IL-23阻害薬は、体軸性脊椎関節炎(axSpA)には効果がありません。
IL-23は、p19とp40の2つのサブユニットが結合したヘテロ二量体のサイトカインです。このうちp40はIL-12とも共有されているため、p40を標的とするウステキヌマブ(ステラーラ®)はIL-12とIL-23の両方を阻害します。一方、現在主流となっている「選択的IL-23阻害薬」はIL-23に固有のp19サブユニットのみを標的とする点が本質的な違いです。つまりIL-23のみをピンポイントで抑えるということですね。
IL-23の主な役割はTh17細胞の分化・維持・活性化です。Th17細胞はIL-17A、IL-17F、IL-22などの炎症性サイトカインを産生し、乾癬・クローン病・潰瘍性大腸炎の病態に深く関与することが明らかになっています。IL-23を上流で遮断することで、これらサイトカインのカスケード全体を抑制できる。これがIL-23阻害薬の設計思想の核心です。
重要な点として、IL-12はウイルスや細菌に対する生体防御や抗腫瘍免疫に関与しています。選択的IL-23阻害薬がIL-12に手を触れない設計になっているのは、この免疫防御機能への影響を最小化するためです。IL-23のみを阻害することが理論上のメリット、ということです。ただし、現時点でIL-12阻害を避けることによる実際の安全上の優位性は、大規模比較研究では結論が出ていません。
なお、Th17細胞が産生するIL-17を直接阻害するIL-17阻害薬と比較した場合、IL-23阻害薬は「上流」での制御であるため、作用発現がやや緩やかな反面、IL-17産生経路以外のTh17関連経路も包括的に抑制できる可能性があります。皮膚病変への有効性が特に高い傾向があるのはこのためとも考えられています。
参考:日本皮膚科学会による乾癬の生物学的製剤使用ガイダンス(2022年版)では、IL-23阻害薬の作用機序と使用指針がまとめられています。
日本皮膚科学会 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022年版)
現在、日本で使用可能な選択的IL-23(p19)阻害薬は主に3剤あります。グセルクマブ(トレムフィア®)・リサンキズマブ(スキリージ®)・ミリキズマブ(オンボー®)です。同じIL-23阻害という作用機序でも、適応症・投与経路・点滴時間・維持投与間隔が大きく異なります。薬剤選択は患者背景と生活スタイルにも直結する問題です。
以下に3剤の主な特徴を整理します。
| 薬剤名(商品名) | 主な適応疾患 | 導入時点滴時間 | 維持投与間隔 | 自己注射 |
|---|---|---|---|---|
| グセルクマブ(トレムフィア®) | 乾癬各種・掌蹠膿疱症・UC・CD | 約60分(200mg) | 8週(100mg)または4週(200mg) | ❌(要医療機関) |
| リサンキズマブ(スキリージ®) | 乾癬各種・掌蹠膿疱症・UC・CD | 約120分(1200mg/UC) | 8週(皮下注) | ❌(要医療機関) |
| ミリキズマブ(オンボー®) | UC・CD | 約30分(300mg/UC) | 4週(200mg) | ✅(2024年6月〜) |
乾癬の皮膚症状に対するデータを見ると、IL-23阻害薬全体でPASI90(皮疹の90%以上改善)達成率はプラセボと比較して約6倍に達することが2025年のメタ解析で示されました。グセルクマブを用いた臨床試験では、投与16週時点でPASI90達成率が約70%、PASI100(完全寛解)も30〜40%に達したとの報告があります。これは使えそうなデータです。
IBD領域では、クローン病(CD)を対象とした直接比較試験において、リサンキズマブ(SEQUENCE試験)とグセルクマブ(GALAXI-2/3試験)がいずれもウステキヌマブに対して優越性を示したことが注目されています。ミリキズマブ(VIVID-1試験)はウステキヌマブに対して非劣性を示しました。つまりp19選択的IL-23阻害薬は「ステラーラ以上の選択肢」として位置づけられます。
潰瘍性大腸炎(UC)については、3剤ともプラセボに対して有意な有効性が確認されていますが、3剤間の大規模直接比較試験はまだ実施されていない状況です。そのため、投与時間・自己注射の可否・維持投与頻度などの実務的な観点が選択の重要な基準になります。
参考:炎症性腸疾患(IBD)におけるIL-23p19阻害薬3剤の使い分けと実践的考察を論じたレビュー(Journal of Crohn's and Colitis 2025年8月号)。
CareNet Academia:IBDにおけるIL-23p19阻害薬の選択と使い分け、実践的考察(2025年8月)
ここは医療従事者にとって特に注意が必要なポイントです。IL-23阻害薬は乾癬性関節炎(PsA)の皮膚・関節症状の両方に有効ですが、体軸性脊椎関節炎(axSpA:強直性脊椎炎・X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)に対しては有効性が示されていません。これは大事な原則です。
なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?PsAと axSpAは同じ脊椎関節炎(SpA)のスペクトラムに属していますが、炎症経路に違いがあることが示されています。axSpAにおける脊椎・仙腸関節炎症の維持にはIL-17が中心的な役割を果たしており、IL-23をブロックしてもIL-17産生が維持される経路が存在すると考えられています。一方、PsAや乾癬ではIL-23→Th17→IL-17の経路が主要であるため、上流のIL-23を抑えることが直接的に有効です。
実臨床での注意点として、PsAに体軸性の脊椎炎症状が合併している患者(混合型)では、IL-23阻害薬を選択すると皮膚・末梢関節症状は改善しても脊椎症状がカバーできない可能性があります。体軸症状が顕著な場合はIL-17阻害薬やTNF阻害薬を優先することが推奨されています。炎症性腸疾患が合併する場合にはIL-17阻害薬は禁忌となるため、その場合の選択もさらに複雑になります。
日本リウマチ学会が公表している「乾癬性関節炎(PsA)に対するIL-12/23阻害薬およびIL-23阻害薬使用の手引き」は、実臨床での意思決定に役立ちます。
参考:PsA・axSpAへの生物学的製剤選択基準が詳説されたリウマチ学会公式ガイダンス。
日本リウマチ学会:乾癬性関節炎(PsA)に対するIL-12/23阻害薬およびIL-23阻害薬使用の手引き
安全性の観点では、IL-23 p19選択的阻害薬は他の生物学的製剤と比べて概して良好なプロファイルを示しています。主な副作用は注射部位反応(発赤・腫脹・疼痛)、頭痛・倦怠感、上気道感染(鼻咽頭炎など)や水虫などの感染症です。重篤な感染症やアナフィラキシーは1〜5%未満と報告されており、IL-23 p19阻害薬に特有の重篤な副作用は現時点では確認されていません。
注目すべきは、カンジダ(カビ)感染リスクの違いです。IL-17阻害薬ではカンジダ感染の増加が問題になりますが、IL-23阻害薬ではカンジダ感染リスクの上昇が認められていません。これはp19選択的阻害によりTh17細胞の抗真菌防御機能が保たれやすいためと考えられています。この点はIL-17阻害薬との使い分けで重要な視点になります。
副作用として覚えておけばOKです。
投与前の評価として最低限必要なのは以下の通りです。
IBD合併例での一点注意として、乾癬にIL-17阻害薬を使用しているとクローン病・潰瘍性大腸炎を誘発または増悪させる「逆説的反応」が問題になることがあります。生物学的製剤による治療を受けた乾癬患者が湿疹(逆説的湿疹)を発症するリスクは、IL-23阻害薬投与患者で最も低かったという報告(CareNet 2024年1月)もあり、IBD既往または高リスク患者への選択優先度を高める根拠のひとつになっています。
参考:乾癬患者における生物学的製剤と逆説的湿疹リスクの比較を報告した記事。
CareNet:乾癬への生物学的製剤、逆説的反応リスクは?(2024年1月)
IL-23阻害の概念は注射製剤にとどまらず、経口投与が可能な新しいアプローチにも拡張されています。開発中のicotrokinra(イコトロキンラ)は、IL-23受容体への結合を選択的に阻害するよう設計された初の「標的型経口ペプチド」です。注射薬ではなく、飲み薬という点が画期的です。
第III相試験(ICONIC-LEAD)では、中等症〜重症の尋常性乾癬に対してIGA 0/1(皮疹ほぼ消失)の達成率がicotrokinra群65%・プラセボ群8%、PASI90達成率がicotrokinra群50%・プラセボ群4%という良好な成績が示されています。潰瘍性大腸炎に対する第III相試験でも有望な結果が2025年11月に報告されており、将来的に経口IL-23阻害という選択肢が実臨床に登場する可能性があります。
一方、現在IBD領域で臨床使用されている3剤(グセルクマブ・リサンキズマブ・ミリキズマブ)は、生物学的製剤として既存治療で効果不十分な中等症〜重症患者に使用される位置づけです。2023年のクローン病有病者数は約9.6万人、潰瘍性大腸炎は約31.7万人(東邦大学2025年調査)と8年間で1.4倍に増加しており、IBD治療薬の選択肢の多様化は臨床上ますます重要になっています。
また独自の視点として、疾患修飾効果(Disease Modification)の可能性が近年議論されています。IL-23阻害薬を長期使用した乾癬患者において、投与中断後も一定期間「寛解が維持される」ケースが報告されています。これはTRM17細胞(組織常在性メモリーTh17細胞)のリセットに関係する仮説が提唱されており、単なる症状抑制を超えた疾患修飾効果の可能性を示唆するものです。現在はまだ仮説段階ですが、医療従事者として今後の研究動向として追っておく価値があります。
参考:経口IL-23阻害薬icotrokinraの第III相試験(ICONIC-LEAD)の臨床成績。
Hokuto:重症乾癬に経口IL-23受容体阻害薬が奏効:第III相ICONIC-LEAD試験
参考:グセルクマブ(トレムフィア®)のクローン病・潰瘍性大腸炎への適応追加に関する最新情報。
Johnson & Johnson:トレムフィア®の皮下注製剤、導入および維持療法を提供する初めてのIL-23p19阻害剤に(2026年2月)