フィブラート系薬の種類と一覧
フィブラート系薬の概要
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主要4成分
クロフィブラート、ベザフィブラート、フェノフィブラート、ペマフィブラートの特徴
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作用機序
PPARα活性化による中性脂肪低下とHDLコレステロール上昇効果
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臨床効果
高トリグリセリド血症と低HDL血症への適応と使い分けのポイント
フィブラート系薬の主要4種類の特徴
フィブラート系薬は現在、日本で承認されている主要な成分が4種類あります。それぞれの特徴を詳しく解説します。
1. クロフィブラート(クロフィブラートカプセル250mg「ツルハラ」)
- 用法・用量:1日2〜3回、250mg×2〜3カプセル
- 薬価:10.4円/カプセル
- 特徴:最も古いフィブラート系薬で、現在は後発品のみ販売
- 禁忌:胆石のある患者やその既往のある患者
- 注意点:胆石形成の副作用リスクが高いため使用頻度は低下
2. ベザフィブラート(ベザトールSR錠)
- 用法・用量:1日2回、朝夕食後200mg×2回
- 薬価:先発品13.5円/錠(200mg)、後発品10.4円/錠
- 特徴:徐放コーティングされており、粉砕・半割不可
- 腎機能による調整:血清クレアチニン値1.5mg/dL超で1日1回200mgに減量
- 禁忌:透析や腎不全、血清クレアチニン値2.0mg/dL以上
- 特殊用途:原発性胆汁性胆管炎(PBC)の適応外治療でウルソとの併用
3. フェノフィブラート(リピディル錠・トライコア錠)
- 用法・用量:1日1回、106.6〜160mg、食後服用
- 薬価:先発品15.1〜20円/錠、後発品8.8〜10.4円/錠
- 特徴:1日1回投与で服薬コンプライアンスが良好
- 固体分散体化技術により吸収性向上
- 尿酸トランスポーター(URAT1)阻害作用で尿酸値も低下
- 腎機能制限:血清クレアチニン値2.5mg/dL以上で禁忌
4. ペマフィブラート(パルモディア錠・パルモディアXR錠)
- 用法・用量:1日2回0.1mg、最大0.4mg
- 薬価:32.4円/錠(0.1mg)、60〜111円/錠(XR錠)
- 特徴:世界初の選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα)
- 食事の影響なし、従来品より副作用頻度が少ない
- 2019年6月に長期投与解禁
フィブラート系薬の作用機序とPPARα
フィブラート系薬の作用機序は、核内受容体であるペルオキシゾーム増殖剤応答性レセプターα(PPARα)の活性化にあります。この作用機序は1990年代まで不明でしたが、現在では詳細なメカニズムが解明されています。
PPARα活性化による主要な作用:
- 中性脂肪分解の促進:リポタンパクリパーゼ(LPL)の活性化により、中性脂肪を遊離脂肪酸とグリセリンに分解
- 中性脂肪合成の抑制:アセチルCoAカルボキシラーゼを抑制し、肝臓での中性脂肪合成を阻害
- HDLコレステロール増加:HDLの構成タンパク質であるアポA-1、アポA-2の転写を促進
- 抗炎症作用:血管平滑筋増殖抑制、フィブリノーゲンやCRP抑制
従来型フィブラートとSPPARMαの違い:
従来のフィブラート系薬(ベザフィブラート、フェノフィブラート)は非選択的にPPARに作用しますが、ペマフィブラートはPPARα選択的です。この選択性により、ペマフィブラートは。
- より強力なTG低下作用
- より良好な安全性プロファイル
- 肝機能悪化やクレアチニン上昇等の副作用頻度の軽減
臨床効果の比較:
ベザフィブラートとフェノフィブラートの効果を比較すると。
薬剤 |
TG低下 |
HDL上昇 |
LDL低下 |
TC低下 |
ベザフィブラート |
30〜57% |
32〜48% |
12〜21% |
11〜19% |
フェノフィブラート |
40〜48% |
35〜36% |
18〜25% |
12〜17% |
フィブラート系薬の副作用と注意点
フィブラート系薬の使用において、特に注意すべき副作用があります。医療従事者として把握しておくべき重要な副作用とその対策について詳述します。
重篤な副作用:
- 横紋筋融解症 💀
症状:手足や肩、腰の筋肉の痛み、手足のしびれ、手足の力が入らない
発症要因:腎機能障害のある患者、スタチン系薬剤との併用
対策:CK値、血中・尿中ミオグロビン、血清クレアチニンの定期監視
- 胆石症
症状:みぞおちから右わき腹にかけた痛み、胸焼けや吐き気
特に注意:フェノフィブラートで報告、胆のう疾患のある患者は禁忌
- 肝機能障害
頻度:フェノフィブラートで約25%と高率
特徴:一過性のことが多く、投与継続中に自然軽快することが多い
モニタリング:投与開始3ヶ月間は毎月、その後は3ヶ月ごとに肝機能検査
スタチン系薬剤との併用に関する変遷:
