ニロチニブ副作用の発現頻度と対処法

慢性骨髄性白血病治療薬ニロチニブは高い治療効果を示す一方、骨髄抑制や心血管系障害、代謝異常など多様な副作用が報告されています。各副作用の特徴と適切な管理方法を理解することが重要ですが、具体的にどのような対策が必要なのでしょうか?

ニロチニブの副作用と発現頻度

ニロチニブの主な副作用
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骨髄抑制

血球減少により感染症や出血のリスクが増加します。定期的な血液検査による早期発見が重要です。

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心血管系障害

QT延長や動脈閉塞性疾患が起こる可能性があります。心電図検査と血管評価のモニタリングが必須です。

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代謝異常

高血糖や高ビリルビン血症などの代謝障害が発現します。生化学検査による継続的な監視が求められます。

ニロチニブの全体的な副作用発現状況

 

ニロチニブは慢性骨髄性白血病の治療において高い効果を示すチロシンキナーゼ阻害薬ですが、副作用の発現頻度は非常に高い特徴があります。国内臨床試験では副作用発現頻度が92.1%から94.7%に達しており、ほとんどの患者で何らかの副作用が認められています。
参考)医療用医薬品 : タシグナ (タシグナカプセル50mg 他)

初発患者を対象とした国内試験では、25例中22例(88.0%)で副作用が発現し、主な副作用として肝機能障害関連(ALT増加36.0%、血中ビリルビン増加28.0%、高ビリルビン血症28.0%)、頭痛(32.0%)、発疹(24.0%)が報告されています。イマチニブ抵抗性・不耐容患者では副作用発現率が84.8%で、血中ビリルビン増加(33.3%)、肝酵素上昇、頭痛が主な副作用でした。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs_reexam/2023/P20230322002/300242000_22100AMX00394_B100_1.pdf

ニロチニブの骨髄抑制と血液系副作用

骨髄抑制はニロチニブの重大な副作用の一つで、好中球減少、血小板減少、貧血などが発現します。国内試験では骨髄抑制の発現頻度が38.3%(244/637例)と報告されており、白血病に関連しない血球減少が認められた場合には投与量調節が必要です。
参考)タシグナカプセル50mgの効能・副作用|ケアネット医療用医薬…

血小板減少症やそう痒症の発現頻度はそれぞれ約33.3%、好中球減少は14%程度と報告されています。重篤な骨髄抑制の場合、汎血球減少(0.3%)にまで進行する可能性があり、白血球が極端に減少すると感染症リスクが著しく上昇します。患者アンケートでは「倦怠感(だるい)」が約31%、「筋肉のつり(こむらがえり)」が30%と、日常生活への影響も報告されています。
参考)医療用医薬品 : ニロチニブ (ニロチニブカプセル150mg…

ニロチニブのQT延長と心血管系障害

ニロチニブの重大な副作用としてQT間隔延長があり、発現頻度は7.1%(45/637例)から3.1%程度と報告されています。QT間隔延長は不整脈や突然死のリスク因子となるため、投与前および投与中の定期的な心電図検査が必須です。
参考)タシグナ(一般名:ニロチニブ)の効果と副作用

動脈閉塞性疾患の発現頻度は11.9%(76/637例)と高く、心筋梗塞(1.1%)、狭心症(1.4%)、心不全(0.3%)、末梢動脈閉塞性疾患(0.9%)、脳梗塞などが報告されています。ニロチニブ投与患者19例の検討では、血管性有害事象が8例(42%)で発現し、投与開始から中央値46.5ヶ月で合併、4年累積合併率は23.5%でした。
参考)https://www.ishinomaki.jrc.or.jp/data/media/NEWS2023/chiikirenkeiNo.6.pdf

