褐色細胞腫の最も重大な症状は高血圧であり、患者の約85~90%で認められます。この高血圧は、常に血圧が高い持続性タイプと一過性に血圧が上昇する発作性タイプの2つのパターンを呈します。発作性高血圧の場合、血圧上昇時には動悸、発汗、頭痛などを伴うことが多く、これらは「5H」または「5P」と呼ばれる特徴的な症候群を構成します。fastdoctor+3
患者が自覚する症状としては、頭痛、動悸、吐き気、不安感、異常な発汗が代表的です。これ以外にも、頻脈(脈が速くなる)、不整脈(脈が乱れる)、起立性低血圧(立ち上がる際にめまいがする)、冷たいが湿っている皮膚、過呼吸、みぞおちのあたりの痛み、胸の苦しさ、便秘、呼吸困難感など、多彩な症状が現れます。medicalnote+1
血圧値と関連なく頭痛が持続した症例の報告では、血圧の変動に一致せず持続する重度の頭痛を呈したケースがあり、α遮断薬が正常血圧の褐色細胞腫における頭痛に対しても有用である可能性が示されています。jstage.jst
褐色細胞腫の特徴的な症状として、発作的な血圧上昇、動悸、頭痛、冷や汗が突然出現する「高血圧クリーゼ」があります。この発作は、運動、食事、前かがみの姿勢、くしゃみ、排便、過労、ストレスなど、日常生活のさまざまな刺激がきっかけとなって誘発されることがあります。med.osaka-u+3
発作性のタイプでは、日常生活にあるような刺激によって発作が誘発されることがあり、患者は注意が必要です。また、褐色細胞腫では、α刺激による末梢血管の収縮と循環血漿量の低下により、起立性低血圧を認めることがしばしばあります。この起立性低血圧は、立ち上がる際のふらつきなどの症状を引き起こし、褐色細胞腫に特徴的な所見の一つとなっています。jstage.jst+1
褐色細胞腫の診断では、血圧変動が激しい場合に疑われますが、血圧変動の原因は心理的な要因を含めて数多くあるため、血圧変動が激しい=褐色細胞腫とは限りません。med.osaka-u
褐色細胞腫では、カテコールアミンの過剰分泌により、高血圧以外にも高血糖や糖尿病などの代謝異常が生じます。体重減少を伴うこともあり、これは代謝の亢進によるものです。高齢者の場合、高血圧状態が長期にわたって続き、体重減少も伴っているケースがみられます。kmu+2
長期的には、心不全、動脈硬化、心筋梗塞、脳血管障害といった重篤な疾患を合併する可能性も高くなっています。狭心症によく似た胸痛を示すこともあり、心血管系への影響は重大です。糖尿病性ケトアシドーシスのクリーゼを呈した褐色細胞腫の報告もあり、代謝異常が極めて重篤な状態に至ることもあります。jstage.jst+2
褐色細胞腫の症状は、副腎髄質または副腎外傍神経節のクロム親和性細胞に由来する腫瘍から、カテコールアミンが過剰に分泌されることによって引き起こされます。カテコールアミンには、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンの3種類があり、これらが強力な昇圧作用や心拍数増加作用を持ちます。premedi+3
腫瘍が副腎性の場合はアドレナリンとノルアドレナリンを分泌し、副腎外性の場合は主にノルアドレナリンを分泌します。これらのカテコールアミンは最終的に尿に排泄され、体内で構造が変化してメタネフリンやノルメタネフリンに代謝されます。診断の際は、これらのカテコールアミンと代謝産物を全て測定することが重要です。data.medience+2
高血圧の全体の患者の中において、約0.1%が褐色細胞腫が要因であるケースですが、診断が遅れると生命を脅かす合併症を招くため、早期発見が極めて重要です。jstage.jst+1
褐色細胞腫による悪性高血圧は、眼底にも深刻な影響を及ぼすことがあります。火焔状出血や乳頭浮腫などの眼底変化、さらには両側性の滲出性網膜剥離を引き起こし、失明に至るケースも報告されています。悪性高血圧では、網膜出血、綿花様白斑、高血圧性視神経症などの眼科的所見が認められ、これらは比較的後期の所見とされています。cureus+1
