エリスロポエチン(EPO)の基準値は4.2~23.7mIU/mLとされており、この数値範囲が成人における正常な造血機能を反映しています。EPOは分子量約34,000、165個のアミノ酸から成る糖タンパク性の造血ホルモンで、主に腎臓の尿細管間質細胞で産生されます。data.medience+2
基準値は性差や年齢差がほとんど認められませんが、妊婦では高値を示す傾向があります。また、70歳代の高齢者は若年者より高値を示すという報告もあり、生理的な変動要因として考慮する必要があります。okayama-u+1
測定方法としては、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)が標準的に用いられており、測定時間は45分と従来のRIA法(約5時間)に比べて大幅に短縮されています。ワイドな測定レンジ(0.6~750mIU/mL)により、幅広い病態に対応可能です。beckmancoulter+1
腎性貧血の診断において、EPO濃度の測定は重要な補助的検査となりますが、必須検査ではありません。慢性腎不全患者では、ヘモグロビン濃度が低下していてもEPOは腎臓からの産生が少ないため低値から正常範囲にとどまります。jsn+2
保存期慢性腎臓病(CKD)患者における臨床試験データでは、クレアチニン値≧2mg/dLまたはクレアチニンクリアランス値≦30mL/minでHb値<10g/dLの患者422例において、血中EPO濃度の平均±SDは22.7±12.1mIU/mL(5.0~151.0mIU/mL)であり、平均+2SDは46.9mIU/mLでした。この結果から、EPO値50mIU/mL未満が腎性貧血の診断において参考となる値とされています。jstage.jst+1
CKD患者では、Hb値とEPO濃度の関係が重要です。特にEPO濃度が基準値上限23.7IU/Lあたりを下回ってくると急速なeGFR低下を認めやすいことが明らかにされており、EPO濃度は腎機能予後の予測因子としても注目されています。med.osaka-u
EPOの産生は主に腎臓の尿細管間質に存在する腎EPO産生細胞(REP細胞)から行われます。これらの細胞は神経堤細胞由来であり、腎間質にユビキタスに存在することが判明しています。jstage.jst+2
産生は低酸素応答性のフィードバック機構により厳密に制御されています。貧血により組織の酸素欠乏が起こると、これが刺激となってEPO産生が促進され、骨髄の幹細胞に作用して赤血球の分化を促進します。その後、赤血球の増加により酸素不足が解消するとEPO産生は停止し、バランスが保たれます。dmbc.med.tohoku+1
興味深いことに、EPOは胎生期には肝臓で産生されますが、出生後には腎臓がその役割を担うようになります。慢性腎臓病では尿細管間質における筋線維芽細胞の出現・増幅による腎線維化が進行し、線維化に伴ってEPO産生不全が生じ腎性貧血を発症します。jsn+2
EPO高値を示す主な疾患として、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、鉄欠乏性貧血、続発性(二次性)赤血球増加症、エリスロポエチン産生腫瘍が挙げられます。falco+1
再生不良性貧血では、Hb値10g/dL未満の貧血症例の大部分がEPO>50mIU/mLを示します。二次性多血症は低酸素に起因する場合とEPO産生性腎臓腫瘍が原因になる場合があり、いずれも血中EPO濃度は上昇します。fujifilm+2
一方、EPO低値を示す疾患には、真性赤血球増加症(真性多血症)と腎性貧血があります。真性多血症は慢性骨髄増殖性疾患の一つで、EPOの刺激とは関係なしに赤血球が増加するため、EPOは基準範囲内かフィードバックを受けて低値となります。uwb01.bml+3
多血症の鑑別において、循環赤血球量が増加している絶対的多血症でEPO値が高値を示すものを二次性多血症、示さないものを真性多血症と診断します。この鑑別は治療方針の決定に重要な意義を持ちます。data.medience+1
EPO測定は赤血球増加症の鑑別診断、重度の慢性腎不全患者における腎性貧血の診断、骨髄異形成症候群に伴う貧血の治療方針決定に用いられます。また、エリスロポエチン製剤投与の適応と投与量の決定にも参考となります。test-directory.srl+1
臨床現場では、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)低反応性貧血が重要な問題となっています。週当たりのエポエチン9,000単位以上の投与にもかかわらず目標ヘモグロビン濃度(10~11g/dL)を達成できない場合、ESA低反応性貧血と定義されます。touseki.loglog+1
ESA低反応性の原因には、鉄欠乏、炎症状態、副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、糖尿病、脳血管障害などが挙げられます。透析患者における亜鉛欠乏も低反応性の原因となることが示されており、亜鉛補充療法がEPO反応性を改善することが報告されています。jstage.jst+1
網赤血球数の測定も有用で、10万/μL以下である場合は正常から減少と判断され、EPO反応性の評価に役立ちます。近年では、低酸素誘導因子水酸化酵素阻害薬(HIF-PH阻害薬)という新しい治療選択肢も登場し、腎性貧血治療の選択肢が広がっています。kumagai-clinic+2
<参考リンク>
日本透析医学会の腎性貧血ガイドラインには、EPO測定の適応や基準値の解釈について詳細な記載があります。
日本腎臓学会 CKDガイドライン 腎性貧血
エリスロポエチンの測定方法や臨床的意義については、以下の臨床検査情報も参考になります。