2018年10月の添付文書改訂により、スタチン系との併用は「原則禁忌」から「慎重投与」に変更されました。これは国内外のガイドラインで併用禁忌の記載がないことを受けての変更です。
併用時の注意点。
- 定期的な腎機能検査とCK値の監視
- 自覚症状(筋肉痛、脱力感)の確認
- 腎機能悪化時は直ちに投与中止
薬剤特異的な副作用:
- ベザフィブラート:主に腎排泄のため腎機能に特に注意
- フェノフィブラート:肝機能、胆嚢疾患、腎機能の三重チェックが必要
- ペマフィブラート:従来品と比較して副作用頻度が少ない
フィブラート系薬の使い分けと腎機能
フィブラート系薬の選択において、腎機能は最重要な判断基準となります。各薬剤の腎機能による使い分けを詳細に解説します。
腎機能による禁忌・用量調整基準:
ベザフィブラート:
- 禁忌:血清クレアチニン値2.0mg/dL以上、透析患者、腎不全
- 慎重投与・減量:血清クレアチニン値1.5mg/dL超で1日1回200mgに減量
フェノフィブラート:
- 禁忌:血清クレアチニン値2.5mg/dL以上またはクレアチニンクリアランス40mL/min未満
- 減量・投与間隔延長:血清クレアチニン値1.5〜2.5mg/dLまたはクレアチニンクリアランス40〜60mL/minで53.3mgから開始
ペマフィブラート:
- 以前の禁忌から変更:eGFR30mL/min/1.73㎡未満で低用量開始または投与間隔延長、1日最大0.2mg
- 2022年10月の改訂で高度腎機能障害での禁忌が解除
臨床現場での選択基準:
🔍 軽度腎機能低下(eGFR 45-60)
- 第一選択:ペマフィブラート(最も安全性が高い)
- 代替選択:フェノフィブラート53.3mgから開始
🔍 中等度腎機能低下(eGFR 30-45)
- 推奨:ペマフィブラート低用量(0.1mg/日)
- 注意:ベザフィブラートは原則避ける
🔍 高度腎機能低下(eGFR <30)
- 唯一の選択肢:ペマフィブラート(慎重投与)
- 他のフィブラート系は禁忌
特殊病態での使い分け:
原発性胆汁性胆管炎(PBC):
ベザフィブラートがウルソとの併用で予後改善効果が期待される適応外使用
高尿酸血症合併例:
フェノフィブラートのURAT1阻害作用により尿酸値も低下。高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインでも有用性が記載されています。
服薬コンプライアンス重視:
- 1日1回投与:フェノフィブラート、ペマフィブラートXR錠
- 1日2回投与:ベザフィブラート、ペマフィブラート通常錠
フィブラート系薬の薬価と処方実態
フィブラート系薬の薬価は薬剤選択において重要な要素となっており、医療経済的観点からの分析が必要です。2025年の最新薬価情報に基づいた処方実態について解説します。
薬価比較(2025年薬価):
クロフィブラート:
- クロフィブラートカプセル250mg「ツルハラ」:10.4円/カプセル
- 1日薬価:20.8〜31.2円(2〜3回投与)
ベザフィブラート:
- 先発品(ベザトールSR):100mg 10.6円、200mg 13.5円
- 後発品:100mg/200mg共に10.4円
- 1日薬価:先発品27円、後発品20.8円
フェノフィブラート:
- 先発品(リピディル・トライコア):53.3mg 15.1〜15.5円、80mg 19.8〜20円
- 後発品:53.3mg 8.8円、80mg 10.4円
- 1日薬価:先発品15.1〜40円、後発品8.8〜20.8円
ペマフィブラート:
- パルモディア錠0.1mg:32.4円
- パルモディアXR錠:0.2mg 60円、0.4mg 111円
- 1日薬価:64.8〜222円
処方実態と医療経済的考察:
📊 処方頻度の変遷
近年の処方動向として、従来のベザフィブラートとフェノフィブラートから、より新しいペマフィブラートへの切り替えが進んでいます。これは。
- 優れた安全性プロファイル
- 強力なTG低下作用
- 腎機能低下例での使用可能性
の利点によるものです。
📊 薬価差による選択の影響
ペマフィブラートは他のフィブラート系薬と比較して薬価が高く、1日薬価で約3〜10倍の差があります。このため。
- 軽症例では後発品のフェノフィブラートが選択されることが多い
- 腎機能低下例や副作用リスクの高い患者でペマフィブラートが選択される
- 医療経済性を考慮した段階的な薬剤選択が行われている
📊 特殊製剤の位置づけ
クロフィブラートは薬価は安価ですが、胆石症リスクや投与回数の多さから処方頻度は低下しています。現在では主に。
- 他のフィブラート系で副作用が出現した場合
- 経済的理由で新しい薬剤が使用できない場合
の限定的な使用となっています。
今後の展望:
2019年にペマフィブラートの長期投与が解禁され、さらにXR錠(徐放製剤)も登場したことで、1日1回投与での利便性が向上しています。今後は。
処方時には患者の腎機能、併存疾患、薬剤費負担、服薬コンプライアンスを総合的に評価し、最適な薬剤選択を行うことが重要です。