臨床検査における基準値と検査技師の役割

医療の質を支える臨床検査について、検査項目と基準値、検査技師の専門業務から品質管理まで詳しく解説します。現代医療に欠かせない臨床検査の全貌とは何でしょうか?

臨床検査における基準値と検査技師

臨床検査の基本構成要素
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検体検査

血液・尿・便など採取した検体を分析し、疾患の診断と治療に重要な客観的データを提供

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生理検査

心電図・超音波検査など患者に直接接して実施し、身体機能の状態を評価

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精度管理

検査結果の正確性と信頼性を保証し、医療の質を支える重要な品質保証システム

臨床検査の血液検査基準値

血液検査は最も頻繁に実施される臨床検査の一つで、様々な疾患の診断に欠かせない検査項目です 。血液学的検査では、白血球数(WBC)の基準値が3.3~8.6×10³/μL、赤血球数(RBC)が男性4.3~5.6×10⁶/μL、女性3.8~5.0×10⁶/μLとなっています 。ヘモグロビン濃度は男性13.5~17.0g/dL、女性11.5~15.0g/dLで、貧血の診断に重要な指標となります 。
参考)https://www.okiyaku.or.jp/kenmin/standard-valu

 

生化学的検査における肝機能検査では、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)が13~30U/L、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)が男性10~42U/L、女性7~23U/Lとされています 。これらの酵素は肝臓、骨格筋、心筋に多く含まれ、肝疾患や心筋梗塞で上昇する重要な診断マーカーです 。腎機能を評価するクレアチニン値は男性0.65~1.07mg/dL、女性0.46~0.79mg/dLで、腎機能障害の早期発見に役立ちます 。
参考)https://www.kakohp.jp/section/inspection-items

 

血液検査の基準値は「正常な人の95%が当てはまる値」として設定されており、測定法や測定機器により多少のばらつきがあることを理解しておく必要があります 。これらの基準値は単純に正常・異常を区別するものではなく、医師が総合的な診断を行うための参考指標として活用されています 。

臨床検査技師における生理検査業務

生理検査は患者に直接接して実施する検査で、臨床検査技師の専門性が最も発揮される分野の一つです 。心電図検査は心臓から発生する微弱な電気信号を記録し、不整脈、心臓肥大、狭心症、心筋梗塞などの診断に用いられます 。検査は体表に電極を装着するだけで痛みがなく、約5分程度で完了する安全な検査です 。
参考)https://saigai.hosp.go.jp/kensaka/physiology.html

 

運動負荷心電図は運動により心臓に負荷をかけ、心電図と血圧の変化を観察する検査で、運動時に症状が現れる労作性狭心症の診断に特に有効です 。エルゴメーター(自転車こぎ)やマスター2階段による階段昇降を用いて、安静時では現れない心電図変化を検出できます 。ホルター心電図検査では24時間連続記録により、日常生活中の不整脈や夜間の狭心症発作を発見することができます 。
参考)https://www.hiranogh.com/hirano/medical_department/rinsyo-kensa-detailed-seiri.html

 

超音波検査(エコー検査)は超音波を用いて臓器の形態や機能を評価する非侵襲的な検査です 。心臓超音波検査では心臓の形、大きさ、壁厚、動き、弁の機能を詳細に観察でき、心筋梗塞、狭心症、心肥大、弁膜症の診断に重要な役割を果たします 。腹部超音波検査では肝臓、胆嚢、膵臓、腎臓、脾臓の形態的変化や結石、腫瘍の有無を確認できます 。
参考)https://www.rakuwa.or.jp/maruta/shinryoka/co_kensa/seiri.html

 

臨床検査における尿検査基準値

尿検査は非侵襲的で簡便に実施できる一般検査として、健康診断から疾患診断まで幅広く活用されている基本的な臨床検査です 。尿のpHは通常5.0~7.5の範囲にあり、酸性側への偏りは糖尿病、痛風、腎炎、発熱、下痢などで見られ、アルカリ性への偏りは制酸剤の長期投与、過呼吸、頻回の嘔吐で観察されます 。尿比重は1.005~1.030が正常範囲で、脱水状態では高値を、腎障害や尿崩症では低値を示すことが知られています 。
参考)https://aamt.sakura.ne.jp/technician/

