医療用の現場で「カンゾウ1日量」を考えるときは、製剤ごとの“甘草(生薬)g”と、そこから換算される“グリチルリチン(GL)mg”の両方を意識すると整理しやすくなります。特にPMDAの重篤副作用疾患別対応マニュアルでは、甘草1gに含まれるGLを40mgとして換算し、代表的な漢方の1日あたりGL量(例:甘草湯320mg、芍薬甘草湯240mg等)を一覧化しています。
一方で「医療用医薬品としての一律の上限(絶対安全量)」が明確に定まっている、というよりは、曝露量と患者背景・併用薬・観察体制をセットで管理する発想が実務に近いです。なぜなら、初期はGL 500mg/日以上の大量投与例が多かったものの、その後はGL 150mg/日以下の比較的少量や、少量の甘草抽出物を含む抗潰瘍薬などでも発症例が多い、という疫学的な変化が示されているためです。
さらに行政通知(厚労省)では、医療用医薬品の使用上の注意として「1日最大配合量がグリチルリチン酸100mg以上又は甘草2.5g以上」等の区分を設け、禁忌(アルドステロン症、ミオパチー、低カリウム血症)や、血清カリウム測定などの観察を求めています。
臨床では、添付文書ベースの“個別製剤の含有量”確認に加えて、同一患者に同時に出ている他科処方・市販薬の情報まで含めて「総量」を把握することが、カンゾウ1日量の議論の出発点になります。
カンゾウ関連で問題となる代表的重篤副作用は偽アルドステロン症で、低レニン性高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシス・低カリウム血性ミオパチーなどを呈し得ます。
機序の理解は、なぜ「少量でも起こる」「併用で増える」「便秘や低栄養でも悪化する」といった臨床の“違和感”を説明する助けになります。腎尿細管などには通常11β-HSD2が存在し、コルチゾールをコルチゾンに変換してミネラルコルチコイド受容体(MR)がコルチゾールに占拠されるのを防いでいますが、甘草・GLの代謝産物(グリチルレチン酸など)が11β-HSD2活性を抑制し、コルチゾールがMRを介してミネラルコルチコイド作用を発揮することで発症します。
つまり「アルドステロンが高いから起こる」のではなく、“見かけ上アルドステロン過剰のような状態”が起こるため、PACは低下し得る点が鑑別の重要ポイントです。
症状の出方も多彩で、患者説明では「むくみ」「血圧上昇」だけでなく、「手足のだるさ」「しびれ」「つっぱり感」「こわばり」「こむら返り」「筋肉痛」「脱力」など筋・神経症状をセットで伝えると、早期受診につながりやすいです。
臨床で見落とされやすいのは、単剤のカンゾウ量が突出していなくても、併用薬により低カリウム血症が増悪して一気に重症化するパターンです。PMDAマニュアルでは、チアジド系・ループ利尿薬、インスリン投与、さらに副腎皮質ステロイドやβ2刺激薬、アミノグリコシド系抗菌薬、シスプラチンなど、低カリウム血症を惹起しうる薬剤が併用される場合に注意が必要と整理されています。
また、厚労省の通知でも相互作用としてフロセミド・エタクリン酸・チアジド系利尿薬との併用で血清カリウム低下が起こりやすい旨が明示されており、処方監査の“機械的ルール”として使えます。
医師側・薬剤師側の実務としては、「こむら返りで芍薬甘草湯」「鼻炎で小青竜湯」「胃部不快で六君子湯」のように、症状ごとに別々の意図で追加され、結果的にカンゾウが積み上がるケースを最優先で拾い上げるのが効果的です(患者は“漢方が増えた”感覚はあっても“甘草が増えた”とは認識しません)。
さらに、市販の感冒薬・胃腸薬などにもGLや甘草エキスを含むものが多いとされ、一般用医薬品まで含めた服用歴の把握が重要とされています。
この「処方薬×市販薬×他科処方」の合算ができる体制(問診テンプレ、薬歴のチェック項目、院内DIの注意喚起など)を先に整えると、個々のカンゾウ1日量判断が急にラクになります。
カンゾウ関連の副作用は「いつ起こるか」が読みにくく、使用開始後10日以内の早期発症から数年以上の使用後まで幅がある一方、3か月以内が約40%というデータも示されています。
そのため、運用としては“開始時・増量時に寄せた早期チェック”と、“維持期の定期チェック”を分けて設計するのが現実的です。PMDAマニュアルは、投与開始時または投与量変更時は1か月以内、維持期でも3~6か月に1回の血清カリウム値チェックや心電図測定が重要としています。
