フェントラミン血圧作用機序:α遮断薬の降圧効果と褐色細胞腫治療

フェントラミンは血圧をどのように調整するのでしょうか。α受容体遮断による血管拡張作用と、褐色細胞腫における治療応用について、その作用機序と臨床的意義を詳しく解説します。

フェントラミン血圧作用機序

フェントラミンの血圧調整メカニズム
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α受容体遮断作用

α1およびα2受容体を非選択的に遮断し、血管平滑筋を弛緩させることで血圧を降下させる

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血管拡張効果

血管抵抗の急激な減少により降圧作用を発揮し、特に褐色細胞腫による高血圧に有効

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反射性頻脈

α2受容体遮断により交感神経が緊張し、心拍数増加が起こる可能性がある

フェントラミンのα受容体遮断による降圧メカニズム

 

フェントラミンは可逆的なα1・α2受容体非選択的遮断薬として作用し、血管平滑筋の収縮を抑制します。血管壁の平滑筋に存在するα1受容体は、カテコールアミンの刺激を受けると血管収縮を引き起こし血圧を上昇させます。フェントラミンがこのα1受容体を遮断することで、血管が拡張し血圧降下作用が発現します。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00067486.pdf

健康成人および高血圧患者を対象とした研究では、フェントラミン5mgを静脈内投与すると急激な血管抵抗の減少が認められ、強力な血管拡張作用が確認されています。この作用により、特にカテコールアミン過剰分泌状態における高血圧の管理に有効性を示します。
参考)フェントラミンメシル(レギチーン) href="https://kobe-kishida-clinic.com/endocrine/endocrine-medicine/phentolamine-mesilate/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/endocrine/endocrine-medicine/phentolamine-mesilate/amp;#8211; 内分泌疾…

動物実験では、ネコやイヌにおいてフェントラミンがアドレナリンによる昇圧反応を遮断または逆転させることが示されています。ノルアドレナリンに対する昇圧反応も遮断しますが、降圧反応は起こりません。典型的なアドレナリン反転現象は0.1~1.0mg/kgの静注または皮下注で観察されています。
参考)http://image.packageinsert.jp/pdf.php?yjcode=7290404A1038

フェントラミンによる褐色細胞腫の血圧管理

褐色細胞腫は副腎髄質または傍神経節に発生する腫瘍で、アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミンを過剰に分泌します。これらのカテコールアミンが大量に放出されると、急激な血圧上昇や発作性高血圧を引き起こし、頭痛、動悸、発汗などの症状が現れます。
参考)褐色細胞腫 - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 - MSDマ…

フェントラミンは褐色細胞腫の手術前および手術中の血圧調整に用いられます。手術前には通常、成人にはフェントラミンメシル酸塩として5mg、小児には1mgを静脈内または筋肉内に注射します。手術中は血圧の状態から判断して、成人には1~5mgを適時静注します。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/DrugInfoPdf/00053033.pdf

褐色細胞腫の手術では、腫瘍を操作する際にカテコールアミンがさらに放出され、血圧が急上昇するリスクがあるため、フェントラミンによる血圧管理が重要です。α遮断薬β遮断薬の併用により高血圧をコントロールし、心血管系が安定を取り戻すには10~14日ほどかかりますが、その後は遮断薬が効果的になります。重要なのは、α遮断が十分に達成されるまではβ遮断薬を使用すべきではないという点です。​
内分泌疾患治療薬としてのフェントラミンの詳細な使用法

フェントラミンの反射性頻脈と副作用

フェントラミンはα1受容体だけでなくα2受容体も遮断する非選択的遮断薬であるため、特徴的な副作用が生じます。α2受容体は交感神経終末に存在し、ノルアドレナリンの遊離を調節する役割を担っています。この受容体が遮断されると、神経末端からのノルアドレナリン遊離が増加し、交感神経系が緊張状態になります。
参考)フェントラミン - Wikipedia

その結果、低血圧とα2受容体遮断により反射性頻脈が起こることがあります。フェントラミンを静脈内投与すると、拡張期血圧は即座に低下しますが、心拍数と心拍出量が増加することが報告されています。この心血管系への影響は投与直後に最も顕著で、投与後20分程度で大部分が消失します。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2009/093161/200936112A/200936112A0010.pdf

褐色細胞腫患者では、フェントラミンが非選択的α遮断薬であるため、交感神経α2受容体も阻害する結果、神経末端でのノルアドレナリン遊離が増加し頻脈の原因となります。頻脈を合併した際にはβ遮断薬を併用することがありますが、α遮断が不十分な状態でβ遮断薬を先に使用すると、α受容体を介した血管収縮作用が優位になり、かえって血圧が上昇する可能性があるため注意が必要です。​

