不随意運動は、自分の意思とは関係なく身体が勝手に動いてしまう現象であり、主に大脳基底核の病変により発生します。不随意運動の分類は多岐にわたりますが、臨床現場では律動性か非律動性かをまず判定することが重要です。律動性の不随意運動には振戦やミオクローヌスがあり、一定のリズムで反復します。
参考)https://www.igaku-shoin.co.jp/misc/pdf/1402107652.pdf
不随意運動は運動の出現する部位により大きく3種類に分けられ、筋束レベル、個々の筋および少数の筋群レベル、四肢や体幹レベルの動作に分類されます。筋束レベルには筋線維束性収縮やミオキミアが含まれ、個々の筋レベルには振戦やミオクローヌスが含まれ、四肢や体幹レベルにはバリズム、舞踏運動、ジストニア、アテトーゼなどが含まれます。
非律動性の不随意運動は方向や周期、振幅が不規則であり、舞踏運動、バリズム、アテトーゼ、ジスキネジアなどが該当します。これらの責任病巣は大脳基底核、特に尾状核、被殻、淡蒼球、視床下核にあります。
参考)不随意運動 - みやけ内科・循環器科【総合内科のアプローチ】
不随意運動の診察では、発症時期と様式、家族歴、既往歴を確認した後、発現部位、律動性の有無、出現時期を観察します。多くの不随意運動は睡眠時に止まり、不安や精神的緊張、ストレスで悪化する特徴があります。
参考)不随意運動
振戦は、ほぼ一定のリズムで主動筋と拮抗筋が交代性かつ周期性に収縮する不随意運動です。振戦は出現する状況により安静時振戦、姿勢時振戦、動作時振戦に分類され、周期数や振幅によって鑑別を進めます。
参考)振戦 - 07. 神経疾患 - MSDマニュアル プロフェッ…
安静時振戦はパーキンソン病が代表的で、4~6Hz程度の周期を有し、安静時に最も顕著に表れ動作時には減弱または消失します。パーキンソン病では拇指と示指を伸展対立させた状態で丸薬をまるめるようなpill-rolling tremorが見られ、片側の手指から始まり同側の手足に及んで対側に波及することが多いです。安静時振戦の責任病巣は基底核-視床-前頭葉と小脳-視床-運動野という2つの系が関与していると考えられています。
姿勢時振戦には本態性振戦、生理的振戦、末梢神経障害に伴う振戦、代謝性疾患による振戦があり、上肢を挙上し肢位を保った際に誘発されます。本態性振戦は振戦全体の中で最も多く見られ、振戦を止めようと意識することで増強する点がパーキンソン病の安静時振戦と異なります。生理的振戦は8~12Hz程度の速さで主に手指末梢に見られ、精神的緊張や疲労時に増強します。
参考)振戦 - 09. 脳、脊髄、末梢神経の病気 - MSDマニュ…
動作時振戦は随意運動に伴って、あるいは随意運動の企図のみでも生じ、揺れの方向や周期が不規則でより速い運動であることが多いです。小脳性振戦や企図振戦、動作時ミオクローヌスなどが含まれ、脳血管障害、多発性硬化症、脳炎などが原因となります。企図振戦は体の一部を目標物に向かって動かしているときに悪化する特徴があります。
その他の特殊な振戦として、皮質性振戦と口蓋振戦があります。皮質性振戦はミオクローヌスによる末梢の筋収縮由来の感覚入力が次の皮質反射を誘発し続けることで7~10Hz程度の振戦をきたし、本態性振戦との鑑別が困難な場合もあります。口蓋振戦は約2~3Hzの律動性の収縮で、他の振戦と異なり睡眠中でも持続する点が特徴的です。
ミオクローヌスは、突発性で持続の短い不規則な不随意筋収縮であり、四肢や顔面の筋あるいは筋群がピクッと収縮して起こります。主動筋と拮抗筋が同時に収縮することが多く、個々の筋および少数の筋群から体幹全体、さらには四肢や顔面領域のすべてを含む広範な領域に及びます。
