レニンは腎臓の傍糸球体細胞で産生されるプロテアーゼで、血圧・体液調節の中核を担います。レニンはレニン基質(アンギオテンシノーゲン)に作用してアンギオテンシンⅠを産生し、さらにアンギオテンシン変換酵素により活性の強いアンギオテンシンⅡに変換されます。
レニン活性(PRA:Plasma Renin Activity)の測定は、血漿中のレニンとレニン基質を一定時間反応させて産生されるアンギオテンシンⅠの量を測定する方法です。基準値は以下の通りです:
測定には体位の影響があり、立位では座位や臥位と比較してレニン活性が上昇する傾向があります。これは体位変換による血圧や循環血漿量の変化に対する生理的反応です。
レニン活性は、レニン基質の増減により影響を受けるという特徴があります。一方、活性型レニン濃度は直接的な定量法のためレニン基質の影響を受けず、より正確にレニン分泌動態を反映します。
レニン活性高値は、大きく腎血管性疾患、内分泌疾患、心血管疾患に分類されます。
腎血管性疾患
内分泌疾患
先天性疾患
その他の病態
これらの疾患では、腎血流の減少、血液量の減少、交感神経系の活性化などによりレニン分泌が亢進します。
レニン活性測定では、多くの要因が検査結果に影響を与えるため、適切な採血条件の設定が必要です。
採血条件
薬剤による影響
高値を示す薬剤。
低値を示す薬剤。
生理的変動要因
これらの要因を考慮した採血計画と結果解釈が診断精度向上に重要です。
原発性アルドステロン症の診断では、レニン活性とアルドステロン濃度の比(ARR:Aldosterone Renin Ratio)が重要な指標となります。
診断基準
計算例:アルドステロン濃度250 pg/mL、レニン活性0.2 ng/mL/hrの場合
ARR = 250/0.2 = 1250となり、ARR≧200なので原発性アルドステロン症の疑いあり
診断の流れ
原発性アルドステロン症では、アルドステロンの自律分泌によりレニン活性が抑制されるため、ARRが著明に上昇します。この病態では二次性高血圧として完全治癒が期待できる場合があるため、早期診断が重要です。
興味深いことに、この血液検査だけでも約90%の診断精度を有するという報告があります。しかし、薬剤の影響や生理的変動を考慮した適切な検査条件下での実施が診断精度維持に不可欠です。
レニン活性の結果に基づいた治療戦略の選択は、高血圧管理において極めて重要です。
高レニン性疾患の治療アプローチ
腎血管性高血圧症では、レニン活性の著明な上昇が診断の手がかりとなります。この場合、以下の治療選択肢があります:
褐色細胞腫によるレニン活性上昇では、腫瘍摘出が根治的治療となります。術前管理では、αブロッカーによる血圧管理が必須です。
低レニン性疾患の治療戦略
原発性アルドステロン症では、病型に応じた治療選択が可能です:
個別化治療の重要性
レニン活性測定により、患者の病態生理を把握し、以下の個別化治療が可能になります。
さらに、定期的なレニン活性モニタリングにより、治療効果の判定や薬剤調整の指標として活用できます。特に、ACE阻害薬やARB使用時のレニン活性上昇は、薬剤の薬理作用が適切に発揮されていることを示す指標となります。
この検査結果に基づく治療選択により、単なる症状改善ではなく、根本的な病態改善を目指した精密医療の実現が可能となっています。
大阪大学老年・総合内科学:二次性高血圧の詳細な診断アプローチと治療指針
ファルコバイオシステムズ:レニン活性検査の技術的詳細と臨床的解釈
メディエンス:血漿レニン活性検査の包括的解説と診断への応用