フェントラミンの診断的応用:フェントラミン試験

フェントラミンは褐色細胞腫の診断目的でも使用されます。フェントラミン試験は、褐色細胞腫が疑われる患者において、カテコールアミン過剰による高血圧かどうかを判定する方法です。試験の原理は、カテコールアミン過剰状態では血管のα受容体が持続的に刺激されているため、α遮断薬を投与すると急激な血圧低下が起こることを利用しています。
参考)レギチーン注射液5mgの添付文書 - 医薬情報QLifePr…

フェントラミン試験を実施する際は、鎮静剤、鎮痛剤等すべての投薬を試験の少なくとも24時間前、できれば48~72時間前に中止する必要があります。静脈内注射の場合、通常フェントラミンメシル酸塩として5mgを投与し、血圧の変動を観察します。​
ただし、現在では褐色細胞腫の診断に当たっては、まず尿中または血漿中のカテコールアミン等の測定を行うことが推奨されています。これらの生化学的検査によって褐色細胞腫が診断されたならば、フェントラミン試験は行う必要がないとされています。生化学的検査の方が感度と特異度が高く、より確実な診断が可能だからです。​
フェントラミン注射液の添付文書情報

フェントラミンと他のα遮断薬の使い分け

フェントラミンは非選択的α遮断薬ですが、臨床では選択的α1遮断薬も使用されています。選択的α1遮断薬にはドキサゾシン(カルデナリン)、テラゾシン(ハイトラシン)、プラゾシン(ミニプレス)などがあり、これらは主に本態性高血圧症の治療に用いられます。
参考)高血圧の薬(α遮断薬、α2作動薬)一覧

選択的α1遮断薬は、α2受容体を遮断しないため、フェントラミンと比較して反射性頻脈が起こりにくいという特徴があります。ドキサゾシンなど一部のα遮断薬は、フェノキシベンザミンと同様に効果的でありながら、忍容性がより高いとされています。​
しかし、褐色細胞腫の急性期管理や術前・術中の血圧調整においては、フェントラミンの強力で即効性のある降圧作用が依然として重要な役割を果たしています。フェントラミンは静脈内投与により数分以内に効果が発現するため、発作性高血圧や高血圧クリーゼなどの緊急時に適しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1429377/

薬剤分類 代表薬 受容体選択性 主な用途
非選択的α遮断薬 フェントラミン α1・α2非選択的 褐色細胞腫の急性期管理、術前術中の血圧調整、診断試験
選択的α1遮断薬 ドキサゾシン α1選択的 本態性高血圧症、褐色細胞腫の慢性期管理
選択的α1遮断薬 プラゾシン α1選択的 本態性高血圧症、腎性高血圧症
選択的α1遮断薬 テラゾシン α1選択的 本態性高血圧症、腎性高血圧症

フェントラミンの薬物動態と投与上の注意点

フェントラミンの降圧効果は投与直後に現れ、その効果は比較的短時間で減弱します。静脈内投与後、拡張期血圧の低下、心拍数と心拍出量の増加といった即時的な循環系への影響は、投与後20分で大部分が消失することが報告されています。この時点では、冷水に手を浸すことで誘発される血圧上昇をフェントラミンは抑制できなくなります。​
しかし、α受容体遮断作用そのものは、より長時間持続します。静脈内投与20分後のノルアドレナリンによる収縮期血圧および拡張期血圧上昇の用量反応曲線は、フェントラミン投与前の曲線と比較して右方向に平行移動することが示されており、これはα受容体遮断作用が維持されていることを示しています。​
フェントラミンの心筋への影響も注目されています。ペントバルビトール麻酔下の猫を用いた研究では、フェントラミンの静脈内投与により心拍数、左心室dp/dt max、大動脈dp/dt、心拍出量、心筋血流量、代謝性熱産生が増加することが示されています。重要なのは、これらの心筋収縮力増加は血圧変化の方向や大きさに関係なく起こり、実際の投与期間を超えて維持されるという点です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1702874/

投与時の注意点として、褐色細胞腫の診断においては、フェントラミン試験を実施する前に、すべての鎮静剤や鎮痛剤を少なくとも24時間前、できれば48~72時間前に中止する必要があります。これは、これらの薬剤がフェントラミンの効果や血圧測定に影響を与える可能性があるためです。​
褐色細胞腫の最新の治療戦略に関する学術論文