ミオクローヌスは責任病巣による分類が有用で、大きくは皮質性、脳幹性、脊髄性に分けられます。皮質性ミオクローヌスは四肢遠位部や顔面に多く見られ、刺激(感覚、音、光、腱反射)や随意運動により増強される皮質反射性ミオクローヌスの場合があります。表面筋電図で筋放電持続時間が短く、脳MRIで信号変化を、またSEPでgiant SEPやC-reflexの有無を確認して鑑別を進めます。
脳幹性ミオクローヌスは全身性の単収縮jerkが四肢近位筋や体幹筋、屈筋群優位に同期性に生じる場合に疑われ、代謝性脳症の一部などが含まれます。脊髄性ミオクローヌスは一肢あるいは両下肢、隣接する体幹などに律動性にミオクローヌスが生じ、睡眠中も持続します。一般には感覚刺激による増強は脳性のものと比較して少ないとされますが、離れたレベルからの刺激に反応して吻側または尾側方向にミオクローヌスが伝播するものは固有脊髄性ミオクローヌスと呼ばれます。
ミオクローヌスの原因疾患は多岐にわたり、無酸素状態、代謝性障害(急性腎不全、肝不全など)、頭部外傷、クロイツフェルト・ヤコブ病、アルツハイマー病、多発性硬化症、てんかん性、生理的ミオクローヌス(睡眠時ミオクローヌス、しゃっくりなど)があります。脳の広範囲にびまん性に炎症が起きて錐体外路系の均衡が崩れた場合にミオクローヌスは生じると考えられています。
羽ばたき振戦は特殊なミオクローヌスの一種で、上肢全体を伸展し左右に外転挙上し保持した際に手指・手関節にみられる重力方向に急速相をもつ運動です。周期性はみられず、肝性脳症、尿毒症や低酸素などの代謝性脳症のほか、視床や中脳の小さな血管障害性病変でも生じることが知られています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/9/100_2653/_pdf
ジストニアは、体の一部または全身に持続性の筋収縮をきたすもので、姿勢異常や捻転、反復運動を生じます。異常な筋収縮がパターンを有する点が舞踏運動やアテトーゼとは異なります。
ジストニアの特徴として、特定の動作や姿勢、感覚刺激で症状が出現したり増悪したりするsensory trickがあります。また、ある動作の際に不必要な筋が不随意に収縮してジストニアを呈するoverflow phenomenonも特徴的です。筋トーヌスは低下していることがあり、精神的ストレスで増強し睡眠時に消失します。
参考)https://www.neurology-jp.org/guidelinem/dystonia/dystonia_2018.pdf
局所性ジストニアとしては眼瞼痙攣、痙性斜頸、Meige症候群などがあります。眼瞼痙攣は眼瞼が勝手に閉じようとする症状で、痙性斜頸は首が上や下、左や右に傾く、首がねじれる症状です。書痙は鉛筆や箸が持てない、持ちにくい、字が書けない、書きにくいという症状が現れます。
参考)不随意運動【ナース専科】
ジストニアの原因は多様で、脳症、脳血管障害、薬剤性のほか、遺伝性変性・代謝性疾患も多く存在します。ジストニアはパーキンソン病などのように明らかな病理はないが、ドーパミンの絶対的・相対的な過剰が原因で直接路の過剰興奮が起こることが原因と考えられています。
参考)遺伝性ジストニア(指定難病120) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/4899" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/4899amp;#8211; 難病情報…
ジストニアの診断では、発症年齢別に小児型(12歳まで)、青年型(13~20歳)、成人型(21歳以上)に分類されます。また、分布により全身性、分節性、多巣性、局所性に分類されます。ミオクローヌス・ジストニアは素早い短時間の筋収縮(ミオクローヌス)および持続するねじるような反復する運動の結果として異常姿勢を呈する(ジストニア)ことの組み合わせで特徴付けられます。
