利胆薬の種類と一覧【催胆薬・排胆薬の分類詳解】

利胆薬の分類から代表的薬剤まで、医療従事者が知るべき基礎知識を網羅的に解説。催胆薬と排胆薬の違い、作用機序、臨床応用について詳しく理解できていますか?

利胆薬の種類と一覧

利胆薬の基本分類
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催胆薬(choleretic)

肝臓に作用して胆汁生成分泌を促進する薬剤

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排胆薬(cholakinetic)

胆嚢や胆管から胆汁排出を促進する薬剤

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複合作用型

催胆作用と排胆作用を併せ持つ薬剤

利胆薬の基本分類と作用機序

利胆薬は、胆道疾患によって胆汁の排出が阻害された場合に胆汁の分泌または排出を促進する薬物として定義されます。作用機序に基づいて、大きく催胆薬(choleretic)と排胆薬(cholakinetic)の2つに分類されることが基本となっています。

 

催胆薬は肝細胞に直接作用して胆汁分泌を亢進させる薬剤群で、さらに水分の多い粘稠度の低い胆汁を分泌させる水催胆剤(胆汁量増加剤)と、胆汁成分の分泌を促進する濃厚催胆剤(胆汁成分分泌促進剤)に細分化されます。

 

一方、排胆薬は胆嚢や十二指腸開口部のオッディ括約筋に作用して胆汁の排出を促進させる薬剤群です。この分類には胆嚢の収縮を促進する胆嚢収縮剤と、オッディ括約筋の弛緩を引き起こして排出を促進する非胆嚢収縮性排胆剤が含まれます。

 

現代の臨床においては、この古典的な分類に加えて、胆汁酸プールの拡大や胆汁酸組成の改善といった新たな作用機序も注目されており、特にウルソデオキシコール酸のような胆汁酸製剤では複数の機序が組み合わさった複合的な効果が期待されています。

 

催胆薬の種類と代表的薬剤一覧

催胆薬は前述の通り、水催胆剤と濃厚催胆剤に分類され、それぞれ異なる薬理学的特徴を持ちます。

 

水催胆剤の代表例:

  • デヒドロコール酸:古典的な水催胆剤として長年使用されており、胆汁量を著明に増加させる作用があります
  • オサルミド:比較的新しい水催胆剤で、胆汁分泌促進作用に加えて肝保護作用も報告されています
  • フロランチロン:合成胆汁酸様物質で、胆汁流量の増加が主な作用です

濃厚催胆剤の代表例:

  • ウルソデオキシコール酸:現在最も広く使用される利胆薬で、胆汁酸プールの改善とともに肝保護作用も有します
  • トカンフィル:鬱金(ウコン)由来のショウノウ酸エステルで、胆汁成分の分泌促進が主な作用です
  • フェニルプロパノール:合成された濃厚催胆剤の一つです
  • シクロブチロール:胆汁酸分泌を特異的に促進する作用があります
  • アネトールトリチオン:硫黄含有化合物で、胆汁分泌促進とともに抗酸化作用も期待されます
  • サイナリン:植物由来の天然物質です

これらの催胆薬は、胆道系疾患や胆汁うっ滞を伴う肝疾患において、胆汁の分泌促進を通じて症状の改善を図る際に選択されます。特に慢性的な胆汁うっ滞状態では、水催胆剤よりも濃厚催胆剤の方が臨床的に有用とされる場合が多くあります。

 

排胆薬の種類と臨床応用における特徴

排胆薬は胆嚢収縮剤と非胆嚢収縮性排胆剤に大別され、それぞれ異なる作用点と臨床応用があります。

 

胆嚢収縮剤の主要薬剤:

  • 卵黄製剤:天然の胆嚢収縮刺激物質を含有し、食事療法の一環としても使用されます
  • オリーブ油:脂質による生理的な胆嚢収縮刺激を利用した古典的な方法です
  • セオスリン:合成された胆嚢収縮促進剤です
  • コレシストキニン:内因性ホルモンそのものを使用する方法で、診断目的でも使われます

非胆嚢収縮性排胆剤の代表例:

  • 硫酸マグネシウム液:オッディ括約筋の弛緩を引き起こし、胆汁の十二指腸への流出を促進します
  • フロプロピオン(商品名:コスパノン):胆道ジスキネジー、胆石症胆嚢炎胆管炎などに適応があり、鎮痙効果も併せ持ちます
  • ヒメクロモン:平滑筋弛緩作用により胆道の痙攣を緩和します
  • トレピブトン(商品名:スパカール):胆石症や胆嚢炎、胆道ジスキネジーなどに伴う鎮痙・利胆作用があります

