などが現れます。セロトニン症候群は重篤な中枢神経症状を引き起こす可能性があるため、セロトニン作動性の向精神薬との併用には注意が必要です。labeling.pfizer+2
乳酸アシドーシスの予防と早期発見のため、投与中は嘔気・嘔吐の症状に注意し、繰り返す場合には直ちに血液検査を実施して代謝性アシドーシスの有無を確認すべきです。セロトニン症候群に関しては、投与前に患者の服用薬を十分に確認し、セロトニン作動薬との併用を避けるか、併用が必要な場合には慎重な観察が求められます。neocriticare+1
リネゾリドの投与により、消化器系の副作用として下痢、悪心、嘔吐、食欲不振、食道炎・胃腸炎などが報告されています。これらの症状は一般的に軽度から中等度であり、患者のQOLに影響を与える可能性があります。kegg+2
下痢の発現率は5-10%で、軽度から中等度の症状が多く、水分補給や整腸剤による対処が有効です。予防策として発酵食品の摂取を推奨することも考慮されます。悪心は3-7%で発現し、特に食後に多い傾向があるため、制吐剤の使用や分割投与、食事と一緒に服用することで症状を軽減できます。嘔吐は1-3%と比較的低頻度ですが、投与初期に多く、制吐剤の使用や必要に応じて経口投与から点滴への変更を検討します。kobe-kishida-clinic
これらの消化器系副作用は患者のアドヒアランス(治療継続性)に直接影響するため、軽視できません。症状の程度に応じて投与方法の変更や補助薬の使用を積極的に検討し、食事の工夫(少量頻回摂取など)や水分摂取量の増加といった生活指導も副作用軽減に効果的です。また、まれに重い大腸炎を起こすことがあるため、激しい腹痛や持続する下痢がある場合には速やかに医師に連絡する必要があります。interq+1
リネゾリドの安全性を確保するため、投与前のリスク評価と投与中の定期的なモニタリングが極めて重要です。投与前に骨髄抑制(貧血、白血球減少症、汎血球減少症、血小板減少症等)が確認されている患者では慎重な投与が必要です。kegg+1
血液学的モニタリング
血液検査は週1回を目処に定期的に実施し、特にヘモグロビン値、白血球数、血小板数を監視します。倦怠感や息切れは貧血の兆候、出血傾向は血小板減少の兆候となるため、これらの症状の早期発見が重要です。重症化した場合には投与中止や輸血を考慮します。clinicalsup+2
神経学的モニタリング
視力検査や神経学的診察を定期的に実施し、患者には視力低下、色覚異常、手足のしびれなどの自覚症状を速やかに報告するよう指導します。長期投与時(特に28日超)には眼科や神経内科との連携が不可欠です。jstage.jst+2
TDM(治療薬物モニタリング)の活用
リネゾリドのTDMとトラフ濃度測定が推奨されており、特に腎機能障害患者では用量調整により安全性が改善されます。eGFRが60mL/min/1.73m²未満の腎障害患者では、用量を減らしてTDMでモニターすることで血小板減少症の発症を遅らせることができます。高齢者においてもTDMによる個別化投与が有効であり、中等度から重度の血小板減少症のリスク要因を分析した予測モデルも開発されています。pmc.ncbi.nlm.nih+3
投与期間の適正化
添付文書や複数の研究から、14日を超える投与で副作用リスクが増加することが明らかであり、28日を超える投与は原則として避けるべきです。多剤耐性結核治療における研究では、600mg/日を26週間投与する群が1200mg/日群と比較して副作用発現率が低く、リスク-ベネフィット比が良好でした。pmc.ncbi.nlm.nih+3
参考:抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022(日本化学療法学会)では、抗MRSA薬の適正使用とTDMに関する詳細な推奨事項が記載されています。chemotherapy
腎機能障害患者、高齢者、低体重者など特殊な患者背景を持つ場合、リネゾリドの副作用リスクが変化する可能性があります。従来、リネゾリドは腎機能障害時でも用法・用量の調節が不要とされてきましたが、近年の研究では腎機能に応じた用量調整の必要性が示唆されています。pmda+3
高齢者においては、リネゾリドは認容性に優れた有用な抗MRSA薬であることが症例報告で示されていますが、一過性の貧血および血小板減少により赤血球輸血を必要とすることもあります。高齢患者を対象とした多施設前向き研究では、リネゾリドの血中濃度と血液学的毒性を動的にモニタリングし、中等度から重度の血小板減少症の予測モデルが開発されています。このモデルを活用することで、高齢者における個別化投与が可能になります。pmc.ncbi.nlm.nih+1
骨髄抑制作用を有する薬剤との併用が必要な患者では、より慎重な血液学的モニタリングが求められます。また、感染症のため長期投与が必要となる患者においては、定期的な血液検査と神経学的評価を継続的に実施し、副作用の早期発見に努めることが重要です。labeling.pfizer+1
投与量に関しては、腎機能低下患者において標準用量(600mg 12時間毎)では血中濃度が過剰になる可能性があり、TDMを活用した用量調整が推奨されます。腎障害患者に対する初回投与量と維持投与量の提案も報告されており、個別化医療の重要性が強調されています。hikari-pharm+1
参考:MRSA感染症の治療ガイドライン改訂版2019(日本感染症学会)では、抗MRSA薬の適正使用と副作用管理に関する包括的な推奨事項が記載されています。kansensho