また、褐色細胞腫クリーゼと呼ばれる病態では、急激なカテコールアミン分泌により、著明な高血圧、全身症状、標的臓器障害を呈します。様々な刺激が誘因となって発症し、生命を脅かす緊急事態となるため、医療従事者は迅速な対応が求められます。jstage.jst
褐色細胞腫を疑った場合、まず血液検査や尿検査でカテコールアミンが増加していることを確認します。カテコールアミンの測定には、血漿および尿中のアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンの3分画の測定が行われます。さらに、これらの代謝産物であるメタネフリン、ノルメタネフリン、バニリルマンデル酸(VMA)の測定も診断に有用です。saiseikai+3
血中および尿中のカテコールアミンやその代謝産物の濃度測定が褐色細胞腫の主な診断法となります。カテコールアミンは不安やストレスでも上昇するため、検査時の条件設定に注意が必要です。カテコールアミン量の上昇があれば疑われますが、正常であっても褐色細胞腫でないとは断定できないため、臨床症状と画像検査を総合的に判断することが重要です。shouman+3
褐色細胞腫診断の手引きでは、原則として病理組織学的検査により診断するとされています。shouman
生化学的検査で褐色細胞腫が疑われた後、CTやMRI検査で腫瘍の有無と発生箇所を調べます。CTやMRIは腫瘍の局在診断に有用ですが、形態からだけでは確診には至らない場合もあります。褐色細胞腫は約10%が副腎外発生(傍神経節腫)であるため、副腎以外の部位も含めた全身の評価が必要です。rinshokaku+3
画像検査で発見された腫瘍が褐色細胞腫であることを確定するために、心臓の交感神経の働きを画像で調べる「123I-MIBGシンチグラフィ」が用いられます。MIBGシンチグラフィは褐色細胞腫に特異的に集積する放射性医薬品を使用した検査で、褐色細胞腫および神経芽腫の診断における第一選択の画像検査法となっています。pmda+3
123I-MIBGシンチグラフィの特異度は95~100%であり、CT、MRIの補完的役割があります。概して123I-MIBGシンチグラフィで陽性であれば褐色細胞腫/傍神経節腫であると言ってよく、陰性であればそれらを除外できます。早期像(約6時間後)の撮像でも、多くの症例で明らかな集積を示すことが報告されています。jsnm+1
褐色細胞腫と本態性高血圧の鑑別が診断の主な目的です。褐色細胞腫では、発作性・動揺性高血圧、動悸、頭痛、発汗、高血糖などの所見が鑑別に重要となります。また、原発性アルドステロン症と同様に、検診などで副腎に腫瘍が見つかることにより発見されることもありますが、褐色細胞腫は原発性アルドステロン症よりも大きな腫瘍が見つかることが多いです。mhlw-grants.niph+2
検査時の注意点として、最近MIBGシンチグラフィ検査後に褐色細胞腫の高血圧クリーゼを生じた例の報告があり、検査の実施には慎重な判断が求められます。また、一部の薬剤はMIBGの取り込みを阻害する可能性があるため、検査前には薬剤の確認が必要です。premedi+1
褐色細胞腫の約10%は悪性であると言われていますが、診断することは困難です。良性と悪性を組織学的に区別することは難しく、肝臓や骨、リンパ節など交感神経節外に転移があった場合に初めて悪性褐色細胞腫と診断することができます。ubie+1
悪性褐色細胞腫の予後は決して良いものではなく、5年生存率は約44~53%、10年生存率は63.9%と報告されています。後腹膜の悪性傍神経節腫の5年生存率は36%とさらに低く、転移を伴う場合の予後は不良です。ubie+1
全ての褐色細胞腫が他の臓器に転移する可能性があるため、診断後も定期的な経過観察が必要です。経過観察は主に血圧および生化学的検査で行い、異常を認めた場合には画像検査を行います。clinicalsup+1
褐色細胞腫の治療の中心は、腫瘍の摘出術です。通常、最良の治療法は褐色細胞腫の摘出であり、外科手術による切除が第1選択の治療法となります。しかし、薬剤でカテコールアミンの分泌が制御できるようになるまで、手術はしばしば延期されます。msdmanuals+3
