HCV抗体が陰性でも、クリオグロブリン血症の診断を除外してはいけません。
クリオグロブリンとは、低温(通常4℃前後)で可逆的に沈殿・ゲル化し、37℃に温めると再び溶解するという特殊な物性をもつ免疫グロブリンです。この「低温で固まり、温めると溶ける」という性質が、後述する臓器障害の直接的な引き金となります。
クリオグロブリン血症とは、このクリオグロブリンが血清中に異常に存在する状態を指します。単にタンパク質が検出されるだけでなく、血管炎・腎炎・末梢神経障害・皮膚病変などの多臓器障害を伴う場合に、「クリオグロブリン血症」として臨床的に問題となります。
クリオグロブリン自体は健常者にも微量検出されることがありますが、通常は症状を引き起こしません。つまり「検出=疾患」ではない点が重要です。
血清中のクリオグロブリン量は「クリオクリット値」で表されます。クリオクリット値が1%を超えると臨床的意義が高まるとされており、特に5%以上では症状が出やすいと報告されています。これは知っておくべき数値です。
クリオグロブリンの組成・構造によって、Brouet分類(1974年)でⅠ型・Ⅱ型・Ⅲ型に分類されます。この分類が基礎疾患の推定と治療方針の決定において非常に重要な役割を果たします。それぞれの型については後述します。
Brouet分類は1974年に提唱された分類体系で、現在も世界的に使用されているスタンダードです。型ごとに基礎疾患の傾向が大きく異なるため、診断時には必ず型を特定することが原則です。
Ⅰ型クリオグロブリン血症は、単クローン性免疫グロブリン(IgMまたはIgG)のみで構成されます。全クリオグロブリン血症の約10〜15%を占め、多発性骨髄腫・原発性マクログロブリン血症(ワルデンストレームマクログロブリン血症)・B細胞性リンパ腫などの血液悪性腫瘍が主な原因です。血管閉塞による虚血症状が前景に出やすい点が特徴的です。
Ⅱ型クリオグロブリン血症は、単クローン性IgM(リウマトイド因子活性をもつ)とポリクローナルIgGの混合型です。全体の約50〜60%を占め、最も頻度が高いです。C型肝炎ウイルス(HCV)感染が原因の大多数を占めており、文献によっては80〜90%がHCV関連とされています。HCV陽性のクリオグロブリン血症は「HCV関連混合性クリオグロブリン血症」とも呼ばれます。
Ⅲ型クリオグロブリン血症は、ポリクローナルIgMとポリクローナルIgGからなる完全混合型です。全体の約25〜30%を占めます。原因は最も多彩で、慢性感染症・自己免疫疾患・炎症性疾患などが背景にある場合が多いです。症状が比較的軽度なこともありますが、見逃しに注意が必要です。
Ⅱ型とⅢ型をまとめて「混合性クリオグロブリン血症」と呼ぶことがあります。混合性クリオグロブリン血症では免疫複合体の形成が特に顕著で、補体消費・血管炎・腎炎のリスクが高くなります。型の識別が条件です。
クリオグロブリン血症の原因は大きく「感染症」「自己免疫・膠原病」「血液悪性腫瘍」「本態性(原因不明)」の4カテゴリーに分けられます。これが基本です。
感染症関連では、HCVが圧倒的に重要です。HCVは慢性感染により持続的なB細胞刺激を引き起こし、リウマトイド因子(RF)活性をもつ単クローン性IgMの産生を促します。HCV感染者の約40〜60%に血清中クリオグロブリンが検出されるとされており、この数字は非常に高頻度です。HBV(B型肝炎ウイルス)、HIV、EBウイルス、亜急性細菌性心内膜炎なども原因となりえます。
自己免疫・膠原病関連では、全身性エリテマトーデス(SLE)・シェーグレン症候群・関節リウマチ(RA)などが挙げられます。なかでもシェーグレン症候群はクリオグロブリン血症との合併頻度が高く、シェーグレン症候群患者の約15〜20%にクリオグロブリンが検出されるとの報告があります。これは意外ですね。
血液悪性腫瘍関連では、前述のようにⅠ型に多く、多発性骨髄腫・ワルデンストレームマクログロブリン血症・慢性リンパ性白血病(CLL)・非ホジキンリンパ腫などが原因となります。クリオグロブリン血症が初発症状として現れ、その後に血液腫瘍が発見されるケースも報告されています。
