フィブラート系薬剤は、ペルオキシソーム増殖因子応答性受容体α(PPARα)を活性化することでトリグリセライド(中性脂肪)を低下させますが、その作用機序が胆石形成リスクを高める原因となっています。具体的には、肝臓でのコレステロール合成抑制に伴い、胆汁中へのコレステロール排泄が増加し、胆汁中のコレステロール飽和度が上昇します。
参考)第27回「脂質異常症の治療② フィブラート系」|WEB連載|…
この胆汁中コレステロール濃度の上昇は、コレステロール結晶の析出を促進し、既存の胆石を増大させたり、新たな胆石形成を引き起こす可能性があります。特にベザフィブラートは胆石またはその既往歴のある患者において絶対禁忌とされており、フェノフィブラートも胆のう疾患のある患者への投与は禁忌です。
参考)胆石に禁忌(慎重投与)の薬剤
加えて、フィブラート系薬剤は胆嚢収縮能の低下も引き起こすため、胆汁うっ滞のリスクが増加し、胆嚢炎や胆管炎などの急性胆道系疾患を誘発する危険性も指摘されています。このため医療従事者は、フィブラート系薬剤の処方前に必ず胆石症の有無を確認する必要があります。
参考)胆石症の禁忌薬と慎重投与薬剤の完全ガイド
フィブラート系薬剤には複数の種類があり、それぞれ胆石形成リスクや代謝経路に違いがあります。
参考)https://www.tmg.or.jp/pharmacist/img/evidence/2022/Formulary_Sheet_Fibrate_20220519CC.pdf
**ベザフィブラート(ベザトールSR)**は主に腎排泄型で、腎機能障害患者では血中濃度が上昇しやすく、横紋筋融解症のリスクも高まります。胆石またはその既往歴のある患者には禁忌ですが、慎重投与の項目に記載されている製品もあります。
参考)https://www.fukuuni-shinnai.jp/vascular/pdf/2010/vs_5_10.pdf
**フェノフィブラート(リピディル)**は、ベザフィブラートと比較して中性脂肪低下作用が強力ですが、胆のう疾患のある患者には絶対禁忌です。クレアチニン2.5mg/dL以上の腎機能障害患者にも禁忌とされており、肝機能障害時も使用できません。
参考)フェノフィブラートってどんな薬?効果や副作用について医師が解…
**ペマフィブラート(パルモディア)**は2018年に承認された選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα)で、従来のフィブラート系薬剤よりPPARα活性化作用が強力です。最大の特徴は主として胆汁排泄型であることで、腎機能低下例でも血中濃度の増加が少なく比較的安全に使用できます。しかし、胆石のある患者には依然として禁忌です。興味深いことに、動物実験では胆石形成指数を低下させる結果も報告されていますが、臨床使用では注意が必要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/24/3/24_159/_pdf
PMDA:ペマフィブラートの禁忌改訂情報(腎機能障害に関する禁忌の削除について)
フィブラート系薬剤を処方する際は、胆石形成の早期発見のため定期的な腹部超音波検査(US)が推奨されます。治療開始前に必ず腹部超音波検査を実施し、胆石の有無を確認することが基本です。
参考)VII.薬物による胆嚢病変
投与開始後も、3~6ヶ月ごとの定期的な腹部超音波検査によるモニタリングが重要です。特に高齢者、肥満患者、糖尿病合併例では胆石形成リスクが高いため、より頻回な検査が必要となります。臨床症状としては、上腹部痛、右季肋部痛、食後の不快感などが現れた場合は、速やかに画像検査を実施すべきです。
参考)https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/tanseki_2021.pdf
肝機能検査(AST、ALT)、腎機能検査(血清クレアチニン、eGFR)、CK(クレアチンキナーゼ)値のモニタリングも必須です。特にスタチン系薬剤との併用時は横紋筋融解症のリスクが高まるため、筋肉痛や脱力感などの自覚症状の確認と定期的な血液検査が重要です。ペマフィブラートは他のフィブラート系薬剤に比べスタチンとの併用が可能ですが、それでも注意深い観察が必要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11176141/
