唾液腺の腫れの原因と症状・診断・治療法

唾液腺の腫れは炎症、腫瘍、唾石症など多様な原因で起こります。食事時の痛み増強や発熱など特徴的な症状から適切な診断・治療につなげることが重要です。医療従事者として唾液腺腫脹の鑑別診断と対応について、詳しく理解していますか?

唾液腺の腫れの原因

唾液腺腫脹の主な原因
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炎症性疾患

細菌性唾液腺炎、ウイルス性唾液腺炎、自己免疫性疾患による唾液腺の炎症

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唾石症

唾液腺や導管内に結石が形成され、唾液の流出が阻害される病態

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腫瘍性病変

良性腫瘍(多形腺腫など)や悪性腫瘍(唾液腺がんなど)による腫脹

唾液腺の腫れは大きく分けて炎症腫瘍のう胞の3つの原因によって生じます。炎症性疾患では細菌感染やウイルス感染、自己免疫性疾患が関与し、唾液腺組織に直接的な炎症反応が起こります。特に医療現場では、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の鑑別が重要で、医療従事者が罹患すると周囲への感染源となるため注意が必要です。saiseikai+4
唾液腺の腫れを引き起こす主な要因として、唾液分泌の低下が挙げられます。唾液分泌が減少すると口腔内常在菌が唾液腺の導管を逆行性に侵入しやすくなり、細菌性唾液腺炎を発症します。この病態は特に50代から60代の慢性口腔乾燥症患者やシェーグレン症候群患者、食欲不振の若年者に好発します。family-dr+3
唾石症は顎下腺に最も多く発生する疾患で、顎下腺の唾液が粘性であることや導管(ワルトン管)が長く上向きで排出孔が狭いという解剖学的特徴が関与しています。結石が導管に詰まることで唾液の流出が妨げられ、唾液腺内に唾液がうっ滞して腫脹と疼痛を引き起こします。nishijima-ent+3
自己免疫性疾患では、IgG4関連涙腺・唾液腺炎やシェーグレン症候群が重要な鑑別疾患となります。IgG4関連疾患では血液中のIgG4が高値を示し、左右対称性の腺腫脹を呈するものの、シェーグレン症候群と異なりステロイド治療への反応性が良好で腺機能の回復が期待できます。igg4+1

唾液腺の細菌性炎症の原因と機序

 

 

細菌性唾液腺炎は口腔内常在菌が主な原因で、唾液分泌の低下時に発症リスクが高まります。耳下腺が最も好発部位で、全身の抵抗力低下や水分不足の状態で細菌が導管を逆行性に侵入し、唾液腺組織に感染を引き起こします。導管からの膿排出が特徴的な所見であり、培養検査による起因菌の同定が治療方針の決定に有用です。nikkei+4
放射線治療を受けている患者や甲状腺のヨード療法を受けている患者では、唾液腺炎のリスクが上昇することが知られています。これらの治療による唾液分泌機能の低下が、細菌感染の素地を作ります。family-dr

唾液腺のウイルス性炎症の特徴

ウイルス性唾液腺炎の代表的疾患は流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)で、ムンプスウイルスによる感染症です。発症は3~6歳が全体の約6割を占めますが、免疫を持たない成人も罹患し、時には重症化することがあります。医療従事者が罹患した場合、耳下腺腫脹後9日間は就業禁止となり、患者や他の医療従事者への感染源となるため厳重な感染管理が必要です。gunma.med+2
片側の耳下腺が全体的に腫脹することから始まり、1~2日遅れて対側も腫脹するのが典型的な経過です。食事時に唾液分泌が増加すると、炎症により唾液の流出が悪化して耳下腺内に貯留するため、疼痛と腫脹が増強します。mic-ent

唾液腺の唾石症による腫れのメカニズム

唾石症は唾液腺や導管内に結石が形成される疾患で、顎下腺に約80%が発生します。顎下腺の唾液は粘稠度が高く、カルシウムやリン酸塩などのミネラル成分が沈着しやすい性質を持ちます。ワルトン管は約5cmと長く、やや上向きに走行して狭い開口部から口腔内に開口するため、唾液の停滞が生じやすい解剖学的特徴があります。yoshijibika+2
結石が導管に詰まると唾液の流出が妨げられ、唾液腺内に唾液がうっ滞して腫脹と激しい疼痛を引き起こします。食事時に唾液分泌が増加するため症状が増強し、食後しばらくすると緩和するという特徴的な経過を示します。完全閉塞が生じると細菌感染を合併し、発熱や膿の排出を伴うこともあります。hosp.juntendo+2

