ライ症候群症状大人の特徴・診断・治療・予防

ライ症候群は小児に多い疾患ですが、成人でも発症する可能性があります。急性脳症と肝機能障害が特徴的で、インフルエンザや水痘後に激しい嘔吐や意識障害が現れた場合は注意が必要です。成人の場合、どのような症状に気をつけるべきでしょうか?

ライ症候群症状大人

成人ライ症候群の理解すべき重要ポイント
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急性脳症と肝障害の同時発症

ウイルス感染後に突然の嘔吐、意識障害、肝機能異常が現れる急性疾患

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成人例は極めて稀

大人の発症はまれで、小児と比較して症状経過や予後が異なる傾向がある

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アスピリンとの関連性

ウイルス感染時のアスピリン使用が発症リスクを高める可能性が指摘されている

ライ症候群の成人における初期症状と特徴

 

ライ症候群は主に小児に発症する疾患ですが、成人でも発症する報告があります。成人の場合、インフルエンザや上気道感染症、水痘などのウイルス感染後5~7日の回復期に、突然激しい嘔吐が出現することが特徴的です。この嘔吐は持続的かつ重度で、食事によって緩和されることはありません。
参考)ライ症候群 – 脳・神経疾患

初期段階では嘔吐に加えて、全身の著しい倦怠感傾眠傾向が現れます。患者は極度の疲労感を訴え、普段よりも長時間眠る傾向を示したり、反応が鈍くなる嗜眠状態に陥ります。これらの症状は体内で進行している深刻な代謝異常が原因であり、早期の医療介入が必要なサインです。
参考)ライ症候群 - 23. 小児の健康上の問題 - MSDマニュ…

成人のライ症候群は報告例が非常にまれであり、大人のこの症候群についての回復はほぼ完全で、肝機能および脳機能は発病後2週間程度で元に戻るとされています。しかし子供の場合は軽度から重度の永続的脳障害が起こりうるため、年齢による予後の違いに注意が必要です。
参考)ライ症候群 - Wikipedia

初期症状 特徴 出現時期
激しい嘔吐 持続的で食事で緩和されない ウイルス感染後5~7日
傾眠・嗜眠 極度の疲労感と眠気 嘔吐と同時期
倦怠感 全身の著しい脱力 初期段階

ライ症候群の成人における進行症状と脳への影響

症状が進行すると、脳機能に明らかな影響が現れ、患者の意識状態や行動に重大な変化が生じます。見られる症状として、混乱や錯乱状態、周囲の状況を正確に把握できない状態、見当識障害(時間や場所、人物の認識が困難になる状態)があります。​
第二期には小脳の炎症に伴う麻痺、過呼吸、過度の反射作用が現れます。第三期では第一期および第二期の症状が継続し、昏睡状態に至る可能性があり、大脳浮腫やまれに呼吸停止が起こることもあります。さらに重症化すると、全身または部分的なけいれん発作が発生し、最悪の場合は深い昏睡状態に陥ります。​
成人と小児で症状の進行に違いがあり、1981年から1997年にアメリカで報告された事例の30%が死亡したとされています。神経学的症状は脳浮腫の進行を反映しており、脳の機能が広範囲に障害されていることを示しています。​

症状の段階 神経学的症状 医学的解釈
初期 嘔吐、傾眠 代謝異常の初期兆候
中期 混乱、錯乱、過呼吸 脳浮腫の進行
後期 けいれん、昏睡、呼吸停止 重度の脳機能障害

ライ症候群の肝機能障害と高アンモニア血症

ライ症候群の診断において、肝機能障害は脳症状と並ぶ重要な特徴です。血液検査では肝酵素(GOT、GPT、LDH)の上昇が認められ、第二期では脂肪肝が生検で発見されることがあります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca1981/7/2/7_2_205/_pdf/-char/en

特徴的なのは血中アンモニア濃度の著しい上昇で、重症例では血中アンモニアが300mg/100ml以上に達することもあります。一部の小児では、肝臓が正しく機能せず血液の凝固異常と出血を招き、血中にアンモニアが蓄積することがあります。高アンモニア血症は脳への毒性を持ち、意識障害の悪化に関与します。
参考)ライ症候群の鍼灸【原因・定義・症状】 - 銀座そうぜん鍼灸院…

機能不全は第四期になるとさらに深刻化し、深くなる昏睡、瞳孔の散大と光への反応の減弱を伴います。サリチル酸(アスピリン)はミトコンドリアを膨化させ、代謝機能不全を来たすことによりライ症候群を引き起こすとされています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000013qef-att/2r98520000013r5g.pdf

検査項目 異常所見 臨床的意義
肝酵素(GOT/GPT/LDH) 著明な上昇 肝細胞障害の指標
血中アンモニア 高度上昇(300mg/100ml以上) 代謝異常と脳毒性
凝固機能 異常・出血傾向 肝臓の合成機能低下