 

尿蛋白と尿糖は通常陰性(-)が正常で、陽性の場合は様々な疾患の可能性を示唆します 。尿蛋白陽性は急性・慢性腎炎、ネフローゼ症候群、尿路系疾患、妊娠中毒症などで見られ、尿糖陽性は糖尿病、膵炎、甲状腺機能亢進症、肝機能障害で検出されます 。尿潜血検査は膀胱炎尿道炎、腎炎、尿路結石、泌尿器系腫瘍の早期発見に重要で、通常は陰性(-)が正常です 。
尿ケトン体は絶食、糖尿病、高熱疾患、脱水状態で陽性となり、代謝異常の指標として用いられます 。尿沈渣検査では赤血球が5個/HPF(高倍率視野)未満、白血球、上皮細胞の数を顕微鏡で観察し、尿路感染症や炎症の有無を評価します 。これらの尿検査項目は組み合わせることで、腎疾患、糖尿病、感染症などの幅広い疾患の診断に貢献しています 。

臨床検査技師の専門業務範囲

臨床検査技師は国家資格を持つ医療専門職として、病院や検査センターで多岐にわたる専門業務を担当しています 。検体検査では血液検査、尿検査、便検査、体腔液検査など、患者から採取した検体を分析し、疾患の診断と治療に必要な客観的データを提供します 。血液学的検査では血球成分(白血球、赤血球、血小板)の数や形態、機能を詳細に検査し、貧血や白血病をはじめとする血液疾患の発見・診断に重要な役割を果たしています 。
参考)https://www.jamt.or.jp/target/general/introduction/

 

生化学的検査は血清や尿を分析して、肝機能、腎機能、脂質、糖質、無機質、ホルモンなどを測定し、臓器の異常を把握する専門業務です 。最近では自動分析機器の普及により効率化が進んでいますが、分析結果の精度管理が重要な業務となっています 。微生物学的検査では便、尿、膿、喀痰などを培養し、感染症の原因微生物を特定するとともに薬剤感受性(効き具合)を検査します 。
免疫・血清検査では肝炎などのウイルス感染症を血清中の抗体の有無で判定し、癌の補助的診断を行う腫瘍マーカーや薬物血中濃度も測定します 。これらの専門業務は医師の診断と治療方針決定に直結するため、高い専門知識と技術が要求されます 。臨床検査技師は単なる技術者ではなく、医療チームの重要な一員として患者の健康と生命を守る責任ある職業です 。

臨床検査の品質管理と精度保証

臨床検査において精度管理は極めて重要で、「精度管理なくして臨床検査はなし得ない」と言われるほど医療の質を左右する要素です 。精度管理とは検体の測定結果が正確に報告されていることと、検体に変化がない限り繰り返し測定される結果に大きな変化がないことを確認・保証する一連の行為です 。医療従事者は検査室から返却される検査値が常に正確で、他施設の検査値とも同等に比較できると考えており、この信頼に応えることが精度保証の目的です 。
参考)https://www.beckman.jp/resources/techniques-and-methods/cytometrydotcom/application/appli12

 

内部精度管理は検査室内における検査精度を維持すること、外部精度管理は施設間の測定値誤差を是正することを目的としています 。臨床検査はカルテの客観的データの94%を占め、パニック値報告による診断の90%に影響し、診療ガイドラインの23%に関与するという重要な役割があります 。このため検査システムの精度保証が強く求められており、医療法改正により地域格差や施設間差のない臨床検査結果を提供することが義務化されました 。
参考)https://www.sysmex-medical-meets-technology.com/_ct/17691752

 

品質保証には測定システムの機能理解、維持管理、異常検体の正確な測定判断などが重要で、これらの結果を記録し保存することも必須です 。精度管理担当者は法的要求事項に対応するため、各分野の精度管理要点を把握し、現場の状況に応じて適切に応用する能力が求められます 。現在では全国・地域の精度管理エキスパートによる指導体制が確立され、どの施設でも最低限定められた方法で質的保証を行うことが可能となっています 。
参考)https://www.jiho.co.jp/products/53265