EGFR(上皮増殖因子受容体)阻害薬は、非小細胞肺癌治療において重要な位置を占めるチロシンキナーゼ阻害薬の一群です。これらの薬剤は、EGFRの細胞内チロシンキナーゼのATP結合部位でATP結合阻害を引き起こし、チロシンキナーゼの活性化を抑制することで抗腫瘍効果を発揮します。
第1世代EGFR阻害薬
第2世代EGFR阻害薬
第3世代EGFR阻害薬
これらのEGFR阻害薬は、EGFR遺伝子変異の有無や耐性変異の存在により使い分けが行われており、個別化医療の代表例として位置づけられています。
ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)阻害薬は、ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺癌の治療において、世代ごとに進化を遂げてきたチロシンキナーゼ阻害薬群です。
第1世代ALK阻害薬
クリゾチニブ(ザーコリ®)は2012年に承認された第1世代ALK阻害薬です。ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺癌に対する初の分子標的薬として、治療パラダイムを大きく変えた歴史的意義を持ちます。
第2世代ALK阻害薬
第3世代ALK阻害薬
ロルラチニブ(ローブレナ®)は2018年に承認された第3世代ALK阻害薬です。従来のALK阻害薬に対する耐性変異にも対応可能な設計となっており、より幅広い耐性例に対して有効性が期待されます。
ALK阻害薬の選択においては、第III相試験の結果から、アレセンサやブリガチニブのように他のALK阻害薬を対照群とした試験で優越性を示した薬剤が、1次治療として選択される機会が増えています。
Bcr-Abl阻害薬は、慢性骨髄性白血病(CML)や急性リンパ性白血病(ALL)の治療において中心的役割を果たすチロシンキナーゼ阻害薬です。
第1世代Bcr-Abl阻害薬
イマチニブ(グリベック®)は、Bcr-Abl阻害薬の代表的な薬剤として2001年に登場し、CML治療の標準薬となりました。先発品の薬価は1413.7円/錠ですが、現在は多数の後発品が利用可能で、245.2円/錠から入手できます。
第2世代Bcr-Abl阻害薬
第3世代Bcr-Abl阻害薬
新世代薬剤
アサミクリチニブ(セムブリックス®)は、最新のBcr-Abl阻害薬として、従来薬で治療困難な症例に対する新たな治療選択肢となっています。
これらの薬剤は、患者の病期、既往治療歴、耐性変異の有無などを総合的に評価して選択されます。
BTK(ブルトン型チロシンキナーゼ)阻害薬は、B細胞性悪性腫瘍の治療において重要な役割を果たすチロシンキナーゼ阻害薬の一群です。
従来型BTK阻害薬(共有結合型)
イブルチニブ(イムブルビカ®)は、BTKのC481位システイン残基と共有結合を形成する「共有結合型阻害薬」として分類されます。マントル細胞リンパ腫や慢性リンパ性白血病などのB細胞性悪性腫瘍に対して広く使用されています。
新世代BTK阻害薬(非共有結合型)
ピルトブルチニブ(ジャイパーカ®)は2024年8月に発売開始された新しいBTK阻害薬です。従来型とは異なり、C481位を介さない「非共有結合型阻害薬」として設計されています。
この違いによる重要な利点として。
国際共同第I/II相BRUIN試験では、従来型BTK阻害薬の前治療歴がある65例に対してピルトブルチニブを投与した結果、56.9%の奏効率(CR+PR)を示しました。これは従来型BTK阻害薬で治療抵抗性となった症例に対する新たな治療選択肢として期待されています。
チロシンキナーゼ阻害薬は、その標的分子や作用機序の違いにより、特徴的な副作用プロファイルを示します。医療従事者にとって、各薬剤群の副作用特性を理解することは、適切な患者管理と治療継続のために不可欠です。
共通する主要副作用
薬剤群別の特徴的副作用
EGFR阻害薬では、皮膚症状(ざ瘡様皮疹)が特に顕著で、これはEGFR阻害による正常皮膚細胞への影響と考えられています。一方、オシメルチニブでは間質性肺疾患のリスクが重要な監視項目です。
ALK阻害薬群では、各世代で異なる副作用プロファイルを示します。アレクチニブでは便秘や浮腫が、セリチニブでは肝機能障害が比較的高頻度に認められます。
Bcr-Abl阻害薬では、イマチニブで浮腫や筋痙攣が、ダサチニブで胸水貯留が特徴的です。ニロチニブでは心血管系への影響(QT延長)に注意が必要です。
副作用管理の重要性
副作用の適切な管理は治療成功の鍵となります。定期的な血圧測定や血液検査による監視、症状出現時の早期対応が重要です。患者教育により副作用の早期発見・報告を促し、必要に応じて薬剤調整や支持療法を実施することで、治療継続率の向上が期待できます。
副作用の種類や程度は、使用するチロシンキナーゼ阻害薬の種類や個々の患者の体質、治療状況によって大きく異なるため、個別化されたモニタリング計画の策定が必要です。