ライ症候群の診断方法と鑑別診断

ライ症候群の臨床診断は、典型的な症状経過と各種検査所見の組み合わせに基づいて行われます。診断には以下の所見が重要です:急性脳症の症状(持続する嘔吐、意識障害など)、肝機能異常(血液検査での肝酵素の上昇)、血中アンモニア濃度の上昇、画像検査での脳浮腫の所見、最近のウイルス感染歴やアスピリン使用歴です。​
急に精神状態が変化し、嘔吐がみられる小児や成人においてライ症候群が疑われます。診断を確定するため、また特定の遺伝性代謝疾患などの他の病気を否定するため、医師は血液検査を行うほか、しばしば細い針を使って肝組織の小片を採取します(肝生検)。​
ライ症候群は約20の代謝異常との鑑別診断が必要とされています。鑑別診断として、先天性代謝異常症や薬物中毒による脳症などを考慮し、代謝スクリーニング検査や薬物検査などの追加の検査も実施することが重要です。頭部のCT検査またはMRI検査を行い、さらに検査する必要がある場合は、腰椎穿刺によって髄液を採取することがあります。
参考)https://idsc.niid.go.jp/iasr/CD-ROM/records/10/11314.htm

診断基準 所見 診断的意義
臨床症状 急性脳症(嘔吐・意識障害) 中枢神経系の急激な機能低下
血液検査 肝酵素上昇・高アンモニア血症 肝機能障害と代謝異常
画像所見 びまん性脳浮腫 脳の広範囲な浮腫
病歴 ウイルス感染後・アスピリン使用 発症の誘因となる背景因子

ライ症候群の集中治療と支持療法

ライ症候群と診断された患者は直ちに集中治療室(ICU)に入院となり、24時間体制で全身状態をモニタリングします。この段階では、呼吸機能と循環動態の維持が最優先事項です。治療の中心は、患者の生命維持機能をサポートしながら体の自然な回復を促す支持療法です。​
行われる支持療法として、人工呼吸器を用いた呼吸管理により体内に十分な酸素を供給し、輸液療法を通じて水分・電解質バランスを細やかに調整します。血圧を適切な範囲に保ち全身の臓器に十分な血液を送ること、脳圧亢進に対して脳浮腫を軽減する治療を行うこと、経管栄養などにより患者の栄養状態を最適に保つことが含まれます。​
治療期間は数週間から数か月を要し、集中治療の効果によるところが大きいとされています。高アンモニア血症に対する投薬やマンニトール点滴による脳圧管理も行われます。成人の場合、回復はほぼ完全であり、肝機能および脳機能は発病後2週間程度で元に戻るという報告があります。
参考)ライ症候群の症状・原因・対処法 Doctors Me(ドクタ…

支持療法の種類 目的 方法
呼吸管理 十分な酸素供給 人工呼吸器の使用
輸液療法 体液バランスの維持 点滴による水分・電解質補給
血圧管理 適切な血流確保 昇圧剤や降圧剤の使用
脳圧管理 脳の二次的損傷防止 頭位挙上、マンニトール投与
栄養管理 代謝サポート 経管栄養

ライ症候群の予防とアスピリンの関係

ライ症候群の予防において最も重要なのは、小児や若年者のウイルス感染時にアスピリンを含むサリチル酸系製剤の使用を避けることです。昭和57年、米国においてアスピリンの使用とライ症候群の関連性を疑わせる疫学調査結果が報告されました。
参考)医薬品・医療用具等安全性情報 No.151

昭和60年から昭和61年にかけて実施されたCDC、FDA等の合同研究では、ライ症候群患者群の93%がアスピリンを服用していたのに対し、対照群では29%であり、アスピリンとライ症候群との間に強い疫学的関連性が見られるとされています。さらに、サリチル酸系製剤の1日使用量が20mg/kg/日以上の者がライ症候群患者では67%に対し対照群では22%で、アスピリン使用量がライ症候群患者群では対照群に比べ多いことが認められています。​
15歳未満の子どもには基本的にアスピリンを使用せず、特にインフルエンザや水ぼうそうのときにはアスピリンを使用するとライ症候群(脳と肝臓の障害)を引き起こす可能性があります。85年以降、半数(40~60%)の患者が10歳以上であることから、関係者は年長児や親、そして成人に対してもアスピリン使用について警告する必要があるとされています。
参考)アスピリンは川崎病の薬?他の疾患には使うの?

ウイルス感染時の解熱鎮痛剤としては、アスピリンの代わりにアセトアミノフェンカロナール)などの使用が推奨されています。インフルエンザにはNSAIDs非ステロイド性抗炎症薬)の使用も避けるべきとされており、ライ症候群やインフルエンザ脳症のリスクを低減することができます。
参考)インフルエンザ脳症とは:症状や予防、治療法も解説|千葉市若葉…

予防策 対象 理由
アスピリン使用回避 15歳未満の小児 ライ症候群発症リスクの軽減
代替薬の使用 ウイルス感染時の解熱 アセトアミノフェンなど安全な選択肢
NSAIDs回避 インフルエンザ罹患時 脳症リスクの低減
注意喚起 年長児・成人 10歳以上の発症例が増加傾向

医薬品・医療用具等安全性情報:ライ症候群とアスピリンとの関連性に関する公的調査結果
ライ症候群とアスピリンを含むサリチル酸系製剤との関係についての疫学調査詳細
厚生労働省:指定難病に係る情報提供資料(Reye様症候群の記載を含む)