脂質異常症治療において最も広く使用されているのがHMG-CoA還元酵素阻害剤、いわゆるスタチン系薬剤です。現在日本で使用可能なスタチンは6種類あり、それぞれ異なる特徴を持っています。
主要なスタチン系薬剤の一覧:
スタチンの作用機序は、肝臓におけるコレステロール生合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素を阻害することです。これにより肝臓でのコレステロール産生が減少し、LDL受容体の活性が増強され、血液中のLDLコレステロールが効果的に低下します。
スタチンが汎用される理由として、LDLコレステロールと中性脂肪を下げ、HDLコレステロールを上げるという理想的な脂質プロファイル改善作用があります。さらに重要なのは、スタチンが脂質異常症治療の真の目的である心筋梗塞などの心血管イベントの発症を確実に減らす効果が臨床試験で証明されていることです。
薬価情報(2025年5月現在):
フィブラート系薬剤は、主に中性脂肪(トリグリセライド)の低下を目的として使用される脂質降下薬です。肝臓での中性脂肪合成を抑制し、HDLコレステロールを上昇させる効果も認められています。
主要なフィブラート系薬剤:
ペマフィブラートは従来のフィブラート系薬剤とは異なり、選択的PPARαモジュレーターとして分類されます。PPARα(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α)を選択的に活性化することで、脂質代謝を改善します。
フィブラート系薬剤の効果:
副作用として注意すべきは横紋筋融解症のリスクです。特にスタチン系薬剤との併用時にはリスクが増加するため、慎重な観察が必要です。また、胆石症のリスクも報告されており、定期的な検査が推奨されます。
2018年10月16日付でスタチンとフィブラートの腎機能低下例における原則禁忌が解除されましたが、依然として注意深い投与が求められます。
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬の代表的な薬剤がエゼチミブ(商品名:ゼチーア)です。小腸でのコレステロール吸収を選択的に阻害することで、血中コレステロールを低下させます。
エゼチミブの特徴:
PCSK9阻害薬は比較的新しい分類の脂質降下薬で、現在使用可能な薬剤は以下の通りです。
PCSK9阻害薬は、LDLコレステロールを50%以上低下させる強力な効果を持ちます。ただし、適応が限定されており、家族性高コレステロール血症や心血管イベントの発現リスクが高く、かつHMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分または治療が適さない場合に限定されています。
陰イオン交換樹脂(レジン):
これらの薬剤は胆汁酸と結合して排泄を促進し、肝臓でのコレステロール消費を増加させることでLDLコレステロールを低下させます。
脂質異常症治療薬の分野では、従来の薬剤の限界を克服する新規化合物の開発が活発に行われています。特に注目すべき研究成果の一つが、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所で開発されたZTA-261です。
ZTA-261は甲状腺ホルモン受容体β(THRβ)に選択的に結合する新規甲状腺ホルモン誘導体として開発されました。従来の甲状腺ホルモンは脂質代謝を改善する効果がある一方で、甲状腺ホルモンα受容体(THRα)を介した重篤な副作用(骨密度低下、心拍数異常など)が問題となっていました。
ZTA-261の特徴:
この研究成果は2024年8月6日付でイギリス医学雑誌「Communications Medicine」に掲載され、将来的な脂質異常症治療薬として期待されています。
その他の新規アプローチ:
これらの新規薬剤は、従来の治療では効果不十分な難治性症例や、特殊な病態に対する治療選択肢を提供します。
名古屋大学による新規甲状腺ホルモン誘導体ZTA-261の研究詳細
脂質降下薬の選択において、薬価は重要な考慮要因の一つです。特にジェネリック医薬品の普及により、薬剤費の大幅な削減が可能となっています。
主要スタチン系薬剤の薬価比較(5mg製剤):
臨床での選択基準:
脂質降下薬の選択には「Treat to Target」と「Fire and Forget」という2つの考え方があります。「Treat to Target」は目標値達成を重視し、薬剤調整を行う方法で、「Fire and Forget」は一定用量で継続する方法です。
薬剤選択の実際的考慮点:
n-3系多価不飽和脂肪酸の位置づけ:
これらの薬剤は、中性脂肪に対する効果は限定的ですが、安全性が高く、他の薬剤との併用も可能です。
配合剤の活用:
近年、アトーゼット配合錠(エゼチミブ・アトルバスタチン配合)のような配合剤も登場し、服薬コンプライアンスの向上と治療効果の向上が期待されています。
日本動脈硬化学会によるスタチン不耐に関する診療指針
適切な脂質降下薬の選択には、患者個々の病態、併存疾患、薬物相互作用、費用対効果を総合的に評価することが不可欠です。また、定期的な効果判定と副作用モニタリングを行い、必要に応じて薬剤変更や用量調整を検討することが重要です。