局所進行性(例えば、隣接臓器への直接的な腫瘍進展、または局所リンパ節病変のため)の褐色細胞腫または副腎外傍神経節腫に対しては、外科的切除が最も確実な治療法です。カテコールアミン過剰による症状や高血圧のコントロール、合併症の予防のため、診断時より手術日に向けて内服薬による治療を開始します。cancerinfo.tri-kobe+1
周術期のカテコールアミン過剰症状の管理も重要です。診断時より手術日に向けて、α遮断薬を漸増していきます。α遮断薬とβ遮断薬の併用によって高血圧がコントロールされるまでは一般に手術を遅らせます。j-endo+1
2018年に刊行された本邦のPPGL診療ガイドラインでは、術前の選択的α遮断薬は半減期の長いドキサゾシン(カルデナリン®)が推奨されています。通常はフェノキシベンザミン20~40mg、経口、1日3回とプロプラノロール20~40mg、経口、1日3回を併用します。血圧の目標値は130/80mmHg未満であり、心血管系が再び安定を取り戻すには10~14日ほどかかります。msdmanuals+1
α遮断が十分に達成されるまではβ遮断薬を使用すべきではありません。α遮断薬のα1遮断作用により、カテコールアミンによる血管収縮を抑制し、血圧をコントロールします。投与期間は術前7~14日間で、循環血液量の低下に伴う腫瘍への対応も考慮されます。jstage.jst+2
術前または術中の高血圧クリーゼに対し、ニトロプルシドを点滴する場合があります。周術期の慎重な血圧および循環血液量のコントロール下での腫瘍の外科的切除が重要です。手術前には、フェントラミンメシル酸塩として、通常、成人には5mg、小児には1mgを、静脈内または筋肉内に注射することもあります。pins.japic+1
手術によって腫瘍が摘出されれば、症状を治すことができます。高血圧の多くの患者の要因は分かっていませんが、褐色細胞腫の場合は治療が手術によってでき、症状を治すことができる点が特徴的です。fastdoctor+1
悪性褐色細胞腫が転移を伴う場合や、切除が困難な場合には、化学療法や分子標的薬が考慮されます。良性・悪性のどちらの場合も、基本的な治療はホルモン症状のコントロールを目的とした病巣の摘出手術ですが、手術が困難であったり、再発が見られた場合、転移がある場合には化学療法や放射線治療を使用することもあります。oogaki+1
悪性褐色細胞腫は、転移を伴うタイプと局所で進行するタイプに大きく分かれます。転移を伴うタイプは肝臓や骨、肺などに病巣が広がる可能性があるため、診断時点で全身的な評価が必要です。転移を伴うタイプでは化学療法や放射線治療の併用検討が必要になるケースが多く、局所進行タイプは外科的切除中心の治療を検討しやすいとされています。oogaki
褐色細胞腫の患者には、発作を誘発する可能性のある要因を避けることが推奨されます。過労やストレスに気をつけ、禁煙することが重要です。前かがみ、くしゃみ、排便などが誘因となることを知っておく必要があります。激しい運動、食べ過ぎ、お酒の飲みすぎも避けるべきです。clinicalsup+1
バランスの取れた食事、適度な運動、ストレス管理、十分な睡眠などの生活習慣は全身の健康維持に重要です。慢性ストレスや副腎髄質の過剰刺激が、腫瘍形成の素地になるという報告もあるため、ストレス管理は特に重要です。s-treatment+1
良性褐色細胞腫の予後は一般的に良好であり、適切な外科的切除により治癒が期待できます。しかし、悪性例では転移のリスクがあり、長期的なフォローアップが必要です。定期的な画像検査と生化学的検査により、再発や転移の早期発見に努めることが重要です。jstage.jst+2
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褐色細胞腫診療マニュアル 改訂第3版 (診断と治療社 内分泌シリーズ) 成瀬 光栄 平田 結喜緒 田辺 晶代 竹越 一博 方波見 卓行; 立木 美香