唾液腺腫瘍による腫れの特徴

唾液腺腫瘍は良性と悪性に分類され、良性では多形腺腫が最も多く、全唾液腺腫瘍の約60~70%を占めます。耳下腺に発生する腫瘍が最も多く、次いで顎下腺、小唾液腺の順となります。腫瘍の発生原因は完全には解明されていませんが、一部の唾液腺腫瘍ではウイルス感染や放射線被ばくが誘因となる可能性が報告されています。medicalnote+3
悪性腫瘍では急速な腫脹、疼痛、顔面神経麻痺などの症状が出現することがあり、これらの所見は悪性を示唆する重要なサインです。良性腫瘍でも放置すると増大し、周囲組織への圧迫症状を引き起こすため、早期の診断と治療が重要となります。sakai-ent+1

唾液腺の自己免疫性疾患と腫れの関連

IgG4関連涙腺・唾液腺炎は、従来シェーグレン症候群と診断されていた患者の中に見出された疾患群で、涙腺や唾液腺の左右対称性の持続的腫脹を特徴とします。シェーグレン症候群と異なり、高IgG4血症を呈し、口腔乾燥や涙液減少の症状は比較的軽度で、ステロイド治療への反応性が良好です。nanbyou+2
血液検査ではIgG4の上昇に加えてIgG全体の増加も認められますが、単クローン性免疫グロブリンの増加はなく、抗SS-A抗体などの自己抗体は陰性です。この疾患は自己免疫性膵炎、間質性肺炎、後腹膜線維症などの全身性IgG4関連疾患を合併することがあり、包括的な評価が必要です。igg4+1
シェーグレン症候群では涙腺や唾液腺の細胞が破壊されるため、眼や口の乾燥がほぼ必発であり、抗SS-A抗体が高率に陽性となることでIgG4関連疾患との鑑別が可能です。medicalnote

唾液腺の腫れの症状と診断

唾液腺腫脹の初期症状と臨床的特徴

唾液腺炎の初期症状として、発熱、悪寒、片側性の唾液腺の腫脹と疼痛が特徴的です。特に細菌感染では片側の唾液腺に痛みや腫れが現れることが多く、食事中など唾液分泌が促される時に疼痛が増強します。酸味のある食品を摂取すると唾液分泌が亢進するため、症状がさらに悪化する傾向があります。yoshijibika+1
進行例では導管から膿が排出され、口腔内の乾燥、食欲減退などの症状が現れます。唾液腺は硬く触知され、広範な圧痛を伴い、表面の皮膚に紅斑と浮腫を認めることもあります。罹患した唾液腺を圧迫することで導管から膿が排出される場合、膿の培養検査が診断と治療方針の決定に有用です。msdmanuals+2
唾石症では食事をきっかけに顎周囲が腫脹して激しい疼痛を生じる「唾疝痛」が特徴的で、食後しばらくすると症状が緩和します。この周期性のある症状パターンが唾石症を示唆する重要な臨床所見となります。hosono-ent+3

唾液腺腫脹の画像診断と検査法

唾液腺疾患の診断には、問診と視診・触診に加えて、複数の画像検査が用いられます。超音波検査(エコー検査)は非侵襲的で簡便であり、唾液腺の形態や結石の有無を評価する初期検査として有用です。sakai-ent+2
CT検査は唾石の検出に優れており、小さな結石も確認可能で、唾液腺炎や膿瘍の診断にも有効です。特に唾石症の診断には頸部CTが推奨されます。MRI検査は軟部組織のコントラストに優れ、腫瘍性病変の評価や唾液腺の詳細な形態観察に適していますが、結石の検出ではCTに劣ります。terao-jibika+2
血液検査では炎症反応(CRP、白血球数)や唾液腺炎で上昇するアミラーゼ値を測定します。IgG4関連疾患が疑われる場合は血清IgG4値の測定が診断の鍵となり、自己免疫性疾患の鑑別のため抗SS-A抗体などの自己抗体検査も実施します。yoshijibika+2
日本耳鼻咽喉科学会の唾液腺疾患診断に関する論文には、唾液腺造影や穿刺吸引細胞診などの詳細な検査法が記載されています。