本態性クリオグロブリン血症は、徹底的に検査しても基礎疾患が特定できない場合に診断されます。全体の約10〜15%程度とされており、HCV検査が普及する以前はより高率とされていた経緯があります。ただし「本態性」と診断しても、数年後にB細胞リンパ腫や自己免疫疾患が顕在化することがあるため、定期的なフォローアップが必須です。
原因疾患がどのようなプロセスを経て「臓器障害」へと発展するのか、そのメカニズムを理解することが適切な治療介入のカギになります。
まずHCV関連の場合を例に取ります。HCVは肝臓だけでなく、B細胞に直接感染・刺激します。慢性的なB細胞刺激が「B細胞の多クローン性増殖→モノクローナル化」というプロセスを経て、リウマトイド因子活性をもつ単クローン性IgMの産生につながります。このIgMがポリクローナルIgGと結合し、免疫複合体を形成します。免疫複合体が形成されるということですね。
次に、この免疫複合体は低温環境下(体表面・末梢循環)で沈殿しやすくなります。皮膚・腎臓・末梢神経などの小血管に免疫複合体が沈着すると、補体系(特にC3・C4)が活性化されます。C4の著明な低下はクリオグロブリン血症の特徴的な検査所見として知られており、診断の手がかりになります。
補体活性化により好中球・マクロファージが動員され、炎症反応が惹起されます。この炎症が血管壁を傷害し、白血球破砕性血管炎(leukocytoclastic vasculitis)として皮膚に現れたり、メサンギウム増殖性糸球体腎炎・膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)として腎臓に障害を与えたりします。
末梢神経への障害は、神経栄養血管(vasa nervorum)での血管炎・虚血が主な機序とされています。四肢の感覚異常・しびれ・疼痛として現れることが多く、しばしば初発症状となります。末梢神経障害は見落とされやすい点です。
Ⅰ型の場合は免疫複合体形成より「高粘稠度」が問題となります。大量のモノクローナル免疫グロブリンが血液粘稠度を上げ、レイノー現象・網状皮斑・末端壊死・中枢神経症状などを引き起こします。Ⅰ型とⅡ/Ⅲ型で病態の主役が異なる点を押さえておくことが重要です。
「本態性クリオグロブリン血症」という診断は、すべての原因を除外した後にのみ許されるものです。しかし実臨床では、除外すべき疾患を見落としたまま「本態性」とされているケースが少なくありません。これは大きな問題です。
まずHCVの見落としがあります。HCV抗体は陰性でも、免疫抑制状態(臓器移植後・血液悪性腫瘍治療中など)ではHCV抗体が検出されないことがあります。このような場合はHCV-RNA定量検査を必ず追加することが求められます。「HCV抗体陰性=HCV除外」ではない点が重要です。
シェーグレン症候群の未診断も見落としの代表例です。口腔乾燥・眼球乾燥などの症状が軽微な場合は見過ごされやすく、抗SS-A抗体・抗SS-B抗体・口唇腺生検などで確認する必要があります。クリオグロブリン血症患者に乾燥症状を積極的に聴取することが求められます。
B細胞リンパ腫の潜在例も注意が必要です。クリオグロブリン血症の発症から数年後にB細胞リンパ腫が顕在化する例が報告されています。特にⅡ型で単クローン性IgMが高値の場合は、骨髄生検・全身CT・PET検査などを定期的に行うことが推奨されます。
またHIVや亜急性細菌性心内膜炎の見落としも報告されています。発熱・体重減少・関節痛などの全身症状が重なる場合、HIVスクリーニング・血液培養は必ず確認すべき検査項目です。
最後に薬剤性の可能性も念頭に置いてください。一部の生物学的製剤や抗ウイルス薬使用中に、クリオグロブリン産生が誘導されたとする症例報告があります。服薬歴の詳細確認が条件です。
本態性と診断する前にこれらを一通り除外することで、治療可能な基礎疾患を見つけるチャンスが生まれます。これが臨床における最大のメリットです。
参考情報:日本リウマチ学会による血管炎症候群の診療ガイドラインでは、混合性クリオグロブリン血症の診断・治療に関する推奨が示されています。
日本リウマチ学会 – ガイドライン・指針一覧(血管炎症候群診療ガイドラインを含む)
HCV関連クリオグロブリン血症の病態や治療については、日本肝臓学会のガイドラインも参照価値があります。