ミオグロビンは153個のアミノ酸残基から成る1本のポリペプチド鎖と1分子のヘムで構成される単量体であり、分子量は約17,000~17,800です。タンパク質は8個のαヘリックスをもち、それらがヘムをとり囲む球状構造を形成しています。一方、ヘモグロビンは2つのαサブユニット(各141個のアミノ酸)と2つのβサブユニット(各146個のアミノ酸)からなる四量体構造をしており、分子量は約64,000です。healthy-pass+6
各サブユニットはミオグロビンと同様の構造のグロビンタンパク質を持ち、それぞれが1個のヘムを含むため、ヘモグロビン1分子には合計4個のヘムが存在します。このような構造的な違いにより、ミオグロビンには四次構造が存在しませんが、ヘモグロビンは明確な四次構造を有しています。toumaswitch+3
ミオグロビンとヘモグロビンのグロビンタンパク質は進化的に関連しており、よく似た構造と機能をもっています。しかし、ヘモグロビンは遺伝子の複製によって進化し、複数のサブユニットが協同して機能するように発展しました。hamajima+2
ミオグロビンは酸素と非常に高い親和性を持ち、その酸素結合曲線は双曲線を描きます。単量体であるため、酸素分子1個と可逆的に結合し、協同的結合は示しません。一般的な組織での酸素濃度ではミオグロビンは酸素を放出せず、運動によって筋肉中の酸素濃度が低下した時にのみ酸素を放出するため、酸素の貯蔵に適していますが運搬には向いていません。wikipedia+6
これに対してヘモグロビンは、シグモイド曲線を描く酸素結合特性を示し、協同的結合(正の協同性)によって特徴づけられます。アロステリック効果により、サブユニットの一つに酸素が結合すると、そのサブユニットは立体構造の変化を引き起こし、他のサブユニットの酸素への親和性が変化します。この協同性により、ヘモグロビンは肺の高酸素環境では効率よく酸素を結合し、末梢組織の低酸素環境では効率よく酸素を放出できます。reddit+6
ヘモグロビンの酸素親和性はpH、CO₂分圧、2,3-BPG濃度などによって調節されます(ボーア効果)。ミオグロビンの酸素親和性はヘモグロビンよりも高く、血液中のヘモグロビンから酸素を受け取り貯蔵することができます。data.medience+4
ミオグロビンは心筋梗塞などの筋障害や筋ジストロフィーなどの骨格筋障害における筋組織の障害の判定やその重症度の判定に有用です。小分子であるため、心筋梗塞においては他の心筋梗塞マーカーよりも早期に血中に逸脱し、発症後0.5~3時間で上昇し始め、6~10時間程度でピークに達します。test-directory.srl+4
急性心筋梗塞では基準値上限の数倍~数十倍に上昇し、"early indicator"として優れています。ミオグロビンの血中半減期は短く、発作後の低下も血清酵素に比べてすみやかであり、特異性が高いとされています。diagnostic-wako.fujifilm+2
しかし、ミオグロビンは組織特異性が低く、デュシェンヌ型やベッカー型の筋ジストロフィー症、多発性筋炎、皮膚筋炎、筋肉注射などでも骨格筋から流出したミオグロビンの影響を受けて高値になります。筋ジストロフィー症では病初期では高値を示しますが、進行すると筋肉組織の崩壊により枯渇するため低値となり、病状の進行度との相関は認められません。data.medience+2
横紋筋融解症は骨格筋細胞の融解・壊死により、筋細胞内成分が血液中に流出した状態を指します。この際、流出した大量のミオグロビンが尿細管を閉塞し、急性腎不全を併発することが多く、臨床的に重要です。msdmanuals+3
血中ミオグロビン濃度が上昇すると尿中にも排出され、尿が赤褐色(コーラ色、紅茶のような色)の特徴的な「ミオグロビン尿」となります。尿中ミオグロビン値が250μg/mL以上になると検出され、特に尿潜血反応陽性であるにもかかわらず鏡検で赤血球を認めない場合に有用な所見となります。omori.med.toho-u+3
横紋筋融解症による急性腎不全はミオグロビン尿性急性腎不全と呼ばれ、筋肉から流出したミオグロビンが尿細管上皮細胞を傷害し、尿細管腔でミオグロビン円柱が形成されることで尿細管が閉塞します。血中CK(クレアチンキナーゼ)は骨格筋の融解程度によって増加し、5,000U/L以上の顕著な上昇が認められます。jstage.jst+4
成人の正常ヘモグロビンは、HbA(α₂β₂)、HbA₂(α₂δ₂)、HbF(α₂γ₂)の3種類が存在し、その比率はHbAが95%以上、HbA₂が3%以下、HbFが1%以下です。胎児性ヘモグロビン(HbF)は胎児期のヘモグロビンの約85%を占め、α鎖とγ鎖のポリペプチド鎖から構成されます。numon.pdbj+3
γ鎖は胎生10~12週ごろにピークに達し、胎生後期より産生が低下し始め、生後6カ月から1~2年で成人の1%以下の水準になります。HbFは2,3-BPGとの結合が弱いため、成人のヘモグロビンよりも酸素への親和性が高く、胎盤を通じて母体から効率的に酸素を受け取ることができます。data.medience+1
臨床的には、βサラセミア、遺伝性高胎児性ヘモグロビン症、再生不良性貧血、鎌状赤血球症などでHbFの高値が認められます。サラセミアでは多くがヘテロ接合型であり、軽度の小球性低色素性貧血となるため、鉄欠乏性貧血との鑑別が必要となります。不安定ヘモグロビン症や鎌状赤血球症でも高値をとることが知られており、診断の補助となります。data.medience
ミオグロビンとヘモグロビンは進化的に共通の祖先から分岐したグロビンファミリーのメンバーです。グロビンファミリーには他にもニューログロビン(脳や網膜細胞に存在)やサイトグロビン(様々な組織に存在)などの新しいメンバーも発見されています。numon.pdbj+3
ヘモグロビンのα鎖、β鎖、ミオグロビンは遺伝子の複製によって進化してきたもので、それぞれのグロビンタンパク質はよく似た構造と機能を持っています。進化の過程で、ミオグロビンは単量体として筋肉での酸素貯蔵に特化し、ヘモグロビンは四量体を形成することで協同的な酸素結合能を獲得し、効率的な酸素運搬に適応しました。aasj+3
この機能分化により、ヘモグロビンは肺から全身に酸素を運搬する役割を担い、ミオグロビンは必要な酸素を筋肉細胞内で貯蔵し必要時に放出する役割を担うようになりました。両者の酸素結合特性の違いは、それぞれの生理的役割に最適化された結果といえます。pmc.ncbi.nlm.nih+4
参考リンク(ミオグロビンとヘモグロビンの構造的特徴について)。
ヘモグロビンとミオグロビンの違いは? - Healthy Pass
参考リンク(ヘモグロビンの協同性とアロステリック効果について)。
ヘモグロビンへの配位子結合過程を直接観測 - SPring-8
参考リンク(ミオグロビンの臨床的意義について)。
ミオグロビン検査の臨床的意義 - 富士フイルム和光純薬
参考リンク(横紋筋融解症とミオグロビン尿について)。
実は身近な横紋筋融解症について - 東邦大学医療センター
参考リンク(胎児型ヘモグロビンの特性について)。
胎児ヘモグロビン - PDBj 今月の分子