副腎クリーゼの症状と緊急時対応の要点

副腎クリーゼは糖質コルチコイドの急激な不足により生命の危険に晒される緊急事態です。症状から診断、治療、予防まで包括的に解説し、迅速な対応で救命できる知識を提供します。なぜ副腎クリーゼは早期発見が困難なのでしょうか?

副腎クリーゼの症状と緊急時対応

副腎クリーゼの概要と緊急性
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致命的な内分泌緊急症

糖質コルチコイドの急激な不足により循環障害を来し、治療が遅れると死に至る

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迅速な診断と治療が必要

非特異的症状のため診断困難だが、疑えば即座にステロイド投与を開始

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ストレス時の発症が多い

感染症・外傷・手術などが引き金となり、副腎予備能の限界を超えて発症

副腎クリーゼの主要症状と特徴

副腎クリーゼは糖質コルチコイドの急激な欠乏により、多様かつ非特異的な症状を呈します 。悪心、嘔吐、軽度腹痛、体重減少、筋・関節痛倦怠感、発熱、血圧低下、意識障害などが主要症候として報告されています 。これらの症状を複数認めた際に本症の可能性を疑うことが重要です 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/4/105_640/_pdf

 

幼児期においては嘔吐、哺乳力低下、脱水、脱力が主症状であり、年長になると腹痛、脱力、疲労、精神障害などを認めます 。どの小児年代にもショックや低血糖発作は起こり得るため、年齢に関係なく注意深い観察が必要です 。
副腎クリーゼの特徴的な身体所見として、色素沈着(原発性副腎不全症のみ)、恥毛・腋毛の減少・脱落、耳介軟骨の石灰化(長期副腎不全症例)などがあり、これらは慢性副腎不全症の存在を疑わせる重要な手がかりとなります 。

副腎クリーゼの診断と検査値異常

一般検査所見として、副腎クリーゼでは低ナトリウム血症高カリウム血症、低血糖、貧血、好酸球増多などの特徴的な異常を認めます 。これらの電解質異常は糖質コルチコイドとミネラルコルチコイドの欠乏によって生じる複合的な病態を反映しています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/4/97_756/_pdf

 

本症が疑われる場合は、ACTH、コルチゾールの測定用検体を採取後、躊躇なく治療を開始することが重要です 。ストレス下の随時血中コルチゾール値を用いた副腎クリーゼの判定の目安として、3~5 μg/dl未満なら副腎不全症を強く疑います 。
診断には単一の検査で副腎不全を診断することはできないため 、臨床症状と複数の検査所見を総合的に評価する必要があります。意識状態や血圧の状況評価、血糖検査による電解質異常や低血糖の有無、貧血の存在確認が診断の鍵となります 。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E5%89%AF%E8%85%8E%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BC

 

副腎クリーゼの治療法とステロイド補充

副腎クリーゼの治療は、確定診断よりも先に治療介入を行うことが重要な原則です 。十分な水分、糖分、塩分の補給に加えて、即効性の副腎皮質ステロイドを投与し、原因疾患の治療を同時に行います 。
参考)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/disease/index.cgi?c=disease-2amp;pk=116

 

緊急時のヒドロコルチゾン投与量の目安として、乳幼児25mg、学童50mg、成人(中学生以上)100mgが推奨されています 。治療開始前の血液を保存することで、病状が安定した後に副腎機能を正確に評価することが可能となります 。
参考)https://www.j-endo.jp/modules/news/index.php?content_id=63

 

重症例では循環不全、ショック、意識消失、けいれんなどをきたし死に至ることがあるため 、血圧維持のための循環管理と並行してステロイド補充療法を迅速に開始する必要があります。ドパミンなどの昇圧剤の使用も状況に応じて検討されます。
参考)https://www.jspid.jp/wp-content/uploads/pdf/03201/032010027.pdf

 

副腎クリーゼの原因とアジソン病との関連

副腎クリーゼの原因として、感染症、外傷、ストレスによるものが報告されており 、特に事故、けが、手術、重症の感染症などで体がストレスにさらされると発症しやすくなります 。アジソン病などの原発性副腎不全を基盤とする場合、急性感染症によって誘発される場合が多く 、敗血症がある場合にその可能性が特に高くなります 。
原発性副腎不全では自己免疫性副腎炎が日本で最も多く、自己免疫反応で副腎皮質が徐々に破壊されることが主要な病因です 。結核性副腎炎、副腎出血、アミロイドーシス、サルコイドーシス、転移性腫瘍などによる副腎障害も原因として挙げられます 。
参考)https://cloud-dr.jp/medical-navi/disease/1688/

 

続発性(中枢性)副腎不全では下垂体からのACTH分泌障害が原因となり、原発性とは異なりミネラルコルチコイド(アルドステロン)の分泌は保たれることが特徴的です 。この違いにより重症度や治療方針が異なるため、正確な鑑別診断が重要となります。

副腎クリーゼの予防方法と患者指導

副腎クリーゼの予防には日常的なステロイド補充療法の自己管理が極めて重要です 。規則正しい生活リズムを保ち、十分な睡眠と栄養摂取を心がけることが基本となります 。ストレス管理も重要で、過度の身体的・精神的ストレスを避けるよう努める必要があります 。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/endocrine/endocrine-disease/acute-adrenal-insufficiency/

 

患者指導内容の要点として、①自己判断でステロイドの内服を中断しない、②インフルエンザ、発熱、抜歯、強めの運動などのストレス時には通常服用量の1.5~3倍服用する、③緊急時用のカード(病名、処置、連絡先を記載)を携帯しておくことが挙げられます 。
シックデイ(体調不良時)の対応として、発熱が37.5℃以上の場合は通常の2倍内服し 、症状の改善がない時は速やかに病院受診することが推奨されています 。薬の携帯を忘れずに旅行や外出時にも十分な量を持参し、服薬状況や体調を記録する習慣も予防には不可欠です 。
参考)https://kannoukasuitai.jp/card/file/adrenal_insufficiency_card.pdf

 

急性副腎不全(副腎クリーゼ)の詳細な病態と治療に関する日本内科学会の最新ガイドライン
日本内分泌学会による副腎クリーゼ時のヒドロコルチゾン緊急投与に関する公式見解
副腎不全患者が携帯すべき緊急時対応カードのテンプレート