「補体が下がっていたからSLEかな」と思って検査を進めたら、肝硬変による産生低下で補体消費が全くなかった——という経験はありませんか。
補体検査の中心となるのは、血清補体価(CH50)、C3、C4の3項目です。CH50はC1からC9まで全ての補体成分が正常に機能しているかを「総合的な活性値」として反映します。つまり、どこか一か所でも補体成分が欠けていたり消費されたりすると、CH50は低下します。
まずCH50が低値であったとき、次のステップとしてC3とC4の値を確認します。これが補体低値の鑑別で最初に行うべき作業です。C3もC4もともに低下しているときは、古典経路が活性化されているパターンと考えます。この経路は抗原抗体複合体によって駆動されるため、SLEや悪性関節リウマチ、クリオグロブリン血症など自己抗体が中心的役割を果たす疾患が鑑別に挙がります。
一方、C4は正常範囲内なのにC3のみが低下しているとき、第二経路の活性化が疑われます。第二経路は抗体を介さず病原体表面などを直接認識して活性化する経路であり、C1・C4・C2を消費しません。この状態では、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)や非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)が鑑別疾患として浮上します。つまりC3とC4の組み合わせが、経路特定の最初のカギです。
もうひとつ見落とされがちなのが、C4が正常で、かつC3が単独低下しているケースの中でも比較的まれな「C4正常・C3低下」の副経路パターンです。C3には「1時間にC3全体の1〜2%が自発的に切断されている」という特性があり、宿主の補体制御因子が正常に機能しなくなるとその消費が加速します。これがaHUSのような補体制御異常疾患でC3が著明に低下するメカニズムです。
| CH50 | C3 | C4 | 主な疾患・病態 |
|---|---|---|---|
| ↓ | ↓ | ↓ | SLE、悪性関節リウマチ、クリオグロブリン血症、肝硬変、DIC |
| ↓ | ↓ | 正常 | 急性糸球体腎炎(溶連菌後)、MPGN、aHUS、C3欠損症 |
| ↓ | 正常 | ↓ | 血管神経性浮腫、C1インヒビター欠損症、C4欠損症 |
| ↓ | 正常 | 正常 | Cold activation、C3・C4以外の補体欠損症(C9欠損症など) |
C4が単独で低下しているのにC3が正常な場合は、血管神経性浮腫(HAE)やC1インヒビター欠損症を念頭に置きます。この病態ではC1インヒビターの機能不全によってC4が持続的に消費されますが、C3の消費には至らないことが多く、上表のパターンは診断の糸口になります。
参考:補体検査と鑑別疾患の詳細な整理(国府台病院リウマチ膠原病科)
低補体血症 - 国府台病院リウマチ膠原病科(補体経路の活性化パターンと鑑別疾患一覧)
SLE(全身性エリテマトーデス)において補体低値は、疾患活動性の指標として非常に重要です。SLEでは自己抗体(抗dsDNA抗体など)と自己抗原が形成する免疫複合体が古典経路を活性化し、C1・C4・C2・C3を連鎖的に消費します。実際の疾患活動期にはCH50・C4・C3がそろって低下することが多く、治療による寛解に伴って補体値が回復するパターンは、治療効果の評価にも使えます。
ここで注意したいのが、「補体は急性炎症タンパク(APP)としての側面も持つ」という点です。つまり、感染症や悪性腫瘍があると補体は非特異的に「上昇」します。SLE患者に感染症が合併したとき、消費による低下と産生増加による上昇が打ち消し合い、補体値が「見た目上は正常範囲内」になることがあります。これは危険な落とし穴です。
補体値が一見正常でも、抗dsDNA抗体の上昇や臨床症状の増悪がある場合は、SLEの再燃を軽視しないことが原則です。さらに、C4値については「C4遺伝子のゲノム上のコピー数に個人差がある」という事実も押さえておく必要があります。SLE患者の一部はC4Aまたは C4B遺伝子の先天的なコピー数が少なく(null allele)、疾患活動性がなくてもC4が低めに出ることがあります。この場合C4だけを単独指標にすると、活動性の過大評価につながります。SLEの活動性評価では、C4単独よりもC3と抗dsDNA抗体を組み合わせて評価するほうが確実です。