検査の解釈としては、低カリウム血症(尿中K排泄が抑制されない)、低レニン・低アルドステロンが揃い、原因薬の中止で改善する、という流れが薬剤性偽アルドステロン症の診断の骨格です。
現場での事故が多いのは「症状が先に出ているのに、電解質を測らずに様子見」「筋痛・脱力を整形外科的に扱ってしまい、原因薬の洗い出しが遅れる」パターンなので、筋症状+血圧上昇の組み合わせを見たら“必ずK値”というルールをチームで共有する価値があります。
また、原因薬中止後も数週間は症状や検査異常が残ることがあるため、患者に「中止したからすぐゼロになる」と誤解させない説明も安全面で重要です。
検索上位の解説では「2.5g以上に注意」「低カリウム血症に注意」といった一般論が多い一方で、医療現場の事故は“知識不足”より“運用の穴”から起こりがちです。厚労省通知には、医療用医薬品で甘草2.5g以上(またはグリチルリチン酸100mg以上)の場合、低カリウム血症のある患者などが禁忌として整理され、観察(血清カリウム測定など)を十分に行い異常があれば中止する、と明確に書かれています。
ここから逆算すると、病棟・外来で再現性が高い対策は「①低K既往・利尿薬・ステロイド・インスリン等のチェックボックス」「②カンゾウ含有製剤が追加されたら“1か月以内のK値オーダ”を促すアラート」「③患者向けの説明用語を統一(むくみ・血圧だけでなく、しびれ/こむら返り/脱力も)」の3点です。
意外なポイントとしてPMDAマニュアルは、注射用GL製剤は内服用と比べて本症を発現しにくいとされること、また注射用製剤に含まれるグリシンや含硫アミノ酸が電解質代謝作用を減弱する可能性が指摘されていることにも触れています。
ただし「起こりにくい=起こらない」ではなく、実務上は“患者背景と総曝露”が勝つことがあるため、注射だから安心と短絡せず、漢方内服・市販薬・他科の併用を同時に点検するほうが安全です。
最後に、患者が「漢方=安全」「食品由来=副作用が少ない」と考えている場合ほど、症状が出ても申告が遅れるため、診察室で使える短い問い(例:『最近、こむら返り・手足のしびれ・だるさは増えていませんか?血圧はいつもより上がっていませんか?』)をルーチン化すると、早期発見の実効性が上がります。
偽アルドステロン症の症状・検査・機序・フォロー頻度(医療従事者向けに体系的)
https://www.pmda.go.jp/files/000245267.pdf
甘草・グリチルリチン酸含有医薬品の「使用上の注意」区分、禁忌、相互作用(行政通知の原文)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6972&dataType=1&pageNo=1
医療現場で「カンゾウ一日量」というと、(1)生薬としての甘草g、(2)甘草由来のグリチルリチン酸mg、(3)それらを含む複数処方の“合算”という3つの意味が混在し、ここが最初のつまずきポイントです。
厚生労働省の通知(薬発第158号)では、一般用医薬品(経口剤)の「一日最大配合量」として、グリチルリチン酸200mg、甘草5gが示されています。
同じ通知の別添では、医療用医薬品についても「一日最大配合量がグリチルリチン酸として100mg以上、または甘草として2.5g以上」の場合などに、偽アルドステロン症等の注意喚起(観察、血清K測定、異常時中止など)を使用上の注意へ追加記載する枠組みが示されています。
一方で、現場の安全管理では「カンゾウ2.5g(グリチルリチン酸100mg)を超えると低K血症を発現しやすくなるので注意」という“実務上の境界値”がしばしば参照されます。
参考)https://www.jshp.or.jp/information/preavoid/43-9.pdf
日本病院薬剤師会系の資料では、医療用漢方製剤の基となるカンゾウの1日量は1.0~8.0gで、グリチルリチン酸40~320mgに相当すると整理されています。
つまり「一日量」を論じる際は、単剤の用法用量だけでなく、患者が同時に使うすべての甘草含有製剤・グリチルリチン酸含有製剤を合算し、g・mgの両方で眺める必要があります。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2024.1357491/pdf?isPublishedV2=False
参考:一日最大配合量(一般用)と、医療用の注意喚起基準(100mg/2.5g、40~100mg/1~2.5gなど)がまとまっている(基準の原典)
