トリヨードサイロニン基準値と甲状腺機能検査の臨床的意義

トリヨードサイロニン(T3)の基準値は甲状腺機能を評価する重要な指標です。測定方法や遊離型T3の特徴、異常値が示す疾患について詳しく解説します。医療従事者の皆様は正確な基準値を理解していますか?

トリヨードサイロニン基準値と測定意義

📋 トリヨードサイロニン基準値の概要
🔬
総T3の基準値

76~177 ng/dL(測定方法により57~152 ng/dLまたは0.80~1.60 ng/mL)

遊離T3(FT3)の基準値

1.68~3.67 pg/mL(または2.3~4.0 pg/mL)

💡
T3の特性

T4の4~5倍の生理活性を持ち、速効性で代謝に深く関与

トリヨードサイロニン基準値の測定方法と意義

 

 

トリヨードサイロニン(T3)は甲状腺ホルモンの一種で、サイロキシン(T4)とともに体内の代謝調節に重要な役割を果たしています。T3の測定は主にECLIA法(電気化学発光免疫測定法)を用いて実施され、血清中の濃度を正確に定量できます。
臨床検査における基準値は測定施設や測定方法により若干の差異がありますが、総T3の一般的な基準値は76~177 ng/dL、または57~152 ng/dL、あるいは0.80~1.60 ng/mLと設定されています。

 

参考)基準値一覧ページ2

T3の約20%のみが甲状腺から直接分泌され、残り約80%は末梢組織(主に肝臓や腎臓)においてT4が脱ヨード化されることで産生されます。この末梢での変換機構により、T3はT4の前駆体ホルモンから生成される活性型ホルモンとして機能します。T3の生理活性はT4の4~5倍と非常に強力で、エネルギー代謝、タンパク質合成、酸素消費の調節において中心的な役割を担っています。

 

参考)Thref="https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.html" target="_blank">https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.htmllt;subhref="https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.html" target="_blank">https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.htmlgt;3href="https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.html" target="_blank">https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.htmllt;/subhref="https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.html" target="_blank">https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060750.htmlgt;(トリヨードサイロニン)|臨床検査…

測定されたT3値は甲状腺機能の状態だけでなく、T4の末梢代謝状態を反映する重要な指標となります。特にT3 thyrotoxicosisと呼ばれる甲状腺機能亢進状態では、T4濃度やTBG(サイロキシン結合グロブリン)が正常範囲内であってもT3濃度のみが高値を示すため、T3測定により初めて診断可能となるケースがあります。

 

参考)トリヨードサイロニン (T3)〔CLEIA〕

トリヨードサイロニン遊離型(FT3)と結合型の違い

血液中のT3の約99.7%以上はTBG、アルブミン、プレアルブミンなどのタンパク質と結合した不活性型として存在し、生理活性を持つ遊離型(FT3)はわずか0.2~0.3%に過ぎません。この遊離型のみが細胞膜を通過して標的細胞内に入り、核内受容体に結合してホルモン作用を発揮します。

 

参考)トリヨードサイロニン(T3)

FT3の基準値は1.68~3.67 pg/mLまたは2.3~4.0 pg/mLと設定されており、施設によって若干の違いがあります。総T3の測定値はTBGなどの結合タンパク質の濃度変動の影響を受けるため、妊娠や経口避妊薬投与などでTBGが増加している場合には、甲状腺機能が正常であっても総T3値は上昇します。一方、FT3はTBGの影響を受けないため、TBG異常症患者における甲状腺機能の正確な評価に極めて有用です。

 

参考)遊離トリヨードサイロニン (Free T3)〔CLEIA〕

現在の測定技術では自己抗体の影響を受けない測定法も開発されており、より正確なFT3値の測定が可能となっています。FT3は日内変動が小さく、食事や運動の影響もほとんど受けないため、採血時の特別な制約がないという利点があります。甲状腺機能亢進症の治療経過においては、FT3はFT4よりも遅れて正常化する傾向があり、逆に病態増悪時には先行して上昇するため、これらの測定は病勢把握において重要な役割を果たします。

 

参考)遊離トリヨードサイロニン(FT3)|甲状腺|内分泌学検査|W…

トリヨードサイロニン高値を示す甲状腺機能亢進症

T3が高値を示す代表的な疾患は甲状腺機能亢進症であり、特にバセドウ病プランマー病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎の急性期などで顕著な上昇が認められます。甲状腺機能亢進症では血清T3の上昇がT4の上昇を通常上回りますが、これはT3分泌の亢進と末梢組織でのT4からT3への変換促進によるものです。

 

参考)甲状腺機能の概要 - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 - M…

甲状腺機能亢進症の症状は多岐にわたり、動悸、頻脈、多汗、手指の震え、体重減少、食欲亢進、神経質、不安、不眠、疲労感、暑さに対する過敏性、排便回数の増加や下痢などが特徴的です。バセドウ病では眼球突出や甲状腺腫大も伴うことがあります。これらの症状の多くはアドレナリン系ホルモンに対する感受性亢進に起因し、全身の代謝が亢進した状態を反映しています。