胆石症または胆石既往歴のある患者で脂質異常症治療が必要な場合、フィブラート系薬剤以外の治療選択肢を検討する必要があります。
高トリグリセライド血症に対しては、**オメガ-3脂肪酸エチル(エパデール、ロトリガ)**が第一選択となります。オメガ-3脂肪酸は胆石形成リスクがなく、中性脂肪低下作用を有するため、胆石症患者にも安全に使用できます。EPA製剤は1日1800~2700mg、EPA/DHA製剤は1日2~4gが標準用量です。
参考)事例43 経過観察中の疾患に注意が必要な薬について医師に情報…
LDLコレステロール上昇を伴う複合型脂質異常症の場合、スタチン系薬剤が推奨されます。スタチンは主にLDLコレステロール低下作用を示しますが、トリグリセライドも軽度~中等度低下させる効果があります。胆石症患者への使用制限はなく、安全性が高い薬剤です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/45/11/45_1381/_pdf
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬である**エゼチミブ(ゼチーア)**も選択肢の一つですが、動物実験で胆のう胆汁中コレステロール濃度上昇が報告されているため、慎重投与が必要です。ただし、長期服用により糞便中コレステロール排泄量が増加し、胆汁中コレステロール含量が低下する可能性も報告されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00068506.pdf
| 薬剤分類 | 代表的薬剤 | 胆石症患者への使用 | 主な作用 |
|---|---|---|---|
| オメガ-3脂肪酸 | エパデール、ロトリガ | ⭕ 使用可能 | TG低下 |
| スタチン系 | アトルバスタチン、ロスバスタチン | ⭕ 使用可能 | LDL-C低下、TG軽度低下 |
| エゼチミブ | ゼチーア | △ 慎重投与 | 小腸コレステロール吸収阻害 |
| フィブラート系 | ベザフィブラート、フェノフィブラート | ❌ 禁忌 | TG低下、HDL-C上昇 |
日本消化器病学会:胆石症診療ガイドライン2021(治療選択の参考資料)
フィブラート系薬剤服用中に胆石が発見された場合、直ちに薬剤を中止し、代替治療への切り替えを検討する必要があります。
無症候性胆石の場合は、フィブラート系薬剤を中止し、オメガ-3脂肪酸やスタチン系薬剤への変更を行います。胆石のサイズ、個数、位置を超音波検査で詳細に記録し、3~6ヶ月後に再検査を実施して胆石の増大や症状出現がないか確認します。患者には脂肪摂取量の制限、規則正しい食事、適度な運動など生活習慣の改善指導も重要です。
**症候性胆石(胆石発作や胆嚢炎を伴う場合)**では、消化器内科または外科への紹介が必要です。マーフィー徴候陽性、発熱、CRP上昇、白血球増多などの炎症所見がある場合は急性胆嚢炎を疑い、緊急対応が求められます。胆管結石を合併している場合は、黄疸、発熱、疼痛のシャルコーの三徴に注意し、直ちに専門医へ紹介します。
他の脂質異常症治療薬との併用による胆石発見時も同様の対応が必要です。スタチンとフィブラートの併用中に胆石が発見された場合、フィブラートのみを中止し、スタチンは継続可能です。エゼチミブとの併用時も、エゼチミブの胆汁中コレステロール濃度への影響を考慮し、症例ごとに継続の可否を判断します。
医療連携として、薬剤師は処方監査時にフィブラート系薬剤の新規処方患者に対し、胆石症の既往や腹痛の有無を確認する必要があります。また、長期服用患者には定期的な腹部超音波検査受診を促す服薬指導が重要です。消化器専門医との連携により、胆石症の早期発見と適切な治療選択が可能となります。
あまり知られていない点として、ペマフィブラートは従来のフィブラート系薬剤と比較して胆石形成リスクが低い可能性が動物実験で示唆されていますが、臨床では依然として胆石のある患者には禁忌とされています。この点は今後の臨床研究による知見の蓄積が期待されます。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2017/P20170718001/270072000_22900AMX00581_B100_2.pdf
厚生労働省:ペマフィブラートの使用上の注意改訂情報(禁忌項目の詳細)