ビタミンKは脂溶性ビタミンの一種で、体内でγ-グルタミルカルボキシラーゼという酵素の補助因子として重要な役割を果たしています。血液凝固において、ビタミンKはプロトロンビンなどの血液凝固因子が肝臓で生成される際に必要不可欠な成分です。
参考)https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/vitamin-k.html
プロトロンビンは血漿中で血小板やカルシウムの作用によりトロンビンに変換され、トロンビンがフィブリノーゲンをフィブリンに変化させることで血液を凝固させる仕組みになっています。このため、ビタミンKが不足すると血液中のプロトロンビンが減少し、血液凝固に時間がかかって出血が止まりにくくなります。
参考)https://www.mediq7.com/ja/what-is-vitamin-k2/what-is-vitamin-k/
特に新生児や乳児では、腸内細菌叢が未発達でビタミンKの産生が少なく、母乳中のビタミンK含有量も粉ミルクより少ないため、乳児ビタミンK欠乏性出血症のリスクが高くなります。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%EF%BC%AB%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E7%97%87
ビタミンKは骨の健康維持においても極めて重要な栄養素です。骨に存在するオステオカルシンというタンパク質を活性化(γ-カルボキシル化)することで、カルシウムを骨に沈着させて骨の形成を促進する作用があります。
参考)https://www.kameda.com/pr/osteoporosis/post_38.html
オステオカルシンは骨芽細胞によって産生される非コラーゲン性タンパク質で、骨の非コラーゲン性蛋白の25%を占める重要なカルシウム結合蛋白です。活性化されたオステオカルシンは破骨細胞の活性を抑制する働きもあり、骨の吸収と形成のバランス維持に寄与しています。
参考)https://www.okayama-u.ac.jp/user/kensa/kensa/naibunpiO/oste.htm
このメカニズムにより、ビタミンKは骨密度の増加や骨折予防に効果があるとされ、実際に日本では骨粗鬆症治療薬としてメナキノン-4(メナテトレノン)が使用されています。骨の健康維持のためには、食事摂取基準における摂取目安量よりも多くのビタミンKの摂取が推奨されています。
参考)https://lpi.oregonstate.edu/jp/mic/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3K
天然のビタミンKには主に2つの種類があります。植物が生産するビタミンK1(フィロキノン)と、微生物によって作られるビタミンK2(メナキノン)です。ビタミンK2はさらに側鎖の長さによっていくつかの同族体に分類され、栄養学的に重要なのはメナキノン-4(MK-4)とメナキノン-7(MK-7)です。
参考)http://www.e-expo.net/materials/010252/0020/index.html
特に納豆菌が産生するMK-7は、他のビタミンKと比較して優れた特性を持っています。MK-7はビタミンK1やMK-4よりも吸収性が高く、血中滞留時間が長いため活性が長時間持続することが知られています。これは他のビタミンKに比べて8〜12倍の栄養価に相当するものと考えられています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/14/12/14_555/_pdf
MK-7は栄養的に摂取可能な量(45~360μg/日)の投与により、血管の石灰化を抑制するマトリックスGlaタンパク質(MGP)を活性化できることも明らかになっています。このため、骨の健康維持だけでなく動脈硬化の予防にも効果が期待されています。
ビタミンK欠乏症は主に出血傾向として現れます。消化管出血、皮下出血、鼻出血、血尿などが典型的な症状で、新生児・乳児では頭蓋内出血の頻度が高く、予後不良となることがあります。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/09-%E6%A0%84%E9%A4%8A%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E7%97%87-%E4%BE%9D%E5%AD%98%E7%97%87-%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E4%B8%AD%E6%AF%92/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3k%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E7%97%87
特にビタミンK欠乏が起こりやすいのは以下のような人々です:
参考)https://www.orthomolecular.jp/nutrition/vitamin_k/
診断には血液凝固機能の測定(PTやAPTT)が用いられ、より早期の検出にはPIVKA-II(Proteins induced in vitamin K absence)が有用です。新生児では大泉門を介した超音波検査により頭蓋内出血を迅速に評価することも可能です。
ビタミンKを豊富に含む食品として、納豆が最も効率的な摂取源です。ひきわり納豆は100g当たり930μg、糸引き納豆は600μgのビタミンKを含有しており、1日の摂取目安量150μgを十分に満たすことができます。
参考)https://www.midoridou.jp/nutrition/food_k/
緑黄色野菜では、ほうれん草(油炒め510μg、ゆで320μg、生270μg/100g)、ブロッコリー(125g当たり200μg)、小松菜、春菊などが優良な摂取源となります。ビタミンKは脂溶性のため、油と一緒に摂取することで吸収効率が向上します。
参考)https://tenroku-orthop.com/column/1493/
興味深いことに、人間の腸内細菌もビタミンKを産生しています。特にビフィズス菌によるビタミンK産生は、腸内環境の健全性を示す指標の一つとも考えられています。しかし、抗生物質の使用により腸内細菌叢が乱れると、この内因性ビタミンK産生が著しく低下するため、食事からの摂取がより重要になります。
参考)https://healthscienceshop.nestle.jp/blogs/isocal/knowledge-nutrients-009-index
また、血栓予防薬であるワルファリンを服用している患者では、ビタミンKを多く含む納豆や緑黄色野菜の摂取により薬効が減弱するため、摂取制限が必要となることがあります。これは、ビタミンKがワルファリンと拮抗的に作用するためです。
参考)https://www.city.saitama.lg.jp/hospital/department/001/p074387_d/fil/02_wafarin.pdf