また、SLEと補体には「ループスパラドックス」とよばれる逆説的現象があります。C1q欠損症患者の約93%にSLEまたはSLE様症状の合併が報告されており、「補体が低い(欠損している)ほどSLEになりやすい」という関係が成立しています。古典経路の補体成分はアポトーシス細胞の除去に関与しており、その機能が損なわれると自己抗原が蓄積し、自己免疫反応が誘導されると考えられています。これは興味深い事実ですね。
参考:補体異常値を示す疾患とそのメカニズム(福島医科大学・J-Stage掲載論文、SLE・RA・クリオグロブリン血症など疾患別メカニズムを詳解)
補体異常値を示す疾患とそのメカニズム(UMIN・福島県立医科大学免疫学講座)
補体低値を見たとき、「自己免疫疾患による消費増加」だけを考えていると、診断を誤るリスクがあります。実はもうひとつの大きな原因が「産生低下」です。補体の主要産生臓器は肝臓であり、肝硬変や劇症肝炎など肝機能が著しく低下した状態では、補体が全く消費されていなくてもCH50・C3・C4がそろって低下します。産生低下が原因なら基本です。
臨床現場では、アルブミン低値・プロトロンビン時間の延長・血小板減少などの肝障害サインと補体低値が重なっている場合には、まず肝機能評価を優先します。低栄養状態や重症DICでも産生低下・消費亢進によって補体が低下することがあるため、背景疾患の把握が鑑別の前提となります。
もうひとつの盲点が、採血後の処理に起因する「偽低値」です。血清中にクリオグロブリンが存在する患者では、採血後に検体を低温(室温以下)に置くだけで試験管内で補体が活性化されてしまう「cold activation現象」が起こります。この場合、CH50とC4活性が低下しますが、C4蛋白量は正常で、C3も正常範囲に保たれます。このパターンはC型肝炎(HCV)患者や悪性リンパ腫患者の血清でよく見られます。意外ですね。
cold activationを疑ったときは、37℃血清またはEDTA血漿を用いて再検することで確認できます。cold activationが否定できれば、C3・C4以外の補体成分(C9など)の欠損症を疑います。この確認ステップを知っているか知らないかで、不必要な精査や誤診を防ぐことができます。
参考:CH50・C3・C4による補体検査の臨床的意義と再検のフロー(CRCグループ)
C3・C4の臨床的意義とCH50との組み合わせ評価(CRCグループ 検査Q&A)
膠原病以外で補体低値を呈する疾患として、近年注目すべきなのがIgG4関連疾患(IgG4-RD)です。IgG4-RD全体の10〜30%、とくにIgG4関連腎臓病では50%以上の症例で低補体血症を認めると報告されています。しかも、多くの症例でC3・C4がともに低下するパターンをとるため、一見すると SLEの検査パターンと区別がつきにくいことがあります。これは使えそうです。
IgG4-RDを疑うべきポイントとしては、①血清IgG4値が135mg/dL以上、②高IgE血症、③中高年男性に好発、④画像で膵腫大や両側腎の造影不良域などが挙げられます。疾患特異的な自己抗体(抗dsDNA抗体や抗Sm抗体)が陰性であること、CRPが低値傾向であることも、SLEとの鑑別ポイントになります。IgG4-RDは2011年に診断基準が確立されてから認知が広まった比較的新しい疾患概念であり、腎病変・膵病変・涙腺・唾液腺などの多臓器病変を同時に呈することがあるため、補体低値を起点に臓器横断的な評価が必要です。
もうひとつ重要なのが混合型クリオグロブリン血症です。クリオグロブリンは低温で沈殿し37℃で再溶解する性質を持つ免疫グロブリンで、そのII型・III型(混合型)は、C型肝炎ウイルス(HCV)感染に合併することが高頻度です。HCV感染に伴う混合型クリオグロブリン血症では、RF活性を持つIgMがHCV粒子に結合するIgG抗体に結合して多量体複合体を形成し、古典経路を活性化することでCH50・C1q・C4・C3の低下を引き起こします。C4に比べてC3の低下は軽度であることが多い、という点が特徴的です。
臨床的には下肢の紫斑(触知可能)・関節痛・末梢神経障害・膜性増殖性糸球体腎炎を呈する患者でHCV感染歴があれば、積極的にクリオグロブリン血症の評価を行うことが勧められます。HCV治療薬(DAA製剤)によるHCV根治で補体値が回復するケースも報告されており、感染症と自己免疫の両面から管理することが求められます。