唾液腺腫瘍の鑑別診断のための検査

唾液腺腫瘍の診断において、良性と悪性の鑑別が最も重要です。穿刺吸引細胞診(FNAC)は注射器で腫瘍部分の細胞を採取して調べる検査で、術前の良悪性鑑別に有効です。FNACの診断精度は高く、特に悪性腫瘍と良性腫瘍の鑑別において有用性が報告されています。pmc.ncbi.nlm.nih+2
近年では分子生物学的検査の応用も進んでおり、FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)、RT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)、次世代シーケンシングなどの技術により、複雑な症例での腫瘍の詳細な特性評価が可能になっています。これらの分子診断法は40種類以上に分類される唾液腺腫瘍のサブタイプ診断に役立ちます。pmc.ncbi.nlm.nih+1
免疫組織化学的検査も唾液腺腫瘍の診断精度を高める重要なツールで、ヘマトキシリン・エオジン染色だけでは鑑別困難な症例において有用です。pmc.ncbi.nlm.nih

唾液腺炎の確定診断プロセス

ウイルス性唾液腺炎の確定診断には血液検査でウイルス抗体価を測定する必要がありますが、耳下腺部や顎下腺部の腫脹・疼痛、発熱などの特徴的な症状と流行状況から、問診で容易に診断されることが多いです。saiseikai
細菌性唾液腺炎では、唾液腺周囲やリンパ節の腫脹、導管からの膿排出の確認に加え、X線検査やCT検査で唾石の有無を確認します。血液検査で炎症の程度を評価し、必要に応じて培養検査で起因菌を同定して適切な抗菌薬を選択します。msdmanuals+1
MSDマニュアルの唾液腺炎診断ガイドには、臨床的に明らかでない唾液腺炎や膿瘍の確定にCT、超音波検査、MRIが有用であることが記載されています。

唾液腺疾患における鑑別診断の重要性

唾液腺の腫脹を呈する疾患は多岐にわたるため、系統的な鑑別診断が不可欠です。炎症性疾患では細菌性、ウイルス性、自己免疫性の鑑別が重要で、それぞれ治療方針が大きく異なります。premedi+2
腫瘍性病変では良性と悪性の鑑別が予後と治療法の決定に直結します。悪性腫瘍では手術に加えて放射線療法や化学療法を組み合わせた集学的治療が必要となるため、早期の正確な診断が求められます。cancerinfo.tri-kobe+2
IgG4関連涙腺・唾液腺炎とシェーグレン症候群の鑑別は特に重要で、前者はステロイド治療への反応性が良好で腺機能の回復が期待できる一方、後者は不可逆的な腺機能低下を来すため、適切な診断に基づいた治療選択が患者の予後を左右します。medicalnote+1
反復性耳下腺炎は不定期に繰り返す耳下腺炎で、主たる原因は唾液管末端拡張症とされ、おたふくかぜや細菌性唾液腺炎との鑑別が必要です。e-catv

唾液腺の腫れの治療法と予防

唾液腺炎の薬物療法と保存的治療

細菌性唾液腺炎の治療は、抗生剤、抗炎症薬、解熱鎮痛剤の投与が中心となります。殺菌性のうがい薬を用いて口腔内を清潔に保つことも重要で、細菌の増殖を抑制し炎症の悪化を防ぎます。急性期には十分な水分補給と安静が推奨され、全身状態の改善を図ります。family-dr+1
慢性唾液腺炎で口腔乾燥が強く不快な場合は、うがい薬や人工唾液を使用して症状の緩和を図ります。症状が悪化して膿瘍形成を来した場合は、切開排膿術などの外科的処置が必要となることがあります。msdmanuals+1
ウイルス性唾液腺炎(おたふくかぜ)には特異的な治療法がなく、対症療法が中心となります。発熱や疼痛に対しては解熱鎮痛剤を使用し、十分な水分と栄養摂取、安静を保つことが回復への基本となります。医療従事者が罹患した場合は、耳下腺腫脹後9日間の就業禁止が規定されており、院内感染防止のため厳格な対応が求められます。hawaii+2

