緊張病(カタトニア)は、従来統合失調症の最重症型と考えられてきましたが、現在では様々な精神疾患や身体疾患で認められる症候群として理解されています。診断において重要な症状は以下のような特徴的な運動症状です。
診断の確定には、ロラゼパムチャレンジテストが有用です。ロラゼパム1-2mgの単回投与により2時間以内に症状の急速な改善が認められれば、緊張病の診断を支持する重要な所見となります。この診断的治療法は、症状が曖昧な場合や鑑別診断が困難な症例において特に価値があります。
緊張病の背景疾患として、気分障害(特に双極性障害)、統合失調症、器質性精神障害、自己免疫性脳炎など多岐にわたる疾患が報告されており、原因疾患の特定も治療戦略を決定する上で重要です。
ベンゾジアゼピン系薬剤のロラゼパムは、緊張病治療の第一選択薬として確立されています。ロラゼパムが選択される理由は、以下の薬理学的特性によります。
ロラゼパムの投与方法は、患者の状態に応じて調整されます。経口摂取が可能な場合は錠剤として、嚥下困難や拒薬がある場合は筋肉注射または静脈注射で投与されます。初回投与量は1-2mgから開始し、効果を観察しながら適宜増量します。
治療効果は非常に高く、急性カタトニア症候群に対して70-90%の良好な改善率が報告されています。原因疾患にかかわらず80%を超える症例でロラゼパムが著効を示すことが確認されており、気分障害、統合失調症、器質性精神障害のいずれにおいても有効性が認められています。
ただし、統合失調症に伴う緊張病に対しては、他の原因による緊張病と比較して効果が限定的(20-30%)であることが報告されており、この場合は他の治療選択肢の検討が必要です。
従来、緊張病の治療には高力価の定型抗精神病薬であるハロペリドールの点滴投与が主流でしたが、現在では悪性カタトニアや悪性症候群のリスクが高いため使用すべきではないとされています。
定型抗精神病薬の問題点。
一方、非定型抗精神病薬については、原因疾患が統合失調症や気分障害の場合、原疾患の治療として有効とする報告があります。ただし、使用する際は以下の点に注意が必要です。
現在使用されている非定型抗精神病薬にも、ドーパミンD2受容体遮断作用の強い高力価のものから低力価のものまで幅があり、どのような抗精神病薬の投与が最適かについては、さらなる検討が必要とされています。
ロラゼパムに反応しない難治性緊張病に対して、電気けいれん療法(ECT)は非常に有効な治療選択肢です。ECTは特に以下のような症例で考慮されます。
ECTの利点として、即効性があり、特に気分障害に伴う緊張病では高い有効性が期待できます。また、薬物療法と異なり、肝機能や腎機能への影響が少ないため、身体的合併症がある患者にも比較的安全に実施できます。
その他の治療アプローチとして、以下のような方法も検討されることがあります。
治療の選択は、患者の重症度、原因疾患、身体状況、治療反応性を総合的に評価して決定されるべきです。
緊張病の予後は、早期診断と適切な治療により大幅に改善されています。ロラゼパムによる治療開始後、多くの患者で数時間から数日以内に症状の改善が認められ、約80%の患者で良好な治療反応が得られます。
長期管理における重要なポイント。
薬物管理の注意点
再発予防戦略
緊張病は再発しやすい疾患であるため、以下の点に注意した長期管理が必要です。
社会復帰支援
急性期治療後の社会復帰においては、段階的なアプローチが重要です。
気分障害による緊張病は精神病による緊張病よりも治療反応が良好とされており、原因疾患による予後の違いも考慮した個別化された治療計画の策定が重要です。
精神神経学雑誌における最新の治療ガイドライン
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1120040396.pdf
イギリス王立精神科医学会による緊張病の包括的な治療情報
https://www.rcpsych.ac.uk/mental-health/translations/japanese/catatonia