 

参考)甲状腺機能亢進症 - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 - M…

T3中毒症は、T3のみが上昇しT4は正常範囲内という特殊な病態で、バセドウ病、多結節性甲状腺腫、自律性機能性単発性甲状腺結節など様々な原因で発現する可能性があります。治療しない場合、通常は典型的な甲状腺機能亢進症の臨床検査値異常へと進行します。TBG増多症やTSH産生下垂体腺腫もT3高値の原因となります。​
甲状腺機能亢進症の詳細な症状と診断方法について(MSDマニュアル)

トリヨードサイロニン低値と甲状腺機能低下症の関連

T3が低値を示す主な疾患には、原発性甲状腺機能低下症(粘液水腫、クレチン病)、二次性(下垂体性)甲状腺機能低下症、慢性甲状腺炎(橋本病)、TBG減少症などがあります。甲状腺機能低下症では、遊離トリヨードサイロニン(FT3)低値、遊離サイロキシン(FT4)低値、甲状腺刺激ホルモン(TSH)高値という典型的なパターンを示します。

 

参考)甲状腺機能低下症

ただし、軽度の甲状腺機能低下症では、FT3は基準範囲内に留まることがあり、FT4とTSHの測定がより診断的価値が高いとされています。甲状腺機能低下症の症状には、易疲労感、浮腫、体重増加、記銘力低下、便秘、皮膚の乾燥、汗をかきにくい、脱毛、声のかすれ、寒がりなどが含まれます。

 

参考)遊離トリヨードサイロニン

治療は甲状腺ホルモン補充療法が基本で、合成T4製剤(レボチロキシン、チラージンS®)が第一選択薬として用いられます。末梢組織でのT4からT3への脱ヨード酵素による変換により、内因性のT3が生成されるため、通常はT4単独投与で十分な効果が得られます。投与量はTSHが正常値に戻るまで徐々に調整し、特に高齢者や冠動脈疾患を有する患者では心筋虚血のリスクがあるため、少量から慎重に開始する必要があります。

 

参考)https://s-igaku.umin.jp/DATA/59_06/59_06_02.pdf

粘液水腫性昏睡のような緊急時には、合成T4またはT3、あるいは両方が静脈内投与されることもあります。

 

参考)トリヨードサイロニン (T3)(2021年9月30日ご依頼分…

甲状腺機能低下症の治療と管理方法について(慶應義塾大学病院KOMPAS)

トリヨードサイロニン測定における臨床上の注意点

T3測定における重要な臨床的注意点として、非甲状腺疾患症候群(euthyroid sick syndrome)における解釈が挙げられます。重症疾患や慢性疾患を有する患者では、甲状腺機能は実際には正常であるにもかかわらず、T3値の低下が最もよくみられる異常所見となります。より重症または罹病期間が長い患者ではT4値も低下し、リバースT3(rT3)値は上昇します。この病態は末梢でのT4からT3への変換抑制、rT3のクリアランス低下、甲状腺ホルモンのTBGに対する結合性低下などの機序により生じると考えられています。

 

参考)甲状腺機能正常症候群(euthyroid sick synd…

慢性腎臓病CKD)患者における甲状腺機能評価も特殊な考慮が必要です。末期腎不全では非甲状腺疾患として軽度のFT4、FT3低値、TSH高値が特徴的ですが、それぞれの病態に応じた基準範囲と比較する必要があります。また、過剰なヨード摂取による可逆性甲状腺機能低下症は、慢性腎臓病において進行に応じて高頻度にみられ、腎臓のヨード排泄能が甲状腺の自動調節機能に重要であることが示唆されています。
参考)慢性腎臓病と甲状腺疾患

甲状腺疾患の診断においては、現在TSHと活性型ホルモンであるFT4(またはFT3)の測定が最も重要とされ、総T4や総T3は第一選択の検査とはされなくなっています。これはFT3やFT4がTBGなどの結合タンパク質の影響を受けず、真の甲状腺機能状態をより正確に反映するためです。妊娠中や肝・腎疾患などTBG濃度が変動する状況では、特にFT3測定の臨床的有用性が高まります。

 

参考)遊離トリヨードサイロニン(FT3)

甲状腺機能亢進症の治療経過観察や再発の早期発見においても、T3測定は有用な指標となります。治療による寛解例ではFT3はFT4に遅れて正常化する傾向があり、定期的なモニタリングが重要です。

 

参考)甲状腺機能低下症の原因や症状・気を付けるべき食事について解説…

慢性腎臓病における甲状腺機能異常の評価と基準範囲について(日本透析医学会誌)