参考:IgG4関連疾患の診断基準2020と低補体血症の意義(日本腎臓学会)
IgG4関連腎臓病診断基準2020(日本腎臓学会・低補体血症の診断基準上の位置づけを確認できる)
CH50が著明に低値(ほぼゼロに近い)であるにもかかわらず、C3・C4がともに正常であった場合には、C3・C4以外の補体成分の先天性欠損症を疑うフローに入ります。先天性補体欠損症の中でも、日本人臨床医が特に意識すべきなのがC9欠損症です。
C9欠損症は欧米では極めてまれな疾患ですが、日本人の約1,000人に1人の頻度で存在すると報告されています。これはクラスに一人、ちょうど30人クラスなら学校全体で約10人に相当するイメージです。無症状のまま生涯を過ごす人も多い一方で、C9欠損症患者が髄膜炎菌性髄膜炎患者に占める割合は有意に高く(髄膜炎菌性髄膜炎16人中4人がC9欠損症だったという報告がある)、莢膜を有する細菌(髄膜炎菌・インフルエンザ菌・肺炎球菌など)への易感染性につながります。C9欠損症が条件です。
補体欠損症全体で見ると、C5〜C9のような終末経路成分の欠損では膜侵襲複合体(MAC)の形成が障害されるため、細菌の細胞膜を破壊する能力が失われます。反復する莢膜細菌感染症(とくに髄膜炎菌感染の再発)を認める患者では、先天性補体欠損症の可能性を念頭に置き、個別の補体成分(C5〜C9など)を精査する流れへ進むことが重要です。
一方、古典経路上流(C1q・C4・C2)の欠損症では、前述のループスパラドックスのとおりSLE合併頻度が高くなります。C1q欠損の93%にSLE合併という数字は、補体が自己免疫の制御においていかに重要かを如実に示しています。
補体欠損症を疑ったとき、まず確認すべき検査の流れを整理します。CH50がほぼゼロ→C3・C4を確認→C3・C4が正常なら、①cold activationの否定(37℃血清またはEDTA血漿で再検)→②否定されたら個別補体成分欠損(特にC9、C7を優先)を精査→③家族例・反復感染症の有無を問診、という手順です。
参考:先天性補体欠損症の診療指針・C9欠損症の頻度(国立研究開発法人)
先天性補体欠損症に関する研究報告(厚生労働省科研費・C9欠損症の日本人における頻度1,000人に1人の根拠データを含む)
参考:先天性補体欠損症の概要(小児慢性特定疾病情報センター)
先天性補体欠損症 概要(小児慢性特定疾病情報センター・各補体成分欠損の臨床像と治療の概説)
一般的に補体低値の鑑別が議論の中心になりますが、「補体が上昇しているとき」を逆から読むことで、補体が正常〜低値を示すケースの解釈精度を高める視点があります。あまり語られない独自の切り口です。
補体はCRPと同じ急性炎症タンパクでもあるため、感染症・悪性腫瘍・関節リウマチ(RA)・妊娠などの炎症状態では、補体の産生が亢進して高値になることがあります。RAでは血清補体値が疾患活動性に比例して高値傾向を示すことが多いですが、「関節液中では逆に補体が低値を示す」という点は有名ではありません。関節局所では免疫複合体によって補体が消費されているにもかかわらず、全身の血清補体値は上昇しているわけです。血清値だけで判断は危険です。
この知識が実臨床でどう活きるか。たとえばSLE患者にRA様の関節炎を合併したとき、血清補体値が「正常範囲内」に見えたとしても、SLEの活動性がないとは言い切れません。急性感染症合併時と同様に、産生増加と消費増加が拮抗して見かけ上正常になっているだけかもしれないからです。
また、悪性腫瘍合併例や多発性骨髄腫では補体が高値となることがあります。これに低栄養が重なって産生低下が加わると、補体が「正常範囲内」に落ち着くことがあります。補体値が「正常だから問題なし」とは限らないということです。これは知ってると得する情報ですね。
補体を正確に評価するためには、以下の視点を常に持つことが求められます。
「補体が下がっている」という事実だけではなく、「なぜ下がっているのか」「本当に消費されているのか、それとも産生されていないのか」を論理的に積み上げていくプロセスが、補体低値の鑑別の本質です。複数のマーカーを組み合わせれば精度が上がります。
参考:補体検査の使い分けとCH50・C3・C4による鑑別疾患(HOKUTO 亀田総合病院リウマチ科)
補体検査(C3・C4・CH50)の使い分けと鑑別疾患(HOKUTO・亀田総合病院リウマチ科解説、補体の急性炎症タンパクとしての側面も明記)