参考)https://grj.umin.jp/grj/dystonia-ov.htm
ジストニアの治療は薬物療法、ボツリヌス療法、外科的療法が行われます。薬物療法では抗コリン薬、ドパミン作動薬、筋弛緩薬などが使用され、ボツリヌス療法は局所性ジストニアに対して効果的です。症状が薬では抑えることのできない場合や薬の副作用が出現する場合には脳深部刺激療法(DBS)などの外科手術が必要となります。
参考)https://www.neurosurgery.med.keio.ac.jp/disease/functional/04.html
舞踏運動は、四肢遠位優位にみられ比較的早く滑らかな踊っているような不随意運動です。運動のパターンも速度もあたかも随意運動であるかのような自然さをもつ不随意運動で、全身のあらゆる部位に生じリズムはなく不規則です。
参考)舞踏運動、アテトーゼ、ヘミバリスム - 09. 脳、脊髄、末…
舞踏運動では手、足、顔面に異常がみられるのが典型的で、鼻にしわが寄ったり眼が絶え間なくぴくついたり口や舌が絶え間なく動いたりします。その動きはランダムで、動きが次から次へと別の筋肉に伝わっていくように見え、踊っているように見えることがあります。安静時に持続し精神的緊張により増強しますが、深睡眠時には消失します。
舞踏運動の原因疾患として、ハンチントン舞踏病が有名ですが、変性疾患、代謝性疾患、薬剤性などさまざまです。尾状核、被殻の神経細胞減少がGABA欠乏をきたし、淡蒼球や黒質での抑制がとれることが原因と考えられています。舞踏運動とアテトーゼは基底核による視床皮質ニューロンの抑制が障害されることに起因し、過剰なドパミン系の活動がその機序である可能性があります。
参考)舞踏運動,アテトーゼ,およびヘミバリスム - 07. 神経疾…
バリズムは上肢または下肢を近位部から投げ出すような大きく激しい不随意運動であり、数秒に1回程度の頻度で不規則に繰り返し生じます。多くの場合片側の上下肢に見られ片側バリズム(ヘミバリスム)と呼ばれています。
ヘミバリスムでは体の片側に異常がみられ、脚より腕に多くみられます。腕や脚を動かそうとしたときに抑制が効かず投げ出すような動きになることがあるため日常生活に一時的な支障をきたすことがあり、この運動は抑えることができず暴力的になることがあります。
バリズムの原因の大部分は血管障害で、責任病巣は対側の視床下核または視床下核-淡蒼球路にあり、障害の直後から運動を生じるとされています。まれに両側性に起こることもあり、その場合はバリズムと呼ばれます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/89/4/89_4_608/_pdf
アテトーゼは四肢遠位部優位にみられる持続時間の長い肢をねじるような運動で、一つの肢位がしばらく持続した後次の肢位にゆっくりと変化するようにみえる随意的には真似しがたい不規則な運動です。ゆっくり流れるようにうねる連続的な不随意運動で、通常手と足に現れます。
アテトーゼでは通常手と足に異常がみられ、ゆっくりくねくねとした動きと四肢の各部を特定の位置(姿勢)に保持する動きが交互に現れ、その結果流れるような連続的な動きが生じます。舞踏運動と一緒にみられることも多いため適宜舞踏運動の原因も含め鑑別を勧める必要があります。
アテトーゼの原因疾患として、脳性麻痺や低酸素脳症、核黄疸によるものが有名で、ジストニアを伴うことが多いです。主病変は被殻、尾状核、被殻外側に存在します。舞踏運動とアテトーゼが同時に起こると、くねくねと踊るような舞踏運動よりは遅くアテトーゼよりは速い動きになります。
