アデノシン効果と心筋保護作用メカニズム

アデノシンは心血管系や神経系に多様な生理作用を示す内因性物質です。受容体を介した作用機序、虚血心筋保護効果、臨床応用における重要性について、医療従事者が知っておくべき情報は何でしょうか?

アデノシン効果と作用機序

アデノシンの主要な生理作用
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心血管系への作用

冠血管拡張と心筋保護効果を発揮し、心拍数低下や房室伝導抑制を引き起こします

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受容体を介した作用

A1、A2A、A2B、A3の4種類の受容体サブタイプが組織特異的に作用を発現します

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細胞内情報伝達

Gタンパク質共役型受容体を介してcAMP産生を調節し多様な生理反応を制御します

アデノシン受容体サブタイプと生理作用

 

 

アデノシンは体内に遍在するプリン受容体(P1受容体)に作用し、A1、A2A、A2B、A3の4種類のサブタイプを介して多彩な生理作用を発揮します。これらは全てGタンパク質共役型受容体(GPCR)であり、組織特異的な発現パターンを示します。A1受容体とA3受容体は抑制性Giタンパク質と共役し、アデニル酸シクラーゼを抑制することで細胞内cAMP濃度を低下させます。一方、A2A受容体とA2B受容体は刺激性Gsタンパク質と結合し、アデニル酸シクラーゼを活性化してcAMP産生を増加させます。

 

参考)循環器用語ハンドブック(WEB版) アデノシン/アデノシン受…

受容体サブタイプによってアデノシンへの親和性も異なり、A1およびA2A受容体は1~100nMと高親和性を示す一方、A2BおよびA3受容体は約1μMと低親和性です。この特性により、生理的条件下ではA1とA2A受容体が主に作用し、虚血やストレスなどでアデノシン濃度が上昇した際にはA2BとA3受容体も活性化されます。心筋、平滑筋、脳、血小板、腎臓、白血球などに広く分布するこれらの受容体は、組織ごとに異なる生理作用を媒介します。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/40/6/40_6_381/_pdf/-char/ja

アデノシン産生と冠血管拡張作用

アデノシンは生体内でアデノシン一リン酸(AMP)から5'-ヌクレオチダーゼの作用により生成され、アデノシンキナーゼによりリン酸化されてAMPに変換されるか、アデノシンデアミナーゼにより脱アミノ化されてイノシンとなります。心臓、骨格筋、脳、肝臓などの種々の臓器において血管拡張を司っており、特に冠血管については直径50~200μmの抵抗血管を拡張し、冠血流量増加をもたらすことから、重要な冠血流量調節因子と考えられています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/gnam1999/29/2/29_111/_pdf/-char/ja

虚血や低酸素状態では、心筋から大量のアデノシンが産生され、冠血流量増大、心筋代謝改善、不整脈抑制に作用します。アデノシンは内皮細胞と血管平滑筋のA2受容体に作用して血管を拡張させ、これにより組織への酸素供給を増加させます。また、内皮細胞から産生されるアデノシンは冠血流量制御のみならず、血小板凝集や白血球活性化の抑制にも作用し、血栓形成の防止に寄与します。

 

参考)http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/publication4-8_20170227s.pdf

アデノシン心筋代謝と細胞保護機構

アデノシンは虚血心筋において強力な心筋保護作用を発揮し、可逆的・不可逆的な心筋障害を軽減します。イヌの虚血再灌流モデルにおいて、アデノシン投与が心筋スタニングの抑制や心筋梗塞サイズの縮小効果をもつことが実験的に示されています。この心筋保護作用は、A1受容体を介したKATPチャネルの活性化や、心筋内ATP含量の低下抑制によるものと考えられています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5574028/

A1受容体とA3受容体の活性化は、いずれも低酸素や虚血条件下で心筋細胞傷害を軽減することが明らかになっています。A1受容体はホスホリパーゼCを、A3受容体はホスホリパーゼDをそれぞれ活性化することで、異なる経路を介して心筋保護効果を達成します。両受容体を同時に活性化すると、単独活性化よりも強力な保護効果が得られることから、臨床応用における相乗効果が期待されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5470722/