厚生労働省「グリチルリチン酸等を含有する医薬品の取扱いについて(薬発第158号)」
カンゾウ(甘草)含有のグリチルリチン酸は、コルチゾールをコルチゾンに変換する酵素を阻害し、増加したコルチゾールが腎尿細管の鉱質コルチコイド受容体に作用してNa再吸収を促進し、K排泄を増やすため低K血症を起こしやすくなると説明されています。
この結果として、浮腫、血圧上昇、体重増加などの体液貯留と、低K血症による脱力感・ミオパチー等が臨床像として問題になります。
厚生労働省通知の「使用上の注意事項」でも、偽アルドステロン症として低K血症、血圧上昇、Na・体液貯留、浮腫、体重増加があらわれ得るため、血清K測定などの観察を十分に行い、異常があれば中止する旨が明記されています。
低K血症が進むと、不整脈のリスク、CK上昇を伴うミオパチー、麻痺性腸閉塞、多尿傾向(尿濃縮力障害)など、多臓器に波及する点も押さえる必要があります。
偽アルドステロン症は原発性アルドステロン症様の所見を示しつつ、血漿アルドステロン濃度はむしろ低下する症候群である、という鑑別上の要点も同資料で整理されています。
カンゾウ関連の低K血症は、患者側の背景(高齢、腎・心疾患、既存の電解質異常)だけでなく、薬剤併用で増幅されやすいのが臨床的な落とし穴です。
厚生労働省通知では、フロセミド、エタクリン酸、チアジド系利尿薬との併用により血清K低下があらわれやすくなるため注意するよう、相互作用として明記されています。
つまり「カンゾウ一日量が多いか少ないか」だけではなく、利尿薬などKを下げ得る薬剤の併用状況を確認し、同じ摂取量でも臨床リスクが跳ね上がる構図を前提に監視設計を組み立てる必要があります。
実務でありがちなのは、A院で漢方、B院で降圧利尿薬、さらにOTCの胃腸薬・のど飴等(矯味剤としての甘草)という“分散摂取”です。
通知本文でも、グリチルリチン酸等は抗アレルギー剤、肝疾患用剤、胃腸薬、鎮咳去痰薬など広く配合され、矯味剤としても用いられる、と用途の広さが指摘されています。
したがって、処方薬だけでなく、OTCや他院処方、サプリ・健康茶等を含めた聴取を「一日量の算定」の一部として運用に組み込むのが安全です。
厚生労働省通知の枠組みでは、一定量以上(例:グリチルリチン酸100mg以上、または甘草2.5g以上)を含む医療用医薬品で、偽アルドステロン症の兆候を見逃さないために血清K測定など十分な観察を行い、異常があれば投与中止することが示されています。
同通知の「次の患者には投与しないこと」として、アルドステロン症、ミオパチー、低カリウム血症の患者が挙げられており、開始前スクリーニングの重要性が明確です。
また「一般用医薬品」についても、高血圧、高齢、心腎障害、むくみ等がある人は服用前に相談すること、服用後に尿量減少・むくみ・血圧上昇・頭痛などが出たら中止して相談すること、長期連用しないこと等の注意が整理されています。
現場運用に落とすなら、最低限つぎの“3点セット”を定型化すると事故が減ります。
なお、低K血症が著明になると不整脈が生じやすくなる点は、見た目の浮腫よりも危険な転帰に直結し得るため、循環器系の患者では特に警戒が必要です。
「甘草は長期大量で問題になる」という理解は半分正しく、半分は危険です。
厚生労働省通知の副作用概要では、長期(一か月以上)使用での偽アルドステロン症報告が触れられる一方で、同じ記載の中で“半量程度で発現した例もある”ことが示され、個体差や条件次第で早期に表面化し得る余地が読み取れます。
さらに日本病院薬剤師会系の事例集では、小青竜湯の服用で血清Kが徐々に低下し、薬剤師が偽アルドステロン症を疑って中止提案したケースなどが具体的に提示され、「漢方=副作用がない」という患者側の固定観念がリスクになる点も指摘されています。
ここでの独自視点として強調したいのは、“短期処方の積み上げ”が、実質的な「連用」と同じになることです。
このタイプの事故を防ぐ実装はシンプルで、薬歴(お薬手帳)・問診票・電子カルテのテンプレに「甘草/グリチルリチン酸(含有OTC含む)」のチェック欄を設け、同時に「利尿薬」も機械的に拾うことです。
相互作用として利尿薬併用時にK低下が起こりやすいことが明記されている以上、合算チェックとセットで運用するのが合理的です。
「一日量の上限」を暗記するより、患者ごとに“合算して、下がりやすい条件(利尿薬、高齢、既存低Kなど)を重ね合わせる”という考え方のほうが、現場では再現性の高い安全策になります。