ジスキネジアは舞踏運動、ジストニア、振戦、バリズム、アテトーゼ、チック、ミオクローヌスなどが一つあるいは複数の組み合わせで起こる運動の総称です。全体としては不規則で多様な運動でありながら一人の患者内では一定のパターンを示すことが多く、頸部や四肢で舞踏運動よりはやや遅い不随意運動として認められます。
ジスキネジアには口をもぐもぐさせるような比較的ゆっくりした口舌ジスキネジアや、斜頸や頸部後屈のような比較的tonicな姿勢異常と頸の前後屈や回旋運動などの繰り返しから成るものなどがあります。抗精神病薬や抗パーキンソン病薬の長期内服患者では高頻度で遅発性ジスキネジアを認めるため、薬剤服用歴の精査が不可欠です。
遅発性ジスキネジアまたは口ジスキネジアは、ハロペリドールなどの抗精神病薬を長期服用している患者におきるもので、口唇をもぐもぐさせたり舌のねじれや前後左右への動きや歯を食いしばったりすることが見られます。パーキンソン病にみられるジスキネジアは痙性の強い四肢や頭部の舞踏様の運動であることがより一般的で、通常レボドパによる治療を開始して数年後に現れます。
発作性ジスキネジアは舞踏運動、アテトーゼ、バリズム、ジストニアなど様々な運動の組み合わせで起こる発作性の運動異常症で、かつてはてんかんの一種とも考えられていました。しかし発作中に脳波異常もみられず意識も保たれ、運動がジストニア、舞踏運動、アテトーゼといった錐体外路症状を示すことからてんかんの範疇には含めません。
不随意運動の鑑別では、患者の日常生活動作(ADL)への影響度と社会的側面を評価することが重要です。同じ種類の不随意運動でも、その出現頻度、振幅、分布によって患者のQOLへの影響は大きく異なります。例えば、本態性振戦は動作時に増強するため食事や書字といった日常生活に直接的な支障をきたしますが、パーキンソン病の安静時振戦は動作時に減弱するため日常生活への影響は比較的小さい場合があります。
職業性ジストニアは、音楽家や書道家など特定の職業で特定の動作を繰り返すことにより発症するジストニアであり、一般的な局所性ジストニアとは異なる病態を呈します。ピアノやギターなど特定の楽器が弾けない、弾きにくいという症状や、字が書けない、書きにくいという書痙が代表的です。これらの職業性ジストニアは、その職業特有の微細な運動制御の障害であり、同じ動作でも異なる文脈では正常に行えることがあります。
不随意運動の心理社会的側面も重要で、特にミオクローヌス・ジストニアの患者では精神的な問題としてうつ病、不安、強迫神経症、人格障害、嗜癖、パニック障害がみられます。たいていの成人患者はアルコール摂取に反応してミオクローヌスが劇的に減少しますが、アルコール嗜癖の危険性が重要です。
不随意運動の診察では、ビデオ撮影が経過とともに変化していく様子を評価し検討するために不可欠です。言葉による表現だけでは不十分な場合や、治療効果の判定、複数の不随意運動が混在する場合の鑑別にビデオ撮影は極めて有用です。
不随意運動の薬剤性原因も見逃せません。アカシジア(静座不能)はドーパミンD2受容体拮抗作用を持っている抗精神病薬による副作用として出現することがあり、座ったままでいられない、じっとしていられない、下肢のむずむず感の自覚症状があります。アカシジアは元来の精神疾患に伴う治療抵抗性の精神症状や不安発作と誤診されやすく、長期的に適切な処置がされないままで悪化し自傷行為や自殺に繋がる可能性もあります。
日本神経学会による不随意運動の患者向け解説(ふるえ、かってに手足や体が動いてしまう症状の詳細情報)
慶應義塾大学病院脳神経外科による不随意運動症の診療情報(本態性振戦、パーキンソン病、ジストニアなどの治療法)
国立精神・神経医療研究センターによる小児の不随意運動の解説(小児特有の不随意運動の診断と治療)