リン補充薬だけで治療すると、二次性副甲状腺機能亢進症を悪化させるリスクがあります。

低リン血症性くる病は、腎臓からのリン排泄が異常に亢進することで血清リン濃度が低下し、骨石灰化が障害される疾患群です。単純なリン欠乏とは異なります。
最も頻度が高いのはX染色体連鎖性低リン血症(XLH)で、原因疾患の約80%を占めます。XLHでは、PHEX(phosphate-regulating endopeptidase homolog, X-linked)遺伝子の機能喪失型変異により、骨芽細胞や骨細胞から線維芽細胞増殖因子23(FGF23)が過剰に分泌されます。
FGF23は腎尿細管においてNaPi-IIa・NaPi-IIcトランスポーターの発現を抑制し、リン再吸収を低下させます。また、1α-水酸化酵素(CYP27B1)を抑制することで活性型ビタミンD(1,25(OH)₂D)の産生も低下させます。これが血清リン低値・骨軟化症・低身長という三徴の基盤です。
XLH以外の主な原因としては以下があります。
つまり「低リン血症性くる病=FGF23過剰」とは必ずしも言えません。HHRHはFGF23が低値または正常であるため、治療方針が大きく異なる点に注意が必要です。血清FGF23値の測定は、病型分類の第一歩として必須です。
診断には血液・尿の生化学検査、骨X線、そして確定診断として遺伝子検査が必要です。
血清検査でまず確認すべき項目は、血清リン(年齢別基準値との比較が必須)・血清カルシウム・ALP(アルカリホスファターゼ)・PTH・1,25(OH)₂D・FGF23です。低リン血症性くる病では、血清リン低値・ALP高値が基本所見です。カルシウムは正常範囲内に保たれていることが多く、これがビタミンD欠乏性くる病と大きく異なる点です。
尿検査では、尿細管リン再吸収率(TRP)および体重補正リン排泄率(TmP/GFR)を算出します。TmP/GFRが低下していれば、腎性リン喪失を示唆します。
| 検査項目 | XLH・ADHR・ARHR | HHRH | ビタミンD欠乏 |
|---|---|---|---|
| 血清リン | ↓ | ↓ | ↓ |
| 血清カルシウム | 正常 | 正常〜↑ | ↓ |
| PTH | 正常〜↑ | ↓ | ↑ |
| 1,25(OH)₂D | 正常〜↓ | ↑ | ↓ |
| FGF23 | ↑ | 正常〜↓ | 正常 |
| 尿中カルシウム | 正常〜低値 | ↑(高カルシウム尿) | ↓ |
骨X線では、成長期であれば骨幹端の拡大・杯状変形・毛羽立ち(fraying)が特徴的所見です。下肢の内反または外反変形、身長低下も重要な臨床所見です。成人では骨軟化症として偽骨折(ルーサー帯)が確認されることがあります。
確定診断には遺伝子検査が有用です。PHEX遺伝子変異の検出はXLH確定診断の根拠となります。ただし、病的変異が検出されない場合でも臨床診断は可能であり、遺伝子検査の陰性結果だけで否定してはいけません。これが原則です。
ブロスマブ登場以前、XLHの標準治療は経口リン製剤と活性型ビタミンD製剤(カルシトリオールまたはアルファカルシドール)の併用でした。この方法は現在も使用されていますが、限界と副作用リスクを正確に理解して運用する必要があります。
リン補充の目的は血清リン値を正常化し、骨石灰化を促進することです。しかし、経口リン製剤を頻回投与(1日4〜5回)しても、腸管からの吸収効率は高くなく、血清リン値の改善は一時的です。服薬アドヒアランスの低下も大きな課題です。
活性型ビタミンD製剤を併用する理由は、FGF23によって抑制された1,25(OH)₂D産生を補うためです。ただし、過剰投与になると高カルシウム血症・高カルシウム尿症・腎石灰化・腎不全を招きます。腎石灰化はXLH患者の50%以上で認められるとする報告もあり、長期治療中の定期的な腎超音波検査は必須です。
二次性副甲状腺機能亢進症も問題です。リン補充によりFGF23がさらに刺激されるほか、腸管内でカルシウムとリンが結合することでカルシウム吸収が低下し、PTHが上昇します。この悪循環を放置すると、成長期における骨変形の改善が不十分となります。