排胆薬の臨床応用では、急性期の胆道疾患において胆汁のうっ滞を速やかに改善する目的で使用されることが多く、特に胆石発作時や胆管炎の際には緊急的な胆汁ドレナージの補助として重要な役割を果たします。また、胆嚢摘出術後の患者においては、オッディ括約筋機能不全に対する治療選択肢としても考慮されます。

 

ウルソデオキシコール酸の特徴と多面的効果

ウルソデオキシコール酸(UDCA)は、現在最も広く使用される利胆薬の代表格であり、単なる利胆作用を超えた多面的な薬理効果を有することで注目されています。

 

UDCAは5種類あるヒト胆汁酸の1つとして、生体内に自然に存在する物質でありながら、治療用量では以下のような多様な作用を示します。
主要な薬理作用:

  • 胆汁分泌促進作用:胆汁量の増加とともに胆汁酸組成の改善
  • 肝保護作用:肝細胞膜の安定化と抗酸化作用
  • 免疫調節作用:自己免疫性肝疾患における炎症の抑制
  • 抗線維化作用:肝線維化の進行抑制

臨床適応の範囲:
ウルソの添付文書によると、適応症は多岐にわたり、通常の利胆目的(1回50mg、1日3回)から、より高用量での特殊適応(1日600-900mg)まで幅広く設定されています。

  • 胆道系疾患及び胆汁うっ滞を伴う肝疾患における利胆
  • 慢性肝疾患における肝機能の改善
  • 小腸切除後遺症、炎症性小腸疾患における消化不良
  • コレステロール系胆石の溶解(600mg/日)
  • 原発性胆汁性肝硬変における肝機能の改善(600mg/日)
  • C型慢性肝疾患における肝機能の改善(600mg/日)

作用機序の詳細:
UDCAの利胆作用は、単純な胆汁分泌促進だけでなく、胆汁酸プールの質的改善にも寄与します。具体的には、親水性の高いUDCAが胆汁酸プールに組み込まれることで、より親水性の高い胆汁が形成され、胆汁の流動性が改善されます。

 

また、UDCAは胆汁酸依存性胆汁分泌(BDSF)と胆汁酸非依存性胆汁分泌(BISF)の両方を促進することが知られており、これにより胆汁うっ滞の改善に寄与します。

 

利胆薬の副作用プロファイルと相互作用管理

利胆薬の使用において、副作用の理解と適切な相互作用管理は臨床上極めて重要です。特にウルソデオキシコール酸を例に取ると、比較的安全性の高い薬剤とされながらも、一定の注意すべき点があります。

 

主要な副作用パターン:
消化器系副作用では、下痢が1-5%未満の頻度で最も多く報告されており、これは胆汁分泌促進による腸管内への胆汁酸流入増加が原因と考えられます。その他、悪心、食欲不振、便秘、胸やけ、胃不快感、腹痛、腹部膨満感なども0.1-1%未満の頻度で認められます。

 

過敏症反応としては、そう痒や発疹が比較的多く(1-5%未満)、蕁麻疹や紅斑(多形滲出性紅斑等)も報告されています。これらの皮膚症状は薬剤アレルギーの可能性を示唆するため、出現時には速やかな対応が必要です。

 

肝機能への影響では、逆説的にAST、ALT、ALPの上昇が0.1-1%未満で認められることがあり、ビリルビン上昇やγ-GTP上昇も報告されています。これは肝機能改善を目的とした薬剤での副作用として注意深い監視が必要です。

 

重要な薬物相互作用:
コレスチラミンやコレスチミドとの併用では、これらの陰イオン交換樹脂がウルソデオキシコール酸と結合し、吸収を遅滞あるいは減少させるため、可能な限り投与間隔をあけることが推奨されます。

 

制酸剤、特にアルミニウム含有製剤(水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウムなど)は、ウルソデオキシコール酸を吸着し、吸収を阻害する可能性があります。

 

脂質低下剤(クロフィブラート、ベザフィブラート、フェノフィブラート)との併用は、コレステロール胆石溶解目的での使用時に注意が必要です。これらの薬剤は胆汁中へのコレステロール分泌を促進するため、コレステロール胆石形成が促進される可能性があります。

 

臨床モニタリングのポイント:
利胆薬使用時のモニタリングでは、定期的な肝機能検査(AST、ALT、ALP、ビリルビン、γ-GTP)が基本となります。特に長期投与例では、3-6ヶ月ごとの検査により、薬剤性肝障害の早期発見に努める必要があります。

 

また、胆石溶解目的で使用する場合は、超音波検査や単純CT検査による胆石の性状確認と溶解効果の評価が必要で、外殻石灰化を認める胆石では効果が期待できないため、事前の画像診断が重要です。

 

消化器症状の出現時には、投与量の調整や一時休薬を検討し、症状の改善を待って再開する場合があります。特に下痢が持続する場合は、電解質バランスの確認も必要となります。