唾液腺の唾石症に対する治療アプローチ

唾石症の治療は結石の大きさと位置により選択されます。小さな結石や導管開口部に近い結石では、唾液腺マッサージにより自然排出を促す保存的治療が試みられます。マッサージは下顎の内側の柔らかい部分に親指を押し当て、耳の下から顎の下にかけて5ヶ所程度を軽く押し込む方法で、食事後や入浴中に1日5回程度実施すると効果的です。yoshijibika+1
口腔内から触知できる表在性の結石では、局所麻酔下で導管を切開して結石を摘出する手術が行われます。深部の結石や大きな結石では、唾液腺内視鏡を用いた低侵襲手術や、場合によっては唾液腺全摘出術が選択されることもあります。terao-jibika+1
急性炎症が落ち着いた後に、根本的な原因治療として結石摘出術を計画することが一般的です。炎症の急性期には抗菌薬投与と局所の安静を保ち、炎症が沈静化してから外科的治療を行います。terao-jibika+1

唾液腺腫瘍の外科的治療と集学的治療

良性腫瘍の治療は手術による完全摘出が基本です。耳下腺腫瘍では顔面神経を温存しながら腫瘍と周囲の唾液腺組織を摘出します。切除が不十分な場合は再発率が高くなるため、適切な切除範囲の設定が重要です。顎下腺腫瘍では良性でも悪性でも顎下腺全摘出術が標準的な術式となります。msdmanuals+2
悪性唾液腺腫瘍に対しては、手術による腫瘍の完全切除が治癒への最も確実な方法です。腫瘍に安全域をつけて完全に切除することが極めて重要で、リンパ節転移がある場合は頸部郭清術を併施します。術後には腫瘍の性質や進行度に応じて放射線療法や化学療法を組み合わせた集学的治療を行います。jfcr+2
速中性子線療法や光子線照射療法などの高エネルギー外照射療法も、腫瘍の種類や病期に応じて選択されます。顔面神経などの重要構造を切除した場合は、再建手術やリハビリテーションが必要となることがあります。sakai-ent+1
がん研有明病院の唾液腺がん治療情報には、手術を中心とした標準的治療法と最新の治療戦略が詳しく解説されています。

唾液腺疾患の予防と日常管理

唾液腺炎と唾石症の予防には、唾液分泌の促進が最も重要です。普段からよく噛んで食事をとり、梅干しやレモンなど酸味のある食品を意識的に摂取することで唾液分泌が亢進します。食後にシュガーレスガムを噛むことも唾液分泌の促進に効果的です。baba8733+1
唾液腺マッサージは唾石の排出促進だけでなく予防にも有効で、定期的な実施が推奨されます。十分な水分摂取を心がけることで唾液の粘稠度が低下し、結石形成のリスクが減少します。baba8733+2
口腔内を清潔に保つことは細菌性唾液腺炎の予防に直結します。うがいや歯磨きをこまめに行い、洗口液を使用することで口腔内常在菌の過剰な増殖を抑制できます。特に全身の抵抗力が低下している時期や、脱水状態では唾液腺炎のリスクが高まるため、体調管理と水分補給が重要です。ubie+3
反復性耳下腺炎の予防においても、口腔内の清潔保持が感染予防につながるため、うがいや歯磨きをこまめに行うことが推奨されます。ubie

唾液腺疾患患者への生活指導と長期管理

唾石症患者には食事内容の調整指導が重要です。酸味の強い食品は唾液分泌を急激に増加させて症状を増悪させる可能性があるため、急性期には控えめにすることが望ましいです。一方、慢性期や予防目的では、適度な酸味刺激により唾液分泌を促進することが結石の自然排出や新たな結石形成の予防につながります。hosono-ent+4
IgG4関連涙腺・唾液腺炎ではステロイド治療への反応性が良好ですが、全身性疾患の一部として膵臓、肺、腎臓などの他臓器病変を合併することがあるため、包括的な評価と長期的なフォローアップが必要です。定期的な血液検査と画像検査により、疾患活動性と他臓器病変の有無を監視します。nanbyou+1
慢性唾液腺炎患者では、口腔乾燥症状の管理が生活の質の維持に重要です。人工唾液の使用、頻回の水分摂取、加湿器の使用などにより、口腔内環境を快適に保つ工夫が求められます。family-dr
医療従事者は流行性耳下腺炎のワクチン接種歴を確認し、抗体価が不十分な場合は予防接種を検討することが院内感染防止の観点から重要です。1957年より前に出生したワクチン未接種の医療従事者は特に注意が必要とされています。gunma.med+1

 

 




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