ボルタレン(一般名:ジクロフェナクナトリウム)はNSAIDsで、禁忌の中心は「出血・穿孔」につながるリスクの高い背景を持つ患者の除外です。特に消化性潰瘍がある患者は「投与しないこと」と明記され、病態として潰瘍を悪化させる点が根拠になります。
医療現場で問題になりやすいのは、「潰瘍が治った=安全」ではないことです。添付文書でも“消化性潰瘍の既往歴”は慎重投与として再発リスクが示され、禁忌(現在の潰瘍)と慎重投与(既往)を混同すると事故につながります。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/300242_1147002F1560_1_11
また、禁忌に当たらなくても、併用による消化管出血リスクの増幅は頻出の落とし穴です。ジクロフェナクは非ステロイド性消炎鎮痛剤との併用で胃腸障害が増強し得ることが示され、慢性疼痛の患者で「頓用のつもりで重複」しやすい点はシステム面(薬歴・持参薬確認)で潰す必要があります。
実務ポイント(例:外来~病棟でのチェック観点)
✅ 便潜血陽性・黒色便・吐血歴があれば“今潰瘍がある可能性”を疑う(診断が付いていなくても危険サインとして扱う)
✅ PPI内服中=安全の証明ではない(潰瘍既往の可能性が上がるだけ)
✅ 他科処方の鎮痛薬(NSAIDs、配合感冒薬など)を含め、重複がないか確認する
ボルタレンは「アスピリン喘息(NSAIDs等により誘発される喘息発作)又はその既往歴」が禁忌です。理由は、重症喘息発作を誘発するおそれがあるためで、既往の聴取が最重要になります。
“喘息がある=禁忌”ではない一方、一般の気管支喘息患者の中にアスピリン喘息が含まれる可能性があるため、添付文書は「アスピリン喘息でないことを十分に確認する」と注意を促しています。つまり、喘息患者にNSAIDsを使う際は「喘息の有無」ではなく、「NSAIDsで増悪した歴」「鼻症状(鼻茸・鼻閉)の既往」「過去の鎮痛解熱薬での反応」など、具体の反応歴を取りにいく設計が必要です。
さらに見落とされがちなのが、坐剤という剤形のリスク感です。患者側は「飲み薬じゃないから大丈夫」と誤解しやすいですが、相互作用や禁忌は“成分”で決まります。アスピリン喘息の領域では、坐薬や注射薬で発現が早く重篤になりやすい点が指摘されており、救急外来や夜間帯ほど注意が要ります。
参考)https://sagamihara.hosp.go.jp/rinken/patient/crc/nsaids/condition01/medical.html
📌 現場向けの確認フレーズ例(短く、漏れにくく)
・「痛み止めや熱さましで息苦しくなったことはありますか?」
・「市販の風邪薬・頭痛薬で喘息が悪くなったことは?」
・「鼻づまりが強い、鼻茸の治療歴は?」
妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌です。妊娠中の投与で胎児の動脈管収縮・閉鎖、羊水過少などが報告され、胎児死亡例もあることが記載されています。
ここで重要なのは「妊娠の可能性」の扱いです。たとえば月経不順、避妊不確実、産後早期など、問診だけではグレーになりやすい場面があります。救急で鎮痛解熱が急ぐ状況でも、妊娠可能年齢の女性では“確認の仕組み”(最終月経、妊娠検査、産婦人科既往、授乳の有無)をワークフローに埋め込む必要があります。
また、添付文書には授乳婦で母乳移行が報告されている旨があり、禁忌ではないものの、授乳継続か中止かの検討が求められます。産褥期は「妊娠ではない」ため禁忌から外れますが、授乳・腎機能・脱水(産後出血や感染)など別軸のリスクが重なるので、単純に“禁忌じゃないからOK”にしないのが安全です。
📌 妊娠関連でのヒヤリ例(実務)
⚠️ 「生理痛(=月経困難症)でボルタレン」:適応がある領域ほど、妊娠初期の可能性が紛れやすい
⚠️ 「患者が妊娠を否定」:否定=確定ではない(最終月経や検査で裏取り)
小児領域では、ボルタレンは“禁忌リストに載っているもの”だけを見ても安全になりません。添付文書は「小児のウイルス性疾患の患者に投与しないことを原則」としており、背景としてライ症候群の報告がある点、そして水痘・インフルエンザ等のウイルス性疾患が典型の先行イベントになる点まで踏み込んで説明しています。
一方で、禁忌として明確に列挙されているのは「インフルエンザの臨床経過中の脳炎・脳症の患者」です。つまり、現場では“発熱している小児(インフル疑い)”と“すでに脳症を発症している小児”が同じ言葉で語られがちですが、添付文書上は位置づけが違います(後者は明確な禁忌、前者は原則回避・慎重判断の領域)。
このズレが事故を生む典型シナリオは、診断前に坐剤が先に入るケースです。夜間救急や在宅で「インフルかどうかわからないが高熱でつらい」状況だと、解熱の圧が強くなります。しかし、添付文書は小児では副作用(過度の体温下降・血圧低下によるショック症状)が出やすいことも述べており、“とにかく下げる”より“何で下げるか、どこまで下げるか”を意識した設計が必要です。
さらに意外と共有されていないのが、「インフルエンザ脳炎・脳症例でジクロフェナク投与例の予後不良が多いとする報告がある」という記載です。これは“禁忌の背景”を理解するうえで強いメッセージで、脳症が疑われる状況(けいれん、意識障害、異常行動、激しい嘔吐など)では、解熱のための投与という発想自体を止めて、まずは緊急評価・搬送・モニタリングへ切り替える判断材料になります。
小児での安全運用のコツ(チェックリスト)
✅ 「水痘・インフル」などウイルス性疾患が疑われる場合は原則回避し、必要なら投与後観察を強化する。
✅ 高熱の“数字”より循環・意識・呼吸状態を優先し、ショック兆候(四肢冷却、意識障害、血圧低下など)に目を向ける。
✅ 既に脳炎・脳症が疑われるなら、ボルタレン以前に緊急対応(気道・循環・けいれん対応)へシフトする。
禁忌チェックは「患者背景」だけで終わりません。添付文書には併用禁忌としてトリアムテレンが挙げられており、急性腎障害が報告されているため併用しないこと、と明確に書かれています。
また、ジクロフェナクは主にCYP2C9で代謝され、CYP2C9阻害薬(例:ボリコナゾール等)でCmaxやAUCが増加することがあるとされています。つまり、感染症治療中の患者(抗真菌薬使用)や多剤併用の高齢者では、坐剤でも“体内曝露が上がる”方向のリスク評価が必要です。
加えて、SSRI併用で消化管出血があらわれることがある、と注意喚起されています。うつ病・不安障害の患者は一般内科にも多く、疼痛でNSAIDsが追加されやすいので、処方設計で「短期でも出血リスクを上げる組み合わせ」を自動検出できるようにしておくと安全性が上がります。
🧾 相互作用の要点(現場メモ)
・併用禁忌:トリアムテレン(腎障害リスク)。
・併用注意:CYP2C9阻害薬で曝露↑、SSRIで消化管出血リスク↑。
・「坐剤だから相互作用が軽い」は誤り(全身移行して作用する)。
小児のライ症候群等に関する“原則禁忌”の背景(制度的経緯の理解に有用)
https://www.mhlw.go.jp/houdou/0105/h0530-3.html
アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)で坐薬がリスクになりやすい点と対応フロー(臨床判断に直結)
https://sagamihara.hosp.go.jp/rinken/patient/crc/nsaids/condition01/medical.html