末梢動脈疾患は6例全例が無症候期に足関節上腕血圧比(ABI)で診断され、そのうち4例が他の重篤な血管性有害事象を合併していました。このため、投与前と投与中は簡便で非侵襲的なABIや頸動脈超音波検査を用いた動脈硬化の定期的なモニタリングが推奨されます。
参考)ニロチニブ治療中に合併した血管性有害事象の特徴と末梢動脈疾患…

造血器腫瘍診療ガイドライン:TKI投与時のモニタリング方法と血管閉塞性事象の評価基準について詳細に記載

ニロチニブの高血糖と代謝異常の管理

ニロチニブの特徴的な副作用として高血糖があり、発現頻度は6.8%から7.5%と報告されています。血糖上昇の副作用は血液内科医には周知の事実ですが、糖尿病専門医には意外に知られていない重要な副作用です。
参考)慢性骨髄性白血病(CML)の治療

臨床例では、ニロチニブへの変更後にHbA1cが7.8%まで上昇し、グリメピリドやピオグリタゾンによる血糖管理が必要となった症例が報告されています。さらに、ニロチニブ中止に伴い血糖降下薬が不要となり、再開直後には随時血糖が96 mg/dlから131 mg/dlへ上昇するなど、薬剤との直接的な関連性が確認されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/56/11/56_897/_pdf

高ビリルビン血症も頻度の高い副作用で、血中ビリルビン増加が28.0%から33.3%、高ビリルビン血症が28.0%の頻度で発現します。肝機能障害(4.8%)、肝炎(0.2%)、黄疸(0.6%)なども重大な副作用として報告されており、定期的な肝機能検査によるモニタリングが必要です。​

ニロチニブの皮膚症状と消化器系副作用

皮膚症状はニロチニブで最も高頻度に認められる副作用の一つで、発疹の発現頻度は33.3%から41.4%に達します。患者アンケートでは発疹が約23%、筋肉痛が約17%で報告されています。その他の皮膚症状として、そう痒症(15.6%)、脱毛症(11.4%)、皮膚乾燥(9.7%)、紅斑、皮膚炎、湿疹、皮膚色素過剰、多汗症なども認められています。​
消化器系副作用では、悪心(18.1%)、嘔吐(9.0%から20.0%)、便秘(7.9%)、下痢(7.6%)、腹痛(上腹部痛8.8%)が報告されています。重大な消化器系副作用として膵炎(2.0%)が知られており、稀ではありますが消化管穿孔の報告もあります。
参考)https://med.sawai.co.jp/pdf/attach06.pdf

筋骨格系の副作用も特徴的で、筋骨格痛(17.1%)、関節痛(8.6%)、筋痙縮(8.3%)、背部痛などが発現します。ニロチニブ中止後の患者では、体の痛み、骨の痛み、四肢の痛みなどの筋骨格症状が一般的な副作用として報告され、一部の患者では長期の筋骨格症状がみられています。
参考)慢性骨髄性白血病では持続奏効後にニロチニブを中止できる可能性…

ニロチニブ投与時の定期検査とモニタリング体制

ニロチニブの安全な使用には、投与前および投与中の綿密なモニタリング体制が不可欠です。まず投与前には、患者の年齢、血栓栓塞病歴、心血管高危険因子(高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙、充血性心不全)の有無を詳細に聴取する必要があります。
参考)http://cml.matenro.net/pdf/appended/tg_TAS_20150302.pdf

一般採血では電解質、肝腎機能、膵酵素、耐糖能異常(HbA1cも含む)、脂質異常の有無、NT-proBNP(もしくはBNP)を必ず確認します。画像検査として胸部レントゲン写真(心陰影拡大や胸水の有無)、呼吸機能検査、心電図によるQTc時間延長の確認、足関節上腕血圧比(ABI)測定が推奨されます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/7/111_1357/_pdf

国際指標(IS)で補正したBCR::ABL1 IS定量RT-PCRによる治療前と治療後3カ月ごとのモニタリングが推奨されており、FDAの販売承認を受けた検査薬を使用した定期的かつ頻繁なモニタリングが治療中止の安全性確保に不可欠です。
参考)ホーム|造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版…