従来療法の限界は以下の通りです。
これは知っておくべきことですね。従来療法でも治療の意義はありますが、患者の年齢・病状・合併症リスクに応じた慎重な用量調節と定期モニタリングが不可欠です。
ブロスマブ(一般名:burosumab、製品名:クリースビータ®)は、FGF23に対するヒト型IgG1モノクローナル抗体です。FGF23を直接中和することで、腎臓でのリン再吸収を回復させ、1,25(OH)₂D産生も改善します。これは根本的なアプローチです。
日本では2019年に承認され、小児(1歳以上)と成人のXLHを適応としています。TIOに対しても有効性が示されており、外科的切除が困難な例や腫瘍が特定できない例でも選択肢となります。
投与方法は皮下注射で、以下の通りです。
臨床試験(CX-011試験など)では、小児XLH患者において64週後に骨軟化症の組織学的改善が、24週時点でRSS(くる病重症度スコア)の有意な改善が確認されています。成人においても偽骨折の治癒促進が報告されています。
重要な注意点として、ブロスマブ投与中は経口リン製剤・活性型ビタミンD製剤の同時使用を原則禁忌とします。理由は高リン血症・石灰化亢進リスクがあるためです。投与前には必ず前療法を中止(通常1週間以上の休薬期間)する手順を確認してください。
モニタリング項目として、投与開始後4週間は2週間ごとに、その後は4週間ごとに血清リン・カルシウム・PTH・ALP・FGF23を測定することが推奨されます。注射部位反応(発赤・腫脹・そう痒感)が最も頻度の高い副作用で、約10〜20%に認められます。アナフィラキシーは稀ですが、初回投与後30分程度の経過観察は実施してください。
価格についても触れておくと、ブロスマブは非常に高価な薬剤であり、体重20kgの小児に0.8mg/kgを2週間ごとに投与した場合、年間薬剤費は数百万円規模になります。高額療養費制度・小児慢性特定疾病医療費助成制度・難病医療費助成制度の活用が現実的な対応となりますので、医療ソーシャルワーカーとの連携も意識してください。
低リン血症性くる病は小児期の疾患と思われがちですが、成人になっても骨軟化症・骨格変形・関節痛・腱付着部石灰化・脊柱管狭窄症などが進行・残存します。これは意外ですね。
成人XLH患者の約50〜70%が慢性疼痛を主訴とし、生活の質(QOL)が著しく低下しているとする欧州の大規模調査があります。特に股関節・膝関節・足関節周囲の腱石灰化と仮骨形成が疼痛の原因として多く、画像所見と症状のギャップに気づかないまま「原因不明の関節痛」として扱われているケースが少なくありません。
整形外科的介入が必要になる代表的な場面は以下です。
見落とされやすい合併症として、成人XLHでは聴力障害(感音性難聴)が報告されています。約20〜30%に難聴が認められるとする報告があり、定期的な聴力検査も長期フォローアップの一環として組み込むことが望ましいです。
成人患者の管理は小児科・内分泌科だけでなく、整形外科・腎臓内科・耳鼻咽喉科・歯科口腔外科(歯周炎・歯根膿瘍のリスク増加)など多科連携が求められます。この多職種連携こそが、成人XLH管理の質を決定する条件です。
ブロスマブの成人への使用は2021年以降日本でも実績が積み重ねられており、成人においても骨痛・疲労感・偽骨折治癒に関する改善報告が増えています。「成人には効果が薄い」という先入観は修正が必要な段階に来ています。
参考情報として、日本小児内分泌学会および日本骨代謝学会が共同で作成したガイドライン・診療指針が、疾患の概念・診断・治療・管理の全体像を把握するうえで非常に有用です。
Mindsガイドラインライブラリ(公益財団法人日本医療機能評価機構):低リン血症性くる病を含む代謝性骨疾患のガイドラインや診療指針を検索・閲覧できます。治療の根拠となる推奨グレードの確認に役立ちます。
日本小児科学会:XLHをはじめとする小児期発症の低リン血症性くる病に関する最新情報・学会誌へのアクセスが可能です。診断基準や薬剤使用に関する声明も掲載されています。
日本内分泌学会:FGF23関連疾患・骨代謝疾患の診断と治療に関する専門情報が掲載されており、成人例の管理方針を検討する際の参考になります。