慢性心不全では、その重症度に比例して内因性のアデノシンレベルが上昇し、アデノシン産生酵素である5'-ヌクレオチダーゼの増加も報告されています。これは生体の代償機構として、心筋保護を強化するための適応反応と考えられます。​

アデノシン臨床応用と負荷試験

医療現場でアデノシンは、十分に運動負荷をかけられない患者において心筋血流シンチグラフィによる心臓疾患の診断を行う場合の負荷誘導剤として用いられています。アデノシンは直接冠動脈に作用することにより、投与直後から最大冠血流増加作用が得られ、投与中は安定した作用を発現します。標準的な投与方法は、1分間当たりアデノシンとして120μg/kgを6分間持続静脈内投与することです。

 

参考)医療用医薬品 : アデノシン (アデノシン負荷用静注60mg…

アデノシンの血中半減期は極めて短く、速やかに代謝されるため、投与終了後は作用が急速に消失します。これにより安全性が高く、副作用が発現した場合でも投与中止により速やかに回復します。心血管系においては、A1受容体を介して心拍数低下、房室伝導抑制、心筋収縮力抑制などを、A2a/A2b受容体を介して冠動脈や末梢動脈の拡張作用を惹起します。

 

参考)https://www.pdradiopharma.com/wpeptip/wp-content/uploads/2022/04/other01.pdf

急性心筋梗塞に対する再灌流療法(経皮的冠動脈形成術や血栓溶解療法など)を施行する際の併用療法としても、アデノシンの有効性が検討されています。虚血プレコンディショニング(短時間虚血の先行による心筋の虚血耐性獲得)においても、アデノシンとA1受容体が重要な役割を果たすことが明らかにされています。

 

参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05454272/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05454272/amp;mdash; 研究課題をさがす

アデノシン副作用と安全性評価

アデノシン投与時の副作用としては、血管拡張に伴う顔面紅潮、頭痛、低血圧、房室伝導抑制による徐脈や一過性の心停止などが報告されています。しかし、アデノシンの血中半減期が極めて短いため、これらの副作用は投与中止後速やかに消失し、重篤な合併症に至ることは稀です。稀に見られる副作用として、アデノシン負荷中に発生するST上昇型冠攣縮性狭心症(異型狭心症)にも留意が必要であり、負荷終了後数分は心電図変化を観察する必要があります。

 

参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2005/P200500014/30077600_21700AMY00166_V100_3.pdf

育毛剤の有効成分としてのアデノシン外用液については、臨床試験でアデノシン外用液が原因と考えられる副作用は特になかったとされています。もちろん塗り薬を塗るため、体に合わなくて発疹が出たりするリスクは0ではありませんが、全体として安全性は高いと評価されています。過剰使用のリスクとしては、頭皮の炎症や刺激、毛穴の詰まりなどが挙げられ、これらの症状が現れた際には使用を中止し、医療機関への相談が推奨されています。

 

参考)薬用アデノシンの効果や副作用についてー発毛に必要な栄養素とは…

抗炎症作用を目的としたATP製剤(アデノシン三リン酸)の投与では、口腔外科手術患者を対象とした研究において、血中TNFα濃度の有意な低下がみられ、術後の血清CRP上昇や疼痛が軽減する傾向が確認されました。in vitro研究では、アデノシンは10μMの濃度において、LPS刺激下でのTNFαおよびIL-10の産生量を有意に抑制したことから、手術に伴う炎症反応を抑制する可能性が示唆されています。

 

参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13470434/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13470434/amp;mdash; 研究課題をさがす

医薬品医療機器総合機構(PMDA)のアデノシン製剤に関する詳細情報
アデノシンの生理作用、薬理作用、臨床使用における注意事項について、医療従事者向けの公式資料として参考になります。

 

心血管制御とアデノシン-臨床へのインパクト-
アデノシンの心血管系における作用機序と臨床応用について、詳細な解説がなされています。

 

東亜栄養医学研究所によるアデノシン受容体の解説
アデノシン受容体の分類、分布、作用機序について医療関係者向けにまとめられています。