がん・心臓血管病診療連携ネットワーク:慢性骨髄性白血病初診時からの心血管有害事象リスク評価と具体的な検査項目を解説

ニロチニブの副作用に対する休薬・減量基準

ニロチニブの副作用発現時には、重症度に応じた適切な休薬・減量対応が重要です。血液系副作用では、好中球数、血小板数、ヘモグロビン値に基づいた投与量調節基準が設定されており、白血病に関連しない血球減少が認められた場合には段階的な減量や休薬が推奨されます。​
小児患者では、グレード2以上の非血液系副作用(グレード2の皮疹、グレード3以上の下痢、グレード3以上の嘔吐)が発現した場合、グレード1以下に回復するまで休薬し、投与再開時には用量を減量します。成人患者においても同様に、NCI CTCAEグレードに準じた休薬・減量基準が適用されます。​
イマチニブの投与中止の原因となった副作用と同様の副作用がニロチニブでも発現する可能性があるため、投与時には慎重な経過観察と副作用発現への注意が必要です。重篤な副作用が発現した場合には、症状が回復するまで患者の状態を十分に観察することが求められます。​

ニロチニブ特有のリスク因子と予防的アプローチ

ニロチニブによる心血管系障害は用量依存的に増加することが知られており、特に第2世代のニロチニブやダサチニブ、第3世代のポナチニブでは心血管障害のリスクが高くなっています。動脈硬化性病変の形成メカニズムは完全には解明されていませんが、頭蓋内血管を含む全身の動脈に影響を及ぼす可能性があります。
参考)慢性骨髄性白血病の初診時から心血管有害事象のリスクを評価 −…

興味深いことに、もやもや病の感受性遺伝子であるRNF213遺伝子変異を持つ患者では、ニロチニブ内服中の頭蓋内動脈病変の形成パターンが異なることが報告されています。このような遺伝的背景が副作用の発現に影響を与える可能性があり、個別化医療の観点からも重要な知見です。
参考)ニロチニブ内服中に発症する頭蓋内動脈病変とRNF213遺伝子…

予防的アプローチとして、心血管リスク因子(喫煙、飲酒、血圧、体重)の管理が重要であり、QT間隔を延長させる薬物やCYP3A4の強力な阻害剤との併用は避けるべきです。プロトンポンプ阻害薬との併用はニロチニブの血中濃度を低下させる可能性がありますが、H2受容体遮断薬(ファモチジン)であれば影響を与えないとの報告があります。
参考)https://www2.tri-kobe.org/nccn/guideline/hematologic/japanese/cml.pdf

日本内科学会雑誌:チロシンキナーゼ阻害薬ごとの有害事象プロファイルと具体的なモニタリング方法を詳述

ニロチニブの稀だが重篤な副作用

ニロチニブには発現頻度は低いものの、重篤な副作用として注意すべき事象がいくつか報告されています。出血関連では、頭蓋内出血(頻度不明)や全体の出血イベント(4.7%、30/637例)が報告されており、血小板減少との関連も考慮する必要があります。​
感染症の発現頻度は4.6%で、肺炎や敗血症などの重篤な感染症が含まれます。骨髄抑制による免疫機能低下が背景にあるため、個々の患者の状態に合わせた抗生物質の投与などが考えられます。​
心臓関連では心膜炎(0.2%)、心タンポナーデ(0.2%)、体液貯留(胸水0.5%、心嚢液貯留0.3%)などが報告されており、突然死の報告もあります。呼吸器系では間質性肺疾患(0.2%)、神経系では脳浮腫(頻度不明)、消化器系では腫瘍崩壊症候群(頻度不明)なども重大な副作用として挙げられています。​
これらの稀な副作用に対しては、早期発見と適切な処置が患者の予後を大きく左右するため、医療従事者は常に警戒を怠らず、異常が認められた場合には速やかに対応することが求められます。​